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こっちで元気にやってます  作者: 楠 螢
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それぞれの職人

オーディンはクルケスを訪ねていた。真人から頼まれた手袋を作るヒントをもらうためだ。

「その冒険者は拳で殴るだけじゃないんだな。そうか。防御も兼ねた武器ってとこだな。難しい注文だな、これは。」

「そうですね。そうなると武器屋の範疇なのでしょうが・・・。」

「だよな。しかし手袋を武器に使うっていう発想がそもそもないからなぁ。いや、武器に手袋をつけるのか?」

そんなことを言い合いながら武闘タイプの武器を一通り並べる。

「少ないですね。」

「ああ。武闘タイプは自分の体が武器みたいなものだからな。あれこれつけるのを嫌がるのさ。でもこれを使う冒険者が上位クラスになると、きっとこいつは飛ぶように売れるぞ。」

「そうなるとやっぱり武器屋で作ることになるんですかね。」

「だから武器屋で手袋は作らないって言ってんだろ。」

そんなやり取りをしながら手の可動範囲を確認する。

「これはどうしても横につけなきゃいけないのか?」

「依頼主から言われたので。」

「でもよ、こっちにした方がよくねえか?説明すれば納得してくれないかなぁ。」

似たようなパーツを持ちより、向きを変えたりしてやってみる。

「安いやつで両方試作品作ってみろよ。利き手の分だけでいいからさ。」

「そうですね。ちょっとやってみます。ありがとうございます。」

アドバイスを得てオーディンは嬉しそうに職場へ戻って行った。

「血は争えないなぁ。」

クルケスは走り去るオーディンを見てそう言った。



「お父さん、お兄ちゃんはいつ帰ってくるの?私、早くお兄ちゃんに会ってみたいな。」

ティアナが生まれた時にはすでにオーディンは家を出ていた。王都で働いていた父がサンシュテール王国の外れにあるリスデンに店を出したのは、父が店をクビになったからだとオーディンは思っていた。家族3人で王都から長旅をしてリスデンに着いた。家族でドルディンの生まれ故郷に帰ってきたのだが、オーディンは夜逃げしたと思っていたのだ。そしてそんな勝手な思い込みで父を嫌い、父より腕のいい職人になると言って王都へ家出した。そして偶々父が務めていた防具屋へ弟子入りし働いていたのだ。

親方はオーディンがドルディンの息子だと知り、定期的に手紙を書いて息子の成長を知らせてきた。しかしドルディンから手紙を書くことはなかったので、ティアナの存在を知らなかったのだ。

「そうだな。母さんの具合もよくないから、顔を見せにくらいは戻ってきてもらいたいものだな。」

そう言いながら黙々と防具を作っていく。

「王都か。お前は行ってみたいか?」

「ううん、私はお父さんとお母さんがいるところがいい。」

「そうか。それならいつまでもいろ。」

作業する手を止める。王都の方を向き、息子の成長を願う。

「母さんが元気なうちに帰って来いよ。」

独り言のように呟き、また作業を続ける。



鏡の前でアーヤはあることに気が付く。

「まずいわ。すぐに師匠のところに行かなくては。」

フードを被り、戸締りをして出かける。行先はリルーディがいるツェンだ。アーヤは渡り人であることを隠して生活している。そして同じ渡り人の朋美たちにも隠していることがある。町を出て魔よけの薬を衣類にかけ、急ぎ足でツェンに向かう。


「師匠、私です。」

「アーヤかい、お入り。」

中に入り、扉に鍵をかける。フードを外し、リルーディの前へ行く。

「そろそろだと思ってたよ。はい、あっちで使いな。」

牛乳瓶ほどの容器に入った薬を渡す。

「ありがとうございます。早くこれが作れるようになるといいのですが。」

貰った薬を握りしめ洗面所へ行く。その間にリルーディはコーヒーの準備をする。お湯が沸き、コーヒーの上からゆっくりとかけ粉を湿らす。その後円を描くようにお湯を注ぎ、下にあるフラスコにコーヒーが落ちてくる。それを保温しながらアーヤが来るのを待つ。

「やあ、出来たようだね。こっちも出来てるよ。」

コーヒーの香りが部屋中に広まっている。リルーディはコーヒーをそれぞれのカップに移し、テーブルへ持ってきた。

「どうしても私が作ると明るい色になってしまうのです。」

「魔力の制御が後少しなんだろうね。今日はここで特訓をしていくかい。」

「はい、お願いします。」

コーヒーを飲みながら今日の予定を立てていく。

「それじゃあまず薬草を取りに行こうかね。それから特訓を始めるよ。」

薬の調合は薬草の種類や質の他に、作る時に使う魔力の量によっても微妙に変わってくる。

「同じものが作れないとお前が渡り人であることがばれてしまうからね。しっかり調整できるようにならないとね。」

真っ黒な髪と瞳では目立つので、せめて髪だけでもこっちの人と同じに見えるようにと、リルーディが自分と同じこげ茶色に染めさせたのだ。そしてこの毛染めこそがアーヤが作れない薬なのだ。どうしても赤茶色の毛染めにしかならない。魔力の量の調整がうまくいかないのだ。

「アーヤが作る色だと黒い瞳が目立ってしまうからね。早くマスターするんだよ。」

「はい、師匠。精進します。」

アーヤはコーヒーを飲み終わり、裏庭に薬草を採りに行く。

「さて、始めるか。」

リルーディは食器を片付け、作業場へ移動した。


アーヤの採ってきた薬草をすり潰し、試験官の中へある薬品と一緒に入れる。

「さあ、ゆっくり魔力を流してごらん。」

試験官の上に指を当て、そこから中の液体に向かって魔力を流す。

「あっ。」

「早すぎだ。ハイ次!」

ゆっくりゆっくり魔力を流す。

「焦らずゆっくりだよ。細長い糸のようにゆっくりゆっくり。」

試験官の中を魔力が針に通す糸より細く流れていく。液体の下の方から色が変わっていく。

「もっと細く!そしてゆっくり。」

ゆっくりゆっくり緊張で指が震える。液体の色が絵の具の色が混ざり合うように乱れる。

「だめ!次!」

根気強く、丁寧にずっと魔力を流し続ける。特訓は夜になっても終わらず、結局アーヤはリルーディの家に泊まることになった。

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