リスデンの冒険ギルド
午後になったのでギルドへ来た。
「マサトさん、どうぞこちらへ。ギルドマスターがお待ちです。」
長い廊下と階段を上り、ギルドマスターの部屋へ案内された。
「マサトさんがお見えです。」
「ああ、入ってくれ。」
リズが扉を開ける。
「よく来てくれたね、マサト。」
「ご無沙汰しております。」
「堅苦しい挨拶は抜きだ。さあ座ってくれ。」
リズは紅茶を入れて部屋を出て行った。」
「正直もうここには来ないと思っていたよ。ところで今日はどうしたんだい。」
「王室警備隊に入らなくて済む方法を教えて欲しいのです。」
「ふ、意外な質問だな。何故そんなことを聞く?」
「何故といわれても・・・自分はこの世界に知り合いはいません。だから出来るだけ情報を持っている人に話を聞きたいのです。」
「だったらマリウス達に聞いたら早いだろう。」
「マリウスさんたちは自分を警備隊に入れさせたがっていますから。」
やはりなという顔をする。
「マリウスが来た時は純粋に君たちの能力が知りたかったのだよ。決して他意はない。しかし能力の開花が早い上に高い。これはまずいと思ったよ。」
「何がまずいのですか。」
間を置かずすぐに尋ねる。
「まあ・・・上位ランクの冒険者をそのギルドに留めておくことはギルドマスターとしての手腕でね。上位ランクがいないとなると色々と・・・な。」
その後は大体想像がつく。
「でもあの時『貴族の護衛に推薦』とおっしゃっていましたよね。貴族の護衛となると貴族のお抱えですよね。それが冒険ギルドとどう関係があるのですか?」
「冒険者というのはほとんどが平民だ。それに対して貴族の護衛などの職業はほとんどが貴族出身でないとなれないのだ。そんな職業に平民からなるという事はかなり栄誉なことだ。そしてそれが冒険者からという事になれば、その冒険ギルドの格が上がるという事だ。」
要するに、リスデンの冒険ギルドの格上げの為に推薦したいと言っていたのだ。真人としては的外れな答えだった。
「それでは貴族の護衛になるのに自分にはメリットはありませんね。」
「そんなことはないぞ。」
ギルドマスターはにやりと笑う。
「他の領ならばメリットはないが、リスデンならではのメリットがあるぞ。」
リスデンならではとは、他の領とリスデンに何の違いがあるのだろうか。
「その為には君はリスデンに帰ってくる必要がある。」
「ここにですか?」
「そうだ。リスデンの地理的な位置は理解しているかな。」
「はい。サンシュテール王国の一番東です。」
「そうだ。一番東という事は、サンシュテール王国から見ればここは辺境なのだよ。」
辺境なのが何の関係があるのだろうか。日本では辺境=田舎だ。何のメリットも思いつかない。
「リスデンからさらに東に行けばそこは他国だ。ここリスデンはサンシュテール王国にとって東の砦という事になる。そして辺境伯には様々な権限が与えられている。」
「様々な権限ですか。」
「そうだ。その一つが戦争への不参加だ。」
「!」
「王室警備隊になりたくないという事は、戦争に参加したくないという事だろう?絶対ではないが、もし戦争が起こった時に他の領からは兵士として護衛騎士やその時在住している冒険者・平民が戦地に駆り出される。しかしリスデンは東側の国からの防衛を理由として、参加を免除されているのだ。」
王都や他のところで戦争をやっている時に援軍を出して砦を手薄にしない為という事か。
「当然東側から攻められたら必ず防衛の為に参加しなければならないがな。」
わが身を守る為ならばあえて戦う事もよしとしなければならない。
「どうだい、悪い話ではないだろう。」
「しかし王命での呼び出しには応じなければいけないのではないのでしょうか?」
「リスデンには防衛のための拒否権が与えられている。だから100%応じる必要はないのだ。もちろん国が無くなってしまえばそんなことは言ってはいられないから、領主も多少は譲渡するだろうが。」
「つまり、戦争に出すための人選は領主に一任されているという事ですか?」
「そうだ。だからここの領主に召し抱えられれば、王室警備隊のように戦争に参加する可能性はかなり低くなるという事だ。」
王室警備隊は必ず全線で戦わなければならない。そんな危険なことを朋美にはさせられないと何とか警備隊に入らずに済む方法を探していたが、リスデンにはそんな抜け穴があったとは。しかし話がうますぎる。
「どうだ?いい話だろう。」
「それは自分たちにとってですか?ギルドにとってですか?」
少し意地悪く聞いてみた。
「両方にとってだよ。当然デメリットもある。貴族のお抱えとなれば冒険者は辞めなければならない。他の領へ出かけるのも領主の許可を取らなければならないと色々行動も制限されるがな。」
ギルドマスターはソファーから立ち上がり、自分のデスクへ行く。
「『眷属の首輪』を使われる前に決断した方がいいと思うぞ。」
「眷属の首輪をですか。」
「もう知っているのか。まあだからこそここへ来たのだろうが。」
引き出しから朋美のデータが書いてある紙を取り出す。
「トモーミはどれだけ魔法を覚えた?データを見る限りでは何も覚えていないようだが、あの時みたいに隠しているのだろう。ばれるのは時間の問題だぞ。決断は早くしろ。私もそんなに力になってはやれないぞ。お前たちの為にも、私の為にもな。」
自分の為にも・・・以外にも正直だった。
「お時間を頂き有難うございます。」
お礼を言ってギルドマスターの部屋から出て行った。
「もうそんなに時間はないのかもしれない。」
すでにマサトはロドリゴ隊長に目をつけられている。次に王都に行った時は危ないかもしれない。そんな危機感を覚えながらギルドを後にした。
木の葉屋で遅めのランチをと足を運んだ。
「あれま!マサトじゃないか。随分と久しぶりだね。」
「はい、お久しぶりです。」
「あら、トモーミはいないのかい?」
「ええ、今回は自分だけです。今日のお勧めはなんですか?」
「マイスの実のチーズ焼きだよ。ちょっと時間がかかるけどいいかい?
「マイスの実ですか。是非お願いします。」
マイスの実を使った料理が随分と増えたようだ。
「エールもお願いします。」
何となく欲しくなった。居酒屋で『とりあえず生』という感じなのだろうか。
「はい、エールお待たせ。試作の肉包みも食べてみて。」
出てきたのは餃子だ。一つ食べてみる。皮はパリパリだが、味は全然違った。全く別の食べ物だ。
「どうだい?」
「あっちに似たような食べ物がありますが、味が全く違いますね。これはこれで美味しいですが。」
「何?あっちに同じようなものがあるのか!?」
厨房から声がする。
「材料を知っていたら教えてくれ!」
「わかりますけど、こっちの食材と同じ名前ではないですよね。」
「くー、そうだった。あっちではどんな味に仕上がるんだ?」
タコのから揚げを思い出した。どこまでも新しい食べ物の開発に熱心な人たちだ。
リズは呼ばれてギルドマスターの部屋に来ている。
「早いですね。もうブロンズだなんて。でもトモーミさんがまだ黒とはどういう事何でしょうか。」
「恐らく表立って依頼を受けていないのだろう。もしくはランクアップにつながるような依頼を避けているとか。」
「そうでしょうか。上のランクに上がれることは冒険者としては嬉しい事のはずですよね。」
「普通の冒険者ならばな。だがあの2人は渡り人だぞ。その定義は当てはまらないぞ。」
「そうでしたね。」
「よし、リズはトモーミがどんな依頼を受けてきたかデータを取り出してきてくれ。」
「わかりました。でも今回トモーミはリスデンに来ていませんよね。」
「来ていないが、恐らくマサトを動かすカギはトモーミだ。男の勘がそう言っている。」
「えー、ギルドマスターの勘ですか?当てにならなーい。」
冗談っぽく言いながら、リズは部屋を出て行った。




