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こっちで元気にやってます  作者: 楠 螢
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新しい短剣

「待たせたな。出来ているぞ。」

カウンターの上に布がかけられた場所がある。この下に私の新しい短剣があるのだ。ドキドキしながら布をとる。鞘に収まった短剣があった。

「綺麗・・・。こんなに装飾はいらなかったのに。」

鞘にはツタの模様があり。黒い小さな魔石が左右に1つづつ埋め込まれている。柄は透かし模様になっており、その中にオレンジの魔石が見える。

「いやあ、久しぶりだったから気合入っちゃってさ。その鞘の黒い魔石は以前加工したやつの残りだから気にするな。もし魔力が切れても鞘に納めればそいつが魔力を供給してくれるぞ。」

一番高いやつだ!そんなものを付けてくれるなんて、どれだけサービスしてくれたのかしら。そっと手を伸ばし握ってみる。握りやすい。以前持っていたものよりしっくりくる。

「抜いてみな。」

言われて鞘から抜いてみた。金属の鈍い光が高級感を出している。

「これ、前のより少し長いですよね。」

「おうよ。あんたの体格ならそのくらいの方がだろう。こっちでちょっと振ってみな。」

裏庭に連れてこられた。言われた通り振ってみる。ひゅんひゅんと音を立てて剣が空を切る。

「すっごくいいです。馴染んでます。」

「そうだろう、そうだろう。」

アルコスは満足げに頷いた。

「魔石の色は属性に関係している。オレンジは火だ。火の属性があれば効果は高いぞ。なくても問題ないがな。雷は黄色、風は緑、水は青だ。」

なるほど、これで火の属性が使えれば1.5倍くらいの効果が出るのか。試しにイメージして魔力を流してみた。・・・うん、出てこない。やっぱり属性がないんだわと思ったその時、

ボン!大きな音を立てて短剣から炎が出た。

「ひっ!」

びっくりして短剣を手放した。真人もアルコスもびっくりしている。

「いやぁ驚いたね。大剣の魔剣と同じくらいのが出たな。」

私が今まで火を使えなかったのを知らないアルコスはガハハと笑って言った。噂が広まる前に退散しようと、残金を支払ってさっさと店を出た。


ここから北西にある『ロマ』という町を目指します。馬車で丸1日かかるみたいですよ。」

「馬車で丸1日・・・。」

「平地みたいですから歩きますか?」

足が疲れるかお尻が疲れるか。悩みどころだ。

「歩きましょう。」

どうせ野宿するのなら自分たちだけが気楽でいいという結論に達した。


西門から街道に出る。それと同時に足を強化する。先ほどより抑え気味に進む。

「これで筋肉痛にはならないわよね。」

「ははは、自分は大丈夫でしたよ。」

ジョギングより少し早いくらいのスピードだ。これなら長くいけそうだ。徒歩で移動している他の人たちをどんどん抜いていく。1時間ほど進んだ所で強化の効果が切れた。

「さっきよりきつくないわ。この感じならいいわ。」

「明日反動が来ないといいですけどね。」

「あ、やっぱり筋肉痛がくるのかしら。」

ゆっくりと喋りながら歩く。

「あの森を過ぎたら休憩しましょうか。」

「そうね。森の中は魔物がいるでしょうから、あそこを過ぎたら休憩にしましょう。」


冷たい風が気持ちいい。歩くことが楽しいって、こっちに来てから初めてかもしれない。私・・・こっちに来て楽しかったことを全部忘れていたんだ。せっかくの異世界、楽しまなきゃ損だね。


薄暗い森へつながる道を朋美はすがすがしい気持ちで進んで行った。もうすぐ帰れるかもしれない。頭の中はそのことでいっぱいだ。

「います。2・・3体・・・。」

「先に感電させましょうか。」

真人と背中合わせに立ち、周囲に向かって稲妻を発生させる。さほど強くなかったので、ピリピリと痺れた魔物が木の陰から姿を現す。

ワータイガー1匹とゲジゲジの魔物が2匹だ。

「虫は魔石しか取れないってマイさんが言ってたわね。さっき出た炎で焼いてみるわ。」

「了解です。自分はワータイガーを仕留めます。」

お互いターゲットに向かって攻撃を開始した。


「わー凄いね。あっという間にお肉と皮になってる。」

「トモさんも覚えましょうね。」

真人はあっという間にワータイガーを解体した。魔石もまあまあの大きさだ。私のゲジゲジより少し小さいが。

「この先は何もいないみたいですね。さっさと抜けて休憩しましょう。」

森の中の一本道をすいすい進む。時々獣の鳴き声が聞こえる。10分くらい歩くと向こうが明るくなってきた。

森を抜けたら広い草原になっていた。

「あそこに大きな木があるから、あの木の下でお昼にしない?」

確かに大きな木がある。あの木陰で休憩するのがちょうどいいだろうと道をはずれたが言ってみる。

「随分と大きいね。樹齢はどの位だろう。」

日差しを遮れる場所を陣取り、草の上に座って休憩する。カップを取り出し、魔法で水を入れる。

「氷はいる?」

「はい、1つお願いします。」

氷を入れてカップを渡す。

「あ、この氷、星の形をしてますよ。」

「気が付いた?実は色々試してみてるの。魔法を細かく制御できるようになるといろんな形の氷も作れるようになったのよね。あ、逆ね。制御できるようにする為に氷でいろんな形を作ってみてるの。より綺麗な形になるように細かい物にもチャレンジしているの。」

そう言って自分のカップには金魚の形をした氷を出した。

「へー、面白そうですね。」

水の中を泳ぐ氷の金魚。夏だと涼を感じるだろうが今は冬。あまり考えないようにして休憩を終わらせた。


夜のとばりが下りてきた。

「この辺でテントを張りましょう。」

見渡す限りの平原だ。身を隠す場所もない。その分魔物や盗賊も見つけやすい。

「変なのがテントの上から降ってくるよりいいわよね。」

森の中でテントをすればヘビやら虫が落ちてくる。

「焚火は絶やさないようにしますね。」

「交代で寝ましょう。真人はどっちがいい?」

決まりそうにないのでじゃんけんにした。

「それでは遠慮なく先に休ませてもらいますね。」

勝った真人は先に寝る方を選んだ。軽く夕食を済ませ、さっさとテントの中に入ってしまった。私は焚火をしながら空を見上げる。

「星が綺麗・・・。」

プラネタリウムにいるかののような満天の星空。冷たい風が時々焚火を揺らす。

50年前にお婆さんだったってことは、その人はもう生きてはいないわよね。でもそのことについて知っている人はいるのかしら。何か記録とか残っていればいいけど・・・。

膝を抱えて焚火を見つめる。どこから調べたらいいのか分からないが、とりあえず噴水のある公園を探すところから始めてみようと思った朋美だった。


「トモさん、交代しましょう。」

起きてきた真人が言う。

「ありがとう。もう目が限界よ。」

上の瞼と下の瞼がくっつきそうだ。

「ゆっくり休んで下さい。」

遠慮なくテントの中に入る。横になった私はすぐに眠りに落ちた。

父が私を見ている。手を伸ばし私の手を取る。小さな手だ。誰かが私を抱いている。顔ははっきり見えない。でもその口元は優しく微笑んでいる。父は目線を私からその人に移す。口が動くのが見える。

あ・り・が・と・う・あ・や・こ。


誰かが私を抱いている。あれは哺乳瓶?私は小さい手でしっかりとそれを握り、一生懸命飲んでいる。優しい手が私の頬に触れる。顔は見えない。でもどうしてだろう。凄く悲しそうに見える。目線をその人の顔から違うところに移す。散らかった部屋。自分の家だ。もう一度その人を見る。乱れた髪。やつれた表情。何かが私の頬に落ちてきた。これはこの人の涙?

で・き・の・わ・る・い・お・か・あ・さ・ん・で・ご・め・ん・ね。


天井が見える。周りを見渡すと見慣れた家具や服がある。家の中だ。視線の先に祖母がいる。手を伸ばし私を抱き上げ、父に何かを言っている。父はひたすら頭を下げている。祖母はひどく怒っているようだ。しきりに父を責めている。

あ・や・こ・が・し・ん・だ・の・は・あ・な・た・の・せ・い・よ。


テントの隙間から日が差し込んでいる。朝がきたのだ。私はゆっくり体を起こす。

「何だったんだろう。嫌な夢だったな。」

体を伸ばし、髪を手櫛で整える。

「おはよう、真人。」

テントの外に出る。焚火を消して稽古をしている。

「真人って何か習ってたの?」

「おはようございます、トモさん。小学校の低学年まで空手を習っていました。」

シュッシュと空気を切る音がする。ああ、だから武闘タイプの適性が出ていたのね。今頃納得してしまった。

「どうして低学年までなの?ずっと続けていればよかったのに。」

何気なく聞いてみた。すると真人は手を止めこちらにやってきた。

「朝食にしましょうよ、トモさん。」

聞いてはいけなかったのだろうか。

「あ、うん。すぐ出すね。」

慌てて収納から食べ物とカップを出す。テントを片付け、朝食を食べる。

「自分が3歳くらいの時に父が男なら強くなれなんて言って、近所の空手道場に連れていかれたんです。そのまま入門させられましたよ。」

ああ、聞いてはいけないことではなかったのねとほっとした。

「それでも結構楽しくて。型を覚えていくと自分が段々強くなった気がして。上級生の帯の色が変わると羨ましかったですよ。」

話しの合間にパンを食べる。水を飲み一呼吸してまた話し始めた。

「でも弟が生まれてから家の中が変わってしまったんです。そのうち両親は仕事にばかり夢中になり、家の事は何もしなくなりました。」

私はパンをかじりながら視線を逸らす。

「それで自分が弟の面倒を見なきゃと思いましたね。空手はその時辞めてしまったんです。」

残りのパンと肉を食べ、その場に立ち上がった。

「両親に何があったか知りません。家族の会話もほとんどなくなり、自分が弟の面倒を見ることが当たり前になっていました。両親は生活できるだけのお金は渡してくれていたので、その頃から家にあるもので料理をしたり、足りないものは買ってきたりして色々作ってたんですよ。家事のほとんどはやってましたね。」

最後の方は笑いながら言った。そして私を見て、

「弟の事は気になるけど、もう中学になるのだからある程度のことは自分で出来るはずです。だから自分はあっちに未練はないんですよ。」

次に出てくる言葉の想像がつく。ゆっくりと腰を下ろし、じっと私の目を見つめる。

「だからトモさん、もしあっちへ帰ることが出来たなら、その短剣を置いて行ってくれませんか?トモさんだと思って大事にしますから。」


ショックだった。真人が帰らないという選択をするとは思っていなかった。いいや、そう思っていると思いたくなかったのだ。一緒に帰ってくれるそう信じていたかったのだ。手が震えた。なんて答えたらいいのだろうか。言葉が出ない。

「こっちに来た記念に持って帰りたいというなら無理にとは言いませんよ。」

そう言って再び立ち上がり真人はその場を離れていった。

「あれ?どうしたんだろう・・・。」

涙が溢れていた。帰りたいはずなのに、なぜ涙が出てくるのか自分でも分からなかった。

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