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こっちで元気にやってます  作者: 楠 螢
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薬師リルーディ

5日が過ぎてマイとの即席パーティも終了した。短剣が出来上がるのに最低2週間はかかるので、部屋もシングルを2部屋に変更して更に2週間借りた。

「今日はツェンに行ってみない?」

アーヤとメルフィラの師匠がいる村だ。ご年配の方で若い頃は王都でも有名な薬師だったらしい。何か知っているかもしれない。

「いいですね。依頼を受けたらすぐ出発しましょう。」

朝食をとりながら話をしていた。

おや、ツェンに行くならうちのガルディと一緒に行ってくれないかい?今夜の料理に使う野菜が切れちゃってね、あの村に買いに行く予定だったんだよ。」

「帰りはどうするんですか?」

「あの村に行く道中には魔物はめったに出ないからね。でも念の為さ、ダメかい?」

全く問題ない。快く引き受けた。

「それじゃあギルドで依頼を確認してから戻ってきますね。」

「ああ、助かるよ。こっちも準備させとくから。」

宿を出てギルドへ向かう。途中でアーヤに会った。

「おはようございます。お出かけですか?」

「ええ。今日はツェンに。」

「あ、私たちもそこへ行くんです。ガルディさんも一緒だから、アーヤさんもどうですか?」

「あら、冒険者が一緒だなんて心強いわ。お願いしようかしら。」

私たちは急いでギルドで依頼を受けた。


1時間近く歩いてツェン村に着いた。村というより、数軒家があるだけの集落だ。

「僕は野菜を買いに行ってきます。そのまますぐに帰りますから、皆さんはゆっくりしていって大丈夫ですよ。」

夜の仕込みもあるのだろう。ここで別れた。

「私はリルーディ師匠のところに行きますが、お2人はどちらへ?」

「実は自分たちもその人のところに行きたいのです。」

「師匠は引退してほとんど人とはお会いになりませんよ。」

少し怪訝な顔をした。

「ちょっとお聞きしたいことがあるんです。その・・・年配の方なら何か私たちの欲しい情報をお持ちではないかと思って。」

「薬の依頼ではないのですね。わかりました。ご一緒しましょう。」

連れて行ってくれるらしい。私たちは彼女の後をついて行った。


「リルーディ師匠、アーヤです。」

一声かけて扉を開けた。中には誰もいない。

「リルーディ師匠。」

「おや、誰かと思えばアーヤじゃないか。久しぶりだね。」

入口から老婆が入ってきた。私たちをじろりと見ると、

「誰だい、この人たちは。」

今にも出て行けてと言わんばかりの顔をしている。

「トモさんとマサトさんよ。師匠に聞きたいことがあるそうです。」

ため息をつき、テーブル席に座るように指示される。

「アーヤ、あれを入れておくれ。」

「はい。」

アーヤはキッチンへ行き、お湯を沸かす。

こげ茶色に白が混じった髪。深い緑の目。老婆は椅子に腰かけ、私たちにも座るように言った。

「さて、私に聞きたいこととは何だい?見たところこっちの人ではなさそうだけど。」

リルーディは私たちが渡り人だと確信しているようだ。

「はい、私たちは異世界から来ました。この世界には渡り人がよく来ると聞いています。その人たちがそのままこちらで暮らしているそうですね。」

「そうだね。私の知ってる渡り人もこっちで暮らしているよ。さほど不自由もしていないしね。あんたたちはどうなんだい?」

確かに数か月過ごしてみて、そんなに困っていることもない。しかし、自分たちの目的はそれではない。

「自分たちはあちらの世界に帰る方法が知りたいのです。ご存じではないでしょうか。もしご存じなくても、そういったことに詳しい人を紹介してもらえないかと思い伺いました。」

いい香りがしてきた。よく飲んでいたものの匂いだ。

「どうぞ。」

カップに黒い液体が入っている。アーヤはそれをみんなの前に置く。

「トモさんとマサトさんはお砂糖やミルクは必要かしら?」

リルーディの隣に座る。

「これ・・・コーヒーですよね?」

こちらでは初めて見る。まさかここでコーヒーが飲めるとは思ってもいなかった。ブラックで一口飲む。あちらのコーヒーとは少し味が違うけど、やっぱりコーヒーだ。

「美味しい。」

その時私は気が付いた。彼女が呼ぶ私の名前を。

「もしかして、アーヤさんも渡り人ですか?」


そうだ。こっちの人には朋美という発音はしづらいのだ。みんな朋美と言ってもトモーミと返す。でもアーヤはあの時私を大野トモミさんと言った。

「アーヤの事は大っぴらにしないでおくれ。色々と面倒なことになると困るから。」

「それって、貴族のお抱えとかですか?」

リスデンでの件があったので聞いてみた。

「おや、知っているのかい。まあ貴族程度ならいいのだけれどね。」

そう言ってリルーディはコーヒーを飲んだ。

「さて、さっきの質問に答えよう。方法は知らない。知っている人も知らない。以上だ。」

あっさりと言われた。

「それは、方法はないという事ですか?」

「いや、方法を知らないという事さ。ただ、こちらから異世界へ行ってしまった人もいるから、何かしらの方法はあるのかもしれない。」

アーヤも涼しい顔をしてコーヒーを飲んでいる。

「行ってしまった人がいるってどうしてわかるんですか?」

真人が突っ込んだ質問をする。

「行った人が帰ってきたんだよ。だから一方通行ではないようだ。でもその方法を私は知らないし、知っている人も知らないってだけさ。もしかしたら世の中には知っている人がいるかもしれないけど。」

方法は分からない。でも帰れる方法があるかもしれない。それが分かっただけでも一歩前進だ。

「でも無理に帰らなくてもいいんじゃないかい?こっちで生きていく方が幸せかもしれないよ。」

「例えそうだとしても、今は戻れる可能性があるならそれに賭けたいのです。アーヤさんはどうなんですか?」

「え、私?私は・・・。」

少し俯く。それから顔を上げ、

「戻りたいと思った時もあったけど、今はこの世界で生きていくって決めているから。その気持ちは変わらないわ。」

はっきりと答えるアーヤの顔には一つの曇りもなかった。

どうやら彼女はあちらで結婚していたらしい。互いに実家が遠いのでどちらの親も頼れず1人で家事と育児で大変な思いをしていた。そんな中夫は仕事に忙しく家庭は全く顧みなかったそうだ。そして疲れ果てて限界を感じていた時にこちらへ来てしまったと。あちらに置いてきた子供の事は気になったが、戻れる可能性が0に近いのならと諦めがついたそうだ。

「まあこっちへ来て半年ほどは泣き暮らしていたんだよ。でもやっとこっちで生きていく決心をしてね。仕事を教えたらあっという間に覚えてしまったのさ。それでアーヤを私の後継者にしたのさ。」

その流れでいくとメルフィラの覚えが悪かったの?と疑問が生じたが、この時は聞かなかった。


依頼の薬草の採取をするために出かけると言ったら、近くにあるからと場所を教えてくれた。2人で採取をしながらさっきのことを考えていた。

「そんなに簡単にあっちに帰ることを諦められるのかな。」

「簡単ではないと思いますよ。でもあっちの未練よりこっちで前向きに考えることが彼女にとっては必要なことだったのだと思いますよ、きっと。」

「でも子供もいて簡単に諦められるのかなーって思ったの。」

あっちの未練。そんなものなのだろうか。

「それは職業の適性のあるのではないでしょうか?薬師が旅をしながら戻る方法を探すとなると大変だと思いますよ。まず戦闘が出来ませんしね。」

「確かにそのとおりよね。そうなると方法を探すことも出来ないから諦められるのか。」

ブチブチと薬草をちぎりながら朋美は考える。

「そうだ!私たちが帰る方法を見つけた時に聞いてみればいいんだ。もしかしたら方法がわかったら帰るって言うかもしれない!」

すっと立ち上がり朋美は叫ぶ。

「そうかもしれませんね。でも自分はトモさんがいてくれれば帰らなくてもいいと最近は思っています。」

薬草を摘み終えた真人は、真面目な顔で立ち上がりそう言う。そしてゆっくりと朋美の方へ歩いてきた。

「自分はトモさんがいてくれたら・・・。」

「い、依頼分が取れたら戻りましょう。」

その先を聞かずに私は村に向かって走り出した。


「よかったのかい?」

「はい、師匠。」

片づけをしながらリルーディはアーヤに聞く。

「もう一生分涙を流しました。本当はそんな立場ではないのですけれど。」

「そっちの話じゃないよ。」

「はい、大丈夫です。」

アーヤは少し俯く。

「でもあの子たちは戻る方法を探している。それも幸せなのかね。」

リルーディは食器を洗いながら呟く。

「でもあの事実を知ったらどうするのかね。」

「その時は・・・きっと何とかなりますよ。だって・・・。」

ガチャリと扉が開いた。

「沢山取れました。リルーディさん、ありがとうございます。」

息を切らして朋美が戻ってきた。遅れて真人が入ってくる。

「もう戻れますよ、アーヤさん。」

「そうね、そろそろシェスナへ戻りましょうか。師匠、お邪魔しました。また来ますね。」

「ああ、気を付けてお帰り。」

お辞儀をして、3人は扉を閉めて出て行った。

「渡り人・・・か。私は随分と縁があるんだねぇ。」

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