帰ったら色々あります
帰りの馬車は真人が運転していた。器用なのだろう、上手いものだ。とても今日教えてもらったばかりに見えない。メルフィラは小さくなって座っている。リルーディは口を開くことなく腕を組んで座っている。重い空気の流れる馬車の中で、朋美が口を開いた。
「あの・・・リルーディさんに聞きたいことがあるのですが。」
「なんだい。」
「以前あっちに行って帰ってきた人がいるって話をしてくれましたよね。それが薬師の家族の子供らしいのですが、誰だかご存じありませんか?」
「その話は誰から聞いたんだい。」
警戒するような声で聞いてくる。
「王室警備隊の方からです。以前一緒に仕事をさせていただいた方が調べて下さったのです。」
「一緒に仕事を!?まさかそっち方面に繋がりが出来たのかい?」
「いえ、そういう訳ではないのですが、誘われてはいます。」
リルーディは少し考え、言葉を続ける。
「知っているよ。でも、今すぐその話をする訳にはいかないね。こっちからも聞きたいことがあるし。」
今すぐにでも聞きたい朋美は喉まで出かかった言葉を必死に飲み込む。
「続きは帰ってからにしようじゃないか。兎に角今は話せないね。」
更に重い空気が馬車の中を漂った。状況を理解できないメルフィラはさらに小さくなっていた。
「リルーディさん、運転を代わっていただけますか。トモさん準備して。」
すぐに状況を察したリルーディは御者台へ移動する。朋美も魔力を練り始める。
「どっち?」
辺りを見渡すが姿が見えない。青々とした草むらの中に綺麗に隠れているようだ。
「左です。6匹ほどいますね。中範囲でお願いします。」
ギャラリーがいるので雷しか使えない。両手に魔力を集める。
「3、2、1・・・」
バチバチバリバリバリ・・・素早く強烈な稲妻を放つ。稲妻は見事に6匹を捉え、魔物は草むらから飛び出してきた。初めて電撃を食らったらしく、痺れた体をピクピクさせている。そこへ真人が馬車から飛び出しとどめを刺す。朋美も短剣を抜き後を追う。
「ワータイガーの子供ですね。巣立ってすぐなんでしょうか。」
「ちょっとかわいそうな気もするけど、仕方がないわよね。」
子供とはいえ、2m近くある。それを一気に6匹も仕留めたのを見て、リルーディとメルフィラは驚きを隠せなかった。
「あんたたちこんなに強かったのかい?」
「前より強くなってるよね!?」
真人は何事もなかったかのようにさっさと解体を済ませ、朋美はそれを収納へ放り込む。
「お待たせしました。さあ行きましょう。」
何事もなかったかのように馬車に乗り込む。
「ワータイガーって結構強いってマイが言ってたわよ。それを、それを・・・。」
「どうやら立派にこっちで生きていけるようだね。」
夕方には王都に着き、リルーディはメルフィラを連れて馬車を返しに行った。その後メルフィラの家に行くという事なので、とりあえずここで解散となった。
「私たちはギルドへ行きましょうか。ワータイガーの依頼があるかもしれませんし。」
「そうね。それから食事に行きましょう。」
明日は戻る予定だ。しかしリルーディがこっちにいたのでは話が聞けない。
「リルーディさんは馬車を使って帰るはずだから、急いで帰っても何もできないわよね。」
「でもいつまでも王都にいても仕方ないですし。いったんシェスナへ戻りましょう。地図も書き足したいですし。」
「そうね。私たちが書き写した地図にはベラーナはなかったものね。」
ツェンもそうだったが、小さな町は書いてなかった。ミヤコも町のマークはあったが名前が書いてなかった。地図を作った人が名前を知らなかったので記入しなかったのだろうか。今後こっちで生活していく真人には地図は必要なものだ。出来るだけ今と同じ状態にしておいてあげたい。
「お待たせ。マスの包み焼とボアのステーキだよ。」
エールを飲みながら話をしていたら注文した料理が届いた。冷める前に食べることにした。王都の料理はあっちの味付けに近いので食べやすい。
「調味料買い足したの。まだあっちには出回ってないから少し高かったけど。」
グリージアには塩・胡椒・砂糖位しかない。
「その調味料で出来る料理が楽しみです。自分も昨日買い物したので後で部屋に来てくれませんか。」
「ああ、収納に入れるものがあるのね。わかったわ。」
マスの包み焼を食べながら答えた。
「これを私に?」
真人の部屋でプレゼントを受け取った朋美はその場で開けて驚いた。まさか自分へのプレゼントが買ってあるとは思わなかったからだ。綺麗なオレンジのワンピースはこっちではあまり見かけないデザインだった。
「高かったんじゃないの、これ。」
「さあ、服の値段はわかりませんから。でも防具よりは安いはずですよ。」
「もう!当たり前でしょ。」
2人とも恥ずかしさを冗談で隠している。
「サイズが合わなかったら交換してくれるって言われたので試着してみて下さい。」
「部屋で着て来るね。待ってて。」
急いで自分の部屋へ戻る。
「洋服のプレゼントなんて初めて。真人ったらどんな顔して買ったのかしら。」
嬉しくてワンピースを握りしめ、着替えを始めた。
「お待たせ。どうかな。」
扉を開けてそっとはにかみながら入ってきた。そんな朋美を見て顔を赤らめる。
「とってもよく似合ってます。」
それ以外の言葉は浮かばなかった。自分の買った服を朋美が着ているのが嬉しくて仕方なかった。
「サイズも大丈夫みたい。真人ありがとう。」
これから休みの日はこのワンピースを着てくれるだろう。真人は幸せの余韻に浸っていた。
シェスナの自宅に戻ってすぐにひまわりの種を植えた。周りに柵をし、アーヤにも伝える。
「私もひまわり好きよ。元気いっぱいに太陽の方を向いて咲いているのを見ると、自分も頑張らなきゃって気持ちになるの。」
「アーヤもひまわり好きなのね。」
「ええ。でもこっちに種があったなんて知らなかったわ。やっぱり王都は何でもそろっているのね。」
「トモさんあのワンピースは着ないんですか。」
「だって勿体なくって・・・。」
「あのワンピースって?」
「王都でトモさんによく似合いそうだったので買ったんですよ。休みの日は着てくれるかと思っていたのにこの通りです。」
「えー、私もみたいわー。真人が買ってくれたワンピース。」
ナイスフォローだ。アーヤの押しで朋美が着替えに行った。庭にアーヤと真人の2人だけになった。
「アーヤさんが渡る前の首相って誰でしたか?」
急にアーヤの顔が強張った。
「あ、えっと・・・誰だったかしら?子育てに必死だったから覚えてないわ。」
目を背けた。
「アーヤさん?自分はこっちへ来て他の渡り人の話を聞きました。渡り人の残した日記も見ました。そしてある仮説を立てました。自分はこっちに残るって決めています。だから教えて下さい。貴女がいた時代はいつですか?」
「・・・それを朋美に言うの?」
「いえ、話しません。トモさんが自分で気が付かないといけないと思うので。」
真人の真剣な眼差しにアーヤは決心して話そうとした時、
「これなんだけど、どう?」
玄関から朋美が出てきた。
「とてもよく似合ってるわ。真人は見る目があるわね~。」
アーヤは朋美の側へ行く。そして真人の横を通り過ぎる時に小声である言葉を口にする。真人はその言葉を聞いて自分の仮説が正しいことを確信した。




