防具か武器か
湖の側ではまたあれが出て来るかもしれないと、街道の側にテントを移して夜を明かした。焚火は朝食の為にそのまま焚いていた。
「トモさんおはようございます。」
「おはよう、真人。もうすっかり辺りは明るいわ。」
パンにバターをのせて火であぶる。バターが溶けて食欲をそそる匂いがする。
「魔魚も焼いておいたわ。紅茶も如何?」
「中々の朝食ですね。サラダがないのが残念です。」
そういえばサンドイッチの時以外は外では野菜をとってない。
「今度からは収納にサラダも入れておかないとね。今日は諦めてこれ食べてね。」
2人でパンにかぶりつく。それからよく焼けた魔魚を食べる。
「うん、やっぱり焼き魚だと御飯が食べたいですね。」
「そうね。やっぱりお米探そうか。」
楽しい朝食の時間だった。
身体強化で歩くのにも随分と慣れてしまった。馬車よりも早く着くのはいい。ハプニングも多いけど。
昼過ぎにはロザリーヒルに到着し、ギルドへ魔魚の依頼の報告をした。
「あー、ウォーターサラマンダーですね。今日出た依頼にありましたよ。まだ残っていたかな?」
珍しく男性職員にあたった。依頼をチェックし、私たちに見せる。
「数は3ですけど、4で交渉しますよ。しばらくお待ちいただけますか。」
カウンターの奥のデスクに行き、何か作業をしている。しばらくしてカウンターに戻ってきた。
「よかったですね。4でもいいそうです。」
交渉成立したようだ。
「何か依頼を受けられますか?」
職員は私たちが受けられる依頼を探し始めた。防具屋へ行ったらすぐに出発したかったので、断ろうと思ったら誰かが話しかけてきた。
「やっぱりマサトとトモーミだ。」
振り返るとそこにはマイがいた。
「あたしたち今この町の外れにある洞窟を攻略中なの。2人はここで何をしてるの?」
マイは仲間たちと一緒だ。
「ああ、この2人がマイが言っていた人たちか。自分はこのパーティのリーダーでロダンといいます。よろしくお願いします。」
さっと握手を求めてきた。赤茶色のスポーツ刈りのような髪に緑のローブ。がっちりとした体格で身長は真人と変わらないくらいだ。
「こんなマッチョだけど、実は魔導士なんだよ。」
「マイー。そんな紹介の仕方はないだろう。もっと良く言ってくれよ。かっこいいお兄さんだとかさ。」
ああ、さすがマイさんのパーティだ。妙に納得してしまった。他の3人もこんな感じなのだろうか。
「自分たちは用があって王都に向かっています。その前にこれからレイクサイドという防具屋へ行く予定ですが。」
「レイクサイドですか。あそこは品揃えがいいですからね。」
ロダンの後ろにいた黒縁メガネの男性が口をはさんだ。
「始めまして。私はルネストと申します。以後お見知りおきを。」
さっと前に出てきて朋美の手を取る。
「こいつはね、こう見えてタラシだから気をつけなー。」
マイがさっとルネストと朋美の間に割り込み、2人を引き離す。
「レイクサイドはギルドを出て通りをまっすぐ行ってパン屋の角を右に曲がってすぐ左に曲がるんだよ。大きな店だからすぐにわかるよ。」
マイはそう言って2人をギルドから追い出した。
「マイ、ちゃんと紹介してくれてもよかったじゃないか。」
「そうですよ。あんな素敵なレディを紹介してくれないなんて酷いですね。」
男2人は朋美のことが気になったようだ。
「あの2人が前に話してた渡り人なのね。あの黒髪、神秘的ね。」
青い目とブロンドのロングヘアーの女性が言う。
「私はあのお兄ちゃんいいわ。同じ武闘タイプとしても興味があるわ。」
ネコ目の緑の髪のポニーテールの女性は真人にロックオンしたようだ。
「そうね。今度ちゃんと紹介してあげるわ。でもあたしたちはこれから夜通し洞窟に潜るんだから、さっさと悪魔の穴に行くよ。」
マイたちもギルドを後にした。
「こんなところでマイさんに会うなんて思わなかったわね。」
「洞窟に潜るって言ってましたね。どんな依頼なんでしょうね。」
洞窟は2人と薬草を取りに行った時以外は行っていない。
「何か珍しい物でもあるのかしらね。」
洞窟特有の魔物か植物があるのだろうか。はたまた宝箱でもあるのだろうか。もし機会があれば潜ってみるのもいいかもしれない。
「仲間が多いといいですね。多すぎるのもどうかとは思いますが。」
お互いの苦手分野を補える人たちとパーティを組む。真人もいずれパーティを組むことがあるのだろうか。その時自分は?どうせ答えは出ないので、私はあまり考えないようにした。
マイに教えられたとおりに進むと大きな門構えの防具屋があった。
「ここですね。随分と大きな店ですね。」
今まで行ったことのある店で一番大きな店ではないか。扉を開き中へ入る。制服らしき服を着た女性が応対してくれた。
「いらっしゃいませ。何をお探しでしょうか。」
「これと同じものが欲しいのですが、ありますでしょうか。」
真人は手袋を出した。女性はそれを手に取りしげしげと眺める。
「これはどこで購入されたものですか?」
「リスデンのローハンさんの店です。」
「ローハンの・・・少々お待ちいただけますか。」
女性は手袋を持って店の奥へ入って行った。しばらくして店主らしき人が出てきた。
「やあ、あなたがこの手袋の持ち主ですか。」
こちらへと手招きされ、応接室へ通された。
「これはどのようにお使いですか?」
店主は真人に尋ねる。
「自分は武闘タイプなので。」
そういうと店主は納得したように言う。
「それでこのようなすり減り方をしているのですね。これは本来防具として使うものです。武器としての構造はしていません。」
私たちは驚いた。しかし冷静に考えたらそれはあっている。防具屋で買ったのだから防具のはずなのだ。
「同じものと言われますとあるにはあるのですが、武器として使われるとなるとちょっと・・・。」
「でもそれは購入した人の自由では?」
真人は代わりの物が欲しいので言ってみた。
「確かにその通りなのですが、今後の事を考えたらそうはいきません。きちんと武器としての機能を備えたものを使用されることをお勧めします。」
しかし武器屋には手袋は売っていない。
「オーダーメイドにするしかないということでしょうか。」
「そうですね。それが一番いいと思いますが、武器職人は手袋を作らないでしょう。防具職人も武器の機能をと言われると遠慮するかもしれません。」
「しかし、もし頼むとすればどちらにお願いすれば作ってもらえる可能性はありますか。」
店主は悩んだ。しかし既製品として使っているものがあるのだから、防具職人に頼む方が可能性は上がるだろう。
「ティアナのお父さん・・・。」
朋美がつぶやいた。
「そういえばこの短剣もそうでしたね。あの人なら作ってくれるかも。」
「ティアナのお父さん?誰でしょうか。」
店主も興味があるらしい。
「リスデンの防具屋の方です。娘さんがティアナと言って10歳くらいの・・・。」
「ああ、ドルディンさんの事ですね。確かにあの人なら作ってくれると思いますよ。独創性が高いのできっといいものが出来るでしょう。」
しかし今からまたリスデンには戻れない。
「自分たちはリスデンから王都へ向かっています。用事が済めばリスデンに行くことも可能ですが、今から引き返すことは出来ません。他の方を紹介していただけないでしょうか。」
店主も悩んでいる。そして何かを思い出したように手を叩く。
「そうだ、王都の防具屋で『ガーディアン』という店があります。あそこの弟子に器用な者がいました。尋ねてみてはいかがでしょう。」
そう言って何かを書いてくれた。
「これを持って行ってください。」
紹介状のようだ。私たちはお礼を言って店を出た。
「武器・・・武器・・・ですね・・・。」
真人は歩きながら自分の手を見て呟いている。
「武器・・・真人の手が武器なら魔法を放つ私の手も武器よね。むしろ全身が武器?」
真人は顔を上げて朋美を上から下まで見る。
「歩く武器ですか?すごいですね。」
そう言って笑い合った。
「もう少しこいつで頑張ってみますよ。」
所々破れた手袋をひらひらさせて言う。
今から出発しても次の町に着くのは夜中になるので門が閉まってて入れない。せっかくなので宿に泊まろうという事になった。昼間は馬車の時間を調べ、ポーションなどを買い足した。夕方には部屋に戻ってこれからの事を話し合った。
「いよいよ明日は王都があるサンディマル領のボナという町へ入ります。ここからは定期馬車で3時間ほどだそうです。朝一の馬車に乗れば昼前には着きますね。乗り継ぎが旨く行けば明日中には王都のサンシューマへたどり着きますよ。」
「同じ領内だから馬車がなくても歩けばいいわよね。」
明日は王都に着く。戻ってきた人はもういないかもしれない。でもその家族や情報を持っている人はいるかもしれない。
「まずは噴水がある公園を探しましょう。それから聞き込みを始めて・・・トモさん?」
朋美は目をつぶって胸を押さえている。大きく深呼吸をし、
「いよいよね、いよいよなのね。」
自分に言い聞かせるよう口を開き、目を開けて真人を見る。
「はい、いよいよですよ。」
真人は優しく微笑む。
そしてそのままお別れかもしれません。
その言葉を口には出せなかった。




