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こっちで元気にやってます  作者: 楠 螢
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少年の名前

真人が出かけた後、朋美も宿を出た。

「3日はギルドで宿を取ってありますって、調査に行かない私の分もなんて変な依頼ね。」

街を歩きながらそんなことを口にしていた。バジュールの町は南側は漁業、北側は農業を営んでいるようだ。リスデンの町を小さくして、北にツルナン村をくっつけたような感じだ。海からの風が潮の香を運んでくる。それにつられて海の方へ出てみた。とても綺麗な砂浜が広がっている。

浜辺へ行き、靴を脱ぐ。波打ち際を裸足で歩いてみた。

「水が冷たくて気持ちいい!もう少し暑くなったら海水浴なんていいのかもね。こっちにそんな習慣はあるのかしら?」

それまでこっちにいるのか分からないが、もしいたらもう一度この町へ来て海水浴をしてみたいと思った。

暫く浜辺で遊んだ後、街へ戻って聞き込みを始める。しかしみんな首を横に振るばかりだ。

「5年くらい前だったかしら。農家の子供があっちから戻ってきたって話を聞いた事があるわ。」

「それは本当ですか!?どこの家かわかりますか?」

「どこの家か分からないわ。みんなこっちに来た人の話はしてもあっちに行った人の話はみんなしないから。」

行った人の話はしない。もし目の前であっちに行くのを見ても誰も口にしないようにしているそうだ。戻ってきたという話を聞かないから、あっちへ行った=亡くなったと判断しているからだそうだ。

「ヒント・・・これだわ。絶対にこれがヒントなんだわ。農業地区に行かなくちゃ。」

走って町の北側へ向かった。

「広いわね。これだけ畑があると農家は何軒くらいあるのかしら。」

1軒ずつ聞いて回るにしても丸1日はかかるだろう。しかし今までの事を思えばそのくらい大したことではない。端の家から1軒ずつノックをして聞いて回る。

「あっちから帰ってきた人がいると聞いたのですが・・・」

しかしどの家でもみんな首を横に振るばかりだ。酷い家では怒鳴られて追い払われた。

「どうしてみんな話してくれないのかしら。帰ってきたなんていい事じゃないの?」

どうやって帰ってきたのか知りたい朋美は諦めきれずに尚も家の扉を叩く。そしてほぼすべての家を回ったが、誰一人戻ってきた人の話をしてくれなかった。

「諦めるものですか。子供って言ってたわよね。大人は口が堅そうだから、明日は子供たちを中心に聞き込みをしてみよう。」

流石に日が暮れかかっているので今日の聞き込みは諦めて宿に戻ることにした。

翌朝は早くから農業地区へ来ていた。しかし早すぎたせいか人がいない。仕方がないので暫く外れの方で待っていたら、ちらほらと人が出てき始めた。しかし子供の姿が見えない。

「昨日はいたわよね。どうして今日はいないのかしら。」

朋美が昨日聞き込みをしたせいで、変な人がいると親が警戒して子供に外に出ないように言ってあるのだ。そうとは知らない朋美はひたすら子供が出てくるのを待っていた。

流石に昼近くまで待って子供が1人も出てこないのでおかしいと思った朋美は再び大人に聞き込みを始めた。しかし答えは昨日と同じだった。

「一体誰からそんなことを聞いてきたんだい?何の証拠もなしにこの辺りをうろうろして、はっきり言って迷惑だよ。どっかへ行ってくれないか。」

みんな冷たい。朋美にとっては大事な事でもこの人たちにとっては話したくないことなのだ。それを理解していない朋美は必死になって食らいつく。

「お願いします。私はあっちに帰りたいんです。どうやったら帰れるのか、何か手掛かりが欲しいんです。お願いします!」

「五月蠅いな!作業の邪魔だ。あっちへ行ってくれ。」

ドンと男の人から突き飛ばされ、朋美は大きく尻もちをついた。周りの人は見て見ぬふりをしている。

「うっ・・・」

たまらず朋美は涙ぐんだ。誰も助けてくれる人はいない。諦めて立ち上がり、トボトボと歩き始めた。その朋美の前から1人の少年が野菜の入った籠を持って歩いてきた。綺麗な金髪のショートヘアに緑色の瞳。こちらの人に多い容姿だ。歳は12~3歳くらいだろうか。この世界ではもう働いている年齢だ。

「お姉さん、日本から来た人だよね?商業地区へ行く大きな木の下で待ってて。」

少年はそう言って通り過ぎていった。荷物が重たいのか、途中で地面に籠を置いた。すると道の先から母親らしき人が少年に声をかける。

「タイティー、早くこっちへおいで。」

朋美は思わず振り返る。

「え、今なんて言った?」

少年と目が合った。しかし少年は知らん顔をしてまた荷物を持って歩いていった。

「商業地区へ行く大きな木の下って言ったわよね。」

走ってその場を離れた。


「あの子ははっきり『日本』って言ったわ。きっとあの子が戻ってきた子供ね。絶対何か知っているんだわ。・・・でも私、あの子の顔見たことある気がする。あっちのどこかで会ったことがあるのかな。」

一生懸命考える。自分には外国人の親戚も知り合いはいない。

「金髪に緑の目、1度あったら忘れないと思うんだけどな。」

どれだけ考えても思い出せない。

「あー、何か引っかかってる気がするわ。えーと、うーん」

あの子はいったい誰だろう、必死になって思い出そうとするが、やっぱり思い出せない。散々悩んでいるうちに少年を呼んだ母親が口にした名前を思い出した。

「たい・・・ちぃ?」


それから少しして少年がやってきた。

「こんにちは。おねえさんもこっちに来た日本人だよね。」

「やっぱりあなたが向こうに行って帰ってきた子供なのね!」

少年は困った顔をした。

「いえ、違います。僕は向こうに行って帰ってきたんじゃありません。僕は5年前の7歳の時にこっちにきました。」

その時朋美の中で記憶がつながった。

「・・・美作 太一君?」

「僕の事を知ってるの?あっちはどうなってるの?お願い教えて!」

少年は涙を流しながら朋美に聞いてきた。朋美は呆然とした。美作太一は自分の友達の兄さんだ。しかも20年も前に神隠しにあった。しかし目の前の少年はまだ12~3歳にしか見えない。まさか彼が27歳だという事はないよなと思い、念の為に聞いてみる。

「歳はいくつ?」

「今年で12歳です。小学校1年生の学校の帰りにこっちに来ました。僕何が起こったか分からなかったけど、ここの人が『タイティーが行った時の姿で帰ってきた』って言って。どんなに僕の名前は『太一』だって言っても聞いてくれなかったの。」

泣きじゃくりながら話しをする少年を見ながら、朋美は何とも言えない顔になった。

「ねえ、お姉さん日本から来たんだよね。あっちで僕の事探してるよね。お父さんお母さんはどうしてるの?僕帰りたいよ・・・妹だって産まれたのに」

間違いない、この少年は美作百合江の兄『美作太一』だ。でもどうして自分より年下なのか?その理由が分からない。

「あの、そうよ、探していたわ。太一君の写真を見せてもらったの。だからすぐに太一君だってわかったわ。」

「ホント!?それじゃあ僕もうすぐ帰れるんだね!」

いや、自分も帰る方法は分からないと言えずにいた。

「私がこの話をしたことは内緒ね。また来るからね。今日はもう帰らないと。」

「あ、僕も帰らないと。お姉さんがあちこちに聞いて回ってたから、今日はあまり外に出ないように言われてたの。急がなくっちゃ。お姉さんまたね!きっとだよ。」

少年は嬉しそうに走って行った。

「どういうこと?どうして美作さんのお兄さんが私より年下なの?タイティーが帰ってきたって何?」

いつまでもここにいると不審者扱いされるので、ひとまず宿に戻ることにした。


「20年前神隠しに合った美作さんのお兄さんはこっちに来たのは5年前って言ったわね。もしかして、こっちの1年は向こうの4年?いや、違うわ。私たちがこっちに来てもうすぐ1年よ。という事はこっちの1年は向こうの・・・あれ?」

違う、1年前から20年前と計算しなければいけない。

「1年前はこっちに来て4年、あっちでは20年。1年は5年?でもちょっと待って。タイティーが行った時の姿で帰ってきたって」

美作百合江の話を思い出す。

『兄は亡くなった祖父にそっくりだったらしいの。だから祖父の生まれ変わりだとか言って、『太一』って同じ名前を付けたって。』

『ご神木の方が光ったからと村の人たちが総出で見に行ったら、そこに子供がいたって。はじめは神の子かと思われたらしいけど、話を聞くと突然地面から金色の光が表れて気が付いたらここに居たって』

「タイティーって、きっと美作さんのおじいさんだわ!おじいさんは昔こっちからあっちへ転移した。そして孫の太一君はあっちからこっちに転移したけど、太一君はおじいさんにそっくりだったからこっちの人はおじいさんが帰ってきたって信じているんだわ。」

そうなると辻褄が合う。突然リルーディの言葉を思い出した。

『聞く覚悟はあるのかい?』

「私の将来を決める重要な事だと言ったわ。聞く覚悟は・・・今ならあるわ!」

真人と約束した日数より少し早いが、すぐにシェスナに戻ることにした。

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