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こっちで元気にやってます  作者: 楠 螢
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それぞれの仕事

真人に宥められて宿へ行った。宿は一週間取ったと聞いた。明日はあの公園を中心に色々聞き込みをしよう。どんなことでもいいわ。知っている人が見つかるといいけど・・・。兎に角どんな小さなことでもいい。戻ってきた人やその家族を見つけなくては。夜が明けるのは何時かしら?早く寝たら早く起きれるわね。そうよ、夜明けとともに知っている人を探せばいいのよ。ああ、早く夜が明けないかしら。

戻ってきた人の情報が欲しい朋美は明日を待ちきれない様子だ。すぐにシャワーを浴び、服を着替えてベッドに入った。真人が夕食を誘いに来たのも聞こえないふりをする。

「早く寝るの。明日は早く出かけるの。」

布団を頭まで被り、眠りにつくのをひたすら待った。

何度かウトウトしたが、中々寝付けなかった。とうとう諦めてベッドから出る。

「お腹空いてきたな。」

収納に入っているパンとアーヤからもらったコーヒーを出す。

パンをかじりながらぼんやりと考える。

「急に帰ったら、お父さんびっくりするかな。もう半年もたってるもんね。急にいなくなって、急に帰ってきて。ふふ、プチ家出したみたい。」

コーヒーを口にする。

「帰ったらもう二度とこっちに来ることはないんだろうな。そしたらアーヤにも会えないし、真人ともお別れ・・・。」

立ち上がり窓際へ行き、手をかけてそっと開ける。外から冷たい風が入る。

「もうすぐ・・・きっともうすぐ・・・。」

再びベッドで横になるが、やっぱり眠れない。諦めて起きることにした。

宿を出て街を歩く。夜中だというのに人は多い。殆どの人は酒を飲んで陽気にしゃべっている。絡まれないように注意しながら公園へ行く。

公園はあまり明るくなかった。街灯がないので、月明かりで照らされているだけだ。それでも噴水の水がキラキラ月明かりを反射していて綺麗に見える。

「ここにいたら今にもあの光が出てきて向こうの世界に戻れそうだわ。」

座って水の中に手を入れる。

「冷たい!」

凍るような冷たさだ。吐く息も白い。

「ここも雪が降るのかな。」

上を見る。澄んだ空気が綺麗な星空を見せてくれる。

「この空はあっちにも繋がっているのかしら。」

流石に寒いので、宿に戻ることにした。


落ち着いたのか、その後はすぐに眠れた。次に目が覚めた時には外はもう明るかった。すぐに出られるように準備をし、真人の部屋をノックする。

「はい、今開けます。」

少し眠そうな声で返事が来た。

「先に食事に行ってるわ。」

少しでも早く聞き込みに行きたくて、真人を待たずに食堂へ行く。

料理が出てきた時に真人が降りてきた。

「今日は早起きしたんですね。すぐに聞き込みに行かれますか?」

「ええ。昨日は出来なかったから。」

パンを頬張りながら答える。

「自分は紹介された防具屋へ行きたいので、後で合流しますね。」

朋美の手が止まった。一緒に来てくれるものと思っていたのだ。

「あ・・・そうだったわね。それじゃあ私は1人で行くわ。お昼にどこかで待ち合わせをしましょうよ。それまでは自由行動という事で。」

自分に言い聞かせるように言う。

「ありがとうございます。それとウィーゼルルを出してもらえませんか。ギルドに持って行きたいので。」

マストのギルドで王都の方が高く売れると言われたのでそのまま収納に入れていたものだ。

「それと・・・まだ収納バッグを買っていないのでリュックを貸してもらえないでしょうか。」

そうだ、私は収納魔法があるからいいけど、真人はそれがない。獲物を入れるものも必要だ。

「これ、上げるわ。私はもう使わないから。」

持って帰っても魔物を入れたリュックはきっと使うことはないだろう。リュックを取り出し、その中にウィーゼルルを入れる。

「ありがとうございます。」

そう言って残りの朝食に口をつける。真人は後から来たのに食べ終わるのは私と一緒だった。2人は席を立ち、それぞれ目的の場所へ向かった。


「はあ、そうよね。真人は帰らないのだから、こっちで生活していくための事を優先させるのは当然よね。」

気持ちを切り替えて聞き込みを始める。出来るだけ年配の人に声をかける。

「すみません、50年ほど前にここに渡り人が来たことをご存じですか?」


真人は紹介されたガーディアンという防具屋へ来ていた。まだ店は開く前だ。少し待とうと思っていたら、職人見習いらしい男性が声をかけてきた。

「うちに何か用ですか?」

金髪のショートヘアに陽に焼けた肌の15~6歳くらいの小柄な少年だ。

「ロザリーヒルの防具屋でこちらを紹介されたので伺いました。まだ開店前ですよね。開くまで待っているのでお気になさらないで下さい。」

紹介状を見せた。それを確認すると、

「どうぞ中でお待ち下さい。こちらも開店準備をしますのでお相手は出来ませんが。」

中々丁寧な対応だ。外は寒いのでお礼を言って中で待たせてもらうことにした。

店舗の奥の工房に通される。リスデンのドルディンさんの工房を大きくしたような感じだ。少年は手際よく工房と店の準備をしている。しばらくして、他の職人たちが出勤してきた。

「おや、早々とお客さんかい?どういった用で。」

どうやら親方らしい。椅子から立ち上がり挨拶をする。

「初めまして。冒険者をしているマサト・エンドーと申します。」

手袋を見せて事情を説明する。親方は手袋を手に取りいろんな方向から眺めている。

「ふむ、事情は分かりました。しかしうちも防具屋。武器をと言われると作れませんね。」

あっさり断られた。しかしここで引き下がるわけにもいかない。

「しかしこちらのお弟子さんに器用な方がいらして、頼んだら作ってもらえるかもしれないと言われてきたのです。これがないと自分も戦闘時に拳に負担がかかるので是非作っていただきたいのです。」

親方は腕を組んで考えた。

「しかしな、うちは防具屋だからな。」

防具屋だから武器は作れない。その一点張りだ。

「そうですか。やはりドルディンさんに頼むしかないか・・・。」

諦めて帰ろうとしたその時、先ほどの少年が声を上げる。

「自分が作りましょうか。」


店内の数人が振り返った。みんな親方と真人の会話を聞いてはいたが、親方の意向に従うつもりだった。しかしドルディンの名前が出た途端、少年は名乗りを上げた。

「おいオーディン、いくら何でもお前ではまだ早すぎだ。」

兄弟子の1人が止める。親方も渋い顔をしている。

「まだ早いとは?防具を作ることが出来ない方ですか。」

「いえ、防具は作れます。」

少年は近づいてきてそう言う。

「自分がその防具を武器として使えるように作れればいいのですよね。」

「確かにそうだが、ここは防具屋だ。武器屋ではない。」

親方は防具屋であることをしきりに強調する。

「ではこれを武器屋へ持ち込めば作ってもらえるという事ですか?」

真人は尋ねる。

「いや、手袋は武器屋では扱わない。」

「では自分はこれをどこに頼めばいいのでしょうか。」

親方は困り果てた。確かに手袋は防具屋の領域だ。しかし武器として使うとなると武器屋に頼んで欲しい。

真人は親方の顔色を伺いながら続けて言う。

「元々これは防具屋で購入したものです。レイクサイドで使い方を聞かれたので答えたら武器として作ってもらうように勧められただけです。作れないのなら、これと同じもので構いませんよ。特に困ってはいませんので。」

「しかし防具を武器として使うのはいかがなものかと・・・。」

「それは使い方を知ったからでしょう。防具屋だから武器は作れないとおっしゃるのなら、知らなければ問題ないでしょう。では依頼を変えます。これと『同じもの』を作って下さい。」

真人は笑顔で手袋を差し出し依頼する。

「ふうー。」

親方は大きく息を吐き、

「わかった、依頼を受けよう。オーディン、こっちへ。」

そう言ってオーディンを隣に座らせる。

「まずこの防具ですが、20年ほど前から市場に出回っているものです。最近は違う素材で同じような機能を持つものが出てきて、数年前から作られなくなりました。この手の甲の金属が剣を持つ手を守ってくれるとかなり評判になったのですよ。」

親方は手袋の話を始めた。自分にはあまり関係のないことだが、武器としての機能を付けた手袋を作る為に必要なことだろうと思って黙っていた。

「これを開発した職人はもっといい防具を作れるようになりたいと言って、うちの工房から独立したんですよ。自分の思ったような防具を作りたいってね。」

そう言ってオーディンを見る。

「親父さんを誤解したままじゃいかんよ。」

オーディンは手袋を握りしめる。

どうやら彼はこの手袋の開発者の息子らしい。それならきっといいアイディアを出してくれるだろうと期待した。

「お前のお父さんはここをクビになったんじゃない。自分から故郷のリスデンに帰ったんだ。そしてこの手袋に出会えるなんて、きっとお前の運命なんだな。」

そう言って親方はオーディンの背中を叩く。

「リスデン?もしかしてドルディンさんの息子さんなんですか!?」

オーディンは恥ずかしそうに返事をする。

「は・・・い。ドルディンは自分の父です。」

急に親近感がわいた。嬉しくなって話の輪に入る。

「そういえばその目の感じ、ティアナちゃんにそっくりですね。」

親方とオーディンが真人を見る。

「え?ティアナって誰ですか?」

聞かれた真人は驚いた。

「え?ドルディンさんの娘さんですけど・・・。」

一瞬沈黙が流れる。何か不味い事を言ったのだろうか?

「ああマサトさん、こっちの問題です。オーディンは家出同然でここにきてもう10年になります。その間1度も家に戻っていないのですよ。弟子入りしたいと偶然父親が働いていたこの工房に来たのですよ。そして父親が作った防具に出会えるなんて、女神さまのお導きでしょうね。」

オーディンは涙ぐんでいる。それを腕でふき取り、

「是非自分に作らせてください。よろしくお願いします。」

そう言って頭を下げてきた。

「こちらこそよろしくお願いします。」

交渉成立だ。全く違う場所で親の作った防具を使っている人に防具を作れるなんて、こんな偶然もあるものだ、自分はなんて幸運なんだとオーディンは思った。

「これは持って行ってもよろしいですか?自分は他に手袋を持っていないので。」

「ああ、これの設計図はうちにあるから大丈夫ですよ。でもオーダーメイドで作るのであなたの手のサイズを測らせて下さいね。さあオーディン、仕事だぞ。」

はいと頷いて準備を始める。兄弟子たちは暖かい目で見ていた。

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