雪山にて
凄い吹雪だ。麓の集落で情報収集をしている時はよく晴れていたのに、山へ登りだしたらまるで私たちを拒むかのように吹雪いてきた。
「こういう日は出るらしいですよ。」
「早く出会いたいわ。流石にこんなに寒い中キャンプするのは辛いわよね。」
防寒着も着ているが、肌が露出している顔に当たる雪が突き刺さるように痛い。登山を始めて1時間ほどして、集落の人がいっていた山小屋へ着いた。
「迷わずに来れてよかったです。」
「うう、これで風をしのげるわね。」
囲炉裏に火をつける。小屋の中は少しほこりをかぶっている。
「この山小屋、洋風と和風が入り混じってるわね。」
靴を脱いで上がる部屋、囲炉裏の上に吊り下げられた鍋、奥には簡易ベッドがある。
「トイレはあるけどお風呂はないみたいですね。本当に休む為だけに作ってあるんですね。」
ここに泊まるかもしれないので、一応2人で掃除をする。
「少し早いけど昼食も食べましょうか。この吹雪だとすぐに出かけるのは危険ですし。」
山小屋までは目印があったからいいけど、ここから上は何もない。一歩間違えれば帰る方向も分からなくなる。
「そうね。最悪今日はここから動けないかもしれないし。」
鍋に水を入れ、買ってきた野菜や肉を調味料で味付けしてスープにした。
パンをかじりながらスープを飲む。
「温かくて美味しいです。」
「外が寒いから温かいものは冷えた体にしみるわね。」
それ以外の会話はなく、小屋にはスープをすする音だけが響いていた。
しばらくして吹雪が止んだので、2人は早速山小屋を出発した。サクサクと雪を踏む音がする。太ももまで積もった雪の上を歩くのは大変だ。身体強化を覚えてよかったと2人は思った。
「あの森に入ってみましょうか。」
如何にも何か住んでいそうな森だ。木々の上は雪が積もっているが、森の中は足首ほどしか積もっていない。朋美は服についた雪を払う。真人は慎重に辺りを探っている。
「何かあっちの方にいますね。」
真人が指さした方を見る。当然何も見えない。
「イエティかしら?魔法は効かないと言ってたけど、揺動や目くらましには使えるわよね。」
「雷でお願いします。」
すぐに放射線状に雷魔法を放つ。
「キュ!」
何か白いものが飛び跳ねた。すぐに真人がそれに向かって飛び出した。一瞬で間合いを詰め、何かを仕留めるのが見えた。
「凄い・・・。これが武闘タイプの上位の実力・・・。」
今まで一緒にいてあまり気にしたことがなかった。真人はこっちで生きていくのに必要なスキルを完全に身につけているのだ。
「私みたいな腰かけじゃないものね。」
朋美は真人の後を追いかけた。
「トモさんのサポートでいいものが狩れましたよ。」
群れから逸れたウィーゼルルのようだ。2匹もいた。真っ白い長毛が美しい。
「はー、ご婦人たちを虜にするはずだわ。触り心地もいいわ~。」
ふっさふさの毛皮をなでなでする。気持ち良すぎていつまでも触っていたい。
「トモさん・・・解体したいんですけど・・・。」
「あ、ごめんなさい。」
慌ててウィーゼルルを手放す。真人はテキパキと解体する。
これも手慣れたものね。マイさんから教わって、あっという間に習得しちゃったものね。
「お願いします。」
毛皮と魔石を収納する。
今は私が収納してるけど、今後はどうするのかしら。ソロならば収納バッグは必須だろうけど、誰かとパーティを組んだらその人が持っていれば必要ないわよね。
余計なお世話かもしれないが、勝手に色々と考える。
「トモさん、どうかしましたか?」
いきなり真人の顔が目の前に現れた。
「ひやぁ~!」
びっくりして尻もちをついた。
「あ、脅かしちゃいましたか。ごめんなさい。何度呼んでも返事がなかったので。」
「私こそごめんなさい。考え事してたから。」
「・・・帰ることですか?」
ドキッとした。
「帰ることというか・・・その・・・。」
「すみません、早く帰りたいのに付き合わせて。」
そのまま真人は背中を向けて森の奥へ歩いて行った。私は慌てて立ち上がり走って真人を追いかけた。
木の陰に真人が隠れる。何かの気配を感じたようだ。左手で後ろへ下がるようにジェスチャーをする。私も木の陰へ隠れた。真人は音がしないように防寒着を脱ぐ。戦闘の準備だ。私も念の為に防寒着を脱いだ。
ザクザクと雪の上を重たいものが動く音が聞こえる。時々ウオーという声とウォッウォッという声がする。その声は段々近づいてきて、そして姿を現した。私たちの1mほど先にイエティが2体いる。以前倒したダークベアと同じくらいの大きさだ。全身を白い毛でおおわれ、長い手を前に垂らすように立っている。ゴリラかマントヒヒの親戚のようだ。
突然1体が大きな手を振り上げこっちを向く。気づかれたのだ。勢いよくその手を振り下ろし、真人が隠れていた木を叩き折った。
「ウォーーーー。」
大きな声を上げ、真人を襲う。それに連携するようにもう1体も攻撃を始めた。2対1の状態だ。このままでは勝ち目はない。私は真人から1体を引き離すべく魔法を放った。
体毛のせいか、全く効いてない。しかし真人から引き離すことには成功した。1体は私に向かってくる。
「トモさん、ダメです!」
魔法が効かないのならせめて足手まといにはなるまいと着いてきたが、私に向かってきた1体に気をとられた真人はもう1体からの攻撃を受けた。寸前に気が付いたので大したダメージはなかったようだが、顔にわずかに怪我をした。
「こっちの1体は何とか足止めするわ。そっちに集中して!」
イエティにファイアボールを投げつける。イエティはそれを両手で払いのける。少しずつ真人から距離ととることに成功し、1対1になった。
「真人があっちを倒すまで時間を稼がなきゃ。」
雷、炎と交互に放つ。効いてはいないが鬱陶しいのだろう。何度も両手で払いのける。
「打撃なら効く、打撃なら効く・・・。」
ぶつぶつと言いながら閃いた。
「これならどうよ!。」
大きな氷の塊を5~6個出す。それをイエティに向けて飛ばす。体、顔バシバシと飛んでいく。
「効いて・・・ない?」
再度氷を出してイエティに飛ばす。1つがイエティの額に当たった。
「ウウウ・・・。」
痛いようだ。額を抑えている。私たちと同じように痛みを感じるのか?急にイエティの目つきが変わり、猛スピードで私に向かって突っ込んできた。
「アイスウォール!」
とっさに叫んで目の前に氷の壁を出した。分厚い氷の壁に勢いよく突っ込んだイエティは、見事にぶつかりその反動でひっくり返った。
「今、今がチャンスよね。」
大きな氷の塊をいくつもイエティの上に出し、勢いよく落とした。
「グホッ・・・。」
1つが顔面を直撃した。顔が血だらけになったイエティはピクピクと手足を動かす。
「やっぱり毛がない所はいけるんだ。」
次に大きな氷の柱を出し、再び顔をめがけて落とした。ゴン!大きな音がして氷が割れた。
「もう一発!」
追加で出した氷が確実に息の根を止めたようだ。動かなくなったイエティをすぐに収納へ入れた。すぐにサポートへまわろうと急いでいくと、数本木が倒れた先にイエティを倒した真人が立っていた。
「トモさん無事でしたか!」
真人が走ってきた。
「あー、うん。無事・・・よ?」
ほっぺたをカリカリとかきながら答えた。
「もう1体は?」
私の戦闘を見ていなかった真人はキョロキョロと周りを探す。
「あー、倒しちゃった。」
収納からイエティを出した。
「ええ?魔法は効かないはずですよね。」
びっくりした真人は何が起こったか聞いてきた。
囲炉裏を挟んで暖をとった。やはり雪山でのキャンプは寒いので山小屋まで戻ってきたのだ。イエティを倒した方法を聞いた真人は大笑いしていた。
「しかし、氷魔法をそういう風に使うとは。こっちの人は絶対に考え付きませんよ。」
「だって打撃なら効くって言ってたし、額に当たった氷を痛がってたんだもの。」
「2体感知した時にどうやってトモさんを守ろうかと思っていたのに、まさかあっさり倒してしまうとは思ってもみませんでしたよ。」
笑いながら話す真人を見て私もおかしくなった。
「もう、笑いすぎ!」
そう言って一緒に笑った。
「1体以上で何体でもOKだったので、もう少し付き合ってもらってもいいですか?」
「食料は5日分あるからいいわよ。でも帰ったら高級宿ね。」
「了解です。」
私たちは5日かけて安全な方法でイエティを討伐した。




