ミンクの毛皮
いつも読んでいただきありがとうございます。本日2話目です。
今日は夜行性の魔物を狩ることになった。念の為にと野宿の準備もする。早く借りが終わっても、夜中は町の門が空いていないからだ。一応野宿リストなるものを作ってみた。
「テントや鍋はこれでいいよね。」
「焚火の初期セットみたいなのはないんですね。」
「そんな便利なものはないと思うわよ。」
雑貨屋でいろいろと買い物かごに入れる。
「今後の為に買いそろえておいていいですよね。」
この町を離れる準備も兼ねている。馬車での移動は楽だが、道中にある小さな村には寄ってくれない。どんなところに情報があるか分からないから、出来るだけ多くの村へ寄ってみたい。
「地図はないみたいですね。」
「地図は貴重品ですからね。この店にはありませんよ。」
店主が出てきた。
「この店にないなら、どこに行けばありますか?」
真人が尋ねる。
「地図は貴重品ですから、豪商や貴族位しか持っていないですよ。そういったものを取り扱っているところにならあると思いますが、お値段もね。」
かなり高いらしい。それでも欲しい。
「これから旅に出るのに地図が欲しいのです。正確なものでなくてもいいので、どこかそういったものを取り扱っているところを知りませんか?
店主は考え込んだ。そしてポンと手を叩いて言う。
「マルセの店ならあるかもしれない。」
雑貨屋の店主の勧めでマルセへ来た。
「この手に触らなくても扉は開くのよね。」
押して入る。相変わらず薄暗い店内だ。見て回っても地図らしきものはない。
「すみません、いらっしゃいませんか。」
声をかけてみる。返事がない。
「いないみたいね。別に今日じゃなくてもいいし、出直そうか?」
「そうですね。依頼が終わった後でもいいですしね。」
扉を開けようとすると、入り口から店主が入ってきた。
「あ、渡り人のおふたり・・・。」
奥へと勧められたのでそちらへ行く。
「あの携帯なんとかってやつ、王都から来た人があっちで研究材料にしたいからって買っていったよ。本当は分解して研究したかったんだけど、専門機関がやるというから譲ったよ。」
マリウス達が買っていったようだ。
「ところで地図はあるのでしょうか?」
「あるぞ。ただし10年くらい前のやつだ。手に入った時に模写した。」
あるのは原本ではなく模写した方の地図らしい。しかも10年も前のだから、いくらか地形が変わっているかもしれないという。それでもないよりはましだ。
「売っていただくことは出来ますか?」
「まあ構わないけど、ちょっと値が張るぞ。」
店主が提示した価格はこちらの思っていた金額よりはるかに高かった。
「こんなにするんですか!?」
びっくりして声を上げた。
「地図は貴重品だからな。たとえ模写でもそれなりの金額はするぞ。まあ、10年前のだから少しは値引きしてやってもいいが。」
とても高くて手が出ない。しばらく考える。
「これ、貸してもらうことは出来ますか?」
「貸すって・・・うちはそんな商売はしてないからな。それに持ち逃げされたら困るし。」
確かにそんな高価なものを貸し出してドロンされたら困るだろう。
「ではここで模写させてもらうことは出来ますか?」
真人が更に聞いてきたので逆に店主が聞く。
「どうしてそこまでして地図が欲しいのかい?」
私たちは事情を話した。
「そうか。では大まかな地形と村の位置が分かればいいんだな。わかった、ここでの模写ならいいぞ。ただし有料だからな。この地図もかなりのものだから、無料で模写させたと聞いた連中が押しかけてきたらかなわないからな。」
交渉成立だ。今日は無理なので明日から模写の為にここに通うことになった。
宿で仮眠をとって早めの夕食の為店へ来た。
「あら、今日は早いね。」
「ええ。今日は依頼が夜中なのでこれから出かけるんです。」
「夜ってことは、ウィーゼルルの狩りかい?もう時期だからね。」
時期?報酬のよさそうな依頼だったから受けたのだが、先日のホーンディアーみたいなものなのかと思った。
「ほら、冬支度のやつよ。」
よく分からないという顔をしている私たちに女将さんが説明してくれた。
「ウィーゼルルの毛皮は冬の素材にいいんだよ。この時期冬毛に変わってふっさふさだからね。」
ああなるほど、毛皮のコートとかの材料になるのね。冬毛とは、もう魔物も冬の準備をしているのね。商業ギルドや個人の店からとウィーゼルルの依頼は多かった。そういう理由に納得し、早めの夕食を口にした。
「この辺りですね。」
ウィーゼルルの生息地付近へ来た。昼間は巣の中にいてほとんど見かけないが、夜は活発に活動しているので一旦テントを張った。火を焚くと居場所を教えるようなものなので、それはせずにテントの中で過ごす。
「もう少し経ったら、外に出て探してみましょう。冬毛と言っても、まだ白くはないので困難らしいですよ。」
ウィーゼルルは冬場は白い長毛になるらしい。でも生え変わりの今はまだ毛は茶色いそうだ。雪が降り始めると色が抜けて白くなる。そうなると更に探しにくくなるらしい。
「白くなったウィーゼルルの毛はかなり高くで売れるそうですよ。」
雪に隠れる美しい白はご婦人たちを虜にしているそうだ。生息地がわかっているのなら簡単に狩れそうだが、ウィーゼルルはチャームのスキルを持っているのでそう簡単には捕まえさせてくれないらしい。今回はチャームにかからないように薬師ギルドで薬を買った。2人でそれを一気に飲み干す。
「そろそろ行きましょうか。」
狩りの時間だ。
すらりとしたボディに長い尻尾、クリクリの目に猫のようなひげ。大きさはカピバラくらいか。群れで生活している。群れといってもそんなに大きな集団ではない。5~10匹くらいで固まって生活をしているのだ。水に潜ることも出来るので、その毛は撥水効果もあるのだ。
「あそこに6匹いますね。」
真人が見つける。かなり距離があるが、調査の時に鍛えられたらしい。ウィーゼルルは餌の虫などを探しているのか、しきりに地面に顔をうずめている。
「こちらが見つかる前に攻撃をしないと、すぐに逃げられてしまうそうです。」
手袋を引き締め、様子をうかがう。少しずつ間合いを詰める。
1匹がピクリと動いき地面から顔を上げた。それに反応して仲間も食事を止める。ヒクヒクと鼻を動かし臭いを探している。その様子はリスか何かのようだ。そして1匹が「キュイ」と鳴くと、あっという間に蜘蛛の子を散らすようにその場からいなくなった。
「失敗ですね。凄い嗅覚です。」
「そのようね。これは骨が折れそうだわ。」
風上にいたわけでもないが、かなり敏感なのだろう。あの距離で逃げられるとは思ってもいなかった。間合いを詰めるどころではない。次はどうやって近づくか考えた。
「依頼は10匹、多い分は上乗せで買い取りなんて書いてあったけど、これは厳しいわね。」
その後探し回ってもウィーゼルルは見つからない。先ほどの6匹を取り逃がしたのが悔やまれる。期限が3日あるからと余裕なことは言っていられない。
「他の人はどんな方法で狩っているのでしょうね。」
あちらの狩りのように罠を仕掛けるのかしら。でもそんなものこっちにはない。罠・・・そういって閃いた。
「ねえ、夜だから見えないよね。ウィーゼルル見つけたら、足を氷で地面とくっつけて動かないようにしちゃおうか。」
朋美は大胆なことを言ってきた。
「しかし水魔法を使っているところを誰かに見られたら大変ですよ。」
「だから足だけなのよ。それなら仕留めた後溶かすのも簡単だし。」
動くのを止めるくらい・・・確かにいいかもしれない。
「次に見つけたらやってみますか?」
「ちゃんと周りに人がいないのを確認するからね。」
そうと決まれば早くウィーゼルルを探さないと。他の冒険者に合わないように、2人は夜の森を動き回った。
「いました。あっちに5匹です。」
真人の気配感知は気の流れを感じるものらしい。生き物の気配を感じるもので、魔法を使うものではないらしい。剣や武道の達人が使う気配察知ってやつよね。
目を凝らして暗闇を見る。何となく生き物がいるのが見える。
「やってみるわ。」
深呼吸してウィーゼルルの足元を狙う。ピキーン。見事に足を固定することに成功した。真人がダッシュで向かう。遅れて私も追いかける。動けないウィーゼルルは牙をむいて抵抗する。前足が地面についていなかったものは必死になって私たちを引っ掻く。真人は技を繰り出し、私は雷魔法で攻撃する。2人とも毛皮を傷つけないように。
「中々上手くいきましたね。」
「ええ。上手いってよかったわ。」
氷は出来るだけ足の接地面を狙った。水で流してすぐに溶けるように。暗くてよく見えなかったが、真人が位置や数を正確に教えてくれたので安心して魔法を放てた。
「私たちって、中々いいパートナーよね!」
暗がりの中、真人の赤い顔は私には見えなかった。
「トモさん時々自分の心臓を破壊するようなこと言いますよね。」
小声で呟く。もちろん朋美には聞こえない。
まだ夜は明けない。狩りは順調にいき、一旦テントに戻った。焚火で暖をとる。念のためにウィーゼルルの足を焚火で乾かした。
「うーん、フェレットとかよね、これ。ペットショップで売ってるやつ。」
前足を掴んで持ち上げ、しげしげと眺める。
「ミント?ムンク?何でしたっけ、あれ。」
真人の言ったことをヒントに毛皮から連想する言葉を探す。
「ああ、ミンクね。」
「そうそれ。確かイタチの仲間でしたよね。フェレットもそうじゃなかったですか?」
「なるほど。だから似てるのね。」
勝手に納得して、足が乾いたと思うウィーゼルルからポイポイと収納へ入れる。
「まだ門は開いていないので、ここで仮眠をとりますか?それとも門の側へ移動しますか。」
森の中で寝るのは正直怖い。門の側へ移動する方を選び、テントを片付ける。
急に真人が怖い顔をしてゆっくりと後ろを向き、じっと焚火の方を見ている。
「どうしたの?」
真人が見ている焚火の向こうに大きな何かの形が見える。




