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こっちで元気にやってます  作者: 楠 螢
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アーヤ

レストランは満席だった。

「すぐ空くからちょっと待っててね。」

フィフィーが声をかける。店主のガンドは黙々と料理をしている。隣で息子のガルディは盛り付けを手伝っている。

「木の葉屋を思い出しますね。」

「あそこも家族経営だったから、こんな感じだったよね。」

元気にしているだろうかと懐かしがっていると、

「2人ともこっちへどうぞ。」

手招きして呼ばれた。その丸テーブルには先客が一人いる。

「相席になるけど、いいかな?彼女はいいって言ってるから。」

疲れているから早く食べて温泉に入りたい。相手がいいと言ってるならさっさと相席して食事を済ませてしまおうと、ぺこりとお辞儀をして席に着いた。

頭を上げると、目の前にいたのは一昨日の女性だ。

「アーヤ、ありがとね、2人は注文が決まったら呼んでね。」

フィフィーはそのまま行ってしまった。

「あ、相席ありがとうございます。」

何か話さなきゃと思って思わず口に出てしまった。彼女はにっこりと微笑んだ。

ドキドキする。何だろう、この感じ。

「一昨日もいらしてましたよね。お見かけしたので・・・。」

不思議に思った真人が小声で話しかける。

「トモさん、どうしたんですか?」

「その・・・よくわからないわ。」

困って下を向いてしまった。彼女はテーブルに肘をつき、顎の下で手を組んでいる。

「今日のお勧めは『ティラピアのムニュル』よ。」

こげ茶色のウェーブのかかった髪に黒い瞳。歳は30歳前後だろうか。朋美は彼女をじっと見ている。

「それじゃあそれを頼みましょうか?」

何も喋らない朋美を見て、真人がすぐにフィフィーを呼ぶ。

「アーヤのお勧めだね。スープもつけるから待っててね。」

すぐに厨房へ行く。場が持たないと思った真人はアーヤへ話しかける。

「アーヤさんは常連なんですか?」

「ええ。自分で作るのが面倒な時はすぐここに来ちゃうの。」

「作るってことは、この辺りに住んでいらっしゃるんですか。」

「ええ。私は薬師だから近くでお店をやってるの。あなたたちは冒険者?」

「は、はい!私は大野朋美と言います!」

緊張のあまり朋美はいきなり席を立った。一瞬周りから注目を浴びる。

真っ赤になって椅子に座り直す。クスクスと笑いながらアーヤが言う。

「大野トモミさんだからトモさんね。」

「自分はマサト・エンドーです。」

「マサトさんね。」

ニコニコしながら言うアーヤに朋美は見とれている。

「ティラピアのムニュルお待たせ。」

フィフィーが料理を持ってきた。娘のティフィーはトレイにスープとパンを持っている。

「あ、アーヤ来てたのね。」

テーブルに料理を置きながらティフィーが言う。

「明日の朝食はあれよ!」

「あれなのね。予約するわ。」

あれで通じるほどの常連らしい。

テーブルにはパンとスープ、魚のムニエルが乗っていた。夕食時に明日の朝食の話をするとは、よほどいい物なのだろうか。特に会話もないまま食事がすすむ。一足先に食べ終わった真人がアーヤに聞く。

「お店はどこにあるのでしょうか?よかったらポーションとかを売って欲しいのですが。」

アーヤは食事の手を止め、

「明日朝食を食べにここへ来るから、その後お店へ案内しますよ。」

「明日は8時に出発をするので、その前でも大丈夫ですか?」

「店はすぐそこだから大丈夫よ。私は7時にここへ来るから十分間に合うわよ。」

私はその会話を聞きながら黙々と食べていた。


温泉で疲れを癒し部屋へ戻った。真人は先に戻っていた。

「お帰りなさい。」

「ただいま。冷たいお水飲む?」

「はい、いただきます。」

魔法でカップに水と氷を入れる。それを真人に渡し、自分のカップにも同じものを入れる。そのまま自分のベッドに座り、カップを両手で握ってじっと見つめる。真人も朋美と向かい合うように自分のベッドに座る。

「トモさん、アーヤさんがどうかしたのですか?」

朋美の態度を不思議に思った真人は迷わず聞く。

「うん・・・何だろう、初対面よね。でもあの人すごく懐かしい感じがするの。」

「トモさんに似ているからじゃないですか?」

びっくりして顔を上げる。

「私がアーヤさんに似てる?」

「はい。何となく似てますよね。トモさんがもう少し歳をとったらあんな感じかなーって自分は見ていたんですけど。」

ショートヘアーで男勝りの私が、あんなふんわりした優しい感じの人と似ているなんてあり得ないと思った。

「そんなことはありませんよ。中学のころから面倒見が良くて優しくて・・・。」

真人は顔を赤らめて言う。

「アーヤさんの笑った感じ、トモさんそっくりですよ。」

そう言って真人は布団にもぐりこんだ。

私はきっとあんな人になりたいと思っていたんだ。そして自分の理想の姿をした人が目の前に現れたからドキドキしたんだ。私があんな優しい感じに見えている・・・。

朋美もちょっと嬉しくなって、コップの水を一気に飲み干し布団に入った。


翌朝出かける準備をして、1階のレストランへ行った。すでにアーヤは来ていて、カウンター席に座っていた。

「おはようございます。隣いいですか?」

昨日程緊張しない。

「おはよう。どうぞ。」

にっこりとアーヤは微笑む。

朝食が出てきた。お粥にコンソメスープ・卵焼きだ。

「わあ、和食っぽい。」

思わず口に出た。

「私、これが好きなの。」

そう言ってアーヤはさっさと食べ始めた。お箸じゃないのが残念だが、それでも日本を思い出させる料理に私たちも箸・・・ではなくフォークを付ける。

「あれ?この卵焼き・・・。」

断面を見る。卵焼きの真ん中に野菜が入っている。

「ああ、千切りにしたケールを炒めて巻いているんだよ。以前ある人から聞いてレシピに取り入れたのさ。結構人気があるよ。」

「トモさん?」

涙が出てきた。

「ここでこれが食べられるなんて思ってなかったわ。」

アーヤも手を止めてそっとハンカチを差し出す。

「何があったの?」

ハンカチを受け取り涙を拭く。

「ごめんなさい。その・・・父が・・・母がよく作ってくれたって言ってた卵焼きと同じなんです。中にキャベツが入ってて・・・。」

「キャベツ入りの卵焼き?」

アーヤは聞いた。

「あ、こっちにキャベツってないのかな。」

その会話が聞こえていたので、キッチンからティフィーがケールを見せる。

「これが中に入ってるんだよ。あんたのとこはこれをキャベツって言うの?」

キャベツより一回り大きな野菜だ。

「似てるけど違うと思います。そんなに大きくないもの。」

「温かいうちに食べてしまいましょう。今日も出かけるのでしょう?」

アーヤに即されて卵焼きを食べる。懐かしい味がする。今日は朝から心が満たされた気分だ。


食事が終わりアーヤの店へ行く。宿から歩いて1分程だった。細長い3階建ての店兼住居だ。間口はとても狭い。

「どうぞ。段差があるから足元に気を付けてね。」

店の中に入る。こぢんまりとした店にポーションの瓶が並んでいる。

「どんなポーションが欲しいのかしら。」

カウンターに何種類か出してくれた。

「傷を治すものと毒消しはありますか。」

数本入れ替えた。

「こっちが毒消し。これが低級ポーション、そしてこれが中級ポーションよ。もし遠出をするならこっちの高級ポーションがおすすめね。」

高級ポーションはかなり値が張る。今のところ遠出の予定もないので毒消しを2本、低級と中級を1本ずつ購入した。

「これは塗るタイプのポーションなの。よかったら使ってみて。」

小さな容器に入ったポーションを出してくれた。

「また買いに来てね。行ってらっしゃい。」

アーヤは笑顔で送り出してくれた。


「トモーミ、マサト。」

振り返るとマイとメルフィラがいた。

「この店に寄ってたの?」

メルフィラが言う。

「はい。ポーションを買い足してました。メルフィラさんは今日はどうしたんですか?」

一緒に出掛けないと言っていたので、メルフィラがいるとは思わなかった。

「私はこの店に用があるの。」

アーヤの店を指さして言う。薬師同士で繋がりがあるのかと思った。

「ここ、私の師匠の家だったの。引退するって8年くらい前に北のツェンに引っ越しちゃったんだけど、1年半くらい前に弟子のアーヤにここを貸して店をさせてるのよ。」

やっぱり繋がりがあったのね。

「師匠が同じってことは、姉妹弟子ってことですね。」

「まあ、一般的にはそうね。」

何となく歯切れが悪い。

「まあ、私はちょっとここに寄るだけだから。じゃあね。」

メルフィラはそう言って店に入って行った。

「メルフィラの師匠はメルフィラを自分の後継者にって育てていたのに、突然この店のアーヤを後継者にして秘伝の薬の調合を教えたのよ。だからメルフィラは面白くないのよね。」

色々な事情があるのねとその時は軽く思っていた。

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