仮説の立証
自分の部屋で以前書いたメモを取り出し、書き足しをしていた。
「アーヤさんが来たのが4年半前。でもあっちは・・・いや違う。自分たちがこっちへ来て半年以上たっているからそれを差し引いて・・・」
紙に20と数字を書く。
「するとこっちは・・・江戸末期?でも候って文章に使うのは年代的に合っているはず。だとするとあのカヨって女性も江戸時代の人なのか?確かめなくては。」
今から出かけてもミアナ村にたどり着くのがやっとだ。
「明日朝早く出かけよう。トモさんは連れていけない。まだ決まったわけではないから。」
「真人―、降りてきて。」
1階でアーヤと話をしていた朋美が呼ぶ。メモを隠し、下へ降りる。
「どうかしましたか?」
「明日アーヤがリルーディさんのところにいくんだって。一緒に行かない?」
「あ、自分は明日行きたいところがあるので2人で出かけて下さい。」
「え、どこに行くの?」
今まで別行動をしたことはない。あったとしてもそれは調査依頼以外ではどちらかが宿などにいた時だけだ。
「いえ、ちょっと野暮用で・・・。」
それ以上突っ込んで聞かれたくなくて外に出ていく。
「これはついに、朋美に愛想をつかして他の相手を探しに行くのかしら。」
にやにやしながらアーヤがからかう。
「そんなことはないわ。プレゼントのワンピースも買ってくれたし。」
「でも朋美は帰る予定なんでしょ。こっちに残る予定の真人が生涯の伴侶を探しても不思議はないわよ。朋美はキープかな~。」
「真人はそんな人じゃないわ!」
そう言ってみたものの、真人を縛り付けておく権利は自分にはない事を分かっている。
「こっちに残る決心をしてみたら?気持ちが楽になるかもよ。」
「アーヤの事情は知らないけど、私は帰るって決めたの。」
「いつまでに帰る方法が見つからなかったら残るって決めるのも大事なことだと思うわよ。ただ帰るって言い続けて、結局おばあちゃんになってしまいましたじゃどうしようもないでしょ。それはお互いに不幸だわ。」
そうかもしれない。今は仕事上のパートナーとして同じ家に住んでいるが、もしこの先真人が結婚したら自分か真人はこの家を出ていかなければならない。
「自分があっちに帰れなくて、真人が誰かと結婚して生活しているのをこれからずっと見ている自信はある?」
「それは・・・」
「ないんでしょう?ならばこの際きちんと決めるべきよ。」
きっぱりとこっちに残ると決めたアーヤの言葉が胸にズシンとのしかかる。
「時間はあっという間に過ぎていくのよ。」
そう言ってアーヤも家の外に出て行った。
「真人が誰かと結婚して、私はおばあちゃんになってもこっちにいたら・・・。そんなの考えらえない。でも私が帰ったら当然真人は誰かほかの人と結婚する。私が帰らなかったら私と結婚する?」
それもまだ想像できない。でも今は自分の都合で真人を引き留めているのは事実だ。自分だけが居心地のいい思いをしているのだ。
「もう少しだけって思っているのもいけないことなのかしら。」
「真人。」
アーヤが外に出ていた。
「どう?仮説は正しかったかしら。」
「はい。多分間違いないと思います。明日はその確認に行ってきます。」
「でももう残るって決めているなら、それは無駄なことだと思わない?」
「確かにそうなのですが、納得したいんです。そしたらきれいさっぱり未練も無くなると思うので。」
「そうね。私もそうだったもの。」
真人の横に寄り添うように立つ。
「これから先の事を考えてる?朋美が帰った後の事とか。」
「帰った後の事ですか。正直それは考えていません。トモさんが残ると言ってくれることだけを考えています。」
「そんなに朋美のことが好きなのね。」
くすっと笑う。そして手を伸ばし真人の腕に絡ませる。その時玄関が開き、朋美が外に出てきた。
「あ・・・」
アーヤは後ろを振り向き朋美に向かって
「こういう事もあり得るのよ。」
何が起こったか分からない真人はとりあえず動かずにその場に立っていた。
「それはその・・・。」
ゆっくりと絡めた腕を離し、
「冗談よ。それじゃあ明日ね。」
そう言って自分の家へ帰って行った。
「トモさん焦げますよ!」
夕飯を作りながらボーっとしていた朋美は貴重な肉を炭にするところだった。
「ごめんなさい。」
「後は自分がしますから、座っていて下さい。」
キッチンから追い出された。昼間の事が頭から離れない。
アーヤも真人が好きなの?そういえばマストでも・・・真人ってモテるのよね。アーヤが好きになってもおかしくないわよね。でも年上だし・・・私も年上よ!いや、真人が年上が好みならもしかして・・・そんなことないわー。
1人で考えては否定し、そしてまた考えてを繰り返している。
「どうぞ。そろそろ本格的に米を探したいですね。」
テーブルの上に肉とサラダとパンが並んだ。スープは野菜のクズを使ったコンソメ味のものだ。自分たちで作ったから、店で食べるものより味がしっかりしている。パンの硬さにも随分と慣れたが、やっぱり米が一番恋しい。
「そういえばミヤコのシオンさんのところでおにぎりいただきましたよね。あれってどこから仕入れているのでしょうね。」
真人が話しかけてきても耳に届かない。
「トモさん?」
「あ、なに?肉が焦げてた?」
「いえ、もういいです。」
その後は一言も口をきかず、食事を終えた。
「明日早く出かけるので、お風呂のお湯をお願いできますか。」
「あ、うん。すぐ準備するわ。」
真人が食器を洗っている間に朋美はバスタブにお湯を張り出した。
「あっちー!」
しかしやっぱり考え事をしながらなので、入れ過ぎてお湯を溢れさせてしまった。
「トモさんどうしたんですか。」
真人が風呂場に飛んできた。
「何でもないの。大丈夫よ。ちょっとお湯が熱いだけよ。気を付けて入ってね。」
ダッシュで自分の部屋へ逃げかえった。
翌朝早く真人は家を出て行った。結局どこへ行くのか朋美は教えてもらえなかった。朋美は真人が出ていくのを窓から見ていた。
「どこに行くのか聞けなかったな。真人も話してくれなかったし。やっぱりアーヤが言った通りなのかしら。」
大きなため息をつく。ベッドから起きてクローゼットから真人が買ってくれたワンピースを取り出す。それをあててまたクローゼットに戻す。
「私も出かける準備をしなきゃ。」
いつもの服に着替えて1階へ降りて行った。テーブルには朝食の準備がしてあった。
「君は優しすぎだぞ。」
いない真人の席に向かって呟いた。
「はあ、やっぱり収納バッグを買うべきだな。」
昼食用に少しのパンと水を持ってきたが、普段持って歩くことがないので邪魔に感じて仕方がない。
「トモさんの大きな収納の有難みをつくづく感じるな。」
早くミアナ村に着きたくて朝早く出た。しかし思ったほど進んでいる感じがしない。
「パンを諦めるか・・・。」
水を飲まないわけにはいかない。でも食べずに歩き続けるのも辛い。とりあえずグリージアへ着いた。まだ門は空いていない。外壁をぐるりと回って南門の方へ行き、そこからミアナ村に続いている道を進む。
早く着きたいが走ると水が足りなくなる。やっぱりこのまま歩き続けるしかないか。
ひたすら歩き続けた。真人が強いのがわかるのか、魔物は1匹も出てこなかった。
「ふう、何とか午前中にミアナに着いたぞ。」
村の前で一休みして水を飲む。そして大きく深呼吸して村へ入った。
春になったので漁が盛んになってきたのだろう。干してある網はほとんどなく、浜に船は一艘もない。そのまま渡り人の家へ行き、玄関扉をノックする。しかし返事がない。再びノックし、声をかける。
「おはようございます。カヨさん入らっしゃいますか。」
その様子を見ていた籠を持った女性が真人に声をかける。
「あんたカヨさんを訪ねてきたのかい?」
「はい。少しお話を伺いたくて。」
真人に近づいてきた。海女さんだろうか。女性から潮の匂いがする。籠の中には捕ってきたであろう魚が入っていた。
「カヨさんね、亡くなったのよ。」
そう言って扉を開けてくれた。中に入るように言われて一緒に入る。
「渡り人だよね、あんた。確か前に来たことあったよね。」
どうやら前回来た時に自分の事を見かけたらしい。テーブルの上に置いてある手紙を差し出し、
「もし渡り人の人が来たら渡して欲しいって言われてたのよ。
紙に包んだ細長い何かを渡された。
「確かに渡したわよ。それじゃあ扉はきちんと閉めて帰ってね。」
もうここに用がないのがわかっているのだろう。女性は家を出て行った。真人はすぐに手紙を読んだ。




