有名人はどっち?
すぐに乗り継いだのでエランにはその日の夕方には着くことが出来た。魔力を出し続けていたので朋美は疲れてぐったりしていた。
「そんなにきつかったのなら言ってくれればよかったのに。ミンで1泊したのに。」
「いいの、だって私の事につき合わせているんだから。少し休んだらよくなるわ。」
帰る方法を探しているのに魔法の訓練をしているなんて、あまりに矛盾しているので真人には言えなかった。すぐに部屋で横になるからと言って宿を取ることにした。疲れがとれるようにと真人はそれなりにいい宿を選んだ。
朋美が部屋で休んでいる間に何か見つけられればと、真人は街を歩きながら考える。
「占い師が言ったヒントとは何だろう。見当もつかないな。」
「マサトー。」
人混みの中から誰か自分を呼んでいる。
「こっちこっち。」
人混みの頭の上に手が伸びていて、声の主が手招きをしている。
「あ、マイさん。今こっちで活動してるのですか。」
「洞窟依頼を終えてギルドに報告してきたとこなの。これから打ち上げするんだけど一緒にどう?」
朋美の事も気になったが、リスデンでのことを聞いてみようと思い同行した。
3日も潜っていたので禁断症状が出たと冗談を言いながら、みんな浴びるようにエールを飲んでいる。
「この時期はいろんなところでこの依頼があるから稼ぎ時なのよ。レアな素材なんて手に入れたらしばらく遊んで暮らせるわ。」
「そういえばマストの洞窟では地下5階に到達したソロの冒険者がいるって話を聞いたな。」
「2年前に私たちが潜った時も地下3階がやっとだったのにね。ソロってことはゴールドなのかしら。」
「マストの洞窟の地下5階ですか?」
「あそこにはゴールドサーペントがいるって噂があったんだけど、それを狩ってきたんだって。」
「凄く大きかったそうですね。解体所で見たって人が言ってましたよ。」
「魔石も大きかったんだろうな。あたしも欲しかったなー。」
「どうせ珍しい魔石を手に入れてもマイは売るんだろ。金に困ってないくせに。」
「それは家にいる時の話でしょ。冒険者やってる間は自分の稼ぎで生活してるんだからお金には困ってるのよ~。」
そう言いながらエールを水のように飲んでいる。
「マイさんは冒険者じゃなかったらどんな暮らしをしていたのですか?」
「あー、こいつ実はお嬢様なんだよ。」
リーダーのロダンが言う。
「お嬢様ですか。どこかいい家のお嬢様なのですか?」
「君は渡り人だから知らないのか。マイはグリージアの某貴族のお嬢様なんですよ。」
「え、貴族の?」
マイが貴族だったとは驚いたが、他に知り合いがいない真人はすかさずリスデンのギルドでの事を聞いてみた。
「あーそれ?半分はあってるかな。」
「半分ですか。」
「そう。拒否権があるのは貴族だけなの。辺境伯とその下の貴族は行かなくてもいいけど、平民は差し出さなきゃいけないのよね。」
「という事は、自分やトモさんが貴族の護衛になったとしても・・・」
「もし戦争になって要請があれば、それだけ冒険者としての腕あればきっと一番に行かなきゃ行けないわよねー。」
「名を挙げて貴族になれば当然免除の対象になれるのですけどね。」
「冒険者から貴族にですか?」
「そうです。いろんな功績を残せば1代限りの貴族にってことは可能ですが、かなり大変だと思いますよ。」
「例えばさっきのマストのゴールドサーペントやそれ以上の魔物の討伐依頼をガンガン受けまくるとか、お金を積んで爵位を買うとかね。」
「ゴールドサーペントかそれ以上の討伐依頼ですか。」
「そうよ。でもマサトやトモーミならやっちゃいそうよね。」
5人はすっかりその話で盛り上がっている。
「まさかヒントってこれの事じゃないよな・・・。」
そろそろ宿に残してきた朋美が心配になった真人は席を外すことにした。
「トモーミも連れておいでよ。待ってるからさ。」
「そうですよ。是非お近づきになりたいです。」
明かに狙ってる人に朋美を近づけさせたくない真人は丁重にお断りして宿に戻った。
「トモさん具合はどうですか?」
真人は扉越しに声をかけた。それで目が覚めた朋美は少し間をおいて扉を開けた。
「随分と良くなったわ。ごめんね、心配かけて。」
「いえ、自分こそ無理をさせてすみません。それより食事はどうですか。自分はさっきマイさんたちと会って少し済ませてきましたけど、まだ入りますよ。」
「そんなにたくさん食べたくないから収納に入っているもので済ませるわ。それより明日はどうしましょうか。」
ヒントというのがさっぱり分からないから何をしていいのかも分からない。
「自分はギルドに行ってみようかと思います。何かいい依頼があれば受けたいし。」
「私はギルドには行きたくないわ。下手に依頼を受けてランクアップしたくないもの。」
「そうですね、それがいいです。お互い別々に情報収集しましょうか。」
「そうね。やっぱり聞いて回るしかないわよね。」
ヒントのヒントが欲しいくらいだと思いながら、結局いつものように渡り人の情報を聞いて回ることにした。
翌日真人はギルドへ、朋美は街へ聞き込みに出かけた。
「あなたがマサトさんですね。よく来てくださいました。実はあなたに指名依頼があるのです。」
なぜかエランのギルドマスターが出迎えてくれた。そのままギルドマスターの部屋へ連れていかれた。
「このヴォデルマ領にはいくつか島がありましてね、最近魔物の活動が活発だという報告が入っているのでそれが事実かどうか調査をしてきて欲しいのです。」
こんなところへ来て調査依頼とはどういうことなのだろうか。
「魔導士と剣士の方はすでに声掛けが済んでいるのですが、武闘タイプの方は少ないので中々見つからなくて。それでこちらから指名させていただくことにしたのです。どうかよろしくお願いします。」
他のギルドマスターと違い、やけに腰の低い人だ。
「そうですか。そんなに長期にはなりませんよね。」
「島に渡るので短期間という訳にもいきませんが、船がバシュールというところから出るので、そちらへ移動して頂かないといけません。馬車はこちらで準備しますので出来ればすぐにでも行って頂きたいのですが。」
「すぐにですか。それはまた急ですね。」
「ええ、すでに2人はあちらで待機していますから。」
「そうですか。自分は1人で来ているわけではないのでその人と話をしなければいけません。もしかしたらその人も一緒にその馬車に乗せていただくことになるかもしれませんが、それは大丈夫でしょうか?」
「ええ、馬車は4人乗りですので1人増えても大丈夫ですよ。すぐに手配しますね。」
今すぐにでも馬車に放り込まれてバジュールに行かされそうになったので、慌てて朋美を探しに行った。
「指名依頼?しかも今すぐって凄いわね。真人はすっかり有名人ね。」
「有名人なら自分よりゴールドサーペントを倒したトモさんの方ですよ。すでに噂になっていましたからね。」
「いや、それは言わないでー。」
エランでの情報収集は結局後回しにして、2人は馬車に乗ってバジュールに行くことになった。これがある人の企みだという事も知らずに。
「予定通りバジュールに向かったか。この手紙も一緒に届けてくれ。」
マントの男は手紙を受け取り、強化した足ですぐにエランの町を後にした。
「私も役目はこれで終わりかな。後はあっちでうまくやってくれるだろう。これだけであの依頼料とは、随分と重要な人物らしいな。」
引き出しから2人のデータが書いてある紙を取り出す。
「1年もしないうちにブロンズとシルバーになった渡り人か。確かに目をつけられても当然だな。」




