2度目の王都
「それじゃあよろしくお願いします。」
「ええ。時々お掃除しておくわ。」
朋美の鍵をアーヤに預け、2人は王都に向けて出発した。今回は王都の依頼を受けているので、途中での依頼は受けないことにした。
「魔魚50匹は楽勝ね。」
「釣りをする時間以外は極力移動に使いたいですね。」
前回同様、魔魚は朋美の魔力で陸から釣り上げ真人が網ですくう作戦だ。
位置的にはグリージアはシェスナより南、ロマはグリージアより北にある。改めて地図を確認すると馬車を使わずに直接ロマへ行った方が早いという事が分かった。ただシェスナからロマへの直接的な道はないので、ひたすら森や草原を突っ切っていくのだ。しかし身体強化して歩く2人には特に問題はなかった。順調にいけば夕方にはロマに着き、宿屋のベッドで寝ることが出来る。多少魔物に会って戦闘をしても夜には着くだろう。
計算通りに行くことだけを考え、強化に慣れた2人は道なき道をぐんぐん進んで行く。
「ちょうど強化も切れる頃ですし、そろそろお昼にしますか。」
昼食は前日にたっぷり作ったサンドイッチだ。
「コーヒーももらったし、今回の移動は気分が違うわね。」
昼御飯も自前だから味も全く問題ない。適当な木陰を見つけ、周りに魔物も人もいないのを確認して腰を下ろす。収納から昼食の分のサンドイッチを出し、コーヒーの入ったカップを出す。時々春の暖かい風が吹いてくる。昼食のゆっくりした時間が過ぎていき、再びロマに向かって歩きだす。追い風を受けながら、2人は草原を突き進んで行った。
幸い魔物に会うことはなく、夕方にはロマに着いた。宿屋に一泊し、翌朝馬車でマストへ向かう予定を立てた。
「依頼を受ける予定はないので、ミューズ領のギルドはすべて寄らずに行きましょう。」
「そうね。出来るだけ早く王都へ着きたいものね。でも何度見てもこの湖を横切れば早いのにって思っちゃうわ。」
ミューズは領の真ん中に大きな湖がある。この湖の周りに町があるのだが、マストからロザリーヒルまでは湖を迂回するので丸1日かかってしまう。
「きっと将来は橋が架かるかあっちの世界の動力で動く船か何かが出来て、それも可能になるでしょうね。」
そうなるとマストからロザリーヒルに行くのにラコンを経由する必要が無くなる。ラコンの町は廃れていくのだろうか。自分たちが考えることではないが、都市計画などで発展する町や人が住まなくなる町はこうやって作られるのだろう。
「今日は沢山歩いたので早く休みましょう。明日もマストから先は歩きですし、魔魚釣りもありますから。」
そう言って少しいい宿へ泊ることにした。明日は依頼の魔魚50匹を釣って、一気に王都まで行きたい。ラコンからロザリーヒルへ向かう途中で野宿をするが、ロザリーヒルを午前中に出発すれば夜までには王都に着ける。予定通りに行けばいいが、雨が降ったらそうはいかない。この辺りでは春先によく雨が降り、度々足止めをされることがあるという。
「雨が降っても依頼の期限があるので少し無理をするかもしれませんが大丈夫ですか?」
「土砂降りでなければいいわね。無理していっても魔魚が釣れなきゃ意味がないし。」
小降りならとりあえずラコンまでは進もうという事で落ち着いた。
「それじゃあお休みなさい。明日は早めに出ましょう。」
朋美の部屋を出て自分の部屋へ移動する。窓から外を見て、雲がないのを確認する。
「明日は大丈夫なようですね。ロザリーヒルまで行ければ土砂降りでも先に進めそうですが・・・。」
魔魚が釣れなければどうしようもない。しかし明日は晴れのようだから大丈夫だ。真人は安心してベッドに横になった。
こっちに来てから朝は6時前に起きるようになった。いろんなところが8時には始まるので、この時間に起きるのは少し遅い方だ。服を着て軽くストレッチをする。今日の体調も万全だ。
家にいる時は朝食を作っている。時々早起きしたトモさんが作ってくれることもあるが、自分の方が早く起きる日が多いので朝食を作るのは自分の役目になっていた。しかし今日は朝食を作らなくていい。でも早めに出発したい。
「おはようございます。トモさん。」
「おはよう。今行くわ。」
扉越しに声が聞こえる。真人は朋美が出てくるのを待つ。
「お待たせ。食べたらすぐに出られるわ。」
朋美も十分に休めたらしく、顔色もとてもいい。2人は朝食を済ませ、そのまま宿を出発した。
前回と同じ場所で魔魚釣りをする。やっぱり入れ食い状態だ。あっという間に依頼の数以上の魔魚が釣れた。すぐに絞めて収納へ入れる。
「今日も大漁ですね。」
「腕がいいからね~。」
冗談を言いながら短剣を鞘に納め、移動の準備を始める。
「行けるわよ。」
「では急ぎましょう。」
2人は飛ぶように歩き、夕方にはラコンを通り過ぎた。
辺りが暗くなってきたので、移動をやめてテントを張ろうという事になった。
「そういえば前回もラコンには寄らなかったわね。」
「そうですね。ロザリーヒルから先に向かうならラコンに寄る必要はないですからね。馬車で移動なら別ですけど。」
「でももしかしたら渡り人の情報を持っている人がいるかもしれないわ。」
確かにその可能性はある。
「引き返してみますか?今ならまだ間に合うかもしれませんよ?」
その言葉に朋美も迷っているようだ。その時ラコンからの馬車が通り過ぎていった。少し急いでいたようで、荒い運転の為荷物が1つ荷台からこぼれ落ちた。しかし気が付かず馬車はそのまま行ってしまった。
「あれは拾って追いかけろという事かしら。」
「そのようですね。」
落ちた荷物のところへ行き、生き物でないかを確認する。
「違うみたいね。これなら収納に入れられるわ。」
「ラコンへ寄るのは帰りですね。」
2人は馬車を追いかけるように急ぎ足で歩いた。
1時間ほど進んだが、一向に馬車には追い付けない。これ以上進むと完全に夜になってしまうので、諦めてここでテントを張ることにした。真人がテントを設営している間に朋美は魔魚を焼いていた。
「出来ましたよ。」
「こっちも出来たわよ。」
食欲をそそる匂いがする。魔魚は本当に美味しい。収納から他の食べ物を出し、一緒に食べる。
「最近遠出はしていなかったから、久しぶりで楽しいわね。」
「そうですね。今夜は星もよく見えるし、夜も退屈しませんね。」
そんな会話をしながらのんびりしていると、遠くからドドド・・・と音がする。
「魔物の気配はしませんが、ちょっと見てきます。」
「暗いから私も行くわ。」
2人が立ち上がった時にはその音はすぐそばまで来ていた。
ヒヒーンと鳴く声とどうどうと宥める声が聞こえた。馬と人のようだ。乗っているのか馬車なのかよく見えない。
「あの、すみません。ラコンから歩いてこられたのですか?」
男の声がする。
「はい、そうですが。」
「道中に何か荷物が落ちていませんでしたか?」
馬車の人だ。
「あ、もしかしてこれですか?」
朋美は収納から荷物を出した。
「ああ、それです!よかった・・・。ラコンで積んだ時にはあったのに、どこで落としたのかと思って引き返してきたのです。」
男は駆け寄ってきて、袋を開けて本当に自分の荷物かどうかを確認する。
「ありがとうございます。間違いなく私の荷物です。これがないと親方に怒られるところでした。休憩所でないのに気づいたので、慌てて戻ってきたところだったのです。本当にありがとうございました。」
男はこれから休憩所まで戻るので、よかったら乗って行かないかと言った。せっかくの申し出なのでありがたく乗せてもらうことにした。
馬車はかなりのスピードを出しているので、荷台はとても激しく揺れた。クッションをひいていたが、お尻へのダメージは半端ないものだった。30分ほどゆられて休憩所に着いた。歩くより足がふらふらした。部屋に空きがないか聞いてみたが、今日は空いてないという事だったので敷地内にテントを張った。囲いの中なので交代で見張りをする必要がなく、初めて2人でテントの中で寝た。お互いの顔がすごく近い。こんなんじゃとても眠れないと互いに背中を向けて寝ることにした。お休みなさいと声をかけ、お互いの鼓動を気にしながらやがてどちらも深い眠りについた。
馬のなく声で目が覚めた。テントから出てみると、昨日の男性が荷造りをしていた。
「おはようございます。昨日はありがとうございました。おかげで安心して眠れました。自分はもう出発しますが、あなた達も道中気を付けて下さい。」
そう言って男は御者台に乗りそのまま馬を走らせ去って行った。
「慌ただしい人でしたね。」
定期馬車の人たちもちらほら起きてきた。朋美たちはテントを片付け、収納から野菜スープとサンドイッチを取り出し食べた。何やら視線を感じる。もしやと思ってちらりと見ると、やっぱり硬いパンをかじっている人たちから見られていた。早々に食事を終え、ロザリーヒルに向かって馬車より先に出発した。
予定よりかなり早くロザリーヒルに着いた。荷物を落としてくれた人にこちらも感謝する。すぐにボナ行の馬車にも乗れたので、夕方には王都へ着くはずだ。
「3か月ぶりかしら。」
「そのくらいぶりですね。」
馬車に揺られながら流れる景色を眺めていた。すっかり春の顔になっている。花の薫りが時々してくる。白やピンクの蝶々のようなものが飛んでいるのが見える。この世界でも四季を感じられるのはいい。昨日の馬車と違ってゆっくり進む。歩くのもいいが、こうやって景色を眺めながら運んでもらえるのもまたいいものだ。
最後の緩やかなカーブを曲がり、王都へ着いた。太陽は西の空に傾き始めていた。しかし
春になったので、人々はまだ沢山出歩いていた。前回とは違い、街はとても賑やかだ。服1枚分薄着になった人々が笑顔で行き来している。冒険者の数も多い気がする。泊まれないと困るので、すぐに前と同じ宿を1週間取った。その後早速ギルドに依頼の魔魚を届けに行った。
「たくさんの魔魚、ありがとうございます。これだけの数を捕るのは大変だったでしょう。」
まさか魔剣で釣り上げたとは言えず、はい大変でしたと答えておいた。
「ビッグフロッグといい魔魚といい、トモーミさんは水系の魔物は得意のようですね。」
まさか覚えられているとは思わず、少し恥ずかしくなった。
「そんなことはありませんよー。」
そそくさと真人の陰に隠れる。そんな朋美の手を握り、真人はさっさとギルドを出て行った。
「すみません、手なんか握って。」
ギルドを出てすぐに手を放す。
「ん、大丈夫よ。これ以上職員の人と話してたら魔法の話になったかもしれないし。連れ出してくれて助かったわ。」
前を歩く真人がとても逞しく見えた。朋美はゆっくり手を伸ばし、真人の左手にしがみついた。
「と、トモさん・・・。」
「こんなに人が多いんだもの。はぐれたら困るでしょ。」
言い訳をしながらそっと真人の腕に頭を寄せる。真人は顔が緩むのをこらえながら、平静を装い歩き続けた。
すっかり日が沈み、辺りはすっかり暗くなっていた。それでも人ではさほど減らず、街は賑やかなままだった。
「これからどうしますか?」
「どこかに食事に行かない?宿の食事は居酒屋みたいだから、レストランみたいなところに行きたいわ。」
まだ腕を組んで歩いている。左腕から直に伝わる体温が真人の心拍数を上げる。真人の人生において今が幸せの絶頂期だ。このまま歩き続けたいと思っていたが、意外と近くにレストランがあった。
「ここにしましょう。」
幸せな時間が終わってしまった。朋美はするりと腕を抜き取り、店の扉を開ける。取り残された真人は少し寂しさを感じながらその場に立っていた。
「2人は入れるって。」
手招きして店の中に入る朋美の後を追うように店に入る。店の喧騒が飛び込んでくる。
真人は現実に引き戻されたようだ。




