決戦の前
鉄格子のなかの3人の扱いには差があった。アリドメッドとモニエーラはただ入れられているだけだが、真人は腕と足に鎖が、首には眷属の首輪をつけられていた。腕の鎖は壁に繋がっていて、鉄格子のところまでしか移動できないようになっている。足は1歩分しか長さのない物で逃亡防止なのだろう。罪人ではないが逃げられたくないのだ。
「こちらです。」
遠くから声が聞こえ、2人分の足音が聞こえる。それが段々大きくなり、3人の前で止まった。
「「フランチェ隊長!エドガルトフィ上官!」」
「ああ、任務に失敗した2人か。君たちはしばらくそこで反省していなさい。」
フランチェは2人に冷たく言い放った。
「初めまして、君がマサト・エンドーだね。私は第一隊隊長のフランチェ・コルデソンだ。うん、ロドリゴが好みそうな中々いい体格をしているね。」
フランチェが品定めをするように真人を見る。その間にエドガルトフィは扉の鍵を開けた。狭い扉をくぐり、フランチェが中へ入る。
「トモさんはどこです!?あなたが連れて行ったのでしょう!?」
飛びかかってきた真人をエドガルトフィが剣で止める。
「おやおや、威勢がいいな。トモーミは私の屋敷で手厚くもてなしているよ。君も私の言う事に従ってくれればここから出してあげられるのだがね。」
「一体自分に何をさせたいのですか。」
「難しい事ではないよ。第一隊に入隊してくれればいいのだよ。ただその前に入隊試験を受けてもらうがね。君の実力がどの程度のものか知りたいのだよ。」
「それは強制ですよね。」
「ふふ、そういうことだ。試験は明日だ。ギャラリーも呼んでおくから十分実力を発揮してくれたまえ。試験の前に逃げ出されては困るから明日まではここにいてもらうよ。試験が終わったらすぐにゆっくり休める部屋を準備させるからそれまでは我慢してくれ。」
エドガルトフィはさっとフランチェに針を渡す。フランチェはそれを人差し指に刺し、血を出し首輪の真ん中へ当てる。首輪がパーッと光り、一瞬真人の首を絞める。
「これで設定は完了だ。君の血液は眠っている間に採取させてもらっていたからね。」
そう言って鉄格子の外へ出て行った。その後をエドガルトフィが鍵をかけて出て行った。
「入隊試験って、大したことなかったわよね。」
「バカ!あの隊長だぞ。自分たちと同じ試験を準備しているはずがないだろう。」
「あ、それもそうね。」
「どちらにしても明日には決着がつくという事かな。」
「私たちも明日まではこの中なのね。」
諦めて2人は簡易ベッドに横になった。
「トモさん、無事なんですね。」
そうつぶやき、真人は床に座り込んだ。
翌朝朝食の後すぐに出かける準備にはいった。先日ドレス職人が持ってきたもので一番豪華なものだ。髪飾りもつけ、ヒールのある靴も履いた。そしてやっぱりシルビアはネックレスを持ってきた。
「ネックレスは付けません!」
「ダメです。トモーミ様を美しく着飾るようにと言われております。これは絶対につけていただきます。」
「ネックレスは絶対嫌です!」
何度もこの会話を繰り返している。すると扉をノックする音がした。
「トモーミ、準備は出来たかな。」
フランチェだ。すぐにビビアンが扉を開ける。
「はい、ほとんど終わっておりますが、トモーミ様がどうしてもネックレスをお付けにならないと申して」
「よい、ならばこのブレスレットをつけていけ。」
そう言ってフランチェはかなり綺麗な金細工に豪華な宝石を散りばめたブレスレットを差し出した。
「これならネックレスに見劣りしないだろう。」
ビビアンがそれを受け取り持ってきた。そしてそれをすぐにシルビアが朋美の手に外れないように付ける。
「これで準備は出来たかな。それでは行こうか。」
フランチェは部屋を出る。その後ろを朋美はついて行った。
豪華な家紋入りの馬車が入口に着けられていた。2人はそれに乗り込み向かい合って座った。馬車はゆっくり出発した。
「まあそう硬くならなくても大丈夫だ。貴族の集まりに行くわけではないから。」
そう言われて少しホッとしたが、窓もカーテンで外がよく見えない。馬車の速度からして街中を走っているようだが、行先は見当もつかなかった。
15分位して馬車は一旦止まった。それから何かの手続きをして、再び動き始めた。
「ここは王室警備隊の訓練施設でね、今日は特別な事をするから君を連れてきたのだよ。」
そう言っているうちに馬車は止まった。馬車から下りるとコロシアムのような施設が目に飛び込んできた。
「随分と大きな建物ですね。」
「ここは実践訓練をする場所で実際に警備隊の者が魔物と闘うこともあるのだ。もちろんそういう時は見ている人たちの方は防御魔法を張ってあるから安全なのだよ。」
フランチェは朋美を連れて建物の中へ入った。フランチェは第一隊の隊長なのですれ違うみんなは直立不動で敬礼をする。
「さあ、こっちだ。」
階段を上り切り、コロシアムの全体が見渡せる席へ来た。隊員が席へ案内する。
「どうだ、そっちの準備は出来ているか?」
「はい、後は命令を待つだけです。」
「そうか。トモーミ、私は少し準備の手伝いをしてくるからそこで待っていてくれるかな?すぐに戻るから。」
「はい、わかりました。」
フランチェはすぐに階段を下りて行った。陸上競技場位広いコロシアムに観客は警備隊の人たちばかりだ。みんな『特別な事』を見るために来ているのだろう。朋美が通された席には屋根はついているが、他の所にはついていない。みんな日に照らされながら座っている。中には帽子をしっかりかぶっている人もいる。
「一体何があるのかしら。こんなところにドレスアップしてこなくてもいいのに。貴族の考える事ってよくわからないわ。」
フランチェはエドガルトフィを伴って最下層の地下牢まで降りてきた。
「やあ、気分はどうだい?」
「ここで気分なんて変わるんでしょうかね。」
「ふふ、悪くないようだね。さて、これから君の入隊試験を行うことにするよ。君が全力を出せるようにトモーミも連れてきたからね。」
「トモさんがいるんですか!?」
「そうだ。彼女には数日私の屋敷で過ごしてもらったよ。かなり気に入ってもらえたようで、私の養子になりたいと言ってくれてね。今日は隊のみんなへお披露目もかねて連れてきたのだよ。」
「「「!」」」
「それは嘘ですね。トモさんは絶対にそんなことは言わない!」
「おや、何故そんなことがわかるのだい?君たちは単なる仕事のパートナーじゃないか。」
「トモさんには違う目的があるからあなたに限らず誰かの養子になるなんて絶対に言うはずがない!」
「ほう、そうかい?でも今日の彼女の姿を見ればそれが間違いだったってことに気が付くはずだよ。トモーミは私の隣の席に座っているからね。その目でよく見るといい。」
「エドガルトフィ、後ろの2人を出してやれ。」
エドガルトフィはすぐにアリドメッドとモニエーラを牢から出した。
「2人は観客席でマサトの戦闘を見るように。」
2人はぺこりと頭を下げて観客席へ走って行った。
「君の為に特別な獲物を準備したよ。マサトに命令する、レオンを仕留めろ!」
首輪が光った。
「よし、後は任せたぞ。」
「はい、かしこまりました。」
フランチェはそのまま観客席へ戻って行った。エドガルトフィは鍵を開け、真人についている鎖を外す。
「その首輪がある限り逃げることは出来ないからな。死ぬ気で戦ってこい。」
そういって2本の高級ポーションを渡した。かなりの強敵だという事だろう。真人は手袋をはめ、軽くストレッチをする。
「獲物はどこですか。」
完全なハンターの目になった真人にエドガルトフィはゾクゾクした。
同じ頃、ロドリゴとマリウスがフード付きのローブで身を隠した人物と3人がこの建物の入り口で隊員と口論していた。
「本日は第一隊が貸し切りにしている為、他の方の立ち入りは禁止しております。」
「貸し切りといえども中に入って見るだけだ。それも禁止とはおかしいではないか。」
「第一隊が使っているのです、他の隊の方はご遠慮ください。」
「ならばフランチェを呼んで来い!」
「フランチェ隊長から誰も通すなと言われておりますのでお引き取り下さい!」
「第一隊が使っているとはいえ、隊長の私に隊員であるお前が口答えするか!?第一隊が第二隊より上という事はないぞ。便宜上番号を付けてあるだけで立場的には横並びだぞ。今すぐフランチェを呼んで来い!」
「出来ません!お引き取り下さい。」
埒が明かない。
「ならば私の権限で中へ入れてもらおうか。」
後ろから長髪の騎士服を着た男性が現れた。
「「ドミニゴ隊長!」」
「遅れてすまないね。私たちはどうしても中に入らなければならない用事があってね。これは私からの命令だ。ここを通しなさい。」
「しかし・・・」
「隊の規律は知っているな。」
「はい!どうぞお通り下さい!」
こうしてロドリゴ達は入口を通過した。
「このことはフランチェや他の者には決して言わないように。」
「はい、決して言いません!」
隊員は敬礼してそう言った。
「ありがとうございます、ドミニゴ隊長。」
「いや、私こそ遅れてきて申し訳なかった。さあ、身を隠せる席に行こうか。」
そう言って王室親衛隊隊長のドミニゴはロドリゴ達と一緒に観客席へ向かった。中の構造を知っているロドリゴ・マリウスが先に、その後ろにローブの人、ドミニゴの順に進み、フランチェ達から見えない席に座った。




