楽しいピクニックとそして・・・
調査依頼が済んで一週間ほどたったある日、私たちはティアナの父親から依頼されたグリーンイグアーナを狩りにあの森へ来ていた。今回は2人できたので楽勝だった。
「この先に依頼された薬草の群生地があったの。」
薄暗い森を抜けた。あの時の光景だ。
「いい景色ですね。昼御飯がすすみますよ。」
いつものように木の葉屋で作ってもらった弁当を広げる。気分はピクニックだ。風が気持ちいい。敷物を広げ座った。カップに水を入れて飲む。
「調査依頼ではほとんどが現地調達で、こんなおいしい水は飲めませんでしたよ。」
真人の話によれば植物の実からとった水を飲んだり、泥水をろ過して飲んだりしたそうだ。
弁当を食べながらお互いにあの時の話をする。穏やかな時間が流れるのを感じながら、こんな時間が過ごせることに感謝する。
「時々あっちの事を思い出すの。突然いなくなって、みんな心配しているだろうなとか、今日は本当はこれをする日だったなとか。」
「自分もですよ。でもこっちで生活している方が生きているって感じがするんです。」
それは毎日必死に生きているからなのだろう。でも不思議と充実している気もする。生きるために仕事をしているという事はあちらでも同じなのかもしれないが、何かが違うのだ。
「その・・・いてくれてありがとう、真人。」
ふいにそんな言葉が出てきた。真人は驚いたが、優しく微笑んでくれた。
「もしこっちに来たのが私一人だったら、ううん、ほかの人と一緒でも同じ職業じゃなかったらやっぱり一人じゃない?すごく不安でたまらなかったと思うの。」
「それは自分も同じですよ。」
「だからその・・・これからもよろしくね。」
照れくさくなってその場を離れた。だから真人の顔が赤くなったのは気づかなかった。
「こっちって季節があるのかな。以前より風が冷たい気がするけど。」
そうだ。こっちに来た時日本は冬だった。着ていた服では暑かったので、それを全部売ったのだ。
「これから冬になっていくそうですよ。その前に調査を済ませるのだと言ってました。」
そうなると私たちも冬支度をしなければならない。どのくらい寒くなるのか見当もつかないが、雪が降れば依頼をこなすのも大変になるかもしれない。
「毛皮がよく売れるってことは、かなり寒いのかな?」
「そうかもしれませんね。情報を仕入れながら少し余分に稼いでおいた方がいいかもしれませんね。」
日々の生活には困らなくなったが、もし依頼を受けても外に出られないほど雪が積もったりしたら大変だ。ダンジョンもないこの地方では魔石で稼ぐというのも難しそうだ。
「せっかくここまで来たのだから、その薬草も摘んで帰りましょう。収納に入れておけば依頼が出た時に高くで売れますよ。」
「そうね。」
私の収納はかなり大きい。依頼があった時にここまで来なくていいようにストックしておいても十分空きはある。しかも収納の中に入れておけば鮮度はそのままだからかなり便利だ。前回の依頼と同じ位の数を採取した。
「思ったより早かったな。おお、いい感じの大きさだ。」
ティアナの父親は満足げに言った。
「解体はどうするんですか?」
「そんなもの自分で出来るさ。ありがとうな。これで足りるか?。」
大銀貨を2枚渡された。
「え、こんなにですか?」
「なんだ、こいつの価値を知らないのか?こいつは臆病であまり人前には姿を現さないんだぞ。よくこんな短期間で見つけてこれたな。皮は雷の耐性があるからいい防具が出来る。ご婦人たちにも人気だしな。」
雷の耐性がある・・・リズが私のレベルではかなり無理があると言ったのはそういうことだったのか。雷魔法しか使えない私が倒したとなると、探りを入れられても当然ね。
「ただいま。あ、お姉ちゃんたちいらっしゃい。」
ティアナがお使いから帰ってきたようだ。なんだか覚えのあるにおいがする。
「あ、これ木の葉屋で買った『タコのから揚げ』って言うの。今人気の食べ物なんだよ。」
テイクアウトもやってるんだ。そんなに人気なのね。教えてよかったわ。海専用の冒険者も稼ぎ時ね。私たちもお腹が空いてきた。今日も木の葉屋へ向かった。
「雑貨屋に寄るから先に行ってて。」
買いたい小物がったので一旦真人と別れた。雑貨屋へ入ろうとすると
「失礼ですが、サトーさんの仲間の方ですか?」
知らない黒ずくめの男が2人声をかけてきた。
「仲間というか、同郷ですが。」
2人はちょっと話し合ったが、
「サトーさんのことでお話があるので少しお時間を頂けないでしょうか。」
有無を言わさず両脇を抱え、通りを歩いていく。
「あ、あの、ちょっと何ですか?」
どんどん人気のない方へ進んでいく。
「・・・ちょっとやめて下さい!いったい何なんですか、あなたたちは。」
2人はこちらの問いに答えることはなく、とある店の扉をくぐった。
木の葉屋でトモさんが来るのを待っているが、いつまでたっても来ない。雑貨屋で時間がかかっているのだろうか。
「そういえば、『タコのから揚げ』は随分と人気なようですね。」
女将さんに話しかけた。
「そうなのよ。あの食感がたまらないって持ち帰りも人気なんだよ。本当にいい料理を教えてもらったよ。」
客の1/3は注文するほどの人気メニューだそうだ。
「ところで今日は何にするかい?トモーミが来る前に注文しなくてもいいのかい?」
店が混んできた。席を待つ人も出てきている。段々気になってきた。
「ちょっと探してきます。席は取っておかなくていいです。」
急いで外に出る。木の葉屋から雑貨屋まで探しながら歩いた。辺りを見渡すが見当たらない。しばらく付近をうろうろしていると、見知らぬ初老の男性が近づいてきた。
「もしかしてあんた、黒い髪の女の子の連れかい?」
「知っているんですか!?」
男性に掴みかかった。
「痛い痛い。」
我に返って誤った。
「さっき黒ずくめの男とあっちの方へ歩いて行ったぞ。一緒にというか、連れていかれたって感じだったからな。」
連れていかれた。思い当たることが全くない。
「あっちですね。ありがとうございます。」
礼を言ってそちらの方へ探しに行く。段々人気が無くなってきた。
「これはまずいぞ。まさか人さらいか?」
ここで日本の常識は通用しない。身代金要求とかそんなものではなく、目的がトモさん自身なら合点がいく。
どの店も扉が閉まっている。これではどこから探したらいいのか分からない。必死に走り回っていると、1軒開店準備をしている店を見つけた。藁にも縋る思いでその店へ飛び込んだ。
「すみません、この辺りで黒ずくめの男の人と黒髪の女の人を見ませんでしたか?」
薄暗い店内に連れてこられた。先ほどの黒ずくめの男達と少し派手な服を着ている男がいる。派手な服の男が黒ずくめの男たちに
「ちゃんと女だけ連れて来れたな。よし、下がっていいぞ。」
黒ずくめの男たちは一礼してその場を去る。
「さてと、あんたサトーの仲間なんだろ?」
派手な服の男が聞く。
「仲間だなんて・・・。」
「サトーがあんたは仲間だと言ったぞ。」
こんな人たちに私を仲間と紹介するなんて、真人が信用できないと言ったことが正しかったと理解する。
「実はサトーさんは私たちのいいお客様だったのですよ。」
男は歩きながら柔らかい口調で話す。
「ところがある日を境に中々約束を守っていただけなくてね、こちらも商売ですからお貸ししますが、きちんと返済して下さらないと他のお客様の迷惑にもなるんですよ。」
男は朋美の前で止まり顔を近づける。
「そこできちんと返していただこうとこちらへお越しいただいたら、『仲間の女性が払ってくれる。』っておっしゃるんです。仲間の女性ってあなたの事ですよね?」
ニヤリと笑って言う。
「は・・・払うっていったいいくらなんですか?」
とりあえず聞いてみた。男は振り返り歩いて行く。
「そうですね。元金と利息と合わせて22万ペイほどです。」
「22万!?」
日本円で220万円くらいだ。
「な~に、今持ち合わせがなくてもいいのですよ。貴女が稼いでくれれば。」
再びこちらを向いた男は値踏みするように見る。
「『仲間の女性が』とは、そういうことでしょう?」
愕然とする。3人でこっちに来て、1人ギルドが違って大変だろうと思っていたのに、まさか私を売って自分の借金をチャラにしようとしていたとは。怒りに震えた。そして自分の甘さを恨んだ。
「私は・・・私は・・・佐藤さんの仲間じゃありません!」
開店準備をしている人によると、黒ずくめの男たちは『黒兎のお楽しみ』という店の店員らしい。場所も教えてくれたのでそちらへ行く。看板が出ているがまだ営業前らしい。店の前をうろうろしていると、一人の男が声をかけてきた。
「君はサトーの仲間か?」
白いスーツの鋭い目つきの男だ。
「いえ、仲間ではありません。」
「そうか、では関係ないな。ここは君のような男が来るところではないから、早く帰りたまえ。」
男はそう言って店の中へ入ろうとした。
「仲間ではないけれど、自分のパートナーが黒づくめの男に連れていかれたと聞いてきました。黒ずくめの男はこの店の人たちだそうですね。」
男は足を止める。
「なるほど、そう言うことか。ついてきたまえ。」
店の中へ入れてくれた。薄暗い廊下を通り、どこかの部屋へ通された。さほど広くない部屋に声が響く。
「は・・・払うっていったいいくらなんですか?」
姿は見えないがトモさんの声だ。キョロキョロと探す自分に男が言う。
「もっとこっちへ。ここから見えますよ。」
言われた通り男に近づくと、そこはマジックミラーのようになっていて隣の部屋がよく見える。
「この部屋は客が不正を働かないように見張る為の部屋だ。」
不正とはと思ってその部屋を見ると、その理由が分かった。ここはカジノだ。ルーレットやカードのテーブルが見える。そこに派手な服を着た男とトモさんがいる。
「こちらの声は聞こえませんよ。」
今にも叫びそうに見えたのだろう。男は自分に向かって言う。
「もうしばらく聞いておきなさい。」
派手な服の男はさらに朋美にニヤニヤした顔で話をする。
「私は・・・私は・・・佐藤さんの仲間じゃありません!」
朋美がそう叫んだ時、白いスーツの男が自分を手招きして扉を開けた。拍手をしながらゆっくりと歩いて行く。
「だそうですよ、サトーさん。」
部屋の明かりがつく。奥のルーレットテーブルの向こう側に猿ぐつわを付けられ後ろ手を縛られた佐藤がいる。
「おかしいと思ったのですよ。仲間の女性が払うって普通は言いませんからね。私たちは商売柄色々とありますが、関係ない人を借金のカタに取るようなことはしませんよ。」
佐藤は必死になって首を横に振る。男が合図をすると猿ぐつわが外される。
「なあ、金貸してくれよ。仲間だろ?」
佐藤は必死になって朋美に言う。
「自分の借金返済に人を差し出すような・・・そんな人を仲間だなんて思いません!」
朋美は佐藤にはっきりと言った。
「仲間じゃないなんて・・・あの日一緒にこっちに来た仲間じゃないか・・・。」
泣きそうな声で佐藤が言う。
「あの日確かに一緒にこっちに来たかもしれませんが、望んでではありません。同郷であったとしても、仲間ではないです。そもそもあなたは自分たちから借りたお金も未だに返さないじゃないですか。」
派手な服の男はなるほどという口をする。
「では決まりですね。借金を返済するまでこちらの紹介する仕事をしてもらいましょうか。ボス、それでいいですね。」
「ああ、そうしてくれ。君たちも悪かったな。無理やり連れて来てしまって。気を付けて帰ってくれ。」
さっと黒ずくめの男たちが来て、出口まで案内してくれた。
「それでは気を付けてお帰りください。」
さっきまでの恐怖は何だったのかと思えるくらいあっさり解放された。私たちは顔を見合わせ、でも何も言わずに木の葉屋へ向かった。




