ミヤコ観光
馬の軽快な走りのおかげで予定より早く着いた。収納に入れていたので生ものも新鮮な状態だった。シオンは朋美に感謝し大きな声でお礼を言う。
「まあ、随分とお世話になったようですね。ありがとうございます。」
その声を聞きつけ、店の奥から母親らしき小柄な女性が出てきた。赤い髪に茶色の瞳。どうやらシオンは父親似らしい。いや、小柄な体つきは母親似か。
シオンと従業員は次々と店に仕入れた商品を並べていく。そのうちの1人は配達の準備をしている。
「はあ、やっと終わった。2人とも今回は大変お世話になりました。少ないですが依頼料です。」
そう言ってシオンは大銀貨を2枚出した。
「本来ならもっとお渡しするべきなのでしょうが、そんなに儲けのある商売ではないのでこれで勘弁して下さい。」
とても申し訳なさそうに言う。ギルドを通しての依頼でもないし、暇つぶしと言えば語弊があるが、がっつり仕事をしたかったわけではないので全く気にしていなかった。
「いえ、大丈夫ですよ。私たちこの町は初めてなので、少し観光して帰りますね。」
「それなら南の公園の横にある記念館は是非足を運んでください。この町を作った人の記念館なんですよ。1人で土地を開拓して町を作った素晴らしい人です。記念館はその偉業をたたえて作られたものです。」
同じ日本人が作った町だ。せっかくなので見に行くことにした。
記念館は10帖くらいの狭い建物だった。渡ってきた時の様子や開拓の苦労話などを書いた紙や開拓に使った道具、手伝ってくれてた人が寄付してくれた道具などが展示してあった。その一番奥にその人の等身大の銅像があった。
「着物だね。結構昔の人なのね。」
「髪形はこっちに来てからのですよね。だって丁髷じゃないですから。」
渡り人は侍だったのか、刀も展示してあった。
「歴史を感じますね。」
どんな思いで魔物もいるこの土地を開拓したのだろうか。2人は銅像を見ながらいろんな思いを巡らせた。
その後町を歩いて回ったが、これといった観光名所はなかった。ただ建物は古い和風のものが多く茅葺屋根の家が多かった。食事処も畳もどきのスペースがありうどんが食べられた。2人は早速うどんを食べた。
「スパゲティとかもいいけど、うどんはありがたいわね。」
真人は肉うどん、朋美はごぼう天うどんを食べた。
「久しぶりに和食を食べた気がします。シェスナの宿のあの朝食依頼ですね。」
出汁はしっかりしているうどんだった。シオンの店で必要なものは揃えているらしい。2人は久しぶりのうどんを堪能し、そろそろ王都に戻ろうとシオンの店に顔を出した。
「ああいらっしゃい。母が是非お話がしたいと奥で待っています。どうぞ上がって下さい。」
折角なのでお邪魔させてもらうことにした。店の奥は自宅になっている。
「お邪魔します。」
靴を脱いで家へ上がった。
「よくおいで下さいました。何にもございませんがどうぞ。」
お茶と見慣れたお菓子が出てきた。
「わあ、カステラ!」
思わず言葉が出た。
「ああ、やっぱりご存じですね。あの人の好物でした。喜んでもらえてよかったです。召し上がって下さい。」
こちらでは砂糖類が高いせいか少し甘さは控えめだが、緑茶によく合う味だった。
「ここでは緑茶も飲めるのですね。」
「ええ。元々紅茶と緑茶は同じ茶葉だからとこっちの紅茶の木を使って茶畑を作ったんですよ。今でもあの人が教えてくれた製法で自分の家の分だけは収穫して緑茶を飲んでいるんですよ。」
自分の家用の茶畑があるとは驚きだ。しかも紅茶と緑茶の茶葉が同じものだと知っているとは、かなり博識なのだろう。
「手入れは大変だけど、あの人が一生懸命作ったものなので子供達にも伝え続けたくて。今は畑の方は兄のレオンがやっていて、店は弟のシオンが頑張ってくれているのです。」
普通なら上の子が店を継ぎそうなものだが、職業適性なのだろう。
「あの、この緑茶の茶葉を売ってもらうことは出来ますか?」
アーヤにも飲ませてあげたい。そう思って聞いてみた。
「こんなものでよければお分けしますよ。ちょっと待って下さいね。」
そう言ってシオンの母は瓶に緑茶の茶葉を詰めてくれた。
「こんなに沢山くださって、ありがとうございます。」
いいお土産が出来たと朋美は満足した。
「行ってよかったですね。」
「ええ。よかったわ。」
歩きながらそんな話をする。すっかり身体強化して歩くのにも慣れたので、馬車に乗ることも減ってきた。お尻が痛いので乗りたくないのが本音かもしれないが。
「そういえばこの街道を少し外れると鉱山があるそうですよ。魔物が出るので今では冒険者を雇わないと入れないそうです。自分で取ってきた鉱石で武器を作ってもらう冒険者もいるそうですよ。」
「マイさんたちが潜った洞窟もそんな感じなのかしら?」
マイは大剣だから、結構な量の鉱石が必要なのだろう。勝手に想像しながら王都へ向かう道を進んでいた。
ミヤコから王都へ戻り、防具屋へ寄ってみた。まだ素材を思案中とのことで、形も出来ていなかった。
「今の手袋は甲の部分がほぼ全部メッシュよね。ナックル何とかみたいにするとどうなの?ほら、護身用で売ってるあれ。」
「ナックルダスターですね。自分としては素手に近い感じがいいですね。でも指の甲の部分はメッシュじゃなくても大丈夫ですね。」
オーディンの前でそんな話をする。
「ナックルダスターって何ですか?」
そもそもそういう武器がないらしい。絵をかいて説明する。オーディンは何か閃いたのか、急にその場を離れて鉱物を見比べ始めた。それから紙に何かを書き始めた。
「こんな感じでどうですか?」
デザイン画だ。元々の手袋に第2関節から指の付け根まで何かの金属板で覆い、甲の部分はメッシュになっている。それを見た真人は甲の部分に横に線を引き、
「もしここの金属が曲がるようなら、ここにも同じものを入れられませんか?この部分で打撃を与えることがありますから。」
その意見にオーディンはふむふむと頷きそれを書き加える。
「後はこの部分の強度としなりですね。」
熱心に打ち合わせをしているオーディンに親方が助言する。
「武器屋の意見も聞いてみろ。もっといいアイディアが出てくるかもしれないぞ。後でクルケスのところに行ってみろ。」
親しい武器屋の名前だろう。
「はい、わかりました。」
オーディンは元気に返事をする。そして手を握ったり開いたりしながら何かを確認していた。
「そういえば鉱石の採掘も時々依頼にあるそうですよ。一般的なものは護衛を頼んで取りに行くより冒険者に頼んだ方が楽だからって理由だそうです。見分けがつきにくい物や特殊なものは職人さんが直接見たいからって護衛を頼むらしいです。」
「それも面白そうね。」
「時々宝石が出るらしいですよ。」
「わー、やっぱり面白そう!岩の中にキラキラ光って埋まってるのかしら?」
朋美はブリリアントカットされた宝石が埋まっているのを想像しているようだ。
「いや、原石はそんなにキラキラしてないと思いますけど・・・。」
「あ・・・、そ、そうよね。」
冷静になって恥ずかしくなった。すぐに両手で顔をふさいだが、耳まで真っ赤になっていた。
「またミヤコにうどんを食べに行きましょう。その時あの鉱山に寄ってみましょうか。」
うどんを食べに・・・きっと行く機会があると思い、朋美はこくりと頷いた。




