イエティとランクアップと
「こ・・・これ全部イエティですか?」
ギルド職員は驚きの表情を隠せなかった。カウンターには巨大なイエティが16体並んだ。
「しょ、少々お待ちください。」
慌ててギルドマスターを呼びに行く。呼ばれて出てきたグズロフも目を白黒させていた。
「こんなに討伐してきたのかー!」
「彼女のサポートのおかげもありまして、無事依頼を達成することが出来ました。」
どや顔で真人が答える。ギャラリーもワイワイガヤガヤとイエティを見に来た。
「おい、手の空いているものはこれを運んでくれ。2人はこっちへ!」
手すきの職員がイエティを運び出す準備をする。私たちは奥の部屋へ通された。
「数は問わないと言ったが、せいぜい3体くらいだろうと思っていたのだが・・・。」
個室のソファーに向かい合って座った。
「はぁ~、リスデンのギルドマスターが自信満々推薦するはずだ。」
額に手を当て、ため息をつきながらグズロフは言った。
「いえ、自分ひとりの力じゃありませんよ。彼女のサポートがあってこそです。」
「一体どんなサポートをすればこんなに討伐できるのだ?」
あらかじめ用意しておいた答えを話す。
「自分が攻撃されそうなときに遠くから彼女が魔法で攻撃をするだけです。」
「魔法で攻撃?しかし魔法は効かないだろう。」
「はい、効きませんが意識をそちらに向けさせることは可能です。イエティは魔法が当たったところを向くので、その隙に顔をめがけて攻撃するのです。」
確かに討伐されたイエティは全て顔が潰れていた。
「マサト・エンドー。君をブロンズへ昇格させる。タグを出したまえ。申し訳ないが、トモーミ・オーノへは今回依頼を出していないので昇格させることは出来ない。」
「はい、私は大丈夫です。真人、おめでとう。」
「ありがとうございます。」
照れくさそうに真人は言う。タグをグズロフへ渡す。グズロフはギルド員を呼び鈴で呼び出し、真人のタグをブロンズへ変更するように指示をする。
「トモーミ・オーノ。君も十分な実力があるようだから、すぐにブロンズへなれるだろう。頑張りたまえ。」
本当のことを知らないグズロフはそう言って朋美を励ました。
「半分はトモさんの権利なんですけどね。」
「いいわよ、今日の高級宿で手を打つわ。」
「そんなものでよければいくらでもどうぞ。」
会話が楽しい。いくらでも話していられそうだ。そのまま町で一番高い宿屋を予約する。
「防具屋へ寄りたいのですが、いいですか。」
そろそろ手袋が限界のようだ。でも買う時に結構いい金額を払った気がする。
「トモさんの短剣のようにメンテをすれば使えるというものではないですからね。殴打するたびに摩耗しますから。」
確かに金属の部分はそうでもないが、ベースの皮の部分はかなりすり減っている。
「いずれはオーダーメイドした方がいいのかもしれませんが、今はそんな時間がないですからね。同じようなものがあればいいのですが。」
防具屋の扉を開く。町の規模が小さいので店も小さい。
「いらっしゃいませ。どのようなものがお入り用ですが?」
さっと店主が近づいてくる。
「これと同じようなものが欲しいのですが、こちらの店にはありますでしょうか。」
店主に手袋を渡す。
「これと同じですか。以前は取り扱っておりましたが、今は武闘タイプの方が少ないので残念ながら置いていないですね。」
「そうですか。」
やはりなかった。ローハンの店でも倉庫に眠っていたくらいだ。店を出ようとした時、
「もしかしたらロザリーヒルの『レイクサイド』という防具屋にはおいてあるかもしれません。確実にあるとは言えませんが。」
「ありがとうございます。寄ってみます。」
お礼を言って店を出た。
「ロザリーヒルは2つ先の町ですね。ミューズ領の中心の町のようです。」
地図を見ながら真人が言う。移動するには湖を北へ迂回しないといけない。馬車も調べようと乗り場へ行ってみた。
「マストから次の町のラコンへは朝出発してその日の夕方には着きますね。ラコンからは丸1日かかるそうです。」
馬車を待っている人に話を聞いた。ラコンに1泊かと思っていたら、真人はこういう。
「ラコンに着いたらそのまま歩いてロザリーヒルに進みましょう。どうせ馬車で行っても1泊するのだから、キャンプをしても同じですよ。湖畔でキャンプ、いかがですか。」
湖畔でキャンプ。中々いい響きだ。
「その案のった!」
キャンプファイヤーもどきでもしようかしら。少し寒いかもしれないけど、綺麗な星空を眺めながらのキャンプはきっといい思い出になるだろう。
5日ぶりの宿は豪華な部屋とふかふかのベッドだ。湖を一望出来るオーシャンビューならぬレイクビューの部屋だ。あっちにいてもまず泊まることのできないような豪華な部屋に興奮が治まらない。
「凄いわ。このアンティークな家具。天井の絵。灯りはシャンデリアなんて。お風呂もバスタブ付きだし。最高に幸せだわ。」
今までの宿と比べ物にならない。別に今までの宿が悪かったわけではない。でも5日ぶりのご褒美の宿だと話は違う。
「明日からまた頑張れるわ。早く帰れる方法を見つけなきゃ。でもこんな部屋に泊まれるなら少しくらい遅くなってもいいかな~。」
そんなことを言いながら朋美はさっさとバスルームへ向かった。
湖を一望できる最上階の部屋。1泊金貨1枚。隣はトモさんの部屋。今後は二度と泊まることはないだろう。いい思い出になるだろうか。こっちへ来て約半年。自分はすっかりこちらの生活に馴染んでいる。
「トモさんが帰ったらどうしようかな。リスデンに戻って小さな家を買って狩りをする生活でもいいかな。それとももうしばらく旅をして暮らそうかな。」
特に目的があるわけでもない。知り合いもいない。
「シェスナも悪くなかったな。依頼も多いからそんなに困らないし。」
すでに汗を洗い流した真人はベッドに横になって考える。天井の絵は女神を描いてあるのだろうか。
「自分の女神はあなたでしたよ、トモさん。自分をここまで導いてくれました。これからは自分で歩いていけという事ですね。」
高級宿は食事もよかった。パンもふかふかだった。弁当用にたくさん買った。
「ギルドに寄ってから出発しましょう。」
「そうね。ウィーゼルルの裏依頼もあるかもしれないものね。」
道中仕留めた魔物の魔石や素材も売りたい。2人でギルドの扉を開ける。
ザワザワ。視線が集中する。
「あの人だよ。イエティを山のように持ってきたの。」
「かっこいいわ。私もパーティに入れてくれないかしら。」
昨日の件で真人は注目されているようだ。しかし本人は気にする様子もなくカウンターへ行く。
「トモさん、出してもらっていいですか?」
私は獲物のすべてをカウンターへ出す。職員が1つずつチェックする。
「これとこれはこの位、これは依頼があるのでこれだけ出せます。」
全てのものを引き取れる・依頼ありに分けた。
「このウィーゼルルは王都のギルドでなら高値で売れますよ。ここで売らずに王都まで持って行ってもお釣りが出ますよ。」
「それじゃあウィーゼルル以外をお願いします。後、自分たちはこれからロザリーヒルへ向かうのですが、何かいい依頼はありませんか。」
「少々お待ちください。」
職員が端末を叩いて調べる。
「これなど如何でしょうか?」
出された依頼は魔魚の捕獲だ。
「ロザリーヒルから出された依頼です。ラコンではロザリーヒルより安く漁の為の船が借りられます。ロザリーヒルへ行くためには必ずラコンは通りますから、ちょうどいいと思いますが。」
ちらりと朋美を見ながら勧めてきた。魔魚の鮮度も大事だろうが、朋美の大きな収納もある。
「ではこの依頼を受けますのでお願いします。」
真人の丁寧な話し方にそれを見ていた女性職員も顔を赤らめている。
「紳士的で素敵ね。」
そんな声が聞こえてきた。冒険者は荒っぽい人が多い。そんな中で柔らかで丁寧な口調の真人は目立っている。真人ってモテるんだ。朋美はこの時初めて気が付いた。




