それぞれが進む道
あの日以来真人がよそよそしい。朋美も話しづらいこともあって、家にいてもお互い気を使っていた。依頼を受けても何となく連携が取れていない感じで、とりあえずこなせているといった感じだった。
「すみませんトモさん。自分は今日からしばらく留守にするので家はお願いします。」
突然の申し出だった。ついに新しいパートナーを見つけてその人と出かけるのだろか。
「わ、私は一緒に行かなくていいの?」
「はい、トモさんと一緒じゃなくて大丈夫です。収納バッグも買いましたし。」
知らなかった。真人は着々と準備を進めている。ふとアーヤの言葉が思い出される。
『いずれ真人から振られるわよ。朋美の時間は止まっているけど、真人の時間はこっちの世界で動いているのだから』
認めたくない現実だ。
「そう。私も出かけようかな。1人で出来る依頼を受けなくちゃ。」
動揺を隠せない。でも引き留めることも出来ない。一応一緒に家を出た。真人は馬車乗り場へ行き、朋美はギルドへ向かった。
「マサトさん!」
グリージアから出た乗合馬車にはオーディンが乗っていた。
「一度帰ってみることにしたんです。妹にもあったことがないし。話しをしたら親方がまとまった休みをくれました。」
家を出て一度も帰ったことがないと言っていた。きっとドルディンさんは驚くだろう。
「マサトさんはリスデンに仕事ですか?」
「いや、ちょっと用事があってね。」
「でも安心しました。リスデンまではここから3日かかりますからね。道中魔物が出るかもしれないし。マサトさんみたいに強い冒険者の方が一緒だと心強いです。」
その言葉を聞いて他の人たちも安堵の表情を浮かべる。馬車はリスデンとの領境の山を目指してシェスナを出発した。
3日後、無事馬車はリスデンへ着いた。
「是非うちに寄って下さいね。」
オーディンは大きく手を振り家へ帰って行った。真人はギルドへ向かう。
「マサトさん、お久しぶりです。」
受付のリズがすぐに気が付き声をかける。
「久しぶりです。ギルドマスターはいらっしゃいますか?」
「今日は午前中留守です。午後はいらっしゃいます。面会予約を入れておきましょうか?」
以前いた時とは随分と対応が違う。
「はい、よろしくお願いします。」
そう言って移動の手続きをする。
「もうブロンズになったんですね。早いですね。」
「ええ、ギルドマスターの推薦のおかげです。」
真人のランクが上がったのはギルドマスター推薦のイエティ討伐のおかげだ。
「依頼はどうされますか?」
「先ほど着いたばかりで色々と寄る所があるので、今日は止めておきます。」
「では午後お待ちしていますね。」
ギルドを出て宿へ向かう。
「今日から一週間泊まりたいのですが、部屋は空いていますか。」
大丈夫なようだ。部屋には15時から入れるという事で、早速ドルディンの防具屋へ向かう。通りを歩いていると懐かしい感じがする。
「ここで過ごした数か月が随分と昔のようだな。」
店に着き扉を開けようとすると、中からティアナが出てきた。
「あ、マサトさん!聞いて下さい。お兄ちゃんが帰ってきたんです。」
とても嬉しそうだ。初めて会う兄に興奮しているようだ。
「会えてうれしい?」
「はい、とっても!」
満面の笑みを浮かべる。
「お父さんはいる?」
「はい、今お兄ちゃんと話をしています。」
仲直り(?)は出来たようだ。
「マサトさん、早速来てくれたのですね。」
オーディンは入ってきたマサトにすぐ声をかける。
「なんだ、お前たち知り合いだったのか。」
「はい、王都のガーディアンで知り合いました。自分の防具を作ってもらいました。」
「いえ、まだ一人前じゃないので。でもお手伝いが出来てよかったです。」
「いい物作ったそうだな。ちょっと見せてもらえるか。」
収納バッグから手袋を取り出した。
「へぇ、もうそれが買えるようになったか。」
「はい。今までトモさんの収納頼りでしたけど、これがあればソロでも少しは活動できますから。」
受け取った手袋をじっくり眺める。
「中々よくできてるじゃないか。これは間違いなく武器だな。」
「でも武器屋は手袋を作りませんからね。」
「違いないや。」
豪快に笑う。とても嬉しそうだ。
「マサトはいつまでこっちにいるんだ?」
「一週間宿を取りました。」
「そうか。もしよかったらグリーンイグアーナを1匹頼めるかな。無理にとは言わないが。」
「自分も欲しいので行ってきますよ。靴をお願いしたいのですが、一週間では出来ませんよね。」
「一週間か。少し厳しいな。」
「送ってもらうことは可能ですか?」
「どこまでだ。」
「シェスナです。」
「シェスナか。急ぎでなければ届けてやるぞ。」
「そんな、申し訳ないです。」
「ちょうど一か月後に王都に行く用事があってな。そのついでに持って行ってやるよ。」
「ありがとうございます。ぜひお願いします。」
「それじゃあ型を取るから足だしな。あと希望を聞こうか。」
父が仕事をする様子をオーディンは必死に見ている。ティアナはそんな父と兄を嬉しそうに見ていた。
遡ること3日前。朋美は悶々としていた。ギルドに来てソロでできる依頼を探す。
「解体できないからしばらく薬草取りかな。」
日数的にも余裕のある依頼を2件受ける。
「こんなことになるなら、解体覚えておけばよかったかな。」
すぐに帰れるつもりでいたから、こっちで生活するためのスキルはあまり身につけていない。戦闘は出来るようになったが、魔法を隠しているからあまり派手なことも出来ない。
「とりあえず薬草取りに行こうっと。」
依頼書を見ながら薬草の群生地に行く。一応黒なので薬草採取も入手困難な依頼だ。
「はー、あの山まで登らないといけないんだ。遠いな。」
2つとも高山植物の為、山登りが必須だ。当然身体強化しないと楽に登ることは出来ない。
「この山の向こうってリスデン領だったよね。」
目的地は馬車が通る道からは外れている為、途中から悪路になる。重い足取りで目的地へ向かう。
「もし私が帰れなくて真人が別の人と結婚したら私とのパーティは解散ってこと?ううん、そうする必要はないわよね。でもそうなったら今までみたいにってわけにはいかないわよね。お互いやりにくいだろうし。」
もし帰れなかったらソロで活動を・・・いや、その前に王室警備隊に強制的に入れられるかもしれない。それならどこかでひっそりと1人で暮らした方がいいのではないか?自給自足の生活になるが、その方がいいのかも。
「サンシュテール王国を出てしまえばいいのでは?外国に行けば戦争とかに巻き込まれなくていいかもしれないわ。」
そうだ、それがいい。そう思ったら足取りが軽くなった。一気に山を登り、群生地を探す。途中でコカトリスに出会ったが、魔法と魔剣であっさり仕留めた。
「ソロで野宿って結構危険よね。ほかの人はどうしてるのかしら。そういえばアーヤが魔よけの薬っていうのがあるって言ってたわよね。それを使えば一晩位は平気よね。」
日が暮れてきたのでそんなことも考える。とりあえず今日は急いで山を下りることを選択した。
ギルドに寄る時間がなかったので、そのまま家に戻る。暗い家だ。帰ってすぐに灯りをつける。
「ただいま。」
静かだ。当然返事はない。1人で食事を作り、1人で食べる。バスタブに浸かるのも面倒になり、シャワーだけで済ませる。
「いつ帰ってくるんだろう。行先も教えてくれなかったな。」
ベッドに横になってそんなことを口走る。
「もし帰れなかったら、お父さん独りぼっちだな。でも今は私が独りぼっち。」
枕に顔をうずめ、その日はそのまま眠ってしまった。
翌朝目が覚めて枕が濡れているのに気が付いた。
「やだ、どんな夢見てたのかしら。」
鏡を見る。特に目が腫れている様子はない。1階に降りて朝食の準備をする。
「今日はギルドに行って依頼の達成を報告してそれからー」
何も考えたくない。
「はぁ、依頼受けずに休んじゃおうかな。真人はいつ帰ってくるんだろう。それまで依頼を受けないわけにはいかないわよね。私もどこかに出かけようかしら。」
出かけると言っても目的があるわけではない。結局ギルドに行って今日も依頼を受けることにした。




