朋美奪還計画
真人と2人はその日のうちにバジュールを出発した。ヴォデルマ領のヴォルテからは王都息の馬車が出ている。夜通しで移動すればその馬車に乗れるかもしれない。隊長の命令とはいえ、真人を騙していたことに良心が咎めた2人は必死に真人に着いて行く。
「はぁ、はぁ、凄い体力。もう限界・・・」
よろよろと歩いていたモニエーラがその場に倒れた。
「マサト、すまないが少し休ませてくれ。」
流石に飛ばし過ぎたと思い、休憩することにした。
「ごめんなさい。でもよくこんなに続けて長時間も身体強化出来るわね。」
「こちらこそ無理をさせてしまって申し訳ありません。」
道から外れた草むらで焚火をし、真人はこれからの事を考えていた。モニエーラは自分の足をマッサージしている。
「王都に入ったらどうするんだい?」
「連れて行った隊長の家に潜入してトモさんを助け出します。」
「フランチェ隊長は第二貴族だから屋敷もかなり広いぞ。警備兵も多いから潜入してもすぐに見つかると思うぞ。」
「しかしどんな仕打ちを受けているかと思うと心配で・・・」
「多分酷い扱いは受けていないと思うわ。私たちはトモーミとマサトを引き離すように言われたけど、トモーミを丁重に迎えるようにって言ってたみたいだもの。」
「そうです。多分目的はトモーミを自分の配下に置く事です。トモーミの魔力の高さもわかっているはずなのでバカなことはしないと思います。」
「でも眷属の首輪をつければそれも意味がないでしょう。」
「だからそれはそう簡単に持ち出せるものじゃないのよ。王城の厳重な場所に保管されているって聞いているわ。」
「そんなに貴重なものなのですか?」
「そうよ。『始まりの魔女』と呼ばれる人たちが作ったものだって聞いているわ。」
「始まりの魔女ですか?」
「この大陸では有名な話なんですよ。サンシュテール王国を含む5つの国がこの大陸にはあるのですが、その国が出来るずっと前、3人の魔女が自分たちの叡智の結晶として作り上げたものだと言われています。」
「かなり複雑な術式を使って作られていて、オリジナルがどこにあるか分からないけど、弟子がそれをまねて同じものを作ってそれが今各国に出回っているって言われているわ。でも弟子の弟子になるとその術式の解読が出来なくて結局作れなかったって言われているの。だからどの国も1つか2つしか持っていない貴重なものなの。」
「血を使って主従関係を設定するらしいわ。そしてそれをするとたとえどこにいても主人の言う事を聞くようになるんですって。だから逃げることも出来ないのよ。」
「どこにいても!?」
「血に反応して命令を出すからですって。」
「恐ろしいものですね。」
「魔女と呼ばれた錬金術師よ。私たちの想像もできないようなものを作り出すのよ、あの人たちは。でも始まりの魔女は別格よ。今の人たちにはあれが作れないのだから。」
「それではどうやってトモさんのいるところを特定すればいいのでしょうか。」
少し落ち着いた真人は2人に尋ねた。
「私たちが警備隊の方で情報を集めてみるわ。それまで宿屋で待ってて。」
「それではお2人に迷惑が掛かります。」
「いいのよ。本当はあの隊長のすることに疑問を感じていたの。こんなことをするなんて、やっぱり隊長として尊敬できないわ。私、異動届出すわ。」
「自分もそうします。フランチェ隊長の考え方にもうついて行けません。」
2人は同じ方向に向いたようだ。
「そろそろ行けそうよ。」
「それじゃあ行きますか。」
焚火を消して3人は再び歩き始めた。
翌朝何とかヴォルテで王都行きの馬車に乗ることが出来、揺れる馬車の中で3人は眠った。周りの人たちはよくこんな馬車の中で眠れるものだと呆れて見ていた。馬車は順調に進み、宿泊の為の検問所へ到着した。
「ちょっと確認してきますね。」
「何をですか?」
「ヴォデルマからサンシューマへ行くには必ずここを通ります。検問所はどんな馬車が通ったか記録が残っています。自分は王室警備隊なのでその記録を見ることが出来ます。」
「ああ、そういう事ね。」
モニエーラがそう言うとアリドメッドは部屋を出て行った。
「どういうことですか?」
「トモーミを乗せた馬車がどんなもので、いつ通ったかを見に行ったのよ。」
「なるほど。」
検問所ではタグを提示して犯罪歴がないかなどを確認している。貴族の一部は免除されているが、貴族でない朋美はここを通った記録が残っているはずだ。
「わかりました。一昨日ここで一泊していますね。馬車は家紋のない物だったようです。」
「家紋がない馬車。やっぱりトモーミを連れて行った事は周りには知られたくないのね。」
「それはどういうことですか。」
「家紋のない馬車ってことは、どこの家のものか知られたくないってことなのよ。やっぱり隊長は王命ではなく自分の都合でトモーミを連れて行ったんだわ。」
「自分たちは明日警備隊へ行って状況を調べてきます。マサトは宿屋で待っていて下さい。それが終わったらマサトのところに行きますから。」
「わかりました。自分は『オリンピア』という宿に泊まります。よろしくお願いします。」
明日の予定を立てたところで3人は早く寝ることにした。
翌朝馬車は定時に出発し、何事もなく最初の小休憩にはいた。その時前方から馬車がやってきて隣で止まった。
「あれは同じ隊の仲間です。」
こっちが気が付いたのと同時に向こうも気が付いたようで、つかつかとやってきた。
「アリドメッド、モニエーラ、ここにいたのか。迎えにきたぞ。」
「フォルコダ!?迎えってどういうことだ?」
真人はすぐに他の乗客の中に姿を隠す。
「隊長の命令に苦労しているだろうと思ってね。大体魔物のいない島で調査なんて無理があるんだ。どうせばれてるんだろう?あの隊長じゃお互い苦労するな。」
かなりフレンドリーに話をしている。
「ところでマサトとは一緒じゃないのか?お人好しなお前たちの事だから一緒に行動していると思ったんだけどな。」
「ばれても一緒に行動しているとは限らないだろう。」
「そりゃあそうかもしれないが、お前たちの性格からしてマサトに申し訳ないってトモーミの件を手伝ってやるって言ったんだろう?」
「どうしてそう思うのですか?」
「俺も隊長のやり方にうんざりしているからさ。だからお前たちの手伝いをしてやろうと馬車を飛ばして迎えに来たんだよ。マサトはどこだよ。」
絶対に一緒にいると思っているようだ。アリドメッドとモニエーラが警戒を解いたところで真人が歩いてきた。
「君がマサトか。今回は大変だったね。うちの隊長言い出したら聞かないからな。さあ乗ってくれ。行きながら話そう。」
そう言ってフォルコダは馬車の扉を開けた。
「王室警備隊の馬車です。これなら王都に入っても怪しまれることはないでしょう。」
「まさかフォルコダも隊長に不満を持っているとは思わなかったわ。」
3人はそのままフォルコダが準備した馬車に乗り込んだ。
「よし、それじゃあ王都まで一気に行くぞ。」
フォルコダは扉を閉め、そっと鍵をかけた。それから御者台へ飛び乗り、王都に向けで馬車を走らせた。
遡ること14時間程前。検問所にはエドガルトフィが待機していた。
「来ました。マサトという冒険者も一緒です。先ほどアリドメッドとおっしゃる警備隊の方が通行記録を閲覧されました。」
「やはりあの2人は使えないな。あの馬車は何時にここを出発する予定だ?」
「定期馬車はいつもここを7時過ぎには出発します。」
「そうか。報告ありがとう。」
そう言ってエドガルトフィは検問所の裏手に止めてある馬に跨り王都に向かって走って行った。




