王都からの迎え
真人に手紙を書いた。受付に預けておけばきっと渡してもらえるだろう。扉を開けるとそこには人が立っていた。
「あ、トモーミ・オーノさんですね。私はエドガルトフィと申します。所属は王室警備隊です。」
「!」
「ある方からの依頼で貴女をお迎えに上がりました。一緒に王都まで来て下さい。」
「ある方・・・」
王室警備隊が『ある方』と呼ぶとは、それなりに身分のある人の事だ。そんな人から迎えに来られて断れるはずがない。
「それは今じゃないといけませんか?」
「はい、すぐに迎えに行くようにと言われて参りました。馬車の準備は出来ておりますのでご同行願えますか。」
今ここで逃げてもすぐに捕まる。まして覚悟を決めた今、きちんと向き合わなければならない。
「わかりました。一緒に行きます。」
朋美はエドガルトフィの用意した馬車に乗り王都へ向かった。
黒塗りの2頭立ての馬車はかなり豪華だ。家紋などは入っていないが、恐らくどこかの貴族の家の馬車なのだろう。乗合馬車と違って乗り心地はかなり良かった。しかし朋美の気持ちはよくなかった。
どうして私がバジュールにいることが分かったのかしら?もしかしてあの子がいるから私が来るのを待っていたのかしら?しかも真人がいない時に。真人が・・・まさか真人も連れていかれたんじゃないでしょうね!?
『眷属の首輪』の事を思い出し、益々不安になった。いきなりってことはないはずだ。きちんと話があるはずだと自分に言い聞かせる。しかし不安は消えない。心臓はバクバクしている。向かいに座っているエドガルトフィに気づかれないように冷静なふりをする。
「ある方は王都のどこで待っているのですか?」
「それはお伝え出来ません。私はただ迎えに行くようにと言われただけですから。」
相手が誰なのか聞き出そうとしたが全く教える気はないようだ。一番可能性が高いのは王族の誰かだ。しかし王族からの呼び出しなら宿屋に迎えに来るはずはない。
そうしているうちに馬車が止まった。
「朝からずっと馬車に揺られて疲れたでしょう。美味しい食事で気分転換して下さい。」
窓もカーテンで閉めてある馬車からやっと降りることが出来た。今すぐにでも逃げ出したい気分だ。外から扉が開かれた。
「さあどうぞ。」
先に降りたエドガルトフィが右手を差し出す。これは手を取って降りないといけないのよねとそっと左手を差し出された手の上に乗せる。エドガルトフィは少し微笑み、朋美をレストランへエスコートする。予約を取ってあったらしく、店員はさっと店の奥へ案内する。
高級店らしく、他のお客と会わずに個室へ通された。窓がない部屋だ、逃げるのを防ぎたいのか、顔を見られたくないのか。
「お好きなものを召し上がって下さい。」
そう言ってメニュー表を渡される。
「すみません、こちらの料理はあまりわかりませんので選んでいただいてもいいですか。」
「これは失礼しました。こちらにいらして1年近くなると聞いておりましたので」
「私たちみたいな一般人はこんな高級な店には入れませんので。」
少し不機嫌にかぶせて言う。来たくて渡ってきた訳じゃない。好きで1年も住んでいるわけじゃない。そして今回こんな形で呼び出されている。色々と不満が出てきた。
もし眷属の首輪が出てきたらすぐに魔法攻撃して他の国に逃げてやる!
そんなことまで考えていた。朋美が不機嫌なのを察してエドガルトフィも必要以上に話しかけなくなった。料理が出てきても一言も口をきくことなく食べた。
「食事も終わったことですし、すぐに出発しましょう。」
食後に少しゆっくりしたかったが、拒否権もないのでそのままエドガルトフィの後をついて行った。
その後は休憩もなく今日の宿泊場所まで移動し続けた。
「検問所?」
「はい、本日はこちらに泊まります。野営は申し訳ないので少し急ぎました。お疲れになったでしょう。ベッドでゆっくりお休みになって下さい。食事は後でお部屋まで運びますので。」
そう言って案内された。ホテルの部屋と同じくトイレもシャワーもついていた。
「中々の部屋ね。町を移動する馬車で寝泊まりする簡易宿泊所とは随分と違うわ。部屋にトイレもシャワーもあるってことは部屋から出す気はないという事ね。」
念の為に扉に手をかけドアノブを回す。
「やっぱり鍵がかかっているわ。」
すぐに諦めてベッドに腰を下ろす。そして今日までの事を考える。
「真人が留守の時にミンまで来たのは私の意志だわ。そして占いをして・・・占い自体が私を王都へ連れ出す罠?ううん、それはないわよね。だとすればどこから・・・あ、ギルドの指名依頼!」
本来ならヴォデルマ領にいるはずのない真人に指名依頼が入ってきた。そしてバジュールの沖にある島へ行くことになった。
「私と真人を引き離す為?私は王都へ連れて行かれるけど真人はどうなったのかしら?同じ渡り人なのだから真人も王室警備隊へって話になるはずよね。もしかしたら真人は別ルートで王都へ連れて行かれたのかしら。」
2人が一緒に連れて行かれないことに疑問をもった。いったい誰が何の為に2人を引き離したのだろうか。やはり『ある方』に会ってみないと分からない。
「いきなり王様に会って『王室警備隊へ入れ』なんて言われるのかな。戦争さえ起らなければ生活は安定する職業よね。『花形職業』ってリルーディさんが言ってたくらいだし。」
ガチャガチャガチャン。鍵が開き、扉が開かれた。
「失礼します。夕食をお持ちしました。」
昼間のレストランと同じくらい豪華な食事が運ばれてきた。見るからに胸焼けがしそうな量だ。
「後で器を下げに参ります。」
そう言ってここの職員らしき人は部屋を出て行った。
「ずっと馬車に乗っていただけだからお腹は空いてないわよ。」
スープを口にする。
「あら、こっちの料理にしては中々いい味じゃない。」
しかしこの量は入らない。もし逃げ出すことになった時の為にとスープだけを飲み干し、残りの料理は収納へ入れておくことにした。
翌日朝早く出発し、王都へ夕方近くに着いた。馬車は街中を走っているらしいが外を見ることが出来ない為、今どこにいるのか分からない。いったん馬車は止まり、外から声が聞こえる。それから再び動き出したが、どうやらどこかの敷地の中に入ったらしい。10分ほどしてようやく馬車が止まり、扉が開けられた。エドガルトフィが先に降りて誰かと話をしている。
「降りちゃ・・・ダメよね。」
椅子から立ち上がりどうしようか迷っていた。
「失礼いたしました。どうぞ。」
エドガルトフィが手を差し出す。朋美はその手を取って馬車を降りる。キョロキョロと周りを見るが、どうやらお城ではないようだ。
「あの・・・ここはどなたのお屋敷でしょうか。」
「これからの事はこちらのデヴィッドにお願いしてあります。」
「デヴィッドと申します。これから屋敷へ案内いたしますので、どうぞこちらへお越しください。」
デヴィッドは軽く会釈をし、朋美を自分の方へ呼ぶ。どうしていいのか分からずにその場に立ったままだった朋美にエドガルトフィは
「それでは私の役目はここまでですのでこれで失礼いたします。」
そう言ってエドガルトフィは馬車に乗って帰って行った。
「それではトモーミ様、こちらへどうぞ。」
案内役がバトンタッチしたのだ。デヴィッドに着いて行き、誰かの屋敷の中へ入った。
屋敷の中へ入るとメイドが一斉にお辞儀をした。
「シルビア、ビビアン。」
「「はい。」」
2人が一歩前へ出た。
「トモーミ様のお世話を2人に任せます。」
「「はい、有難うございます。心を込めてお世話をさせていただきます。」」
お世話?いったい何のことだと思ったらすぐに部屋へ案内すると言われて急ぎ足でついて行った。
「こちらがトモーミ様のお部屋でございます。滞在中はごゆっくりお寛ぎください。」
そう言ってメイドの2人は出て行った。
「寛ぐっていったいどういう事?」
訳が分からなくたった。でもまだ『ある方』には会っていない。
「油断は出来ないわ。気を許しちゃだめよ!」
自分に言い聞かせた。




