うどんが食べたかったけど
ルイーシュが泥酔したので一次会でお開きになった。こちらとしてはありがたかった。すぐに宿に戻り朋美の部屋で今後の事を話し合う。
「薬師・・・リルーディさんに聞いてみようかしら。」
「そうですね。でもどんな聞き方をしましょうか。」
「こんな噂話を聞いたことありませんか・・・が無難よね。」
どの位昔の話か分からない。もし知っていたら初めから話してくれていたのではないか?それとも実は何にも知らないのではないか。2人で話し合っても結論は出るはずもない。
「やっぱり気になるー。どうしよう。すぐに帰る?」
「トモさんのいい方でいいですよ。」
「あー、でもリルーディさんは逃げないから、うどん食べに行きたーい。」
何を悩んでいるのかと思えば、そんなことだったとは。真人は少し安心した。
「うどん食べてから帰りましょう。1日しか違いませんよ。」
「そうね。シェスナに帰ればリルーディさんはいつでもあそこにいるけど、ミヤコへは中々来ないものね。よし、明日は絶対にうどんを食べてもう1泊して帰りましょう。」
ミヤコのうどんは朋美にとって魅惑の味らしい。
「朝からガーディアンに寄ってからの出発でいいですか?手袋の調子も見てもらいたいし、予備も購入したいので。」
真人の武器は皮が破れたりしたら使い物にならなくなる。剣の切れ味が悪くならないようにメンテするのと同じだ。
「そうしましょう。私はちょっと王都を散策するから、10時頃西門で落ち合いましょう。」
「わかりました。それじゃあお休みなさい。」
真人は部屋から出て行った。朋美はリルーディについて考えていた。
「アーヤを助けたのはリルーディさん。アーヤは渡り人だという事を隠してる。そしてもう帰る気がないという。何か知ってる気がするわ。」
どうして今までその事に気が付かなかったのだろうか。渡り人だと知れたら色々と面倒だと言った。それは渡り人の能力がこの世界の人よりも高いからだ。でも何故?
「そういえば何が面倒なのかあまり気にしたことなかったわ。リスデンでは貴族のお抱えって言われたけど、あの時は戻りたかったから絶対嫌だと思ったわ。でもここで生きていくなら、貴族のお抱えって収入も安定しているらしいし、結構いい仕事よね。」
部屋の中をうろうろしてみる。
「渡り人に限らず職業適性は受けるのよね。その時あのうそ発見器みたいな水晶に触るのなら、渡り人ってわかるはずよね?そもそも日本人なのに『アーヤ』って名前もおかしいわ。リルーディさんとアーヤは何か隠しているのかしら。」
もし隠しているのなら、それを私たちに話してくれるのだろうか。かえって悶々としてくる。
「そういえば初めて会った時に渡って帰ってきた人がいるって言ってたわね。もしかして知っているんじゃないかしら。でもどうして教えてくれないのかしら。」
考えがまとまらず、そのままベッドにダイブし寝ることにした。
部屋に戻った真人も考えていた。
「50年前戻ってきた人がもしその双子の1人だとしたら、もし生きていればすでに100歳を超えている。この世界に100歳を超えている人がいるのだろうか。みんな見た目年齢は実年齢より上の感じだ。あの話が本当の事だったとしても、もうあれ以上の情報は得られないのではないかな。」
家族は異世界に行く方法を私財を投げうって探した。しかし方法は見つからなかったが娘は帰ってきた。当然そこで異世界に行く方法を探すのは止めているはずだ。ならば意図的に異世界に行く方法は今のところないということだ。真人はそう結論付けた。しかしそれでは朋美は納得しないだろう。
「やっぱりもっと決定的な何かがないと無理だろうな。」
戻ってきた人の事を知っているか知らないか分からないが、リルーディが何か朋美が戻ることを諦めるような決定的なことを言ってくれないだろうか。そんなことを考えながら真人も眠ることにした。
翌朝朋美は早くに朝食を済ませ、1人で出かけた。
「すみません、この辺りで薬師一家が住んでいた家というのをご存じありませんか?」
「誰のことだい?薬師一家なんてたくさんあるよ。」
「名前は分かりませんが、結構裕福で双子の女の子がいた家なのですが。」
「さあねぇ。知らないな。」
マリウスの話を元に町で聞き込みを始めていた。マリウスも伝手を使って得た情報なのだから、この辺りで聞き込みをしてもそう簡単に見つかるはずもない。しかしじっとしていられなかったのだ。
「薬師ギルドに聞けば何か情報があるのかしら。でもなんて言って聞いたらいいの?」
最近の事ならいざ知らず、50年も昔の事だ。調べる手間がかかって相手にもされないかもしれない。
「やっぱりリルーディさんに聞いてみるべきよね。」
公園のベンチに座り込み、大きなため息をついた。ぼんやりと人の往来を眺めていると、花束を持ったある人に目がいく。
「あれはリルーディさん?」
大事そうに抱えながらどこかへ向かって歩いていく。朋美は気になってその後をつけて行った。公園を抜けて坂道を登っていく。歳をとったリルーディは途中で休憩をしながら登って行く。そして行きついた先には墓地があった。
知り合いの墓なのだろう。迷わずある墓石の前に立ち、軽く掃除をして花を添える。そして何かを話しかけている。
誰のお墓かしら。随分と長いわね。
見つからないように隠れてリルーディの様子を伺っている。10分程たったのだろうか。やっとリルーディはその場を離れ、元来た道を戻って行った。朋美はリルーディが完全に見えなくなったのを確認し、彼女が花を添えた墓の前にきた。
「アディステア・マイノル。アリューリャ・マイノル。リルディス・マイノル。これ、マイノル家のお墓なのね。」
きっとリルーディの家族の墓なのだろうと思った朋美はその場で手を合わせる。
「リルーディさんにはもう家族はいないのね。きっとアーヤの事を自分の子供のように思っているんだわ。だから貴族に召し抱えられたくないのよね。」
勝手にこんな結論を出し、納得をする。そしてリルーディに追い付かないように坂道を降りて行った。
「リルーディさん。」
公園を過ぎたあたりで声をかけた。
「おや、トモーミじゃないか。こんなところで何をしているんだい?そういえばアーヤが2人は王都に用事があって出かけるって言ってたね。」
「はい。用事も済んで今日はミヤコへ行く予定なんです。その前にちょっと街を散歩してました。」
偶然見かけて声をかけたように繕ってみた。
「リルーディさんはどうして王都にいらしたのですか?」
「私かい?今日は父と母の命日でね。墓参りに来ていたのさ。」
「ご両親のですか?同じ日が命日って・・・。」
「いや、事故とかで亡くなったわけじゃないよ。たまたま同じ日に亡くなったというだけで、一緒に亡くなったわけではないよ。」
折角会ったので、お茶でも飲みに行くかと誘われたが、真人との約束が10時なので断った。あの事を聞くべきか悩んでいたら、それじゃあ気を付けて行っておいでと言われたので結局その場で別れた。
早くに西門に着いたが、すでに真人は来ていた。
「早かったのね。」
「ええ。すぐに済んだので。」
という事は、かなり前から待っていたことになる。申し訳ない気もするが、約束は10時だ。朋美が遅刻をしたわけではない。
「それじゃあ行きましょうか。シオンさんのところにもちょっと寄ってみましょう。」
「そうですね。前回は寄らなかったので。」
どちらが先に着くのか競うように歩き出した。
「トモさん風魔法をそんな風に使うなんてずるいですよ。」
「えー、だってこの方が早く進めるんだもの。」
朋美は進みながら魔法で自分の後ろから追い風をおくっていた。さらに足が軽くなってグイグイ進む。それに負けじと真人が走る。ミヤコにはかなり早く着いたが、真人はヘロヘロになっていた。
「水・・・水下さい。」
ゼイゼイ言いながら朋美に水を求める。朋美は笑いながらカップに冷たい水を注ぐ。
「はー、生き返る。」
水を一気に飲み干した真人はもう一杯水を求める。朋美も自分の分を注ぎ、2人で水を飲んでいた。
「あ、トモーミさんとマサトさんじゃありませんか。」
「シオンさん、お久しぶりです。」
丁度シオンが通りかかり2人に声をかけた。配達の帰りだったらしい。
「寄って行きませんか?」
食後に寄るつもりだったが、先に寄ることになった。
畳の部屋はやはり落ち着く。
「お昼はどうなさるおつもりでしたか?」
「うどんを食べようと思っていました。」
正確にはうどんを食べに来たのだが。母親はニコニコしながら
「それならうちで食べて行きませんか?みんなで食べると美味しいですよ。」
お言葉に甘えて頂くことにした。
「あ、よかったらこれも使って下さい。」
収納から余っている魔魚を出した。
「あら、こんないいものを頂いてもいいのかしら?」
母親はかえって申し訳なさそうに言った。
「いえ、いいんです。焼き魚くらいにしかしないですから。」
それを聞いた母親は嬉しそうに魔魚を台所へ持って行った。
「渡って帰ってきた人の話ですか?聞いたことないですね。」
シオンは首を横に振る。年齢的にも彼自身が聞いたことはないだろう。
「そういえば父が日記をつけていました。昔何が書いてあるのかこっそり見たことがあるのですが、知らない文字だったので読めなかったのですよ。」
そう言ってシオンは席を立ち、父親の日記帳を持ってきた。
「これなんですけど。」
差し出された日記帳はかなり古くから書いていたものらしい。全部で5冊ほどある日記帳は紐で閉じてあるだけの簡素なものだ。
「失礼します。」
真人はそれを手に取り開いてみる。
急に気難しい顔になる。
「どうしたの?」
朋美は日記をのぞき込むが、朋美も気難しい顔になった。
「やっぱり読めないのですか?」
「読めないというか・・・所々は読めるのですが、達筆すぎて・・・。」
真人がある法則に気が付いた。
「この文章、語尾に候ってついていますね。」
「そうろう?」
「シオンさんのお父さんはいつ頃こちらに渡ってこられたのですか?」
「さあ?自分が27、兄が29歳ですから、30年以上前だと思いますよ。」
「お待たせ~。お昼ご飯ですよ。」
母親が台所から食事を持ってきた。ニシン蕎麦ならぬ魔魚蕎麦だ。
「わあ、美味しそう!」
後からおにぎりも持ってきてくれた。
「おにぎりですか。」
2人は大喜びで蕎麦とおにぎりを頂いた。うどんが食べたかったが、蕎麦とおにぎりに変わってよかったと思った。嬉しそうに食べる2人を見て、母親は幸せそうな顔をしていた。




