リルーディの夢の話
王都の外れにその家はあった。父親は城に勤めていた。母親は自宅兼店舗で薬の販売をしている。
「お父様、お母様、今日はお庭にラベンダーの花が咲いたの。とってもいい匂いがするわ。」
「これは何のお薬になるの?」
双子は代わる代わる両親に話しかける。
「我が家の華は私たちにとって元気の源。お前たちが私たちの素敵なお薬だよ。」
父親が言う。
「あなた、今日はお城で新薬の発表会があるそうですね。」
「ああそうだ、お前の作った薬もあるぞ。シルファンが代理で説明してくれるそうだ。」
「あら、あの薬も審査に残ったのですか?」
「有効性が認められたと言ってたぞ。3年程かかったかな。」
「それはよかったです。研究所で色々やってるとは聞いていましたけど、発表会までこぎつけているとは知りませんでした。きっとシルファンが驚かそうと思って黙っていたのですね。」
「ははは、むしろ筒抜けと思って言わなかったのかもしれないぞ。」
「お父様行ってらっしゃーい。」
双子は仲良く父に言う。
「行ってくるよ。今日はちょっと帰りが遅いから、無理して起きていなくていいぞ。」
「やだー、起きてるー。」
「眠くないもーん。」
父親はそのまま出かけていった。
「さーて、アリューリャ、リルーディ、お手伝いの準備は出来てますか?」
「はーい!」
双子は背中に小さな籠を背負って、母親と一緒に畑へ行く。
「これがカツミーレ、これがペパーミント・・・。」
母親の真似をして一生懸命摘んだ薬草を籠へ入れていく。
「私も早くお母様みたいに収納が使えるようになりたいわ。」
「私もー。」
せっせと薬草摘みをしているうちに、アリューリャは畑の端まで行ってしまった。
「アリューリャ、畑から出てしまうからこっちへ戻っていらっしゃい。」
母親が声をかける。すっくとその場に立ってアリューリャが笑う。
「はい、お母様。薬草を摘みながら戻ってきます。」
そう言って座り込んだ時に地面から光の環が現れる。
「アリューリャ、すぐにこっちに来なさい!」
慌てて母親はアリューリャの方へ走り出す。
「アリューリャ、アリューリャ!」
アリューリャは何が起こったかわからず、ただ光の中に座り込んでいた。
「アリューリャー!!!」
母親は手を伸ばすが、その手がアリューリャに届くことはなかった。
「ああ・・・アリューリャ・・・。」
母親はその場に崩れ落ちる。
「お母様?アリューリャ姉様はどこへ行ったの?」
母親の横へ来たリルーディ。
「あ・・・ううう、リルーディ・・・、ううう・・。」
母親はリルーディを抱きしめ、ひたすら泣き続けた。
知らせを聞いた父親は飛んで帰ってきた。
「マーサ、いったいどうしたんだ!?」
「あああ、あなた!」
父親にしがみつき、母親は泣き崩れる。
「あのね、アリューリャ姉様光の中に消えていったの。」
説明を聞いた父親は全身の力が抜けたようにその場に座り込んだ。
「なんてことだ・・・。まさかあの子が・・・。」
父親と母親の様子がいつもの違うことを感じ取ったのか、リルーディはそのまま自分の部屋へ行った。
姉様どうしたのかしら?あの光は何?昨日こっそり作ったお薬が悪かったのかしら?
リルーディとアリューリャは前日に両親に内緒で薬を作っていた。
「もうすぐお父様のお誕生日だから、私たちが作ったお薬をプレゼントしましょう。」
「賛成。どんなお薬を作る?」
「あのね、最近お父様よく疲れたって言ってるから、疲れが取れる薬を作ろうと思うの。」
「これがお薬の本ね。どこに載ってるのかな。」
2人でページをめくる。
「あった、これよ。ほら、何とか回復って書いてあるわ。」
2人は6歳になったばかり。まだすべての文字が読めるわけではない。
「えーと、カンゾウとツキミノクサと・・・。」
こっそり畑からとってきた薬草をすり鉢で混ぜ合わせる。
「これは?」
「ナノミグサね。それも入れて。」
ゴリゴリゴリ。書いてある薬草を次から次へと入れていく。
「なんか臭いよ。」
「うん、臭いね。いい匂いがするのを入れちゃおうか。」
こっそり扉を開ける。2人で誰もいないのを確かめてから畑に向かう。
「ラベンダーがいいかな。」
「お花を使うの?」
「だっていい匂いがするよ。」
「それじゃあそれを入れようか。」
2人は楽しそうにラベンダーを摘む。そしてこっそり部屋に戻る。
「えーと、お花だけ入れるのかな?」
「葉っぱも入れちゃおうよ。」
「そうだね。えーい。」
ラベンダーを茎ごとすり鉢に入れる。再び擂粉木ですり潰す。
「なんか思ったのと違うね。」
「うん、違うね。」
色も怪しくなってきた。それでも2人は一生懸命に作る。
「これくらいでいいかな?」
「もうすり潰せないよね。」
怪しい液体をすり鉢から瓶に移す。
「お父様の誕生日まで、私が持ってるね。」
「うん、アリューリャ姉様が持っててね。」
「お部屋に置いておくとお母様に見つかるから、私のお洋服のポケットに隠しておくね。」
アリューリャはクローゼットの中の洋服のポケットに怪しい薬を隠した。
「早くお片付けしましょう。お母様に見つからないように。」
「うん、急いで片付けよう。」
翌日アリューリャはその服を着た。こっそり薬をリルーディに見せる。
「ほら、昨日より綺麗な色になってる。」
「あ、本当だ。キレイキレイ。」
不純物が下に沈んで深緑の綺麗な色になっている。
「これならお父様喜んでくれるね。」
「うん、絶対喜んでくれるよ。」
2人は数日後の父親の誕生日を楽しみにしていた。あの事が起こるまでは。
ゆっくりと目を覚ますリルーディ。
「ああいけない、眠ってしまっていたみたいだね。あんな夢を見るなんて。」
忘れたい記憶。忘れられない記憶。
「続きは・・・見たくないねぇ・・・。」
ゆっくりとロッキングチェアから立ち上がる。パラリとひざ掛けが落ちる。夕陽がリルーディの顔を照らす。
「ああ、アリューリャ姉様・・・。」
床には水の跡が数滴ついていた。




