大きな収納
南門を出て1時間ほど歩くと目的の洞窟があった。丁度昼前なので、持ち合わせたパンを食べて入ることにした。
「やっぱりパン以外の物も入れておいた方がいいわね。」
味気のないパンと紅茶だけではお腹いっぱいになった気がしない。仕方がないが、今日はそれで我慢することにした。
食事を終え、軽くストレッチをする。朋美もスマホを充電する。
「さあ、行きましょうか。」
2人きりでの初の洞窟潜入だ。広めの洞窟なので横に並んで進む。手が空くようにスマホは紐をつけて首から下げた。
「中々明るいですね。スマホ、売らなきゃよかったかな。」
「でもあの時売ったおかげでそれなりの装備が買えたから、結果的にはよかったんじゃないかしら。」
一本道の洞窟の中をどんどん進んで行く。途中で下り坂になり、そのまま道なりに進んで行くと水の流れる音がする。
「この地下水路の向こう側に目的のものがあるようですね。」
洞窟の地図を渡されていたので、場所を何度も確認する。
「浅い所を探しましょう。自分が抱えて渡りますから。」
「いや、狭い所を探しましょう。」
ライトで川を照らし、川幅が狭い所を見つける。真人も意味が分かったのでそれに従う。
「ここがよさそうね。えい。」
一瞬で川を凍らせる。そして凍った川の上を向こう岸まで渡り、炎を使って氷を溶かす。川は何事もなかったように流れている。
そのまま進み、依頼の1つ『薬草採取』を終える。それからしばらく歩き、次の目的地の手前までたどり着く。
「この先に大量依頼のあれがいるんですね。」
「ええ、あれがいるのね。集団で生活しているらしいから、かなりの数いるのよね、きっと。」
先ほどから鳴き声が聞こえている。寒いこの時期は洞窟の中で生活をしているので、地上には出てこないそうだ。
「どうやって仕留めましょうか?あれは寒さに弱いから、氷漬けにしちゃおうか。それとも雷で感電させる?」
「氷漬けだと一瞬で終わりそうですね。でも魔法の形跡が残りませんか?」
「グリーンイグアーナの時みたいに後で氷を溶かしちゃえばいいのよ。どうせあいつら両生類だから、多少濡れてても大丈夫でしょ。気になるなら火で乾かしちゃうわよ。」
魔力が高いので魔法使いたい放題だ。
「その案でいきましょう。でも中の状態が分からないのでライトで照らして見てみますか。」
2人そろって奥の部屋をライトで照らしのぞき込む。ライトを反射したたくさんの目がギラギラと2人を見ている。余りの数に2人ともその場に固まった。
「う、凄いです。想像以上ですね。」
真人がそう言った瞬間、目玉が2人の方に向かって飛んできた。
「きゃー、無理無理無理!」
慌てて朋美が後退する。流石の真人も驚いてその場から離れる。ゲロゲロゲロと鳴きながら、雪崩のように巨大な蛙の群れが2人を襲う。
「トモさん、落ち着いてお願いします!」
しかし朋美の耳には届かない。無数の蛙に襲われて錯乱状態だ。真人は必死に蛙を殴りながら朋美の方へ向かう。
「イヤー!」
朋美は必死になって蛙に向かって水をばらまいている。
「トモさん!」
真人が朋美を抱きしめる。ハッと我に返った朋美は真人の肩越しに見える蛙を片っ端から氷漬けにしていった。
「はあ、はあ、はあ・・・。」
2人は座り込み肩で息をし、自分たちの周りに転がっている蛙を見る。
「こんなに大きい蛙だったなんて。ビッグフロッグとはよく言ったものね。」
30~50cm位の黒い蛙だ。腹側は黄色く、緑色の縦線が入っている。
「この緑の線のところに特殊な薬になる素材があるらしいですね。油も取れるって言ってましたよ。」
「有名なガマの油かしら?」
「きっとそうですよ。」
やっと冗談が言えるくらいの余裕が出てきた。凍っているので朋美でも触れると、数を数えることにした。
「50、51、52。」
「あと30匹くらいですね。自分がおびき出してきますよ。」
「お願いするわ。はい、スマホ。」
スマホを受け取り、紐を首にかける。
「では行ってきます。」
蛙の巣に向かってライトを照らして歩き出した。2度目は冷静に対処が出来た。走って戻ってきた真人の後ろから蛙が群れを成して追ってくる。通路から出てくる蛙を1匹ずつ氷漬けにし、真人が蹴って場所を開ける。2度目の団体様でノルマを達成した。
「水から氷まで出せるなら、直接お湯は出ないのでしょうか。」
真人は疑問に思って朋美に聞いた。
「そういえばそうね。ちょっと試してみるわ。」
魔力を練り、お湯をイメージする。氷が解けるくらいのお湯・・・両手を前に出し、魔力を流す。勢いよく水が噴き出す。湯気を纏った水は次々に蛙の氷を溶かしていった。
「やっぱり出るんだー。魔法って凄いね。」
びしょびしょになった蛙に向かって、次は風を送って乾かした。
「風魔法が使えるようになったのですか?」
「ええ、最近ね。火属性が使えるようになった時に、多分使えるようになるんじゃないかと思ってね。実はこっそり練習してたのよ。」
驚いて尋ねる真人に当たり前のように答える。
「でも誰にも言ってないわ。だって知られると厄介でしょ?」
知られたら貴族どころではない。ルイーシュの話を聞いた後だからなおさらだ。
「その通りですね。絶対に知られてはいけませんね。」
そう言っている間に蛙を綺麗に乾かし、収納へ次々と放り込んだ。
「それじゃあ地上へ戻りましょうか。明日までかかると思っていましたが、早く終わってよかったです。」
来た道を戻っていく。もちろん川は凍らせて渡った。洞窟の外に出たら、すでに日が暮れていた。このまま戻ってもギルドは開いているが、まだ依頼を受けて数時間しかたっていない。
「あんまり早いと指名依頼がきちゃうかもね。明日持って行きましょうよ。」
「そうですね。トモさんの魔法がなければもっと時間がかかっていたのでしょうし、このまま戻ってギルドへは明日の朝行きましょう。」
強化した足で1時間歩き、南門をくぐった。
翌朝はゆっくり過ごし、ギルド顔を出した。カウンターに依頼品を出すと非常に喜ばれた。
「もう終わったのですか?随分と早かったですね。助かります。あの依頼は受ける人がいなくて随分と残っていて、こちらも困っていたのですよ。しかも2件も。本当にありがとうございました。」
確かにあの状態を知っていたら、自分たちもこの依頼は受けなかっただろう。報酬が多いのは魅力的だが。
「何かほかに依頼を受けられますか?これはいかがでしょうか。」
職員が色々と勧めてくる。
「自分たちは今遠出が出来ないので、近場で済ませられる依頼はありませんか?」
その時1人の男性がギルドへ飛び込んできた。
「すみません、これからミヤコへ行くのですが、荷物が多くて馬車に詰めません。それなりに大きな収納をお持ちの方をすぐに紹介してもらえませんか?」
どうやら商人のようだ。仕入れした商品が予定より多かったのだろう。職員は手際よく依頼内容を聞く。
「荷物の大きさ、護衛依頼の有無は?」
「荷物は大コンテナが3つ、小コンテナが2つです。護衛は・・・。」
どうやらたくさん仕入れたので持ち合わせが少ないらしい。
「その金額だと護衛なしでも厳しいですよ。もう少し出していただけませんか?」
商人は困った顔をしている。収納が大きい人をすぐにとは、かなり無理な依頼だ。
「そうですよね。はぁ、困ったものだ。」
風船のように膨れた頬がしぼむかのようにため息をつく。
「ここからミヤコまでは馬車でどのくらいかかるのですか?」
真人が尋ねる。
「馬車ですと2時間くらいですよ。」
職員が答える。帰りも馬車を使えば往復4時間。しかしこの依頼は一方通行だ。移動予定の冒険者なら受けるかもしれない。
「そのサイズが入る収納をお持ちの方を指定すると、通常はこの位です。それに今すぐとなりますと声掛けをしても現れる可能性は低いです。特急料金も追加となりますし、この位は上乗せになります。」
職員は料金表を承認に見せる。自分たちには見えないが、かなりいい金額のようだ。
「ああー、馬車をもう一台借りないとダメか。しかし馬車も前金だし、帰りの分も負担しないといけないし・・・。」
商人の男性は困り果てていた。
「あのー、この方の依頼を直接受けてもいいですか?」
朋美が職員に尋ねる。
「それは構いませんが、帰りは自腹ですよ?」
男性は藁にも縋る思いで必死になって朋美に頭を下げる。
「お願いします!生ものもあるのですぐに出発したいのです。あちらに着いたら上乗せしますので是非お願いします。」
「では交渉はギルドの外でお願いします。ここでだと仲介手数料を取らなければいけなくなりますので。」
にこやかに入口を指さし、通常業務を始めた。
「荷物はこっちです。いやぁ、助かりました。ちなみにどの位入りますか?あ、自分はミヤコのナガサキという店の者でシオン・キノシタと申します。」
「キノシタですか?」
「はい。こんな字を書くと教えられたのですが、自分には読めません。」
父が書いてくれてたという紙を見せてくれた。『木下』と漢字で書いてある。
「父が先日亡くなり、店を継いだばっかりなんです。まさかこんな急に亡くなるとは思っていなかったので、もうてんてこ舞いです。」
そう言って馬車のある場所へ案内してくれた。
「それでお2人の収納にどのように分けて入れるのですか?」
2人とも収納持ちだと思われたらしい。
「あ、収納があるのは私だけです。彼はパートナーです。」
それを聞いたシオンは少し困った顔をした。
「護衛は予定していなかったのでその・・・。」
「お金のことですか?収納の依頼分だけで構いませんよ。生ものがあるのでしょう、早く出発しましょう。」
そう言われて急に顔が明るくなった。
「ありがとうございます。荷物はこっちです。」
乗せられないコンテナの他に、馬車の荷台には山のように荷物が積んであった。馬は1頭。
「これはかなり無理があるのではないですか?」
どう見ても途中で馬がばてそうだ。
「いや、こいつはかなり力があるので大丈夫ですよ。ではそっちのコンテナをお願いします。」
そう言ってシオンは御者台へ乗り込む。
「お2人は荷物の間に適当に座って下さい。」
座ってと言われても足場もない。とりあえず荷物の箱の上に座る。
「では出発します。落ちないように気をつけて下さいね。」
馬車を出す。馬はゆっくり進み始めた。
町を出て10分程進んだ所で、やはり馬がばてた。
「おい、まだ先は長いぞ。頑張れ!」
シオンは馬を励ましているが、馬は一向に動く気配がない。朋美と真人は顔を見合わせ
「やっぱり・・・。」
と小声で言った。
「シオンさん、他の荷物も収納へ入れましょうか?そうしたら軽くなるから馬も頑張れると思いますよ。」
「え、トモーミさんの収納はまだ入るのですか?」
驚いた顔で聞かれた。
「はい、これ全部入りますよ。」
朋美は収納に荷物を入れる。一瞬で荷台の荷物がなくなった。
「あ、ははは・・・。こんなに入る人、初めて見ました。」
シオンは驚いて腰を抜かしそうになった。
荷台が軽くなった分、馬は軽快に進んで行く。
「そうですか。お2人は父と同じ渡り人だったんですね。」
シオンは渡り人の子供だからか、黒髪に黒い瞳だ。背も低く、朋美と同じくらいしかない。
「ミヤコとはあちらの世界風の名前のようですが、やっぱり渡り人が多いのですか?」
気になったので聞いてみた。
「多くはないですよ。町を作った人が確か渡り人だったとは聞きましたが、その後はいないと聞いています。父は町の名前を聞いて移り住んだと言っていましたね。店の名前は父の出身地だそうです。」
残念ながらこちらの欲しい情報は得られそうになかった。しかし年上だが日本人の子供に出会えたので、気持ちはとても明るくなった。




