フランチェ・コルデソンという貴族
結局2人の芝居が下手でばれて島を出ること(結果的に真人に脅されて出たという事)になったのだが、狼煙を上げて船が迎えに来てバジュールに着くまで6時間もかかる。
「どうしても今から王都に向かうのですか?」
「少しでも早く行かないと、もし彼女に眷属の首輪が使われたら・・・。」
「眷属の首輪・・・それなら大丈夫だと思いますよ。」
「何が大丈夫なのですか!」
「眷属の首輪は王様の許可がないと使う事が出来ないものです。使用するためには所定の手続きが必要ですし、最終決定権は王様にありますから。」
「ならばやっぱり王命で連れて行かれたかもしれないという事ですか!?」
「いえ、それは絶対あり得ません。王命ならばトモーミとマサトを引き離す必要はないじゃないですか。隊長にとって2人が一緒にいることは都合が悪いのではないですか?」
「何故自分と一緒にいることが彼女を呼び出すのに都合が悪いのでしょうか。」
「それは分かりません。でも隊長の目的がトモーミだけだからマサトが一緒だと都合が悪いのではないでしょうか?」
例えそうであっても今すぐに朋美の元に行かなければ何か取り返しのつかないことになる気がしている真人は急いで出発の準備をしようとする。
「まず宿屋に行ってトモーミがいつ宿を出発したか確認する必要があります。さあ行きましょう。」
アリドメッドの言葉にうなずき宿屋へ向かった。そして朋美が宿を出た日を確認し、3人で王都に向かう事にした。
ある方ことフランチェの屋敷の一室に閉じ込められている朋美は落ち着かなかった。
「寛げって言われても何にもない部屋でどうやって寛ぐのよ。」
豪華な部屋だが娯楽用品があるわけでもない。窓を開けてベランダに出てみる。部屋は3階のようだ。綺麗な庭が見えるが、鑑賞している気にはなれない。あちこちに警備兵がいるからだ。警備兵は庭を歩き回り、時々朋美の方を見ている。
「逃げ出さないように監視されているってことよね。」
ベランダから部屋に入ると扉をノックしてメイドの2人が入ってきた。
「お待たせいたしました、トモーミ様。湯浴みの準備が整いました。」
「湯浴み?」
「はい。こちらへどうぞ。」
シルビアとビビアンは朋美を挟むようにしてバスルームへ連れて行った。
「わあ、綺麗なお風呂。お屋敷がこんなに大きいとお風呂も温泉並みに広いのね。」
感心している朋美の服をメイドの2人が脱がせようとする。
「何をするんですか!」
慌てて体を2人から離し睨みつけた。
「湯浴みのお手伝いをいたします。お召し物を脱いでいただけませんと」
「自分で脱げます!」
「いいえ、トモーミ様のお手を煩わせてはいけませんから。」
「いいえ結構です!お風呂位自分で入れます!!!」
全力で拒否した。このままでは埒が明かないと思ったメイドは
「それでは私達はお召し替えの支度をしてまいります。ごゆっくりどうぞ。」
そう言って一旦出て行った。朋美は急いで服を脱ぎ広いバスルームへ入って行った。
「広いし豪華だわ。こんなのが自宅にあるなんて、貴族って本当に金持ちなのね。」
そんなことを言いながら体にお湯をかけて石鹸やシャンプーを探す。
「あれ?ないわ。宿屋にだって置いてあったわよね。」
それを聞いたようにメイドの2人が入ってくる。
「失礼いたします。お体を洗わせていただきます。」
「ええー!?」
汚れた体で湯船に浸かれるはずもなく、全裸の朋美はメイドの2人によって磨き上げられていった。
メイドの2人によって足の先から髪の先までピッカピカに磨き上げられた朋美はドレスアップされた自分の姿に驚いた。
「これが私!?」
「さようでございます。トモーミ様の黒い御髪に夜のとばりのような濃紺のドレスが良くお似合いです。」
伸びた髪は綺麗にまとめ上げられ、宝石を散りばめた髪飾りで留められた。ドレスは光沢のある生地にレースをふんだんに使ってあり、所々にやはり宝石が付けてある。胸元は大きく開いているのでパットを入れてある。
「既製品ですのでどうしても・・・ですね。」
そう言って慰められた。
「後はこれをつけて・・・」
ゴージャスな首飾りを持ってきた。
「いえ、首飾りは結構です!」
「しかし胸元が寂しいですのでこれをお召しになって」
「そんな豪華なものをつけていたら肩が凝ってしまいます。いらないです!」
眷属の首輪を警戒し、首飾りは拒否し続けた。シルビアとビビアンは呆れた顔で見つめ合い、首飾りを箱に仕舞った。
「仕方がありませんね。それではこちらをどうぞ。」
そう言ってドレスと同じ青い宝石が付いたブレスレットを差し出した。思いっきりネックレスを拒否したのでそっちは諦めて付けた。そして黄色い宝石が付いたイヤリングをつけた頃、デヴィッドが迎えに来た。
「トモーミ様、お食事の支度が出来ました。ご主人様がお待ちです。」
きた!いよいよ私をここへ連れてきた張本人と対面することが出来る。
「はい、わかりました。すぐに参ります。」
緊張して心臓がバクバクしている。しかし朋美はそれを打ち消すように大きく深呼吸して部屋を出た。
食堂の扉が開き、煌びやかな装飾品と豪華な花の先に屋敷の主が座っていた。
「やあトモーミ君、よく来てくれたね。今日はうちのシェフが君を歓迎するために腕によりをかけて作った料理を堪能してくれたまえ。」
来たくて来た訳じゃないと言いたかったが、ここはアウェイなのでそんなことを言っては大変なことになる。
「非常に丁寧なお招きありがとうございます。」
少し嫌みを含んで言う。どれだけの人がここに揃うのか分からないくらいの長テーブルに2人だけで食事をする。向こうのフルコースのように料理が順番に出てくるのかと思ったら、次から次へと料理が並べられていく。こちらのテーブルマナーを知らない朋美はどれから手を付けていいのか分からない。
「私の事はご存じのようですが、私はあなたの事を存じ上げません。失礼ですがどなたでしょうか?」
自己紹介もされていないのでこの男が誰だか分からない。料理も何が入っているのか怪しいので手も付けたくない。
「いや、これは失礼。私は王室警備隊の第一隊の隊長でフランチェ・コルデソン。第二貴族だ。」
この国の爵位制度は数字で表されている。一番上に王族、その下に第一~第五貴族、一番下に準貴族という一代限りの貴族がある。朋美はそんな順位を知らないが、数字で2となれば上の方だろうと想像していた。
「それで私をこちらへ招かれた理由は何でしょうか?」
「まあそう慌てるな。ゆっくり食事をしてから話をしようじゃないか。」
そう言ってフランチェは食事を始めた。それを見た朋美も同じ料理に手を付けた。
食事が終わりフランチェの書斎に通された。食後の紅茶が出され、それを飲みながら話し始めた。
「実は君に私の養子になってもらおうかと思ってね。」
「へ?」
「冒険者をしているのだろう。生活は大変じゃないのかな?貴族は平民と違って生活は不自由しないからね。ここでしばらく生活をしてみてからの返事で構わないよ。」
フランチェは葉巻に火をつけそれを吸う。
「2日も馬車に揺られて疲れただろう。今日はゆっくり休みたまえ。」
そう言ってメイドを呼ぶ。入ってきたシルビアとビビアンが朋美を豪華な軟禁部屋へ連れて行った。
「ふ、警戒心丸出しだな。しばらく贅沢をさせてみるか。デヴィッドはいるか。」
「はい、おります。」
扉の向こうから返事をし、部屋の中へ入ってくる。
「ドレスでもアクセサリーでも、うちの娘たちが喜びそうなものをあれにも与えろ。贅沢に慣れれば平民の生活になど戻れないだろう。しかしあれは分かっているな。」
「はい、わかっております。かしこまりました。」
デヴィッドは一礼して部屋を出ていく。
「さて、マサトの方はどうなったかな。あの2人じゃ長くはもたないだろう。次の準備をしておくか。」




