ランクアップはお断り!
「出た、やっと出た。空があるわ。」
どの位時間が経ったのかわからないが、外は明るかった。早速収納に入れておいた魔魚を焼いてかぶりつく。
「ああ美味しい!何時間ぶりの食事かしら。」
骨まで食べつくす勢いだった。食べ終わって気が付いた。
「あれ?洞窟の入り口が閉じているわ。」
洞窟は頑丈な扉で閉ざされていた。
「これじゃあ中にいる人たちは出られないじゃない。」
自分が出てきた時は扉はなかった。でも今は扉が閉じている。不思議に思っていると後ろから声がする。
「その扉は中からは見えないのですよ。」
振り返るとギルドの職員が立っていた。
「この洞窟の入り口は普段は入れないように魔法で閉じてあるのです。しかし中からは自由に出ることが出来るのですよ。」
「そうなんですか。それじゃあ中にいる人たちはちゃんと出てくることが出来るのですね。」
「はい。しかし一度出るとギルドで中に入る手続きをしないと再び中に入ることは出来ません。」
それがあの番号札らしい。
職員は冒険者が洞窟に入る準備をする。
「もう少ししたら馬車が着きます。マストに帰るのでしたら乗せてもらえますよ。乗り心地は何ですが。」
ここに来る時よりもスピードを出して帰るらしいが、歩いて帰るよりましだと思いその馬車がくるのを待った。
馬車に乗ったら眠ってしまうと思っていたが、あまりの揺れの激しさに全く寝ることが出来なかった。町まで乗せてもらったのはありがたかったが、体のあちこちが痛かった。
ギルドへ行き、受付で番号札と地図を出した。
「はい、こちらが討伐の依頼料です。」
大銀貨1枚を渡された。確かに大した金額ではない。あの5人組のパーティならば1人2,000円ほどにしかならない。
「それで成果はどうでしたか?」
「あ、結構大きなものがあるのでここではちょっと・・・。」
「そうですか。それではこちらへどうぞ。」
職員は個室へ案内してくれた。職員の後ろを歩きながら隠し通路の事を聞いてみた。
「そんな話は聞いたことがありません。もしそんなものがあるとしたら確認する必要があるのでお時間をいただけますでしょうか。」
「はい、いいですよ。」
朋美は個室で待たされた。暫くしてギルドマスターのグズロフがやってきた。
「君はマサトのパートナーだったね。今回はソロで討伐依頼に参加したのかい。」
「はい。真人は用事があって出かけているので、私も1人で出かけてこの依頼に参加させていただきました。」
「冒険者がソロで仕事を受けることもよくあることだ。ところで隠し通路があったと報告を聞いたのだが」
職員は回収した地図を持ってきてテーブルに広げた。
「この辺りだったので一応記入しておきました。でもどこに繋がっているのか分からずに結構彷徨いました。」
隠し通路の入り口は洞窟の入り口にかなり近かった。
「こんなところに・・・。どんな感じだったのかな?」
朋美はその時の様子を話した。
「それで最初に会った魔物がこれです。」
収納からゴリラを3体出した。
「なっ、これはダークエイプ!しかも3体!?」
「解体はいつも真人がやってくれるのでそのまま持って帰ってきました。」
「そのままって・・・おい、これを解体所に運んでくれ。」
職員はすぐに手配してダークエイプを解体所に持って行った。
「ゴホン、それでその後はどうなったのかな。」
水晶、ゴールドロリポリ・・・次々に出てくるレアな素材にグズロフは顎が外れるほど驚いた。
「それでやっとたどり着いたのが地下5階のこの辺りでした。そこで苦戦して狩ったのがこれなんですけど。」
ドンとあのヘビを出した。
「はあー!?ゴールドサーペントだと!しかもこのサイズ、確かに地下5階にはいるとは聞いてはいたがいったい何年物なんだ。まったくマサトといいトモーミといい、2人はこのギルドを破産させる気か・・・。」
グズロフは頭を抱えている。
「おい、誰か本部に繋がる端末持ってこい!」
本部にと言われてドキッとしたが、他のギルドの依頼内容を見る為らしい。
「それで獲物はこれだけかな?」
言われて残りを全部出した。それを全部チェックして、端末を操作する。
「直接依頼を出しているギルドに持って行けば100%の金額になるが、ここで売れば手数料を3%もらうことになるがいいか?」
サンシュテール王国の各ギルドに届けにいく方が手間だ。一括で買い取ってもらうことにした。解体所の方にも連絡を取り、その分を報酬から差し引いで受け取ることにした。
「それでトモーミのランクの事だが、これだけのものをソロでとなるとシルバーまでは上げることが出来る。タグを出してくれるか。」
「嫌です、そんなに上げてくれなくていいです。」
「何?シルバーになるなんてみんな喜んでタグを出すぞ。何故嫌なんだ。」
「私は生活できるくらいでいいんです。ランクなんて上がらなくていいです。」
貴族や王族に目をつけられたくないから上がりたくないとはさすがに言えない。まして帰る予定だからとはなお言えない。
「しかしこれだけの魔物の討伐をしてランクを上げなかったなんてことになったら、このギルドが後ろ指をさされてしまうじゃないか。」
「・・・それじゃあせめてブロンズにして下さい。真人より上のランクになりたくありませんから。」
「まったくなんてことだ。わかった、ブロンズにしておく。さあタグを出してくれ。」
朋美は渋々タグを出した。グズロフはその場で手続きをする。朋美のタグは黒からブロンズに変わり、ギルドの冒険者データは書き換えられた。
『タグ色ブロンズ、依頼はシルバーまで可』
査定の時にこれは売らない方がいいと言われ、ゴールドロリポリとゴールドサーペントの魔石を渡された。ゴールドサーペントの魔石は青だ、しかも大きい。
「今日はこれからどうなさいますか?」
職員に聞かれたが、流石に疲れ切っているので依頼は受けずに宿屋に向かった。チェックインの時間には早かったが、事情を話したら使用していない部屋があるという事で通してもらえた。シャワーで軽く汚れを落としてそのままベッドで爆睡した。
目が覚めた時、外はうっすらと明るかった。
「あれ?夕方・・・じゃないよね・・・」
慌てて飛び起き窓を開ける。どう見ても朝だ。
「私何日寝ていたのかしら。」
シャワーを浴びて部屋を出た。受付に行き、自分がどのくらい寝ていたのか聞いてみた。
「一晩ですよ。よくお休みになっていらっしゃいましたよね。あれだけ隣の方が大きないびきをかいていたのに、全く起きてこられないなんて。」
反対側の人は部屋を変えてくれと言った位大きないびきだったらしい。まだ早かったが、朝食をとってそのまま宿を出た。
馬車乗り場へ行って、定期馬車の時間を見た。
「ミンって確か南の方だったわよね。定期馬車あるんだ。どの位かかるのかしら。」
到着予定時間を見る。
「11時に出発して2日後の8時。随分遠いのね。」
当分依頼を受けなくてもいいほどの報酬を手に入れたので行ってみることにした。出発までたっぷり時間があるので色々と買い足して馬車へ乗り込んだ。
湖を右に見ながら馬車は進んで行く。ミン行の馬車は1日1便なのでほぼ満員状態だ。床に直接座っている人もいる。道もいい状態出はなくよく揺れる。最初の休憩を取る頃まで湖が見えていた。
「本当に大きな湖よね。対岸が見えないわ。橋を架けるなんて絶対無理ね。」
しっかりストレッチをしてお尻もマッサージする。休憩が終わり馬車に乗り込もうとしたら、座っていた席にほかの人が座っている。
「長距離移動なので席を1つずつずれて下さい。」
同じ料金で乗っているので不公平をなくすために、休憩のたびに席を1つずつ移動していくようだ。朋美は床に座ることになった。クッションをひいたが、車輪の振動がもろに伝わってくる。
これは痛いわ。練習もかねて風魔法で少しお尻を浮かせてみよう。
みんなに見えないようにお尻の下に空気の層を作る。細かい魔力調整の為、とてもいい練習になった。
馬車は緩やかな上り坂に差し掛かった。これから山を登るようだ。ミンまでの移動に時間がかかるのはその為だった。曲がりくねった道を馬車は登っていく。カーブがとても多い。いろは坂のようだ。やっと頂上に着いた時には辺りはすっかり暗くなっていた。馬車が満員だったので、登るのに時間がかかったようだ。それから少し進んで宿泊場所が見えてきた。
「皆様お疲れ様でした。明日は6時に出発します。よろしくお願いします。」
この世界に時計はあっても目覚まし時計はないようだ。時計自体が高価なのか、持っている人は少ない。スマホのアラームを小さな音でセットした。魔法の訓練をしたからか、とても疲れたので早く眠った。出発の時間に自力で起きれる自信がない。すぐに深い眠りに入っていった。




