最強の敵
「トモさん無理です。自分が食い止めるので全力で逃げて下さい。」
額から汗が流れている。緊張のあまり生唾を飲み込む。危険な敵がそこにいるのがわかる。
「無理って、2人で戦えば何とかなるかもしれないでしょ。」
ソロだと何かあった時に大変なことになるのは経験済みだ。すかさず収納から短剣を出す。
「トモさんダメです。貴女だけでも逃げて下さい。」
必死に言う真人に「はいわかりました」とは言えない。
「私だって戦えるわ。2人でなら・・・。」
まだよく見えない敵を迎え撃つ準備をする。諦めた真人は
「でももし危ないと判断したらすぐに逃げて下さい。自分は身体強化が出来るから時間稼ぎは出来ると思います。足を強化するとすごく早く走れるんですよ。」
私を安心させるように言う。
「真人も危ないと判断したら逃げてね。」
気休めにしかならないが、そう口にした。
異様な気配が段々近づいてきた。焚火の明かりで照らされたそれは、とても大きな熊だった。熊は焚火に照らされた私たちを見ると、両手を振り上げ立ち上がった。大きさは3mほどあるだろうか。ガウウウウと大きな声を上げ、二足歩行で近づいてくる。
震える体を何とか落ち着かせ、魔法を放つ準備をする。空気の流れが分かったのか、熊は朋美に向かってくる。
「きゃあ!」
とっさに逃げる。真人が私と熊の間に入り、強化した腕で熊が振り下ろした腕を殴る。
ドオンと衝撃が走る。朋美は尻もちをついた。ゆっくり座っている暇はない。慌てて立ち上がる。
「私も戦える・・・。」
自分に言い聞かせながら熊に向かって魔法を放つ。バチバチと大きな音を立てて雷撃が熊を襲う。熊は手を振り回して魔法をかき消す。
「この程度では効かないのね。」
今度はさらに強い雷撃を熊に当てる。熊は声を上げてその場に留まる。しかし、すぐに何事もなかったかのように動き出す。その隙に真人が横から熊に何度もパンチを繰り出す。
「グオオオオオオー。」
熊は唸り声をあげる。真人のパンチが効いているのだろう。これならいけると思った時、熊は右手を振り下ろし真人を吹き飛ばした。
「げふっ!」
吹き飛ばされた真人は木に直撃した。表情が歪む。そのまま地面に倒れ込んだが、必死になって立ち上がる。
トモさんを逃がさなければ・・・。
真人は必死になって熊に挑む。パンチ、蹴り、あらゆる方法で熊に攻撃をする。朋美も隙を見て魔法で攻撃する。
何とか、何とか真人みたいに決定的な攻撃をしないと。
朋美の攻撃はあまり効いているようではなかった。一時的な足止めにはなっても、熊の体力を奪うほどではない。
「もっと強く、もっと強く・・・。」
周りに稲光が出来るほどの雷撃を与える。
「グオオオオオオー。」
流石の熊もこれは効いたらしく、しばらくその場に立ち尽くしていた。
「トモさん今です、逃げて下さい!後は何とかします。」
熊の腹に強烈な蹴りを入れる。無防備な熊は吹き飛んだ。
「こっちが優勢だわ。動きさえ止めてしまえば絶対に倒せる!」
両手を前に出し、熊に向かって氷を出す。熊が足元から氷漬けになる。
熊は氷に覆われ動かなくなった。
「や・・・った?」
ホッとして力が抜け、その場に座り込んだ。真人も構えを解き、朋美の方へ歩いてくる。
ピキ、パキ・・・パキーン。
「ガオー!」
氷が割れ、熊が襲ってきた。振り返った真人は熊が振り上げた右手の鋭い爪に無防備にやられた。
「いやああああ。」
血が吹き飛ぶ。真人の体は横に飛び、そのまま地面に倒れていった。朋美は立てずにブルブル震えていた。
「だめ・・・逃げたら真人が・・・。」
熊は血の匂いにつられているのか、真人を目指して歩いて行く。
「いや・・・だめ・・・。」
このままでは真人は殺される。でも・・・。
必死になって立ち上がり、熊に向かって雷魔法を放つ。雷が当たった熊は朋美の方に向きを変える。餌は逃げないと思っている熊はゆっくり朋美に近づいてくる。
雷も効かない、氷漬けも駄目・・・一撃で熊を仕留めるには・・・。
覚悟を決める。右手を前に出し、左手で支える。熊は射程に入った朋美に両手を上げて襲ってくる。
「グオオオオオオ!」
「ここだ!」
大きく開いた熊の口を目指して大きな氷の槍を放つ。氷の槍はそのまま口から頭へ貫通する。
「グワ・・・ガ・・・。」
熊はその場に倒れた。
「はあ、はあ、やったよね。」
倒れた熊の頭の下には大量の血が流れている。
「真人!」
急いで真人の元へ駆け寄る。動かない。
「真人、しっかりして!真人!」
手が微かに動く。
「ポーション、ポーション。」
ベストのポケットからポーションを取り出す。それを真人の口に流し込む。飲み込む力がないのか口からポーションがこぼれてきた。
「いや、だめよ、真人。」
次のポーションの蓋を開ける。口に含み、口移しに飲ませる。
ゲホゲホとせき込み、血と一緒にポーションを吐き出した。
「いやだ・・・どうして・・・。」
涙が溢れてきた。傷口に手をあてる。
「どうして私には傷を治す力はないの・・・。」
一生懸命治れと念じてみる。何も起こらない。
「どうして?真人・・・死んじゃいやだ・・・。」




