朋美の冒険2
今回の出発メンバーでソロは朋美だけのようだ。3人パーティが1組、2人パーティが2組、ソロの朋美の計8人だ。
「それでは出発します。馬車に乗って下さい。」
確実に洞窟の魔物を討伐する為、職員が馬車で洞窟まで送ってくれる。定期馬車と違い、少しスピードが出ている。1時間ちょっと揺られて目的の洞窟に着いた。洞窟の入り口には受付をする職員がいた。
「それでは皆さん、よろしくお願いします。」
受付を済ませたパーティは我先にと洞窟へ入って行った。最後に朋美が受付をする。地図と番号札を受け取った。
「この地図と番号札は依頼終了後にギルドへ返却してください。」
特殊な洞窟なのか、普段は入れないらしい。朋美は1人で洞窟へ入って行った。
中は意外と広い。通路は横が4m位、高さは5m以上ある。しばらく歩いたが、魔物には会わない。
「先に行った人たちが狩りまくっているのね。魔物は狩った人の物だから我先にと行くはずよね。」
後から入れば魔物に会う確率は一気に下がる。そうなると長く洞窟に潜っていなければ魔物を狩ることは出来ない。
「なかなかリスキーだわ。1匹くらいは狩らないと報酬ももらえないわ。」
首から下げたスマホの明かりを頼りに先へと進む。地図を頼りに1時間近く歩いたが、魔物には全く会わない。
「はぁ、これじゃあこの中で一晩明かす羽目になるわ。」
少し休憩と思い、通路にある岩に腰を下ろしてカップを出す。団体行動だった時の為に水を入れておいたやつだ。その水を一気に飲み干し、氷水を補充して収納へ入れておく。ライトは反対側の壁を照らしているが、よく見ると壁の色が違う所があるのに気が付いた。
「これ、もしかして隠し通路かしら。」
境目を手で触る。
「隠し通路だと、壁側にボタンとかあるのよね。この辺かしら。」
境目から手をずらし、少しずつ押してみる。ガコンと音がした。何かが外れたようだ。壁の境目から空気の流れを感じる。朋美は色の違う部分をゆっくり押してみる。
ズズズズズ・・・・。動いた。真っ暗な道が奥まで続いている。先ほどより空気の流れが激しくなる。それと一緒に何やら怪しい気配が流れ込んでくる。
「ええと、魔力を外に向かって放出して・・・。」
どのくらい先まで放出したのか分からないが、何か生き物の体温を感じる。慌てて魔力放出を止め、ライトを照らして見る。先の方にうっすらと何かの影が見えた。
「2・・・3匹かな?
2足歩行と4足歩行のシルエットは段々こっちに近づいてきた。
「ブラウンアッフェより大きいわね。イエティに似てるかな。」
イエティよりは小さいが、それなりに大きなゴリラだ。暗い洞窟に住んでいるからか、その長い毛は真っ黒だった。
「イエティみたいに魔法が効かないのかしら。とりあえず距離があるうちに1発っと。」
長距離から激しい稲妻をおみまいした。稲妻がゴリラを捉えたが、さほど効いている風ではなかった。
「んー、やっぱりイエティと同じかな?3匹も一度に相手は出来ないわね。ここは1匹ずつ閉じ込めてと。」
分厚い氷の壁を出し、3匹別々に閉じ込める。1匹は朋美の方だけ開けているので迷わず突進してくる。
「それ、アイスウォール!」
突進してくるゴリラと自分の間に大きな氷の壁を作る。ゴリラは勢いよくそれにぶつかり倒れた。イエティの時のようにそのまま上から氷の塊を落とそうと思っていたが、ゴリラはすぐに立ち上がった。
「うそ!」
慌てて氷の壁を作り、ゴリラを閉じ込めた。
ゴン、ゴン、ゴン、先に閉じ込められていた2匹が氷の壁を殴り始めた。
「凄い力。これはまずいわ。」
氷には少しずつひびが入ってきた。それを見たもう一匹も同じことを始めた。
ここに真人はいない。自分で何とかするしかないのだ。
「私が力で勝てるわけがない。接近戦なんて絶対だめだ。」
少し後ろに下がり距離をとる。
「まだ魔力はたっぷりある。よし、こうしよう。」
地面に水を撒く。その間もゴリラは氷を殴り続ける。バリンと音を立てて2匹の氷が割れた。にやりと笑い、朋美に向かって突進してきた。
「今だ!」
撒いた水を一気に冷やし、ゴリラの足を凍らせた。足止めされたゴリラは力任せに其れを破り、前のめりに倒れた。遅れてもう一匹もやってきたが、先に転んだゴリラが邪魔でこっちに来ることが出来なかった。3匹がかたまっているところへ四方から先ほどよりさらに厚い壁を作り、いっぺんに閉じ込めた。当然ゴリラは先ほどのように氷を殴って割ろうとする。そこへ上から一気に水を流し込み、その上を氷で蓋をした。
ゴリラたちは呼吸が出来ないので中でもがき始めた。氷を殴ろうにも水の中なので力も出ない。朋美は万が一に備え、氷の壁をさらに厚くした。
やがてゴリラは動かなくなり、段々下へ沈んできた。3匹とも沈んだところで朋美は魔法を解いた。
「距離があるけどいけるかな。」
シュンと音を立てて3匹は収納へ入った。
「ふう、何とか倒せたわ。あんなのが沢山いるのかしら。」
歩き出したら少しふらついた。
「ちょっといっぺんに魔法を使いすぎたかな。」
少しだけ休んで先に進むことにした。
「さっきの隠し通路はこの辺よね。そして今はこの辺りかな。」
地図に隠し通路は書いてないので書き足していく。方位磁石もないし、途中で登ったり下ったり緩やかなカーブがあったりしているので、書いた方向が正しいかは分からない。地図に書いてある通路に出られるかもという思いで分かれ道はひたすら右へと進んで行く。途中で蜘蛛の魔物に会ったが、あまりの大きさに気持ち悪かったので一瞬で丸焦げにした。
「随分と進んだけど、ちっとも地図の道に出ないな。一体どこに繋がっているのかしら。」
そろそろおなかも空いてきた。しかしもしすぐに出られなかったらと思うともう少し後に食べようと我慢した。
どんどん先へ進んで行き、人が1人通れるくらいの狭い通路に出た。よく見ると先の方が明るい。
「こんなところで魔物に襲われたら大変だから、先に魔法を放っておくんだったわよね。」
マイやメルフィラと洞窟に行った時のことを思い出し、出口らしき方へ向かって雷撃を放つ。小物らしいものは即死し、ちょっと大きいものは通路から出てきた。それを片っ端から短剣で切り倒し、いなくなったところで通路を進む。段々光が近づいてきた。
「うわぁ、綺麗。」
たどり着いた場所は水晶でできた大きな空洞だった。どこからか入ってきた光が反射し、中はキラキラと輝いていた。朋美はスマホのライトを消し、しばらく見入っていた。
「ゴールってことはないけど、これはいいわ。明るいからここで食事をしようかしら。」
薄暗い通路で1人で食べるのは正直嫌だった。収納から取り出して食べ始めた。
「どう見ても水晶よね。何かの巣ってことはないわよね。」
食事を終えて中を歩いてみる。
「これ、持って帰って見ようかな。」
短剣を取り出して小さな柱を1本切り落とした。キインと音を立てて綺麗に切れた。
「うん、刃こぼれもしていないわね。真人の言った通り一番いい素材で作っておいてよかったわ。」
水晶と短剣を収納に入れ、次の通路を探した。
「あ、あそこは穴が大きいみたい通れるかな。」
水晶の壁をよじ登り、見つけた穴のところへ行く。四つん這いになって進まないといけないようだが、他の穴はもっと小さいので諦めて進むことにする。入ってきた時と同じように電撃を放ったが、ここには何の反応もなかった。先の方は暗いのでライトをつけて進む。30分程進んだら立てる状態になった。
「あー、腰にきたわ。膝も痛い。」
少し伸びをする。地図を見るが、もう自分がどこにいるのか分からない。
「隠し扉からこっちの通路に入ったんだから、逆にこっちから出られる隠し扉を見つけないとダメよね。」
ライトで壁を照らす。しかしそれらしいものはない。
「この通路はうっすら明るいわよね。どこかから光が入ってきているのかしら。」
遺跡のような壁や床はほのかに光を帯びている。その表面にはコケが生えていて、人が通った形跡もない。しかもちょっと触れば今にも崩れそうなほど古ぼけている。用心深く壁を見ながら先へ先へと進んで行く。時々ゲジゲジの姿が見えたが、高い位置にいて襲ってくる様子もないのでそのままにしておいた。
段々石の壁や床が無くなり、地面がむき出しになってきた。いつの間にか暗くなってきている。その時やっとあの灯りがヒカリゴケだったことに気が付いた。そのまま進んで行くと右足で何かを踏んだ。カコンと音がした。
「どこかで扉が開いたのかしら。」
左足を前に出したら、ススーっと滑り落ちて行った。
「いやー、落とし穴!?」
段々加速していく。
「やばいやばい!」
風魔法を使って必死に落下速度を落としていく。随分と落ちてきたようだ。明るい光が見えてきた。段々出口が近づいているようだ。するりと穴から放り出されるように足元の床が亡くなった。それと同時に真下へ落下する。慌てて風魔法を使って体を上空へ押し上げ、ゆっくり下に向かって降りて行った。見事に両足が地面を捉え朋美は安堵する。その後上を見上げて自分が落ちてきた穴を確認する。
「あんな高さから落ちたらひとたまりもないわ。」
金色の地面は随分と柔らかかった。
「さてと、次に進める場所はどこかな。」
一歩踏み出す。カサカサカサ・・・。
「あれ?」
周りから音がする。その時地面が大きく動いた。
「何!?」
盛り上がった地面はそのまま丸くなり、ゴロゴロと動き出した。慌てて朋美は飛び降りた。
ぐにゃり。柔らかいモノの上に乗ったようだ。慌てて降りようとするが、それもまた体を丸めるために盛り上がった。急いで飛び降り、朋美はその正体に気が付いた。
「ゴールドロリポリだわ。」
金色の地面はゴールドロリポリの背中だったのだ。無数のゴールドロリポリが連鎖反応を起こして体を丸くしていく。そしてゴロゴロと転がりはじめ、朋美に向かってきた。
「こんな数無理!」
急いで走り出した。
「通路はどこよー。」
必死になってロリポリの住処の中を走り続ける。時々ゴールドロリポリ同士がぶつかり合って凄い音をたてている。走り回っている間に通路らしき場所を見つけた。しかしその前はゴールドロリポリが陣取っていた。
「確かお腹の方は魔法が効いたわよね。」
短剣を取り出し雷を纏わせる。
「お前邪魔!」
丸まっていないゴールドロリポリの腹部へ短剣を差し込み、さらに電撃を短剣に流す。バリバリバチバチ・・・感電したゴールドロリポリはその場でひっくり返った。そのゴールドロリポリの腹部を短剣で切り裂く。ポロリと魔石が出てきた。それをゴールドロリポリの本体ごと収納へ入れる。ゴールドロリポリが消えたそこには通路が現れた。朋美は急いでそこへ飛び込んだ。
「ハー、ハー、ハァハァ・・・。ああ怖かった。あの数はないわー。」
しばらく進んだが、追ってくる様子はない。一旦止まってその場に座り込んだ。
「水・・・水飲まなきゃ。」
収納から水の入ったカップを取り出し一気に飲む。追加で水を入れ、さらにそれも飲み干した。
「ハア、ああ生き返る。」
落ち着いたところで立ち上がり、再び歩き始めた。曲がりくねった通路を進み、階段を下る。そのまま進み、坂を登る。それを何度も繰り返す。
「あれ?行き止まり?」
階段を上った先に道はなかった。灯りを照らして壁をくまなく調べる。
「あ、ここ色が違う。」
苔が他の所より少ない場所を見つけたので、そこを押してみる。カチッと音がした。少し身構える。しかし何も起こらなかった。
「どこか他の所の鍵でも開いたのかしら。」
念の為壁を押してみた。壁はその力でグルンと180度回転した。
「きゃっ。」
そのまま反対側へ押し出され、扉はガチャっと音を立てて閉じた。朋美は細い足場の上に立っていた。
「よかった。勢いよく出ていたら絶対落ちてたわ。」
回転した扉はこちら側から見たら、1枚の絵が彫ってあるものだった。同じような岩が細い足場の横に並んでいる。辺りを見渡すとここは神殿の中のようだ。そこに誰かがいる様子はない。覚悟を決めて朋美は飛び降りた。ゴールドロリポリの住処と同じように、風魔法を使って着地の衝撃を和らげる。地面に足が付いた。急に力が抜けてその場に転がり込んだ。
「あれって隠し扉だよね。私、どこに出たんだろう。」
地図を開いて確認する。A3位の広さの地図を入口から見ていく。
「まさか洞窟の外に出たわけじゃないよね。」
地下1階、2階・・・神殿のような空間を探す。
「あれーないな。4階、5階・・・あった、ここだ。」
地下5階の一番奥にその場所はあった。
「こんなところまで来ちゃったんだ。」
最下層の一番奥まで来たのなら、後は上がって行くだけだ。しかし地上に出るまでどのくらいかかるのか分からない。
「ここ、魔物は出てこないわよね。」
散々歩き回って疲れ果てた朋美はここにテントを張ることにした。




