新生活
手袋が出来たと連絡を受けたのですぐにガーディアンへ向かった。
「あの縫い目を見たら自分では無理だと思ったのでほかの人に縫ってもらいました。」
正直だ。製作権を渡しているので誰が縫おうと構わない。早速手にはめてみる。手を開いたり閉じたりして確認する。いいはめ心地だ。
「とてもいい感じです。少しいいですか。」
広い場所へ移動し、空手の型を披露する。ひゅんひゅんと風を切る音がする。
「うん、やっぱりいいです。」
満足な笑みを浮かべる。
「支払いをお願いします。いくらになりましたか。」
「製作権ももらったし、今回は材料費だけでいいや。」
「それでは申し訳ないです。せめて」
「いい勉強させてもらった。ありがとよ。あいつも誤解が溶けたようだし。」
親方も満足しているようだ。
「それではありがとうございます。」
そう言って真人は提示された金額を支払った。
「どんどんランクアップして、そいつを宣伝してくれな!」
そう言われて店から送り出された。
「さあトモさん、シェスナへ向かいましょう。いい部屋があるといいですね。」
「湯船が付いてるお風呂があるところね。ゆっくり入りたいから。」
「もちろんです。」
その後マリウスには会えなかったので、結局今回は一緒に飲みに行くことはかなわなかった。次に王都に来た時には是非と手紙を書いて渡してもらった。
「魔魚は釣って帰りましょう。」
「あれは美味しかったです。是非そうしましょう。」
途中で依頼を受けながら、2人はシェスナまで戻ってきた。
「まあ、この町に住みたいって!?」
フィフィーは驚いて声を上げた。
「冒険者家業をしていたら、根を下ろすならグリージアの方がいいんじゃないかい?」
「いえ、この町がいいんです。とても住みやすそうだし。」
「そうかい?それじゃあそういったことに詳しい人を紹介してあげるから、ちょっと待ってておくれ。」
フィフィーは店を出て行った。暫くして、男の人を連れてきた。
「この町に住みたいというのは君たちか?」
「はいそうです。」
「ご夫婦で済むならいずれ子供も生まれるだろうから少し大きめの家を・・・。」
「ふ、夫婦じゃありません。仕事のパートナーです。」
顔を真っ赤にして朋美は言う。隣にいる真人も少し顔が赤い。
キッチンではガンドが笑っている。
「ああそうですか。それではどのような部屋をご希望ですか?」
「それぞれの個室があって、それとは別にくつろげる部屋が欲しいです。キッチンと食事をする部屋があって、浴槽のあるお風呂を希望します。」
「浴槽がある風呂ですか。今はそんな物件はないですね。」
「ないって、お風呂がないんですか?それとも浴槽があるお風呂がないんですか?」
「風呂はあります。浴槽がないんです。」
朋美はしばらく考える。
「それじゃあ広い風呂場がある物件はありますか?」
「広い風呂場ですか・・・あー、ありますね。少し古いですけど。」
早速そこに連れて行ってもらうことにした。
町の西側に来た。古い家が多い所だ。
「ここになります。」
レンガ造りの庭付きの小さな戸建てだ。玄関を入ると左側にキッチンがある。1階の奥にトイレと風呂場、風呂場の入り口の左側には2階に上がる階段がある。部屋の右側には暖炉もある。階段を上がり、2階の部屋を見る。部屋は2つ、両方にクローゼットがついていて、小さな納戸もあった。
「広くていい部屋ね。」
どちらも8帖ほどあり、日当たりもよさそうだ。1階に降りて風呂場を見る。
「ああ、広いですね。」
「そうでしょう。浴槽が置きたかったら自分たちで設置していいですよ。」
なるほど、それでこの家を紹介してくれたのかと納得した。
「この家で家賃はおいくらですか?」
「月に大銀貨3枚です。建物が古いのでこの金額ですよ。」
「自分は問題ないですね。暫く住むにはいいと思います。トモさんはどうですか?」
少し考えてみる。
「そうね。暫く住むにはいいわね。食事も作れるようになるから、ここにしましょう。」
2人は即決し、家を借りることにした。
「まずベッドとテーブルセットね。それから食器と・・・バスタブはどこで買えばいいのかしら?」
「多分売ってないと思いますよ。オーダーメイドですね。」
食器はシェスナで買えるが、家具はグリージアへ行かなければ店がないらしい。早速グリージアへ出かけた。
家具屋へ行ってベッドを2つ、それぞれの部屋用に気に入ったデスクセット2つ、4人掛けのダイニングテーブルセットを1つ、キッチンカウンターを1つ買った。浴槽はやはり売ってなく、鍛冶屋で作ってもらうことになった。
「お風呂が一番高いわね。その分納得のいくものを作ってもらわなくっちゃ。」
「そうですね。入ったらすぐに疲れが飛ぶくらいいいやつをですね。」
オーダーメイドなので出来上がるまで浴槽には浸かれない。シャワーで我慢するか、温泉に入りに行くかだ。
「どうせ今日はベッドも届かないから、小さな花かごへ泊りましょう。温泉付きですよ。」
「そうね。晩御飯もあそこで食べてゆっくりしましょう。後は食器とお鍋と鏡を買わなくちゃ。」
「そうですね。こっちで買って帰りましょう。」
雑貨屋へ寄って帰ることにした。
翌日は朝から新居の掃除だ。午後には家具が届くので、それぞれ置く場所を決める。
「布団はこっちに店があるって言ってたわね。収納に入れて運べるから、掃除が終わったら買いに行きましょう。」
「庭の草刈りもしなきゃいけませんね。」
そんな話をしていると、玄関をノックする音が聞こえた。
「はい、どなたですか?」
家具屋にしては早い。扉を開けるとアーヤが立っていた。
「お帰りなさい。ここに住むんですってね。」
「アーヤ!」
思わず朋美は飛びついた。
「うん、しばらくこの町でゆっくりすることにしたの。もちろん依頼は受けるけど。」
この町はグリージアの依頼も受けられるから意外と仕事が多い。
「あ、これお土産。」
収納からミヤコでもらった緑茶葉を出す。
「まあ、緑茶ね。こっちでは初めて見たわ。」
「王都の先のミヤコってところで渡り人だった人が栽培してたの。お願いしたら分けてくれたのよ。」
「まあ、それはよかったわね。でもいいの?こんなに頂いて。」
「いいのいいの。アーヤのお土産用にもらったんだから。」
楽しそうに会話をする朋美を見て、真人も嬉しそうだ。
「自分は庭の草刈りをしていますね。」
「あ、先に買い物に行きましょうよ。草刈りは戻ってからにして。」
3人とも外に出る。
「まあ、日当たりのいい庭ね。何を植えるの?」
何も考えていなかった。
「え、植えないの?それじゃあここ、私が借りていい?」
薬草を植えたいらしい。特に問題ないので庭はアーヤに貸すことにした。
「私たち依頼を受けて家を空けることもあるから、防犯もかねて定期的に来てね。」
玄関前の小さな庭は薬草畑になることになった。
寝具を買うのにアーヤもついてきた。
「この素材はすぐにへたるわよ。こっちは向こうで言う羽毛ね。」
色々教えてくれた。これから寒くなるけど、シェスナでは雪は降るけどほとんど積もらないらしい。夏もそんなに暑くないから、冬に1枚余分に上掛けがあればいいそうだ。
キャッキャと楽しそうにいろんなものを選ぶ2人を見て、
「姉妹みたいですね。」
と真人が言った。
「うん、頼りになるお姉さんみたい。」
と朋美が即答した。アーヤも
「私もこんな妹が欲しかったの。ふふ、嬉しいわ。」
と合わせる。
トモさんは一人っ子だから嬉しいんだろうな。アーヤさんもそうなのかな。本当に姉妹のように仲がいいな。
ふっと弟の事を思い出した。
元気にしているだろうか。自分がいなくなったから、今頃両親は慌てて尚人を大事にしているかもしれない。
「真人、こっちとこっち、どっちの柄がいい?」
シーツを2枚持ってきた。
「替えに両方買ったらいいんじゃないですか?」
「えー、それじゃあこっちに来て自分のヤツ選んでよ。」
呼ばれてシーツの中から自分の好みの柄を取り出した。
「真人はこれね。私はこの柄にしたの。」
お揃いにしたかったのに、違う柄を選んでしまった。
次にアーヤがよく行く食材の店に行った。あっちのスーパーみたいなところだ。調味料や食材を買う。
「こっちは家庭用冷蔵庫がないから、魚や肉は都度買わないといけないから面倒なのよね。冬場は寒いからいいけど、夏場は腐っちゃうもの。」
「それじゃあ魚は干物にするしかないですね。」
「・・・干物を自分で作るって発想がなかったわ。」
アーヤは魚をそのまま調理することしか考えてなかったらしい。突然真人が笑い始めた。
「どうしたの?真人。」
「いえ、その反応がトモさんそっくりで。」
アーヤは恥ずかしいのか赤くなった。
午後になって家具が届いた。あらかじめ決めておいた場所に設置してもらう。
ベッドの上に布団を出してシーツをかける。デスクを置き、鏡を壁に取り付ける。キッチンの棚には調味料と食器を並べ、鍋を空いたスペースに置く。
「うん、人が住んでる家って感じになったわね。」
アーヤは早速庭に薬草を植えている。
「助かるわ。薬草って結構使うから、取りに行くの大変なのよ。師匠もそれがあってあの村に移り住んだのよね。」
リルーディの家の裏は広大な薬草畑らしい。アーヤが今住んでいる家はリルーディが以前住んでいた家で、3階で薬草を栽培しているが面積が狭いのでそんなにたくさんは植えていないそうだ。
「薬草じゃないけれど、これって使うかしら?」
朋美は収納からビッグフロッグを出してアーヤに見せる。
「まあ、立派なビッグフロッグ!こんなのどこで捕まえてきたの?」
依頼を受けて大量捕獲したことを話した。
「私たち薬師が使うのは肝と油壷って呼ばれる部分ね。肝の横にあるって聞いたわ。その部位しか見たことないから分からないけど。」
「それじゃあ解体しますよ。」
手際よく真人が解体する。綺麗に皮と身と内臓に分けられた。
「凄いわね。これが解体スキルって言うやつなのね。」
アーヤは感心していた。朋美は解体が出来ないので小さくなっていた。
「これが肝ですね。これが油壷ですか?」
丸い液体が入ったような部位があった。間違いないというのでそれを渡した。
「そういえばこのお肉、食べられるって聞いたわ。鶏肉みたいに柔らかいそうよ。」
確かにぷよぷよしている。あっちでも食用の蛙がいるのだから、多分大丈夫なのだろう。
「今夜焼いて食べてみますか。」
沢山あるのでアーヤにもお裾分けした。アーヤは喜んですべて家に持ち帰った。




