父の話
父と二人で向かい合って食べる晩御飯は何日ぶりかしら?私のバイトや父の仕事の都合で最近食事をしていなかったけど、一緒の時はその日あったことを色々と喋りながら食べていた。けれど、今日はあのことが気になって喋れない。チラチラと父の顔を見ながら黙々と食べていた。
「どうした?今日は随分と大人しいな。」
ドキッとする。多分父は私が何か言いたいことがあるのがわかっているのだ。そしていつ話し出すのかを待っている。じっくり聞きたいので食事中に話せないでいたのだ。
「うん、実は聞きたいことがあって。」
「やっぱりか。お前はいつもそうだな。」
子供のころからの癖だから、父はお見通し。そしていつも私が話しやすいようにこうやって促してくれるのだ。
食後のお茶を飲みながら、
「あの・・・私ってお父さんの本当の子供じゃないの?」
よほどびっくりしたのか、父は咽て咳込んでしまった。
「な・・・ゲホゲホ、どうしてそんな話になるんだ?」
私は父に先日女性から聞いた話をした。父は黙って聞いてくれた。しばらく考えこんで言葉を選びながら、
「その女性がお前を見つけた経緯は知らないが、結論から言うと間違いなく私の娘だ。」
それを聞いて少しホッとする。でもそうすると、光ってたってことが気になって仕方がなかった。
「たまたま車のライトが雪に反射して遠くから見ると橋が光って見えたのかもしれん。」
お茶のお替りをしながら続けて
「あの日は出張で家にいなかったのだ。次の日家に帰ったらお前たちがいなくてね。嫌な予感がしてすぐに探し回ったよ。綾子の実家にも連絡したし、警察にも行った。そしたら前日に赤ちゃんが保護されて、その日のうちに養護施設へ預けられたと聞いた。すぐに引き取りに行ったよ。」
私は父の言葉を黙って聞いていた。
「警察は橋の上に置き去りにされたと処理をしていたらしい。でもその後も綾子の行方は分からなかったよ。子供を捨てるなら橋の上はあり得ないと綾子の母が何度も訴えてね、やっと警察が捜索してくれたよ。そして河川敷に流れ着いていた靴で綾子は『飛び降り自殺をした』と結論づけられたんだ。」
涙をこらえて話す父になんて言葉をかけていいかわからない。そんな辛いことを思い出させて、私は聞いたことを後悔した。
布団の中で色々と考えたけど、私は父が大好きだ。母のことはよく知らないから好きだという感情はない。もし今会えたらどうだかわからないけど。父は母に会いたいのかしら?だって靴しか見つからなかったってことは、生きている可能性もあるってことよね。美作さんのおじいさんのことを聞いた後だと、母ももしかしてと思ってしまう。なかなか寝付けず、スマホに手を伸ばす。美作さんに相談してみようかな。
(明日今日の話の続きをできますか)
「朋美、今日は学校休みか?」
ドアをノックする父の声が聞こえる。
「あー、寝過ごした!」
時計は普段起きる時間より30分も過ぎている。慌てて飛び起き、着替えてリビングへ。すでに父は朝食を食べ終わっていた。
「お父さん、ありがとう。」
「ああ、朝食はしっかり食べていけ。」
テーブルに準備してある朝食に手を伸ばした。厚切りのベーコンとサラダにカフェオレ。パンに今日はピーナッツバターをたっぷり塗ってかぶりついた。ちらりと時計を見た。駅まで走れば大丈夫!最後にカフェオレを飲み干し、ダッシュで家を出た。
いつもの道を駅まで急いだ。寝坊したから仕方がないけど、少しでも足を止めたらいつもの電車に乗り遅れてしまう。いつもより重い背中のリュックが激しく揺れるが、今日は気にしていられない。最後の横断歩道は赤信号に阻まれた。ハアハアと肩で息をしながら青になるのを待つ。その時柔らかな空気が流れ地面が段々光りだした。
「これは?」
驚いた私は一歩後ろへ下がったと同時に、誰かにぶつかった。
「あ、ごめんなさい。」
「いえ・・・。」
そんなことを言っているうちにまぶしい光が私たちを包み込み、気が付いたら見知らぬ草原に立っていた。
何が起こったかわからない私たちは、お互いの顔を見つめ合った。それから視線を周囲に移せば、もう一人サラリーマンかと思われる男性が鞄を抱えてきょろきょろと周りを見ていた。どうやらここに居るのは私たち3人だけのようだ。草原のすぐ脇に森が見えた。森の木々はかなり大きく、ちょっと怪しげな雰囲気が漂っている。




