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こっちで元気にやってます  作者: 楠 螢
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マイスの実

リスデンは港町だ。海から吹き付ける風のおかげで町に雪が積もることはない。しかし町の外は別だ。海風は建物に打ち消されて届かない為、町から離れれば1m近く積もるところもある。当然周りの村にも雪は降り、街道は白く覆われる。

「本格的に冬が来る前に移動した方がいいですね。どうしましょうか。」

雪が積もると溶けるまでに3か月はかかるという。ここでそんなに足止めを食らうわけにはいかない。

「グリーンイグアーナの件と調査依頼の手伝いで何とか私も青になれたけど、2人そろって赤はまだ難しそうね。」

あれから随分と依頼をこなしたが、中々赤にはなれない。

「真人はもう赤に手が届いているようなものだけど、何か決定的な仕事とか試験を受けるとかして赤にしてもらえないかな。」

「試験・・・それもありですね。トモさんも指輪なしで魔法が使えるようになったのだから、一緒に試験を受けてみませんか。」

「そうね。2人でランクアップの試験を受けてみるのもいいわよね。」

この世界のランクアップは依頼をこなすだけではなく、冒険者が試験を受けてランクを上げる方法もある。試験官が認めてくれればランクは上がるのだ。元の世界に戻る方法を探す為にはいつまでもこの町にはいられない。出来るだけ早く赤までランクアップしなければならないのだ。


今日はシェルツ村の近くの森で狩りだ。定期便で村まで移動して徒歩で森へ行く。

「あの村がこの地方で一番西にある村なのよね。」

「そうですね。ツルナン村と一緒で農業が盛んな村ですよね。」

リスデンを挟んで西と東にある為、栽培しているものは違うらしい。

「お米は栽培してないのかしら。そういえば木の葉屋の旦那さんが仕入れてくれるって言ってたけど、中々手に入らないみたいね。」

こちらに来てまだ一度も御飯を口にしていない。小麦があるから麺は食べられたけど、やっぱり日本人。米が食べたい。

「リスデンを離れたら米も探してみますか。」

「賛成―。」

森へ着いた。冬が近いので葉が落ちているかと思ったが、少し色が茶色く変わっているだけだ。生えている草も寒くなってきているので色に元気がない。今にも枯れそうだ。

今日の依頼はホーンディアーの駆除だ。以前ツルナン村で受けた依頼と同じだ。普段は山に生えている野草や木の皮などを食べて暮らしているが、冬になると山に食べるものが少なくなってくるので畑の野菜を食べに降りてくるそうだ。そうなる前に『間引きをして欲しい』そうだ。毎年ある依頼らしく、その年によって駆除する数が違うらしい。ちなみに今年は6匹だそうだ。

「角の生えた鹿ですね。」

「トナカイじゃなくて?」

「アルミラージみたいに長い角が1本生えているようです。」

依頼書で確認をする。ユニコーンの鹿版みたいだ。これがいるならユニコーンもいそうだと夢が膨らむ。それを察したのだろう。

「絶対に魔物ですよ。駆除対象ですからね。」

真人によってすぐに現実に引き戻された。

「あ、あれがそうですね。」

茶色い毛に白い斑点。尻尾は短く、額には30cmほどある細長い角。

「うん、確かに鹿に角が生えたやつよね。でもあれが刺さったらすごく痛そう。」

「痛そうどころか、ナイフで一突きされるのと同じですよ。心臓に刺さったらそれこそ大変ですよ。」

確かにそうだ。想像したらゾッとした。

「角が長いのが雄、短いのが雌だそうです。雌の角は5cm程しかなく・・・あれは雄ですね。駆除対象は雄雌関係なしですから気にすることはありませんね。」

いやいや、あの角は気になるわ。ぽっきり折れたら魔法使いの杖になりそうじゃない?同じことを思っていたのか、

「折ってみますか。」

やる気満々で真人はホーンディアーの前へ出て行った。


夕方までかかったが、6匹狩り終えた。依頼は村からギルドへ出されているので、魔物は持ち帰る。つくづく収納魔法を覚えてよかったと思う。

「収納がなかったら牛車か馬車の手配をしないといけないのでしょうね。トモさんに感謝です。」

真人が私を拝む。

「でも収納って、術者に何かあったら取り出せないのよね。そうなるとどうなるのかしら。」

取り出せないとしか聞いていないが、取り出せないものがどうなるのかは誰も知らない。知ることもないのだろうが。この疑問は解決しそうにないのでこれ以上話題にする必要はない。そう言っているうちに最後の定期便が来たので乗り込んだ。


「ギリギリギルドに間に合う時間ですが、どうしますか?」

ギルドは夜8時まで開いている。

「でもそれから食事すると遅くなるから、今日はこのまま帰りましょう。最近お店も混んでるし、早くいかないと食べ損なっちゃう。」

タコのから揚げが人気になったので食べに来る人が増えたのだ。今では1時間待ちもざらだ。まっすぐ木の葉屋へ向かった。


「いらっしゃい。あら、今日はもう来ないかと思ってたわ。」

女将さんが声をかけてくれた。カウンターが空いているのでそちらへ座った。お任せでいいかいと言われたのではいと返事をした。マスターがニコニコ顔で話しかけてきた。

「以前言っていたマイスの実がやっと手に入ったんだ。」

「本当ですか!?」

思わず声が出た。米だ、ご飯が食べられる。嬉しくて顔がにやけた。

「それで明日あたりどうだい?」

「是非是非!」

「仕込みもあるから9時位でも大丈夫か?」

「はいー、もう何時でもOKです。」

真人も隣でにこにこしている。久しぶりに御飯が食べられる喜びは私と同じだろう。出てきた料理もおいしかったが、気持ちは明日の御飯に向いていたので何を食べたか覚えていなかった。


翌朝の朝食は軽めに食べた。久しぶりに御飯が食べられるからだ。ギルドへ行き、昨日の報告をする。収納からカウンターへ成果のホーンディアーを出す。

「はい、間違いありません。支払いをしますね。」

報酬を受け取りギルドを出る。約束の時間までまだあるので、ティアナの父親の店へ行った。この店はほとんどがオーダーメイドと言う事で、私たちのような新米冒険者が手にできるようなものはほとんどないのだ。しかしなぜか足が向いてしまう。

「おお、いい所に来たな。先日あんたたちが仕留めたグリーンイグアーナの防具が完成したんだ。これだよ。」

籠手だ。薄い金属の籠手の上にグリーンイグアーナの皮が貼ってある。これで雷の耐性が付いているのだろう。綺麗な緑色の皮は飾りのようにも見える。2つで1セット(両腕にするので)のものが2つある。

「うわー、もうトカゲの面影ないですね。」

「もう予約が入っているからな。あんたたちに売ってはやれないが。」

そう言って胸当てを出してくれた。余った皮で作ったという胸当ては、土台になる皮の上に模様のように所々緑の皮が貼ってある。

「フルで貼るより耐性は落ちるが、ないよりはましだぞ。」

サイズ的には真人だろう。試着してみた。

「今付けているものと重さ的にも変わらないですね。それで雷の耐性が付くのなら・・・。」

問題はお値段だろう。オーダーメイドは高い。一体いいくら提示されるのだろうと思ったが、余った皮で作ったからと古い胸当てを下取りに引き取って、良心価格にしてくれた。


約束の時間に木の葉屋へ行った。待ってましたと言わんばかりに中へ通された。米の炊き方は知っていたらしく、ホカホカの御飯が炊きあがっていた。エプロンを借りて厨房へ入る。

「まずはご飯をほぐして~。」

しゃもじがないのでヘラで混ぜる。何となく違和感を感じたが、完全に向こうと同じものではないだろうと気にしなかった。

「これで何を作ってくれるんだ?」

「まずは簡単にできるおにぎりを・・・。」

改めてご飯を見て、違和感の正体に気が付いた。

「これ・・・インディカ米?」

少しつまんで食べてみる。少しパサパサしている。私たちが普段口にしていたものではなかった。

「米、違ったんですか?」

真人がカウンターから身を乗り出して聞いた。

「あーこれ、私たちが普段食べてたジャポニカ米じゃないわ。インディカ米って言って細長いやつなの。」

「ん?これじゃないのか?」

米の違いが分からないマスターは心配そうに聞いてきた。

「あ、少し種類が違うものだったんです。」

「それじゃあ作れないのか?」

更に心配そうに聞かれた。

「おにぎりは作れないけど、ピラフとか他の物ならできますよ。」

「それはよかった。大量に仕入れたからどうしようかと思ったよ。」

タコのから揚げの件があったから、売れると思って沢山仕入れたらしい。使っていい食材を確認して、ピラフとオムライスを作った。ケチャップはなかったのでご飯はコンソメで味付けをした。マスターがデミグラスソースの作り方を知っていたのでそれをかけた。高級オムライスの出来上がりだ。ピラフは小エビがあったのでそれを使ったシーフードピラフだ。どちらも好評だった。すぐに作り方を覚えたマスターは、早速今日のランチに出していた。

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