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こっちで元気にやってます  作者: 楠 螢
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リルーディと弟子の事情

宿に戻り、真人は考えていた。

「~候。あれってかなり古い文章の書き方じゃなかったかな?ミアナ村の女性といい、シオンさんの父親といい、かなり年代が古い感じがするな。」

真人はある仮説を立てる。そしてそれがミアナ村のカヨが言った『老婆』につながるか考えてみる。

「まさか・・・いや、確証がない。もしそうだとしても、それがこっちから渡った人が老婆になった理由にはならない。」

紙に書いてみる。

いつか分からないが双子の女の子があっちへ渡った。今から50年前こっちに帰ってきた。ミアナ村の女性は外国を『異国』と呼ぶ。30年くらい前に渡ってきたシオンさんのお父さんは『候』という文章を書く・・・。アーヤさんは?彼女は4年半前にやってきた。彼女がいた頃はどんな時代?トモさんは聞いたことあるのかな。

「晩御飯の時に聞いてみるか。」

朋美は少し出かけてくると言っていた。

「自分も出かけるか。」

特に用事もないが、街をぶらぶらしてみようと部屋を出た。


「ああマサト、この宿だったか。」

受付にいたリルーディが真人に気が付き話しかけてきた。

「リルーディさん、こんなところでどうしたんですか?」

「今朝トモーミに会ったから探していたんだよ。」

「トモさんにですか?」

「おや、聞いてないのかい。まあいいさ。実は急にベラーナへ行かなければならなくなってね。馬車を借りていこうと思っているのだけれど、魔よけの薬を持ってきていなくてね。2人に護衛を頼みたいんだよ。」

「今からですか?」

「いや、馬車で片道3時間ほどかかるから、明日の朝からいいかい?」

どうせ帰るだけだったので、1日延びても困らない。

「構いませんけど、ベラーナってどこにあるのですか?」

「ここから南西の方にあるね。昔は定期馬車があったんだけど、利用者が減ったから無くなってしまったのさ。1頭立ての馬車だから4人しか乗れないけど、私とあんたとトモーミとメルフィラの4人だから大丈夫だよね。

「メルフィラさんもいらっしゃるんですか?」

「ああ、ベラーナにね。この時期私がくるのがわかっているのに逃げたのさ、あのバカ娘は。」

状況が理解できない。でも明日護衛で一緒にベラーナへ出かければいいという事だけは分かった。

「明日9時前にここに来てくれるかい。」

貸し馬車の場所の簡単な地図を書いてくれた。

「わかりました。トモさんにも言っておきます。」

リルーディは手をひらひらさせて自分の宿に帰って行った。真人もそのまま街へ出かけた。


特に目的もなく街を歩き回る。夕方の街は家路を急ぐ人や買い物帰りの人たちでごった返していた。飲み屋が店を開け始めた時間だからか、依頼を達成して報酬を得た冒険者も結構いた。

「そういえば武器屋や防具屋くらいしか立ち寄らないな。」

アクセサリーを売っている店や高級時計を売っている店もある。そんな店を外から眺めるだけで時間を潰す。ふと洋服屋の前で足を止める。ショーウインドーに飾ってあるワンピースに目がいった。オレンジの生地にスカート部分がレースの二重生地になっていて、ひざ下までの長さがあるものだ。袖は七分で少しゆったりしている。

「トモさんに似合いそうだな。」

ふらりと店の中に入る。

「いらっしゃいませ。」

声をかけられ、ハッと我に返る。自分には不似合いの店だ。急に恥ずかしくなり店を出ていこうとしたが、店員がすかさず声をかけてきた。

「何かプレゼントをお探しですか?」

プレゼント!そうだ、あのワンピースをトモさんにプレゼントしよう。

「あのオレンジのワンピースを包んでもらえますか?」

「あれですね。あれは今流行りのデザインなんですよ。彼女へのプレゼントですか。」

さっとディスプレイからワンピースを取り外し、サイズは大丈夫ですかと聞かれた。

「サイズは・・・その、よく知りません。」

店員はちょっと呆れたが、すぐに聞いてきた。

「背はどのくらいですか?瘦せ型?ふっくらしてる?」

聞かれたことに答えていく。

「それじゃあこのサイズで大丈夫だと思いますよ。もし合わなかったら交換しますよ。」

そう言ってワンピースを綺麗にラッピングしてくれた。

「ありがとうございます。」

お金を払って服を受け取った。女性ものの服なんて生まれて初めて買った。なんて言って渡そうかと今からドキドキしていた。


宿に戻る途中で朋美に会った。

「見て見て!ひまわりの種を見つけたの。買ってきちゃった。」

「ひまわりですか。薬の元になるんですか?」

「薬になるから買ったわけじゃないわ。ひまわりは母が好きだった花何ですって。だから植えて見たくって。」

あっちと同じものを見つけてとても嬉しいのだろう。声が弾んでいる。

「今でもお母さんのことが好きなんですね。」

「・・・どうかしら。よく分からないわ。父がお前のお母さんが好きだった花だよって言ってたから、種を売っているのを見て欲しくなったの。それに私も嫌いじゃないし・・・。」

急に声のトーンが下がった。

「私の好きなものって何だろう・・・。」

「帰ったら日当たりのいいところに植えましょう。自分もひまわりは嫌いじゃないですよ。ところで今朝はリルーディさんに会ったのですか?」

「あ、そうだった。お墓参りに来てるって言ってたわ。真人もあったの?」

「お墓参りですか。リルーディさんは王都の出身なんですね。」

「そうだと思うわ。家族のお墓みたいだったから。」

朋美は今朝の事を話した。

「ところで真人はどこでリルーディさんに会ったの?」

「明日出かける護衛を頼まれました。」

「護衛?」

「はい。ベラーナという町へメルフィラさんを迎えに行くそうです。その道中の護衛を頼まれました。」

宿に着いたので話の続きは後でという事になった。


「2人ともこっちだよ。」

待ち合わせの貸し馬車屋には5~6台の馬車があった。すでに何台がは出払っているらしい。借りてある御者台の後ろに人が2~3人程乗れるタイプのもので、馬は1頭だ。

「さあ乗っとくれ。すぐに出発するよ。」

急いで後ろに乗り込んだ。リルーディは慣れた手つきで馬を操る。

「2人は馬車の運転は?」

「いえ、出来ません。」

「そうかい。覚える気はあるかい?」

「機会があれば。」

「よし、じゃあマサトはこっちにおいで。」

後ろから御者台へ移動する。手綱を握り、馬の制御の仕方を教わっている。朋美はそれを後ろから見て、段々真人がこの世界に馴染んできていることを実感する。


私はまだ中途半端だな。こんなことで帰る方法を探せるのかしら。


リルーディの指導を受けながら真人はベラーナまで馬車を走らせた。

「覚えがいいねぇ。これなら帰りも任せられそうだ。」

リルーディはご機嫌だ。

「はぁ、この半分くらいメルフィラも覚えが良かったらねぇ。」

ぽそりと独り言をつぶやいている。

「さて、メルフィラを捕まえに行くか。」

「どこにいるか分かってるんですか?」

「あの子が行くところは察しがついてるよ。」

迷わずある家へ向かい、玄関扉をドンドンと叩く。

「はーい、ちょっと待って下さい。」

若い女性の声が返事をする。ガチャガチャ。鍵を開けて扉を開く。

「あら、リルーディ師匠お久しぶりです。」

「ああターニャ、久しぶりだね。いるんだろう。」

部屋の中を探し回る。

「メルフィラですか?来ていませんよ。」

「それは本当かい?」

ターニャは目を泳がせてハイと答えた。

「そうかい。それは悪かったね。もしメルフィラが尋ねてきたら伝えておいてくれるかい。今後はあの洞窟への出入りを禁止するってね。入れないように魔法をかけておくよ。ああ、うちにももう来なくていいからと言っておいておくれ。」

「それはいやぁー。」

奥の部屋からメルフィラが飛び出してきた。ターニャはまずいという顔をしている。

「まったくあんたたちは。逃げ出すメルフィラもだけど、かくまうターニャも同罪だよ!」

どうやらこのターニャもリルーディの弟子らしい。

「そんなことばっかりやっているから、未だに一人前になれないんだろう。」

リルーディは怒ってテーブルを叩く。

「だって師匠があんな得体の知れない人を後継者にするから・・・。」

「おだまり!自分たちが努力もせずにのうのうとしているから妹弟子に追い抜かれたんじゃないか。当然の結果だろう。」

どうやら2人はアーヤの事が気に入らないようだ。

「誰が見てもすでに実力はアーヤの方が上だよ。あんたたちを外に出した時に言ったはずだよ。上級ポーションを作れるレベルにならないと次のレベルの薬の作り方は教えないと。あれから8年たったがいい加減作れるようになったのかい?」

黙ったままという事は、未だに作れないのだ。

「2人の今のレベルを見せてもらうよ。さあ、一番レベルの高い薬を作るか持ってきて見せておくれ。」

当然出される課題を想定していたのだろう。2人とも薬を差し出した。リルーディはそれを鑑定していく。

「メルフィラは相変わらず毒かい。以前より強力なようだが、この分だとまだ上級ポーションは作れないようだね。ターニャはこれの解毒薬だね。でもこれだとまだ痺れが残るんじゃないかい?」

どうやら当たりのようだ。そんな2人の前に薬草を数種類置く。

「さあ、これで上級ポーションを作って見せておくれ。」

そう言ってリルーディは椅子に腰を掛ける。

「マサトとトモーミは退屈だろうから、2時頃にここに帰ってきてくれれば出かけていいよ。小さな町だから何にもないけど。」

確かにここで2人が薬を作るのを見て待っているよりよさそうだ。家を出て町を見て回ることにした。


「何というか、ちょっと複雑ですね。」

「そうね。2人にしてみたら確かにアーヤは『得体の知れない人」だものね。」

自分たちが後継者争いをしているうちに後からやってきた妹弟子にその座を奪われていたのだ。リルーディはどんな思いでその決断をしたのだろうか。小さな農村にはその答えはなかった。

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