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こっちで元気にやってます  作者: 楠 螢
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旅立ちの準備

やっと旅に出ます。

倒れた真人にしがみついて泣いた。暖かい空気が体を包む。覚えのある感じだ。朋美は体を起こす。自分の体が白い光をまとっている。

「これは・・・。」

再び掌を傷口に当て、まとった光を真人に送る。出血が止まり、傷口が浅くなった。そこで光は無くなった。

「う・・・。」

真人の体が少し動く。

「大丈夫?ポーションも吐き出したからもうだめかと・・・。」

再び涙が溢れてきた。真人は心配させまいと精いっぱい微笑んだ。

「だい・・・じょうぶ・・です。心配かけてすみません・・・。」

震えながら朋美に手を差し出す。朋美はその手を取り

「ううん、いいの。よかった、真人が生きてて・・・。」


体を起こして座った真人に最後のポーションを渡す。真人はそれを飲み干し、倒れている熊に目を向ける。

「倒したんですね。」

隠しようがない氷魔法の跡。

「うん。」

しばらく沈黙がながれた。その後立ち上がった真人は、まだ傷が痛むようだ。

「多分あばらも折れてたんだと思います。まだ痛むってことは、ヒビ程度までは治ったんでしょうね。」

胸を押さえながら熊の方へ向かう。

「見事に一突きですね。」

「だってこっちでないと致命傷は与えられないと思ったから。」

そうだ。雷魔法ではこの熊には傷すらつけることは出来なかった。

「置いていっても誰かに見つかってしまいます。持って行きましょう。トモさん、収納にはまだ入りますか?」

収納は問題ない大きさなのでこくりと頷いてすぐに入れた。呼吸を整えながら

「森を出ましょう。次に熊に襲われたら絶対に助からないと思いますから。」

焚火を消して2人で森を出た。途中では魔物にも冒険者にも会わなかった。


門の側にテントがいくつかある。門が開いている間に入ることが出来なかった人たちだ。私たちもテントを張ったが、会話を聞かれたくなかったので少し離れた場所にした。見張りで起きている人たちもいるので、私たちはテントの中で門が開くのを待った。

「傷はどう?」

「ポーションが効いたのか、先ほどよりは楽になりました。ところで何があったのですか?この傷の治りはポーションだけじゃないですよね。」

疑問に思った真人が聞いてきた。私たちが持っていたのは低級ポーション。某ゲームのホ〇ミ位のものだ。折れた骨がくっつくほどの効果はない。

「あの・・・それが・・・。」

思い出して朋美は赤くなる。それでも情報は共有しなければと説明した。聞いた真人の顔も赤くなった。

「まあその・・・事故というか・・・自分は嬉しいけど・・・。」

段々声が小さくなっていった。

「それで癒しの魔法が使えたという事なんですね。」

「そうなの。あの時は必死だったからできたんだと思うわ。」

何かを念じるように手を閉じたり開いたりしているが、あの暖かい感じはない。

「そのことは伝えなくていいでしょう。ポーションで怪我の状態が軽くなったで通しましょう。」

「そうね。でも先に治療院へ行って治療しないとね。」

骨にヒビが入っている状態では日常生活にも支障がでる。当然依頼を受けることも出来ない。門が開くまでの時間がすごく長く感じられた。


門が開き、順番に入る。今日はガルシアさんはいないらしい。そのまま治療院へ行った。

「そのベッドに横になって下さい。」

私の時とは違う人だった。掌で傷ついた場所を探っている。胸のあたりで手が止まる。掌から白い光が溢れ出て、真人の体を癒していく。

「ポーションが効いていたのでしょうね。大事に至らなくてよかったですね。」

胸を抑えることなく起き上がれた真人を見て、私はほっとした。請求された治療費を支払い冒険ギルドへ向かった。

「おはようございます。・・・お2人のその恰好は、何かありましたか?」

笑顔で挨拶をしたリズの顔色が変わる。とりあえずカウンターへウィーゼルルを出す。

「先に依頼達成の査定をお願いします。」

何も話さない私たちに不満そうな顔をしつつ、リズはウィーゼルルの査定をする。

「依頼は10以上、持ち込み数16ですね。状態はどれもいいです。支払いはこの金額になります。」

提示された金額に納得し、カードへ入金してもらった。お互いに何か言いたそうな顔をしていたのだろう。すんなりと奥の部屋へ通された。

2人の前にリズが座る。

「それで、何があったのですか?」

真剣な顔でリズは聞く。

「私たちのランクの件なのですが。」

質問と違う答えにリズは戸惑う。

「それに関しては私には権限がないので・・・。」

言葉を濁すように言う。私を緑に上げたり真人を青に上げたのはリズではなかったのか?疑問に思ったので聞いてみた。

「それは一定のマニュアルがあり、それをこなしていらっしゃると判断できたからのことです。その上にとなるとギルドマスターにも相談しませんと・・・。」

歯切れが悪い。

「ではギルドマスターを呼んでいただけませんか。何をどこまですれば赤に上がれるのかはっきり伺いたいです。」

「ギルドマスターはお忙しいのでその程度の事でお呼び出しすることは出来ません。」

きっぱりとリズは断る。

「それではお話しすることは何もありません。これで失礼します。」

真人が席を立って扉の方へ行く。朋美もそれに着いて行く。

「あ、お待ちください!確認してきますので。」

慌ててリズが席を立つ。2人が椅子に座るのを確認し、ギルドマスターを呼ぶために部屋を出て行った。


しばらくしてリズが戻ってきた。

「お時間をとっていただけることになりました。ギルドマスターの部屋へどうぞ。」

聞かれたくないのか、移動してくる時間がもったいないのか。どちらにしても話は出来ることになった。

扉を開くとデスクにいたギルドマスターがスッと立って声をかける。

「何か手違いでもあったのかな?」そのままソファー席へ移動してくる。座るように言われ、2人とも腰かける。

「単刀直入に言います。何故自分たちのランクがこれ以上上がらないのですか?調査の時も赤の実力ありと言われたのに、あれから随分と依頼をこなしたと思います。」

質問を予想していたのか、ギルドマスターはそれに答える。

「ただ依頼をこなすだけでは赤にはなれないよ。赤に相当する依頼をこなさなければね。」

「では赤に相当する依頼とは何ですか?自分たちには斡旋してもらえないのですか?」

リズが紅茶を入れてきた。それを口に運び一息つく。

「この時期はそんなにその手の依頼がないからなぁ。」

話をそらしているように聞こえる。

「では、試験を受けて受ければいいのですね。」

試験と聞いてピクリと反応する。きっとオーエンは真人を赤に推薦するだろう。ギルドマスターはそれをダメだという理由を探す。

「私もかなり強力な魔法が使えるようになりました。私も試験を受けます!」

朋美の発言にNOと言えないギルドマスターは、ため息をつきながら話し始める。

「私は君たちを貴族の護衛に推薦したいのだが、どうだろうか?」

想像もしていなかった言葉に2人は驚いた。

「今すぐにとは言わないが、冒険者としても優秀な2人だ。収入も安定するし、いい話だと思うが。」

確かに日雇いのような冒険ギルドの依頼をこなすよりはるかにいいだろう。でも私たちの目的はそれではない。

返事をしない私たちがyesと言わないと理解するとさらに大きなため息をつく。

「貴族のお抱えなんて聞いたらみんな飛び上がって喜ぶのに。君たちの目的は何だ?」

朋美と真人は顔を見合わす。そしてギルドマスターへ自分たちの目的を話す。

「元の世界に戻る方法を見つけることです。」


「帰ってしまうんですか!?」

紅茶を出して扉の前で控えていたリズが声を上げる。

「自分たちは突然この世界に来てしまいました。あちらの世界を自分たちの意思で離れたわけではありません。突然いつもの生活が無くなってしまったんです。」

そう言われてギルドマスターも困ったような顔をする。

「しかし、渡り人が戻ったと言う事は聞いたことがない。諦めてこちらで生きていくことを考えた方がいいんじゃないか?」

「それも一理ありますね。でももしかしたら戻る方法を知っている人がいるかもしれないじゃないですか。その方法があるかもしれないのに、はじめから何もしないなんてことはできないです。」

「確かに。しかしだな・・・。」

諦めの悪いギルドマスターは2人を説得しようとする。

「赤の実力を示せばいいのですよね。」

真人の言葉で朋美は席を立ち、少し広めの場所に熊を出した。

「こ、これは!」

ギルドマスターとリズは驚いた。

「ダークベアを仕留めたのですか!?」

すぐに熊を収納へ仕舞う。

「これでも赤の実力がないとおっしゃいますか?」

流石にあのサイズのものを見せられてダメとは言えなくなったギルドマスターは

「どうやって仕留めたのだ?君たちの実力ではまだまだだと思っていたのだが。」

平静を装って紅茶を飲むが、手が微かに震えている。

「苦労しましたが、何とか2人で仕留めることが出来ました。」

真人も紅茶を飲む。諦めたギルドマスターが話し始めた。

「その方法を探して町を出て、もし見つからなかったらまたこの町に戻ってきてくれるか?」

意外な申し出に驚いた。でも戻ってくると答えるにはまだ早い。

「それは分かりません。まだあちらに戻れる方法を探すことしか考えていないので。」

「そうか、それもそうだな。」

ギルドマスターは席を立ち、

「もう一度ダークベアを出してもらえるか?」

朋美に言う。隠していても仕方がないので先ほどの場所へ出す。氷は溶かしてきたが、致命傷を与えた何かを隠すことは出来ない。

「どうやって倒したのだ?」

これ以上は隠せない。朋美は水魔法、氷が使えるようになったことを話した。

「ふう、もったいない。しかし分かった。すぐにタグを更新しよう。そして出来るだけ早くこの町を出なさい。」

リズはタグを預かった。ギルドマスターがリズに耳打ちをしている。

「しばらくここで待ってもらえるかな。」

デスクに戻って仕事を始めた。私たちはソファーに座って待っている。


扉をノックしてリズが入ってきた。みんな席を立った。リズはギルドマスターへタグを渡す。何かを確認して、ソファー席へ移動してきた。

「待たせたね。更新した君たちのランクだ。」

渡されたタグは黒だった。

「本来ダークベアは黒の冒険者3人で仕留めるものだ。それを2人で仕留めたのだから、十分黒の実力がある。」

嬉しかった。赤を飛ばして黒とは、ギルドマスターもかなり大盤振る舞いしてくれたものだ。

「それとトモーミ、君の水魔法は『秘匿』にしてある。他のギルドマスターには分かるが、一般職員には分からないようにしてある。安心して行きたまえ。」

なんて粋な計らいだ。

「他の地域の貴族に目を付けられたら困るからな。2人とも、もし、もしどうしても見つからなかったら、ここへ帰ってくるという選択肢も頭の片隅に入れておいて欲しい。」

この町の冒険者はこの町から出ることはほとんどない。逆にこの町に来る冒険者もほとんどいない。少しでもランクの高い冒険者にいて欲しいという気持ちがあるようだ。

「ありがとうございます。感謝します。」

2人とも深く頭を下げた。そしてギルドマスターの部屋から出て行った。

そのままソファーに座り込んだギルドマスターは呟いた。

「やはり使えたか・・・。王家に目を付けられなければいいが。」

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