懐かしい人々
検問所を無事通過し、ボナへ着いた。パンは買ったけどせっかくだから店で食事をしようとよさそうなところを探す。
「お兄さんたち、何を探してるの?」
突然声をかけられた。こんなところに知り合いはいないので呼び込みだから無視しようと思っていたら、リスデンからの乗合馬車で一緒だった女性だった。
「ああ、あなたは。」
「あの時はありがとう。こんなところで何してるの?」
昼食を食べられるところを探していると言ったら、美味しい店があるからそこに行こうと誘われた。
「あの時は本当に助かったわ。もしあなたたちがいなかったら今頃どこかに売られていたか、最悪殺されていたかもしれないもの。」
食事をしながら女性が言う。山賊はそんなに危険なのだ。彼女は他国で踊り子をしていたらしい。父親が亡くなったので、今は踊り子を辞めて故郷のボナで母親と2人で暮らしているそうだ。
「旅をしてきたけど、渡り人やその子孫の人は結構いるのよ。あなた達みたいに髪の黒い人や肌が黒い人もいるわよ。」
いろんな人種が渡ってきているみたいだ。
「こっちから行った人の話は聞かないですか?」
「んー、みんな行ったって気づかないんじゃないかしら。だって突然いなくなるんでしょう?単に家出だって思うんじゃない?」
何も告げずにいなくなるのだ。確かにそうかもしれない。自分たちもこっちへ行ってきますと言ってきた訳ではない。
「それにあなた達みたいに冒険者していると魔物にやられて命を落としても誰も気づかないってこともあるし。ソロだとその確率もあがるでしょ。もし渡って行ったとしても、そうだとしか思われないわよ。」
朋美は真人を見る。もし朋美が帰ったら真人はソロになる。誰かのパーティに入るか募集して新たなパーティを組まなければずっとソロだ。朋美はそっちの心配をした。
食事が終わり女性と別れた。いよいよ王都サンシューマへ向かって歩き出す。朋美は先ほどの事が気になって真人に聞く。
「私が帰ったらどうするの?」
「今は何も考えていません。冒険者を続けるかどうかもわかりませんし。」
少し不機嫌そうな返事が返ってきたので朋美はそれ以上聞かなかった。
昨日トモさんは自分の夢の話と自分の過去の話をしてくれた。びっくりするような話だったが、本当に帰りたいのだろうかという疑問が生じた。父親が独りぼっちになってしまうからと言っていたが、実際はどうなのだろうか。もしあの夢が現実なら、母親はDVを受けていたのではないか?その母親がいなくなったのだから、矛先はトモさんに向いているのではないだろうか。父親に洗脳されていて帰らなきゃいけないと思っているだけなのではとさえ思える。洗脳を解く方法があれば解いてあげたい。そうすればもしかしたらこっちへ残ると言うかもしれない。
淡い期待をする。その時朋美が話しかけてきた。
「私が帰ったらどうするの?」
朋美を残すことを考えていたので、真人はそっけない返事をした。気まずい雰囲気になり、その後口も利かずに黙々と歩き続けた。
黙って歩いたおかげか、夕方には王都に着いた。休憩もしなかったので、かなり疲れた。
「どこかでお茶でもしませんか?宿も取らないといけないし。」
「噴水のある公園を見つけてからにしたいわ。」
町の人に場所を訪ねている。真人は黙って後ろを歩いていた。
「ここが一番大きな噴水がある公園ですって。」
プールかと思われるほど大きな池に中央へ向かって水が噴き出す場所が6つ、真ん中には女神を模した彫刻があり、その後ろからは惜しげもなく噴水が出ている。
朋美は必死になって通行人に聞き込みを始める。
「あの、50年ほど前にここに渡り人が2人現れたのをご存じではありませんか?」
出来るだけ年配の人に声をかけているが、みんな首を横に振った。
「トモさん、気持ちはわかりますが今日はもうやめましょう。明日の朝から聞き込みをしてもみんな逃げませんよ。」
真人は朋美をなだめて宿へ向かった。
「色々と調べることもあると思うので、一週間取りましたよ。」
朋美は上の空だ。生返事をし、部屋へ入って行った。
「ふう、仕方がない。自分だけギルドへ行こう。」
まだ開いているので、移動の手続きをしにギルドへ行く。
「本人でないと駄目ですね。明日は手続きに来て下さい。」
一応身分証になっているのだから、手続きをしなければその町で依頼が受けられない。
「トモさんは依頼を受けないかもしれないから、手続きは無理にしなくてもいいか。」
どんな依頼があるのかチェックしてみた。
「さすが王都。かなりの量がありますね。」
とりあえず仕事はあると安心して、真人は宿へ戻った。
夕食を誘いに朋美の部屋の扉をノックするが返事がない。
「疲れて眠ってしまったのだろうか。」
仕方がないので1人で食事に出かけた。街へ出るといろんな飲食店が立ち並び、人々は胃袋を満足させる店へ足を運ぶ。ふらふらと彷徨うように歩いていると目の前に見たことのある男性が立ちはだかった。
「マサトではないですか。いつ王都に来たのですか?」
しかし誰だか分からない。
「あの・・・どちら様でしょうか。」
「あっはっは。私ですよ、ルイーシュです。久しぶりですね。」
調査の時の人だ。服装や髪形が違うので分からなかった。
「ああ、あの時はお世話になりました。」
ぺこりと頭を下げる。ルイーシュはあの時はきっちりとした制服?に長めの髪を後ろで一つに結んでいたが、今はラフな服装に髪を下ろしている。
「今日は非番なんですよ。1人ですか?よかったら一緒に飲みませんか?あの時は上司がいたからあまり話は出来ませんでしたが。」
にやっと笑って真人を見る。断る理由もないので一緒に飲みに行くことにした。
裏路地にある飲み屋へ2人は入った。おそらくルイーシュの行きつけの店なのだろう。何も言わずに飲み物と数品の料理が出てきた。
「ここはこれが美味しいんですよ。塩加減が絶妙でね。」
見るからに焼き鳥だ。確かに呑兵衛に合わせて塩味が濃い。エールを流し込みながら焼き鳥にかぶりつく。
「あの時は大変だったね。しかしいいものを見せてもらったよ。本当にマサトはいいパンチしてたね。どうだい、あれからランクは上がったかな?」
「はい、最近ブロンズになりました。」
タグを見せる。
「おー、さすがだね。そのくらいの腕はあると思っていたよ。随分と戦闘にも慣れてきたのだろう?武勇伝を聞かせて欲しいね。」
あの時は随分と大人しい人だと思っていたが、こんなに陽気な人だったのだろうか。
とりあえずかいつまんで話をした。どの話にも反応し、楽しんでくれた。
「いいねぇ、いいねぇ。冒険者家業はそうでなくっちゃ。」
グイグイ飲みながら話を聞いている。
「本当は冒険者になりたかったのですよ。いろんなところを旅して、いろんな人に接してみたくて。でも自分は貴族の次男でね、兄は家を継ぐ予定なのですが父は私にハウエル家を支えるような職業に就けと言って王宮勤めを勧めたのですよ。魔力が高かったばっかりにね。」
焼き鳥を食べながら愚痴を言っていた。
「魔力が高いと王宮勤めとかが出来るのですか?」
「んー、出来るというか、集められる・・・みたいな?ここ最近はいいけれど、この国は領土は狭いけど色々と資源が豊富でね。よく他国から狙われるんだよ。だから自衛の為に王室警備隊には強い人を集めているんだよ。当然魔力が高ければすぐに声がかかるし、マサト程強ければ今すぐにでも入れるぞ。」
魔力が高ければすぐ声がかかる・・・リスデンのギルドマスターが貴族に推薦をと言っていたが、王家などに目をつけられたらそれこそ帰れなくなる。
「ほら、マサトのパートナーのあの子・・・彼女も結構魔力が高いんじゃないか?渡り人は基本ステータスがこっちの人間より高いっていうから。」
「あ、そうですね。でも自分は彼女の数値を知らないので。」
測定不能だから当然正確な数値は知らない。
「随分と進んでないが、あれから飲めるようになったか?」
自分のエールの減りをみる。
「ええ、あの時よりは飲めるようになりました。」
グイっと飲み干し、お替りをたのむ。
「遠慮するな!つまみもたのめよ。」
店員を呼ぶ。やってきたツインテールの女性店員がルイーシュに言う。
「ルイーシュさん、今日は随分といい男を連れていますね。」
「そうだろう?しっかり売り込んどけよ。将来大物になるやつだからな。」
大きな声でルイーシュルが言う。恥ずかしくなって下を向いた。店員が真人に耳打ちをする。
「よっぽど気にいられているんですね。」
ウインクしてその場を去って行った。
「そういえばマリウスさんはどうしてますか?」
急にルイーシュが真顔になった。
「ああ、あの人はね、相変わらず真面目の塊だよ。」
真面目の塊?何のことやらと思ったら、ルイーシュは続けて言う。
「マサトのあの『糸電話』?あれを研究するっていって研究機関に持ち込んで戻ってこないのです。」
急に泣き上戸になった。真人はおろおろする。
「あ、あの・・・ルイーシュさん?」
真人を見つめるルイーシュの目はすわってる。そろそろやばいかと思っていたら、ツインテールの店員がやってきた。
「はーい、この店の名物ヤキソバよ!」
ドンとテーブルに置く。
「おー、ヤキソバ!マサト、こいつは旨いぞ!」
すぐに半分以上自分の取り皿に持って行った。それをがっつり食べる。
「ルイーシュさん、弱いのによく飲むのよね。ヤキソバ食べたら帰るから、もう少し付き合ってあげて?」
優しい店員さんだ。満足げにヤキソバを平らげ、
「まだ王都にいるなら是非マリウスさんを訪ねてあげてくれ。」
そう言って支払いを済ませて帰ってしまった。
「ほら、言ったとおりでしょ?」
残ったヤキソバとエールを飲んで、真人も店を出ることにした。




