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こっちで元気にやってます  作者: 楠 螢
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トモーミ・オーノ・コルデソン?

フランチェの屋敷には朝から宝石商やドレス職人が招かれていた。

「美しい黒髪にこの宝石がお似合いです。」

「この光沢のある生地が淡いピンクの肌がよく映えます。」

着せ替え人形のようにあれこれ勧められ、朋美は困り果てていた。

「私は宝石もドレスもいりません。すみませんが帰って下さい。」

「それでは私共が困ります。トモーミ様にお似合いのものをと言われておりますので何もお選びにならないなんてフランチェ様に叱られます。」

「そうです!コルデソン家に招かれて何も注文していただけないなんて、同業者から笑われます。」

「「何が何でも選んでいただきます!」」

2人の気迫に押されて結局朋美は装飾品とドレスを数点選び、やっとアシスタントと共に帰ってもらえることになった。

「何なの、貴族って。面倒だわ。」

再び軟禁部屋へと帰ってきて、ベッドにどさりと横たわった。

「どこにも出かけられないなら雨の日の宿の部屋と何にも変わらないじゃない。」

家にいればたとえ雨の日でも真人と話をしながら1日を過ごすことが出来る。でもここにはいない。

「今頃になって・・・私ってバカだな。」

ずっと自分に都合のいい関係でいたいなんて思っていた。真人の気持ちに気づいていながら『私はどうせ帰るのだから』と気づかないふりをし続けていた。真人はもうこっちで生活するための準備をしている。真人ならすぐに新しいパートナーが見つかるだろう。

「帰る方法なんてきっとないんだわ。それがわかっているからアーヤも残るって決心したんだわ。きっと真人ももう帰れないって知っているんだ。だからこっちで生きていくために必要なものを準備しているんだわ。私はどうしよう。このままこの家の養子になって生活する?」

そもそもフランチェが朋美を養子にする理由が分からない。

「私を養子にしたい理由は渡り人だからよね。それ以外に何かメリットがあるのかしら。でも渡り人だから養子にする・・・だとすれば軟禁する必要はないはずよね。」

やっぱり何か他の理由があるはずだ。それがわかるまでは大人しくしておこうと朋美は思った。

「しかし退屈ね。せめてあの綺麗な庭を散歩してみたいわ。」

扉を押してみるがやはり鍵がかかっている。

「何か御用でしょうか。」

どうやら扉の向こうに待機していたらしい。

「庭の散歩をしてみたいのだけれど。」

「はい、かしこまりました。」

鍵が開けられた。

「どうぞこちらへ。」

シルビアとビビアンに挟まれて廊下から庭へ出る。庭に出ても2人は離れることなくついてくる。

「ゆっくり1人で散策したいのだけれど、貴族って自分1人で庭の散歩も出来ないのですか?」

「何があるかわかりませんので。」

上半身を15度程傾けてシルビアが答える。

「でもこれだけ警備の方がいらっしゃるのだから、その必要はないのではありませんか?」

今見えるだけでも3人の警備兵が庭にいる。それにメイドが2人もついてくる必要があるのだろうか。


多分この2人も普通のメイドじゃないはずよね。そんなに厳重に見張らなきゃいけないのかしら。一体何が目的で私を養子にしようとしているのかしら。


庭の散歩を早々に切り上げ、図書室に案内してもらった。かなりの本があるが、難しくて朋美はほとんど読めなかった。その中から興味のあるものを見つけた。

「あ、これは役に立ちそう。」

錬金術図鑑。朋美には魔導士・魔法剣士の他に錬金術師の適性があった。錬金術師としてなら冒険者を辞めても生活していけるだろうという軽い気持ちで読み始めた。

中身は錬金術で作られたものの絵とその構造などが書いてあった。初歩的なものらしく、朋美でもすぐに作れそうなものばかりだった。

「この魔導回路って面白そう。向こうの電気の回路みたい。」

朋美はリケジョな為、回路図や物質の計算式などが書いてあるのが面白いと思った。すぐに一冊読み終わり次の本へ進んだ。

夢中で読んでいたので日が暮れたのも気が付かなかった。

「トモーミ様、本日はもうお時間が・・・」

ハッとして顔を上げた。デヴィッドが立っていた。

「すみません、もうこんなに暗くなっていたのですね。」

慌てて席を立つ。

「この本部屋に持って行ってもいいですか?」

「錬金術の本ですか。よろしいですよ。」

そう言ってデヴィッドは本棚から1冊の本を取り出す。

「この本もお勧めですよ。よろしかったらどうぞ。」

朋美はその本を受け取り、錬金術の本2冊を持って部屋へ戻ろうとするとすぐにシルビアが本を受け取り朋美の前を歩いていった。


「錬金術の本をか。」

「はい、日中ずっと読んでいたようです。すでに上級の本を読んでいたので『失われた錬金術』の本も渡しておきました。」

「確か教会での職業適性に錬金術師もあったな。冒険者としての腕もいいがそっちも出来るようになるなら随分と利用価値があるじゃないか。材料を買って何か作らせてみろ。必要なら誰か師をつけろ。」

「かしこまりました。早急に手配いたします。」


デヴィッドはその日のうちに錬金術師の手配をし、初歩的な材料も揃えた。翌朝朝食が済むとすぐにデヴィッドが部屋にやってきた。

「トモーミ様、昨日の本はお読みになられましたか?」

「はい、とても為になる内容でした。有難うございました。」

「実は本日錬金術師の方をお招きして、トモーミ様にご指導をしていただけるよう手配しておきました。」

「今日ですか!?」

「はい。ご興味がおありのようでしたので早急に手配いたしました。」

「ありがとうございます。それは何時からでしょうか?」

「9時頃には到着すると思いますのでお部屋にお迎えに上がります。それまでにこちらの本をどうぞ。」

そう言ってデヴィッドは新しい本を渡して部屋から出て行った。

「随分と準備がいいわね。まあここで軟禁されて本だけ読んでいるよりはましかな。」

渡された本のページをめくる。かなり高度な回路図が書いてあった。

「この回路凄い。ここでこっちに繋がってこれをこうするとこっちがこうなって・・・。」

朋美はすっかりはまって扉をノックされたのも気づかず読み続けていた。

「トモーミ様、お時間です。」

シルビアが迎えに来た。

「あ、もうそんな時間?」

慌てて本を閉じ、シルビアが案内する部屋へ移動した。


お金に物を言わせて無理やり頼んできてもらったのだろう。錬金術師は迷惑そうな顔をしていた。

「錬金術は初めてだと聞いております。初歩的なことからお教えしますね。」

そう言って本を開き、初歩の初歩を教え始めた。

「すみませんが本を読むだけならすでに済ませています。実技の指導をお願いします。」

朋美はすでに上級までの本は読み終わっている。錬金術師は不服そうな顔をしたが、

「それではまずこちらの魔道具への回路の付与をいたしましょう。」

そう言ってライトの魔道具を出してきた。

豆電球に乾電池をつなぐような実験だ。紐のようなものに刻印を施し魔石から魔力が流れるように作っていくようだ。テキストを見ながらあっという間に仕上げていった。その作業を見た錬金術師は素早い朋美の作業に見る目を変えた。

「素晴らしいですね。以前どこかで錬金術をなさったことがおありですか?」

「いえ、これが初めてです。」

「素晴らしい!初めてで失敗なくこの綺麗な刻印をこんなに早くできるなんて。」

先ほどとは打って変わって態度を変え、どんどんいろんなことを教え始めた。

「これが実技の基礎になります。これを元に自分でいろんなものをいろんな素材で作っていきます。」

「薬のようなものは作らないのですか。」

「それは薬師に任せておけばいいのです。魔石を利用していかに便利なものを作れるかが錬金術師の腕の見せ所です。」

どうやらこの世界の錬金術は魔道具作成が主なようだ。

「是非錬金術ギルドにも登録してもらいたいものです。その腕前ならすぐにでも赤まではいけますよ。でも貴族様になられるなら趣味程度になってしまうのでしょうね。」

こんな人にまで養子の話をして外堀を埋めようとするなんて、やはり養子の話は怪しいと思った朋美であった。


夕方にはドレス職人がサイズ直しをした普段着用のドレスを5着、パーティー用のドレスを2着持ってきた。

「お直しするところがわずかだったのですぐにお持ちしました。早速試着して下さい。」

普通はオーダーメイド専門なのだが、急遽数着は作るようにと指示をされたので一昨日採寸した時のサイズを元に既製品のドレスを仕立て直ししたそうだ。

「ぴったりです!とてもよくお似合いです。これならパーティーの華になること間違いありません!オーダーメイドで作っているドレスの方はこちらの何倍も華やかに仕上げますので今後ともよろしくお願いいたします。」

リップサービス全開、ほくほく顔でセールスする。

「オーダーメイド?」

「はい。トモーミ様の為にドレスをと言われまして、私共が丹精込めて作らせていただいております。」

手もみまで入ってきた。これで養子の話を断ったらどうなるのかと段々不安になってきた。

「あの・・・ちなみにそのオーダーメイドのドレスっていくらぐらいするんですか?」

「トモーミ様、試着は終わりましたのでお部屋へお戻りください。」

シルビアの合図でビビアンが朋美を連れて部屋へ戻る。

「トモーミ様、貴族の子女はドレスなどの値段を気にするものではございません。ましてあのような場所で聞くなんてもってのほかです。」

確かに貴族であればそうだろう。だが朋美は庶民だし、養子にならなかった時は自分の為に作られたドレスの代金ぐらいは出そうと思って聞いたのだった。

「ごめんなさい」

「メイドに謝る必要はございません。」

そう言って部屋へ戻された。朋美はそのまま夕食の時間まで軟禁部屋で過ごすこととなった。

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