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こっちで元気にやってます  作者: 楠 螢
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朋美の覚悟

朋美は準備されていた朝食を食べた。

「1人で食べるご飯って美味しくないわ。あっちにいた頃はそんなことなかったのに。」

こっちに来た日の朝も1人で朝食を食べた。寝坊したので味わって食べなかったが、美味しくないとは思わなかった。

とりあえず平らげ、食器を片付ける。

「アーヤのところに行かなくちゃ。」

気が重い。アーヤは本当は真人に気があるのではないかなんて考えていた。


「おはよう朋美。どうしたの?暗いわよ。」

「アーヤおはよう。」

本当は真人の事好きなの?という言葉が喉まで出かかっている。それを飲み込んで

「行きましょう。リルーディさんのところへ。」

そう言って東門へ向かう。

「もしかして、昨日の事気にしてるの?」

「あ、その・・・うん・・・。」

アーヤは笑い出した。

「朋美って可愛いわね。例えばの話よ。大丈夫よ、私は真人の事何とも思ってないわよ。でもそんなに気になるなら、やっぱり真人ときちんと話しをしないとね。」

「わかってるの。でもいざとなったら言えなくて。」

ちょっと暗い気持ちのままでツェンに向かった。


「おはようございます。アーヤです。」

「おはよう。開いているからおはいり。」

椅子に座ったリルーディが迎えてくれた。

「今日は干物とお肉を持ってきました。」

「いつもありがとう。コーヒーを入れるから座っておくれ。」

ここに来るとコーヒーが飲める。アーヤはカップを出して準備をする。

「珍しいね。真人は一緒じゃないのかい。」

「はい。今日は用事があると言ってもう出かけてしまいました。」

「そうかい。それじゃあこの前の護衛代はトモーミから渡しておいておくれ。」

大銀貨を2枚出された。

「いえ、素材が売れたのでお金はいいです。」

「何を言っているんだい。正式に依頼をしたのだから、受け取るのが筋だよ。」

そう言われたのでお礼を言って受け取った。

「ところでこの前の事だが、王室警備隊とはどういった関係なんだい。」

コーヒーを入れながらリルーディが聞いてきた。リスデンでのことや渡り人について調べてくれたことを話した。

「そういう事かい。ちょっとまずいね。もしかしてあんたは氷が使えるんじゃないかい?」

魔法の事は何も言わなかったのに、リルーディはすぐに聞いてきた。

「隠す必要はないよ。アーヤも使えるから。」

驚いてアーヤを見る。アーヤは棚から皿を出し、その上に綺麗な四角い氷を出してみせた。

「はい、使えます。タグに秘匿で記録されています。」

「そうかい。他には?」

「・・・火も風も使えるようになりました。」

「やっぱりか。」

どうやらリルーディは朋美が他も使えると思っていたらしい。

「この国は小さいけれど資源が豊富だから近隣諸国に常に狙われているんだよ。最近はいざこざがないけど、昔はよく戦争をしていてね。」

「戦争ですか。」

「そうさ。最後にあったのは30年くらい前だね。潜伏していた某国の戦闘員が王都を激しく攻撃してね。何とか警備隊が勝利したが、かなり被害が出たんだよ。それで王室は強い人を半ば強制的に警備隊へ入れるようにお触れを出したのさ。それは渡り人も例外じゃないよ。」

「という事は、私たちも警備隊へ強制入隊させられるってことですか!?」

「そうさ。警備隊は花形職業だけど、いざ戦争となったら真っ先に前線へ送られるからね。今の王様はうまく近隣諸国と付き合っているが、年齢的にもそろそろ限界だろうと言われている。そして今の王太子殿下が即位することになると、きっと近隣諸国はチャンスとばかりに攻め込んでくるだろうと言われているのさ。」

貴族のお抱えどころではない話だ。

「アーヤを渡り人だと言わないで欲しい理由はそういう事なのさ。」

「それじゃあもし私が他の属性も使えるなんて知れたら・・・」

「当然すぐに警備隊へ入隊の案内がくるね。一応本人の意思でってことになっているけど、実際はどうか分からないよ。」

「この世界には『眷属の首輪』というものがあってね、それをつけると『御主人』のいう事には逆らえなくなるのよ。」

「眷属の首輪・・・。」

それだけで想像がつく。

「真人はかなりアプローチを受けていました。私は魔法が雷属性しか使えないってことになっているから。」

「タグに記録されているってことはもう知られているのと同じことさ。何かの理由で泳がされているようなものだよ。」

早く帰る方法を見つけなければ戦争に駆り出されるかもしれない。

「あの、あっちから帰ってきたって人の話は・・・」

「聞く覚悟はあるのかい?」

真剣な顔で聞かれた。覚悟?何の覚悟なのだろうか。ただ話を聞くだけだと思っていたが、覚悟して聞かなければならないようなことなのだろうか。ちらっとアーヤを見る。アーヤも真剣な顔をしている。

「覚悟って・・・そんなに重要な事なんですか?」

「ああ。あんたの将来を決める重要な事だ。」

急に聞くのが怖くなった。

「覚悟は・・・ないです。」

「そうかい。では覚悟が決まったら聞きにおいで。いつでも話してあげるから。」

そう言いながらリルーディはコーヒーを飲み干した。


帰りながらアーヤに聞いてみる。

「アーヤは帰ってきた人の話を聞いたの?」

「ええ、聞いたわ。だから私は帰らないって決めたの。そしてそれでよかったと今は思ってるわ。」

私はどうなのだろうか。気持ちが揺れる。

「無理して今聞く必要はないわ。聞いた後私も随分と悩んだもの。」

今は何事もなかったような顔をしているアーヤでも悩んだのだ。色々と決心がつかない自分は今聞くべきではないと思った。

「でも真人の事はきちんと考えてあげて?朋美への思いを抱え込んだまま先に進めないのだから。」

「どうしてそんなに真人の事を気にするの?」

「真人の事というか、あなたの事が気になるのよ。」

「私の事が?」

「そうよ。朋美がきちんと答えを出さないと、いずれ真人から振られるわよ。朋美の時間は止まっているけど、真人の時間はこっちの世界で動いているのだから。」

「私の時間が止まってる?それはどういう事?」

「帰ることだけを考えて帰れなかった時の事は何一つ考えていないでしょう。朋美の時間はこっちに来た時と今でも同じなのよ。」

ドキッとした。確かにそうだ。帰る方法が見つかれば転移してきた時と同じ場所、同じ時間に戻れると思っていた。

「こっち同様、あっちもあれから時が流れているわ。その事を忘れないで。」

丁度シェスナに着いたのでそのままアーヤとは別れた。


時が流れている。全く考えなかったわけではない。しかし心のどこかで突然あの魔法陣が現れてあの時に戻れると思っていた。

「覚悟・・・か。」

昼前だが依頼を受ける気にもならないのでそのまま家に戻った。

「家に戻ってもすることもないわね。」

仮住まいだから物も必要最低限しかない。

「私がいなくなったら、真人は誰かと結婚して新しい家族とここで生活するのよね、きっと。」

そう考えたら涙が出てきた。帰りたいけど真人とは別れたくない。そんな気持ちが込み上げてきた。

「真人が帰ると言ってくれたらいいのに。」

何故そのことに気が付かなかったのだろうか。

「そうだ、真人を説得してみよう。」

実際帰れるとわかったら、真人だって残るとは言わないかもしれない。今は帰れる方法が見つからないから残ると言っているだけかもしれない。やっぱり早く帰れる方法を見つけようと朋美は決心した。


夕方には真人が帰ってきた。朋美は今日リルーディから聞いたことを真人に話した。

「そうですか。戦争は厄介ですね。出来ればそんな理由で警備隊へは入りたくありませんね。眷属の首輪なんて論外です。」

本人の意思を無視して強制的に戦争に参加させるなんて、現代日本の考え方を持っている自分たちにはありえなかった。

「でも平和に暮らしていくために参加してくれと言われれば別ですけど。」

真人は自分の意志でなら戦地に赴いてもいいと思っているようだ。

「でも帰れるなら帰った方がよくない?日本は平和だし、やっぱり私たちはあっちの人間だし。」

真人に帰る話を勧めてみる。

「ちょっと前まではそう思っていました。でも今は帰る気は全くありません。」

そう言って真人は席を立った。

「トモさんもそろそろこっちで生きていくことを考えた方がいいですよ。」

そう言って自分の部屋へ上がって行った。

「こっちで生きていく?」

それは帰れないと言っているようなものだ。

「今日はどこへ行ってなにがあったの?あんな言い方してくるなんて。」

訳が分からず、朋美はその場に立ち尽くした。


預かった包みを開けると中から綺麗な簪が出てきた。

「もし帰ることが出来たら家族に渡して欲しい・・・か。」

簪をじっと見つめ、包みの中へ戻す。そしてそれを手紙と一緒に引き出しの中へ入れる。

「これからどうしようか。このままいけば王室警備隊へ入れられるのは間違いないだろう。自分だけなら構わないが、トモさんはどうする?どうすれば戦争から逃げられる?」

戦争が起こるのが決まっているわけではないが、用心するに越したことはない。

「リルーディさんに相談してみるか。でもいったいどうやってアーヤさんは渡り人であることを隠せたのかな。」

翌日真人は1人でリルーディの家を訪れた。

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