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こっちで元気にやってます  作者: 楠 螢
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不自由な暮らし

軟禁部屋にいた朋美はベランダで庭を見ていた。日が暮れても警備兵はいるようだ。

「24時間体制なのね。これが普通なら貴族の暮らしって結構窮屈よね。綺麗な庭なのにあんなに人がいたらのんびり鑑賞も出来ないわ。」

警備兵は時々朋美のいる方を見る。

「絶対私の監視よね、あれは。」

ふう、とため息をついて部屋の中に入った。

「トモーミ様、湯浴みの時間です。」

お風呂に入り、念入りに磨き上げられる。

こんな生活に慣れたくないわと思いながら入り、食堂に行くための着替えをする。

食堂へ着くと誰もいなかった。

「本日ご主人様は火急の用でトモーミ様おひとりでのお食事となります。」

「私1人ですか?他の方はいらっしゃらないのですか?」

その質問には答えてもらえなかった。広い食堂で1人きりで食事をする。

「この後図書室へ行ってもよろしいですか?寝る前に何か本を読みたいのです。」

「お部屋までお持ちしましょうか?」

「いえ、自分で選びたいのです。」

そう言って図書室へ行く許可をもらった。


錬金術の本ではないのを読みたかったので、違う棚を探してみる。

「これはこの国の歴史書かしら。」

「はい、さようでございます。この国というよりこの大陸の歴史書になりますね。サンシュテール王国が出来る前からの記録が書いてあります。」

朋美がどんなものに興味があるのか見るためにデヴィッドがついてきている。

「そちらをご覧になるのであれば合わせてこちらもいかがですか。少し子供向けになりますが、この国の事を知るのにはいいかと思います。」

英雄物語とかかれた本だ。それを受け取り部屋へ戻ろうとするとすぐにシルビアが来て本を持つ。

「本くらい自分で持って歩けるのに。」

やっぱり貴族は何かと不便だと思う朋美だった。

部屋で英雄物語を読んでいた。これはサンシュテール王国を建国した王様の物語を子供がわかりやすいように書いたものだ。


昔ユーラリア大陸に始まりの魔女と呼ばれる魔女たちがいました。魔女はいろんな魔道具を作り、その魔道具を人々に使って実験していました。魔道具によって人間らしい暮らしが出来ていない人々を救うべく5人の勇者が立ち上がり、始まりの魔女を懲らしめました。魔女は改心し、再び人々を苦しめないようにと眷属の首輪を差し出しそれを自分たちの首に着けました。そして魔女たちはそれぞれの勇者についていき、勇者は自分たちの国を作りました。


「ふうん、英雄物語ねぇ。なんか違う気もするけど。」

あまりにシンプルなストーリーにあきれた朋美はすぐに本を閉じた。そしてユーラリア大陸の歴史書に手を付けた。こちらも先ほどの英雄物語と同じ時期から書いてある。

「始まりの魔女は8人いて、5人について行った。サンシュテール王国の祖には1人ついてきたのね。」

暫く読み進めていくと、始まりの魔女の葬儀の事が書いてあった。

「魔女の葬儀はしめやかに行われ、その遺体はリューロー山脈の奥のエバレスト山の中腹に眠る。何で中腹なのかしら。普通は頂とかよね。リューロー山脈って確かイエティがいたところだわ。あの先には国境があるんだっけ?」

その先を読み進めていったが、なぜか始まりの魔女の事が気になった。

「他に魔女の事を書いてある本はないのかしら。」

しかし今から図書室へは行けない。今日は諦めて寝ることにした。


翌日デヴィッドに本の話をした。

「始まりの魔女の記録ですか。残念ながらないですね。もしかしたら王城の図書室にならあるかもしれませんが。」

「そんなに貴重な記録なのですか?」

「貴重というか、始まりの魔女の事は一般には特に伝えられていないのですよ。だからない可能性の方が高いです。」

確かに国の祖の話などは伝えられてもそれに退治された魔女の話なんてそうそうあるものではない。しかし朋美は何故か魔女の埋葬先の事が引っかかっていた。

「エバレスト山ってリューロー山脈のどこにあるのですか?」

「エバレストはサンシュテール王国とマドリアデル王国の境にあります。夏の一時だけ雪が解けていますが、それ以外の時は常に雪が積もってとても行けるような場所ではありません。イエティの生息地ですしね。」

確かにあの時沢山のイエティがいた。

「夏の一時だけ・・・」

これから夏になる。もしかしたら行けるのではないか、ここを出たら行ってみようと朋美は思った。

「本もよろしいですが、午後はダンスのレッスンが入っておりますのでお時間を空けておいて下さい。」

「ダンスのレッスン?」

「はい。パーティーで踊れないと恥をかきますので。」

パーティー?初めて聞く話だ。本人の知らないところで色々と話が進んでいるようだ。これはもうきっぱりと断るしかない。

「今日はフランチェ様はどちらに?」

「本日もお出かけでございます。夕食はご一緒にとおっしゃっていました。」

「そうですか。」

これ以上いろんなことをされる前に断ろう。早い方がいい。ダンスのレッスンも受けたくないが、すでに頼んであるのなら仕方がないからやっておこう。大きなため息をつき、部屋へ戻る。


「トモーミ様、ダンスの経験はおありですか?」

「社交ダンスですよね。全くないです。」

「それでは基本のステップからお教えしますね。」

招かれた講師は朋美の前で軽やかにステップを踏む。

「それでは私の真似をして下さい。」

講師の足の動きを見ながらステップを踏む。

「そうです、そうそう。そしてステップを覚えたら背筋を伸ばして顔を上げて!」

スパルタ講師は3時間かけてみっちりと基礎を叩きこんだ。

ぐぐ・・・足が・・・腰が・・・

苦しんでいる朋美をいたわることなくさらに次のレッスンに入る。

「はい、次は私が男役をしますので曲に合わせて踊りましょう。」

プルプルと足を震わせながら必死になって1曲踊った。

「筋がいいですね。教えがいがありますわ。次のレッスンはいつにしましょうか。」

「次!?」

もう次はないと思って必死に踊ったのだ。絶対に今日は養子の話は断ろうと朋美は固く心に誓った。


汗をかいたのでお風呂に入りたいと言ったが、2人はセットでついてきた。ダンスで汗をかいた朋美をビビアンとシルビアは丁寧に磨き上げていく。そして足腰のマッサージをしてくれた。

ああ、これはいいわ。こっちならいくらでも歓迎だわ。

しっかりともみほぐされ、家の主の待つ食堂へと向かった。

食堂ではフランチェがワインを飲んでいた。

「食前酒だ。トモーミもどうだい?」

差し出されたが断った。

「ここでの暮らしはどうかね?不自由はしてないだろうか。」

「不自由ですか?自由に出歩けないので不自由ですね。」

「それは貴族の子女になれば誰に狙われるか分からないからな。護衛が付いて回るのは当然だよ。」

「庭の散歩にでもですか?」

その言葉でフランチェは表情を変えたが、すぐに笑顔を繕った。

「最近物騒になったので少し警備を増やしたのだよ。そうか、庭の散歩中に警備兵が気になったのだな。トモーミが散歩をする時は離れているように言っておく。」

そう言って合図を送ると食事が運ばれてきた。

「養子の件ですが」

「明日は一緒に出掛けるのでそのように準備をしておいてくれ。」

朋美の言葉を遮った。そして口も利かずに食事を始めた。フランチェは黙々と食べ進め、先に食堂を出て行った。

出掛ける?私をどこへ連れて行く気かしら。これ以上はここに留まれないわ。外に出るならチャンスだわ。そのまま養子の話を断っていなくなってしまおう。朋美も急いで食事を終わらせ部屋へ戻った。

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