ヒントは南
部屋の予約を済ませて街へ出る。朝食が軽めだったのでもう少し食べたくてレストランへ入った。注文を済ませて料理が出来上がるのを待っていた。それまで店に来ている人たちを見ていて気が付いた。こっちには緑色の目の人がとても多い。
「緑の目・・・あっちで見たことある気がするわ。」
しかしいつだったか思い出せない。必死に思い出そうとしている時に料理が届いた。ひとまずそれは忘れて食事に専念することにした。
食事が済んで次は雑貨屋に入ってみた。他の町にはないようなものが沢山ある。
「これ、家に飾りたいわ。きゃー、これ可愛い。」
あっちの店にいるような気になる。あれもこれもと目移りするが、途中で手が止まった。
「飾っても私がいなくなれば処分されるだろうし、真人が人生のパートナーとあの家に住むのならやっぱり飾れないわ。」
店を出る前に店員に渡り人の事を知らないか聞いてみたが、残念ながら知らなかった。誰か情報を持っていないか聞くと占いの館を教えてくれた。
「占い・・・こっちにもあるのね。」
何かヒントでもあればと占いの店に入ってみた。
「おや、あんたはこっちの人じゃないね。」
「わかるのですか?」
「魂の色が違うね。今日はどうしてここへ来たのかな。」
「あっちに帰る方法を探しています。何かそのヒントになるようなものが欲しくて。」
「そうかい。ではこの水の中に手を入れて、自分の知りたいことを思い浮かべて。」
透明な洗面器のようなものの中に水が入っている。その中に手を入れて帰る方法が知りたいと念じてみた。
ポーッと水が光り出した。
「東に光が、南にも光が見える。西に嵐の兆しが・・・。」
占い師は考え込んだ。
「あの・・・どういう事でしょうか。」
「答えはこの地より東にある。そのヒントは南にある。しかしあなたは嵐に飲まれる・・・と出ています。」
何のことだかさっぱり分からない。
「東に行けという事ですか?」
「しかしそのヒントは南にあります。」
「ここから南にヒントがある・・・。」
これ以上は分からないので占いの代金を払って店を出た。
「せっかく来たけど、一旦戻ろうかな。真人に相談してみよう。お土産くらいは買って帰ろう。」
結局さっき出てきた雑貨屋へお土産を買いに戻った。
リスデンで1週間過ごした真人はシェスナの自宅へ戻ってきた。鍵を開けて家へ入るとテーブルに手紙が置いてあった。
「トモさん1人で出かけて大丈夫かな。まさか王都に連れていかれたとか!?」
急に心配になってアーヤの家へ飛んで行った。
「あら真人、お帰りなさい。朋美は手紙を置いてきたって言ってたけど読まなかったの?」
本当に1人で出かけていたのだ。ホッとしたら全身の力が抜けた。
「いや、リスデンでちょっと嫌なことを聞いたので心配になって。」
「どうしたの?話を聞くわ。中に入って。」
アーヤはコーヒーを入れてくれた。
「そんなことがあったの。私は貴族の事はよくわからないけど随分と都合のいい話ね。」
「そう思いますよね。でも自分も話を聞けるような貴族の知り合いはいないのでどこまで信じていいのかわからなくて。」
「それで朋美が王室警備隊に連れていかれたんじゃないかって心配になってうちに来たのね。本当に朋美の事が好きなのね。そんなに大事に思って。」
耳まで真っ赤になった真人を見てアーヤはクスクス笑う。
「わかったわ。私も注意しておくわ。変な人を見かけたら朋美は保護しておくから。」
お願いしますと言って真人はアーヤの家を出て自宅へ戻った。
「行先は言わなかったらしいけど、トモさんはどこに行ったんだろう。」
朋美が戻ってくるまでどこにも出かけられない真人だった。
真人が帰ってきてから2日後の夕方に朋美は帰ってきた。
「あ、真人帰ってたのね。お帰りなさい。」
「トモさんこそお帰りなさい。」
真人は朋美がいつ帰ってきてもいいように毎日2人分の食事を準備していた。そしてやっと今日はそれを食べることが出来た。
「『答えはこの地より東にある。そのヒントは南にある。しかしあなたは嵐に飲まれる』ですか。この地ってミンの事なんですよね。」
テーブルに地図を出す。
「ミンがここだから、ここより南にあるのってエランとバジュールだけですね。このどっちかにヒントがあるという事ですか。」
「多分。でも西に嵐の兆しがって言われたの。嵐に飲まれるって西で嵐に飲まれるってことかしら。それとも西で発生した嵐に飲まれるってことかしら。そもそも嵐って何のことかしら。」
「さっぱりわかりませんね。でもヒントがあるエランかバジュールには行ってみた方がいいですね。いつなら出発できますか?」
「あ、真人の都合がいい日でいいわ。色々と忙しいんでしょ。」
朋美が言っている『色々と忙しい』の意味が分からないが実際忙しいので『そうですね』と答えておいた。
「あのね、それと冒険者ランクの事なんだけど。」
「ランクがどうかしましたか?」
洞窟での討伐依頼の話もした。それを聞いて真人は真っ蒼になった。
「それはいつですか?」
朋美の肩を掴んで聞く。
「痛いよ、真人。」
「ああすみません。」
慌てて手を放す。
「ええと、真人が出発した2日後に家を出て・・・5日位前かな?」
自分がリスデンのギルドを訪れた後だ。本格的にまずいぞ。早く何とかしなければ。
平静を装い今後の予定を話し合った。
「そうですか、とうとうブロンズになったんですね。お祝いは出来ませんが、明日はトモさんの好きなものを買いましょう服でも食べ物でも何でもいいですよ。そして明後日は早めに出かけましょうか。」
「ありがとう。でも特に好きなものってないのよね。でも食材は沢山買っていっぱい作って収納に入れておかないと。飢え死にしたくないから。」
ペロっと舌を出して言う。洞窟でのことがかなりこたえているのだ。2人は疲れを取る為に、バスタブにたっぷりのお湯を張ってゆっくり入って寝ることにした。じゃんけんで負けた真人が後から入って風呂掃除をすることになった。
朋美は久しぶりの自分のベッドで、真人は朋美が帰ってきたことで熟睡できた。翌朝は2人ともすっきりした顔で起きた。
「おはようございます。」
「おはよう。いい天気ね。紫外線も強そうだわ。」
「そういえばひまわりが芽を出していましたよ。」
「そうなの?ちょっと見てくるわ。」
種の形はひまわりだったが、本当にあっちと同じ花が咲くかは分からない。葉っぱの形が同じことを期待して見に行く。
「あ、あっちと同じひまわりの葉っぱだわ。絶対同じ花が咲くわね。」
花が咲くのを見る楽しみが出来たと朋美は喜んでいる。
「早く朝食を食べましょう。冷めてしまいますよ。」
真人が呼んでいるので朋美は家の中へ入っていった。その様子を見ている人がいたが、朋美はそれには気づかなかった。
街では食材をたくさん買った。出来るだけ多くの料理を持って行きたいからだ。
「他には何を買って何を作る?」
「スープもいいですね。卵焼きも作りませんか。」
「そういえば卵焼きってあんまり作ってないわね。」
「トモさんの家特製のキャベツ入りでお願いします。」
小さな花かごで食べたものだ。
「そういえばあれって母が子供のころあまり野菜を食べなかったから少しでも野菜を食べさせるために祖母が考えたって聞いたけど、同じことを考える人がいるのね。」
朋美は何げなくそんなことを口にする。
「トモさんのお婆さんかトモさんのお母さんの為に考えた卵焼きなんですか。」
「野菜嫌いだったんだって。それで少しでも食べさせようとハンバーグにみじん切りにした人参を入れたりしてたって聞いたことあるわ。」
ハンバーグの話はよく聞くが、卵焼きは聞いたことがない。
「まさか・・・。」
小さなつぶやきは朋美には聞こえなかった。
ロマまでは歩きで移動するのにすっかり慣れた2人はそこから馬車に乗りマストで1泊する。それから1日1便のミン行きの馬車に乗った。
「本当だ。今の日本にいるのと変わらない街並みですね。」
高層ビルはないものの、どこにでもある住宅街のような街並みだ。
「エラン行は朝9時と11時の便があるわ。」
「9時ならすぐですね。乗りましょう。」
「疲れてない?ここで1泊してもいいわよ。」
「時間がもったいないです。ここからエランまでは8時間くらいって書いてありますよ。だったらここで何もせずに1泊するより移動してエランで1泊する方がいいでしょう。」
続けて馬車に揺られるのは辛いが、風魔法の練習をこっそりしていた朋美はかなり疲れていたが、目的地まで後8時間なのだからともう少し我慢することにした。




