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こっちで元気にやってます  作者: 楠 螢
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噴水のある公園

随分と大勢の人に声をかけた。しかし50年も前の事を知っている人は滅多にいない。知っていても渡り人が来たその後のことを知る人もいない。

「はー、収穫なしか。」

公園のベンチに腰掛け、朋美は空を見上げた。ゆっくりと雲が流れていくのを見て、もうひと頑張りしようと再び立ち上がり年配の人に声をかけ始める。

「あんたかい?50年前の渡り人の事を聞いて回ってるって人は。」

見知らぬ女性が声をかけてきた。

「はい、何かご存じですか?」

どう見ても40歳前後の人だ。知っているはずがない。でももしかしたらその家族かもしれないと思い聞いてみた。

「この公園は20年くらい前に出来たものだから、50年前に渡り人が来たって公園はここじゃないと思うよ。」

そう言って手を振って去って行った。ショックでその場に座り込んでしまった。


「トモさんお待たせしました。あれ?」

地べたに座り込んでいる朋美を見て少し驚いていた。

「マサト~聞いてよー。」

泣きそうになって真人に抱き着いた。抱き着かれた真人はどうしていいか分からず、両手が宙を浮いていた。鼓動が早くなった真人に気が付き、朋美は慌てて体を離した。

「ご、ごめんなさい。さっきショックなことを聞いたばかりだったから・・・。」

朋美は顔を赤らめて真人から顔を背けて言う。

「何を聞いたのですか?」

そう聞かれて改めて真人の方を見る。

「この公園、20年くらい前に出来たものなんだって。渡り人が来た公園はここじゃないってことよ。」

「では聞き方を変えてみましょう。あ、すみません。50年くらい前に渡り人が来たという噴水がある公園はどこですか?」

真人はすぐに通りかかった人に聞いた。尋ねられた人は知らなかったが、その後渡り人の事は知らなくても噴水があった所は知っているという人がいたので、教えられた公園へ行ってみた。そこはすでに噴水はなく、公園だけになっていた。

「噴水がなくても覚えている人はいるはずですよ。気長に探しましょう。」

真人の言葉に救われた気がした。焦らなくても知っている人に出会えるかもしれない。しばらく2人でいろんな人に聞いて回っていた。


結局午前中は知っている人に会うことは出来なかった。土地勘もないので昼食は公園の近くの店でとることにした。

メニューを見ながらほかの人が食べているものを観察する。

「ここはスパゲティがあるのね。渡り人がそう言った料理を教えたってわかるわね。」

「あ、これはリゾットかな?自分頼みます。」

王都ではマイスの実は手に入りやすいようだ。待っている間に隣のテーブルの人たちがドリアを食べているのが見えた。

「あー、いいなあ王都。でもどこも一緒で都心は物価が高いですね。」

宿代も高かった。この店の料理の値段も他の都市より若干高めだ。

店員を呼んで料理を注文する。料理が来るまでに午後の予定を立てておくことにした。

「この付近の老舗みたいなところに聞き込みに行くのはどうですか。」

「古いお店なら若い人でも従業員同士の噂話で聞いたことあるかもね。」

ひたすら声をかけまくるのも疲れてきたのだ。

「渡り人ってこっちに来た時に教会で職業適性を受けてギルドに身分登録するのよね。どこかにそれをまとめたデータってないのかしら。」

朋美のつぶやきに真人が反応した。

「それですよ!国の機関とかにデータがあるかもしれませんね。」

何かを閃いたように言う真人に朋美は聞いてみた。

「国の機関?でも私たちにそんなツテはないわよ。」

「自分たちで調べることは出来なくても、調べてもらうことはできるかもしれません。食事が終わったらちょっと行ってきます。」

「行ってくるって、どこに?」

「マリウスさんに会いにです。王都に来たら訪ねて欲しいと言われていたし、昨日ルイーシュさんに偶然会ったのですよ。」

そうだ、調査に来た2人は王都の人だった。真人の言葉に朋美は更に期待する。

「いい話が聞けるといいわね。」

注文した料理がきたので食べ始める。今日の昼食はとても美味しく感じた。


「マリウス上官にですか?」

王室警備隊の男性は怪訝な顔をする。真人もいきなり会えるとは思っていなかった。

「はい、マサト・エンドーが尋ねてきたと伝えて下さい。『オリンピア』という宿に泊まっていますので、もし会っていただけるのならそちらに連絡をお願いしますと。」

ルイーシュがいれば簡単に会えたのだろうが、残念ながらいなかった。言伝を頼み、今日のところは帰ることにした。途中で魔道具を売っている店に寄った。

「これでどのくらい入るのでしょうか?」

「それはこの位だね。」

店の人が手で四角を作って見せる。

「ではこっちは?」

「それだとこの位かな。」

値段とサイズを確認する。朋美が帰ったらしばらくはソロだ。それなりの大きさのバッグが欲しい。でも今の持ち金では希望の大きさのバッグは買えない。結局今日は見るだけで店を出た。

「小さいものを購入して後で大きなものに買い替えることも検討しないと。」

それでもある程度の大きさは必要だ。お鍋1つしか入らないような収納バッグでは役に立たない。ダークベア1頭入る程の大きさだとまだまだお金が足りない。

「大きな収納持ちの人は便利なんだな。人を便利なんて言ったら失礼だけど。」

朋美の収納の大きさに感謝しつつ、現実の厳しさを知った真人だった。


「この人が話を聞いたことがあるかもしれないって。」

公園に戻ってみたら、薄汚れた服を着た男と話をしている朋美を見つけた。男は鋭い目つきでこっちを見ている。

「へへ、この辺にいると昔からの噂話とか色々聞いててね。」

怪しさが漂っている。しかし情報が欲しい朋美は全く疑っていない。

「ああ、ちょっと腹が減ったな。頭が働かないや。何か食べたら思い出すかもしれないが。」

朋美はちかくのカフェに連れていこうとする。

「トモさん、明らかに怪しいですよ。」

真人が注意する。しかし朋美は聞く耳を持たない。

「見かけで人を判断してはいけないわ。何か事情があってこの辺りで生活しているだけかもしれないでしょ。さっきもこの辺りにいると昔からの噂話を色々聞いてるって言ってたじゃない。」

真人は佐藤の時を思い出す。全く人を疑うことを知らない様子だ。


これは父親の洗脳のせいか?


そんなことを考えながら2人の後をついて行った。


カフェで3人分くらい食べた男は満足そうな顔をしている。真人は呆れた顔で男を見ていたが、話が聞けると楽しみに待っている朋美を見ると何も言えなかった。

「それでどんな噂話があるのですか?50年前の渡り人の話はどうですか?」

「渡り人ねぇ。そうだ、あの公園には昔噴水があったんだぞ。」

それは聞いた話だ。

「30年くらい前の戦争であのあたりが焼け野原になって、噴水もその時壊れたって聞いたぞ。それで今の中央広場に噴水を作ったそうだ。」

うんうんと男はうなずく。朋美も一緒になって頷いている。

「それで渡り人の事は・・・。」

朋美が話し出したら、男は急に立ち上がり、

「俺が知っているのはこの位だな。それじゃあご馳走様。」

そう言ってさっさと歩きだした。

「ちょ・・・ちょっと待って下さい。渡り人の話を知ってるかもしれないって。」

立ち上がり男を追いかけようとする。

「噴水の話を知ってるって言っただけだよ。じゃあな。」

そのまま男は人混みの中へ消えていった。朋美はぺたんとその場に座り込んだ。真人は座り込んだ朋美の横へ来て声をかける。

「トモさん、人の弱みに付け込むような連中もいるのです。少しは人を疑って下さい。」

顔を上げて真人を見る。途端に涙が噴き出してきた。

「私は・・・私はただ帰りたいだけなのに・・・。どうしてなの?」

真人にしがみつき声を殺して泣き続けた。真人はどうすることも出来ず、優しく朋美を抱きしめた。しばらく2人の周りは時間が止まったようだった。


「お手紙です。受け取りをお願いします。」

配達員が呼び鈴を鳴らす。手紙を送ってくる相手などいるはずもない。しかし一応受け取ろうと玄関を開ける。

「アーヤさんですね。はい、受け取りにサインをお願いします。」

宛名は間違いなく自分になっている。受け取りのサインをする。配達員は次の配達にすぐに行ってしまった。裏返しにして差出人を確認する。

「あら、朋美からね。」

顔が明るくなった。すぐに部屋に入り手紙を開ける。ここを旅立った後のことが綴ってある。

「まあ、そんな楽しい魚釣りをしたのね。」

くすくすと笑いながら手紙を楽しむ。手紙を読み終わり、テーブルに置く。

「帰れる方法が見つかったら・・・か。」

そのまま椅子に腰かける。頬杖をついて手紙を握る。

「ふふ、今さら帰れないわ。ううん、帰ってはいけないのよ。」

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