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こっちで元気にやってます  作者: 楠 螢
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出発

ティアナの父親の店に来ていた。オーダーメイドがメインだが、既製品もいくらか置いてある。

「この鎖帷子、いい感じですね。」

「おう、目が肥えてきたな。」

今日はティアナもいる。やっと店を紹介した私たちが防具を買っているので嬉しそうだ。

「お姉ちゃんは買わないの?」

私にも催促する。

「私が使える防具かないの。ごめんね。」

金属製の防具は重いものが多い。魔法系の私には装備は難しい。

「あんたも鎖帷子位なら装備できるようになったんじゃないか?」

少し小さめな鎖帷子を出してくれた。

「量販店のより特殊な素材を使っているから軽いぞ。編み方も工夫してあるからな。」

かなり細かい模様のように編み込んである。随分と手間がかかっている防具だ。渡されて持ってみたらびっくりするほど軽かった。

「凄いです。こんなに軽いなんて。」

服の上から試着する。

「これ、いいです。私もこれ買います。」

2人でおそろいの鎖帷子を購入した。

イトヤに来た。破れた服の代わりを購入するためだ。

「あらあら、派手にやったわね~。」

破れた服を見て店主が笑いながら言った。そうなんですと答えたら、破れた服と同じようなものを選んで持ってきてくれた。

「はい、これとこれね。寒くなるから生地は少し厚めだよ。

色違いで5枚ほど並べられた。

「この色綺麗ね。こっちは戦闘時に目立ちそう。」

結局着替えも入れて3枚買った。次はローハンの店だ。新しいマントを購入する。温度調節が出来るらしいマントは、冬は暖かく夏は涼しいそうだ。前のマントより値段は張るが、これで着膨れにならずに済みそうだし、年中着られるのがいい。しかも破れにくいらしいからお買い得だ。

「昼ご飯を食べたら、マルセに地図の模写に行かないといけませんね。」

「そうね。あれがないと村の位置も分からないから。」

早速木の葉屋向かった。今日のランチは何だろう。


「お待たせ。本日のランチ、『頬鶏のバジル炒め定食』と『スイッパのピラフ』だよ。」

早速アレンジ料理が出てきた。料理人だ。味も申し分なく、ぺろりと平らげた。

「あと何回ここの料理が食べられるのかしらね。」

「地図次第ですね。出来るだけ早く出なければなりませんから。」

おそらくギルドマスターは上に報告するとすぐに声をかけられるからその前に出ていけと言っているのだ。報告を遅らせるのも限界がある。すぐに地図の模写に取り掛からなければ。食後のコーヒーでも飲みたいところだが、それ自体もないので諦めてマルセへ向かう。


「よろしくお願いいたします。」

「ああ、こっちの部屋でやってくれ。」

奥の部屋へ通される。地図の模写は前金で払ってある。出来上がったら声をかければいいと言われている。早速2人で取り掛かる。

「ここを出ると西にある『シェスナ』って町に着くんですね。『オレイン領』って書いてあります。オレイン市のシェスナって町なんでしょうね。」

あちらの呼び方に当てはめてみる。

「今さらですけど、どうして自分たちはこっちの言葉や文字がわかるんでしょうね。」

疑問に思わなかったわけではない。でも深く考える必要もなかったので気にしていなかったのだ。

「神様の恩恵ってやつ?」

首をかしげながら言うと、真人はクスリと笑った。


簡単に模写したので3時間ほどで終わった。もっとかかると思っていたが、かなり略図になったので早かったのだ。店主にお礼を言って店を出た。

「これなら明日出発できそうですね。」

「そうね。でも少し寂しいわ。」

自分もだという真人と2人で宿へ戻った。明日は朝からギルドへ行って出発を伝えよう。


上に報告した後に追いかけられては困るので、馬車で移動することにした。9時に出発するというので、それまでに全て済ませる。

「シェスナで間違いないですね。馬車が止まるという事はそれなりに大きな町なのでしょう。」

シェスナまでは馬車で3日。途中宿泊場所があるのでそこで1泊ずつする。シェルツ村の先は山道だ。その先に1日目の宿泊場所がある。馬車や徒歩で移動する人たちのための場所だ。そこを過ぎればリスデン領からオレイン領へ入る。オレイン領の山中でもう1泊する。それから山道を下り、馬車を走らせ昼過ぎにシェスナへ着く予定らしい。

宿泊場所はキャンプ場のようになっているらしく、食事は全て自前だ。遠出をするといって木の葉屋で弁当を7回分(昼・夜・朝・昼・夜・朝・昼)作ってもらった。

「収納って便利ね。」

道中何事もないことを祈りながら馬車が出るのを待つ。


10人乗りの馬車は定時に出発した。馬車は荷台と屋根が付いているだけの簡素なものだ。雨が降るとびしょ濡れになりそうだ。30分ほど進むと北の方にシェルツ村が見えた。

「鹿がいたわね、あそこには。」

「そうですね。」

誰もしゃべらないので私たちの声だけが聞こえる。馬車には私たちの他に親子が4人、女性が1人、男性が4人乗っている。子供が小さいとはいえ11人なのでぎゅうぎゅうだ。一般の人は護衛を雇わなければ町の外に出られないというのは私たちを町へ引き留めておくための嘘だったようだ。ただ、冒険者は赤以上にならないとよその町へ行っても仕事にありつけず苦労するらしいが。


「お尻が痛くなってきたわ。」

「ずっとこの姿勢も辛いですね。」

馬車の方が早いとはいえ、固い椅子にずっと座って揺られるのはかなりきつい。2時間ほど走ったところで小休憩になった。いったん馬車を降り、伸びをする。お花摘みにも行きたい。

「次に小休憩をしたらそのまま宿泊場所までノンストップみたいですよ。山なので魔物も出るかもしれないらしく、暗くなる前に着くように走らせるそうです。」

食事は各自で勝手にとってくれという事なので、次の小休憩時に食べることにした。十分ストレッチをしたところで出発の時間になった。


揺れる馬車の中で、4人組の男達が聞いてきた。

「あんたたち、冒険者なのかい?」

「はい、そうです。」

急に顔が明るくなる。

「いやぁよかった。冒険者がいれば何かあった時助かるな。」

魔物に襲われた時に戦って欲しいという事だ。

「以前乗った馬車は冒険者がいなくて怖い思いをしたよ。腕に自信のある人がいたからよかったけど、今回の馬車にはいないように見えたから不安だったんだよ。」

よく見ると子連れの家族も少し安心した顔をしている。私はともかく真人は冒険者に見えなかったのかなと思っていると、武闘タイプをあまり見ることがないので冒険者に見えなかったという事らしい。

馬車は山道に入って行った。道幅はそれなりにあるが、むき出しの岩があちこちに見える。上から落石があったらひとたまりもない。道もデコボコしているのでかなり揺れる。クッションが欲しいくらいだ。この状態で明日も移動するのかと思うとお尻が可哀そうだ。


2度目の小休憩の時に昼ご飯を食べることにした。岩場に座って収納から取り出す。オムライスだ。ちゃんと蓋つきの容器に入れてある。スプーンでそれを食べていると、女性が聞いてきた。

「それは何?」

珍しいのだろう。

「リスデンの木の葉屋というお店の『オムライス』という食べ物です。」

美味しそうな匂いがするオムライスに子供たちは釘付けのようだ。よく見るとみんなはパンを食べている。もぐもぐと食べながら、チラチラとこっちを見ている。匂いのする物はやめた方がよかったかなと思いながら急いで食べた。


夕方には宿泊場所に着いた。予定より少し早かったようだ。厩へ馬は繋がれ、水と食べ物が与えられた。私たちの宿泊場所は屋根と床があり、間仕切りの壁が付いているだけだった。その中にテントを張って寝るらしい。周りには結界が張ってあるので、魔物は入って来れないらしい。自分たちのテントを張って、少し散歩をしようと話した。

「自分たちは少し周辺を見て回ります。」

「頼もしいな。よろしく頼むよ。」

4人組の1人が言った。完全に体が固まっているので、宿泊場所の周りで体を動かす。十分に体がほぐれてきたところで、周辺の探索をする。

「あっちに何かいるみたいですよ。」

「行ってみましょうか。」

低木の枝をかき分けて行った先にはアルミラージが沢山いた。あの角はクスリの材料になる。せっかくだから肩慣らしに少し狩ることにした。


「解体、覚えればよかったです。」

仕留めたアルミラージはそのまま収納へ入れることになった。

しばらく歩いたが、その後は特に魔物の気配はなかった。

「この辺りで食事をしますか?」

「そうね。ここなら水を出しても大丈夫ね。」

人がいるところで水魔法を使うわけにはいかない。収納から出したカップに水を入れる。晩御飯はタコのから揚げだ。パンは薄めに切ってあるので顎に優しい。

「明日の朝はサンドイッチですね。あれは匂いがあまりしないからいいですよね。調査依頼の時にあの2人が美味しいって言ってあっという間に食べてしまいましたよ。」

「あの2人には珍しい物尽くしの調査だったのね。もうずいぶんと前の出来事のようだわ。」

「もし王都に来ることがあれば訪ねて欲しいと言っていましたね。そのような機会があればいいのですが。」

食事が終わった私たちはそのままテントへ戻った。

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