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こっちで元気にやってます  作者: 楠 螢
32/119

美味しい料理

約束の時間の前にはギルドへ着いた。すでにギルドマスターと調査員の2人は表で待っていた。

「すみません、お待たせしました。」

「いやいや、待ちきれなくて先に外へ出て来ていたんだよ。」

ギルドマスターが答える。そんなに楽しみにしていたのかと思ったが、あえて言わずにいた。さあ行こうと歩き出すギルドマスターの後ろをみんなで着いて行く。いい店を予約しておいたと言われたので慌てて服を買いに行った。到着した場所は富裕層が利用するような店だった。

「よかったね、この服なら恥ずかしくないね。」

小声で真人に言った。真人もこくりと頷いた。

個室へ通された。丸テーブルに真っ白なテーブルクロスがかけられている。一番奥の席にマリウス、時計回りにルイーシュ、ギルドマスター、真人、朋美の順に座る。すでに料理は決めてあるらしく、乾杯のシャンパンが出てきた。

「2人ともアルコールは大丈夫だったかな?」

先に聞いて欲しかったと思ったが、とりあえずはいと返事をした。ギルドマスターが乾杯の音頭をとる。

海の調査では何事もなかったが、酔った勢いで余計なことを喋らないように気を付けようと2人は警戒しながら飲んだ。

「ところでトモーミの剣はどこで手に入れたのかな?」

マリウスが聞いてきた。朋美は防具屋で安くで売ってもらったことを話した。

「それは随分と面白いものを持っていますね。ちょっと見せてもらっていいですか?」

特に隠す理由がないので収納から取り出してマリウスへ手渡した。席を立ち、剣を抜く。

「すごいですね。これが防具屋が作ったものだなんて。」

じっくりと剣を見定め、魔石を外してみる。ポロリと外れた。

「おお、面白い!こんな仕組みになっているのですね。」

テンションの上がったマリウスは外した魔石をはめて魔力を流す。剣が炎に包まれる。2~3度剣を振り、満足したのか鞘に納めた。

「ありがとう。いいものを見せてもらったよ。」

短剣を朋美に手渡したマリウスは続けて言う。

「短剣の魔剣は珍しいのですよ。しかも魔石の使い捨てとは、その防具屋はよく考えましたね。」

この世界にある魔剣は特別な魔石を使っており、その魔石に魔力を貯めて使うらしい。当然簡単に手に入るものより高いので剣自体が高価なものになるのだ。更に魔石自体が魔力を作り出すものは国宝級で、そのほとんどが市場に出回ることはないそうだ。

「ルイーシュ、帰る前にその防具屋へ寄ってみよう。」

ルイーシュも賛成なようだ。興味があるのだろう。

テーブルには食べきれないほどの料理が並んでいる。アルコールのお替りを勧められたが、温いエールなどは口に合わず断った。

「2人は何が飲めるのかな?」

ギルドマスターが聞いてきた。

「実は、私たちの世界ではアルコールを飲んでいいのは20歳からなんです。」

「失礼ながら、2人はいくつだい?」

「はい、私が20歳で真人は18歳です。」

3人がぎょっとして私たちを見る。

「いやはや、世界が違うと基準が違うからね。そうなのか。」

それから3人はあっちの世界の事を聞き始めた。


「たくさんの人がいっぺんに空を飛べる乗り物か。凄いな。」

「馬車よりも早く走る乗り物、乗ってみたいですね。」

やはり乗り物は男の人にとって魅力のあるものらしい。ぐいぐい聞いてくる。

「その携帯電話というものはどんな仕組みなのですか?」

「電話の構造とかはわかりませんが、それぞれに番号があって電波というものを使って相手に声を届けるんです。」

3人とも何のことだか理解できないらしい。

「こちらに紙で作ったコップはありますか?」

「そういうものはないが、作ることはできるのか?」

ギルドマスターがウエイターを呼ぶ。

「単純な電話の仕組みならお伝えすることが出来るかと思います。」

「何を準備すればいい?」

真人は紙に欲しい材料を書いて渡した。

「使えませんが携帯電話ならシーリン通りのマルセという店に売りましたよ。ぜひ欲しいというのでお譲りしました。」

「ああ、あの店か。珍しいものを扱っていると有名だからな。」

携帯にも興味があるのか、防具屋に寄ったついでにそっちにも寄ろうと2人は話している。

しばらくして材料をそろえたウエイターがやってくる。食卓の上では失礼なので、サイドテーブルの方で図工をする。3人は興味津々で真人の周りと囲んで見ている。

「これが電話の仕組みです。」

出来上がったのは糸電話だ。

「これで相手の声が聞こえるのか?」

半信半疑なマリウスは真っ先に手を出した。もう片方をルイーシュに渡す。

「ピンと糸を張った状態で喋る人は口に、聞く人は耳に当てて下さい。」

言われた通りに2人は離れる。マリウスが耳に当てたのでルイーシュが喋る。

「おお!凄いぞ。ルイーシュの声が聞こえるぞ!」

興奮して喋るマリウスにギルドマスターが自分にも代わってくれという。

「伝声管と違って糸に声を通す働きがあるとは驚きです。これは王都の研究者に伝えて研究してもらいたいですね。」

興奮冷めやらぬマリウスは真人に王都に来ないかと誘う。

「あ、それは・・・。」

ちらっと朋美を見る。朋美は返事に困っている。

「いや、無理にとは言わないよ。でももし王都に来ることがあったら私を訪ねてくれたまえ。」

マリウスはそう言ってメモを取り真人に渡す。

「王室警備隊の者にこれを見せれば取り次いでくれる。」

「はい、ありがとうございます。」

それを受け取りベルトの間に挟む。

「この『糸電話』はもらってもいいかい?」

ルイーシュが言う。自分たちが持っていても意味がないのでそのまま渡す。

「いい食事会をありがとう。」

再び乾杯をして残りの食事を楽しんだ。


無事に食事会も終わり、ホテルへ戻った。すぐに真人が部屋へ来る。

「何かあると思ったけど、何事もなくてよかったです。」

「ええ。追加のお酒もすぐに断れてよかったわ。」

口直しに紅茶を飲もうと準備する。魔法で水を出しポットに入れる。あちらの電気ポットのようなもので、魔石で熱を出してお湯を沸かす。沸かしたお湯で紅茶を作り、ほっとしながら2人で飲む。

「ああ、トモさんの入れてくれる紅茶は美味しいです。」

魔法で出した水は美味しい。でも外でやらないように気を付けないと。

「しかしマリウスさん、随分と短剣に食いついてたわね。」

「ですね。あんなになるとは思いませんでした。糸電話への食いつきも凄かったですけど。」

おかげで水魔法の話題が振られなかったのはよかったが。

「明日は王都に帰るって言ってたわね。どのくらいかかるのかしら。」

いずれここを出れば情報を求めて王都へ行くこともあるだろう。そんなことを思いながら、今日は何事もなかったことに感謝して眠りにつくことが出来た。


翌日は朝から木の葉屋へ来ていた。昨日のタコの足を料理するためだ。こちらの人はタコを食べる習慣がないらしい。そもそもタコを食べると言う事自体があり得ないと言われた。

理由は簡単。ぬめりがあって料理が出来ないからだ。

「それがスイッパの足ね。足がその大きさだと随分と大きかったんだろうね。」

収納に仕舞っていた足を一番大きな桶に出した。はみ出した足は今にも動きそうだ。あまりの大きさに子供たちは気持ち悪がって後ずさりした。

「毒はないと聞いているので、私たちの世界のタコならば同じ方法で料理ができると思います。」

昨日雑貨屋で買った塩を取り出す。塩を塗り込みごしごし擦る。綺麗にぬめりが取れたタコの足に、女将さんもマスターも感心していた。

「それからどうするんだい?」

「お湯で茹でます。」

店で大きな鍋を3つ使って茹でた。何とか鍋に入る大きさに切ったタコは真っ赤になって身が少し縮んだ。茹で上がったタコを一口サイズにぶつ切りにする。下味をしっかり付けた後、衣をつけて油で揚げる。

「これはフライとは違うのかな?」

出来上がったから揚げを葉野菜を飾った皿に盛り付ける。

「どうぞ。タコのから揚げです。」

興味津々でマスターが先に手を付ける。弾力のあるタコを噛みしめてうなずいている。

「旨い!こんなに旨いものを今まで知らずにいたなんて、なんてもったいないことをしてたんだ!」

続いて女将さんが手を伸ばす。アツアツのから揚げをホフホフしながら食べている。

「あれがこんなにおいしいなんて!ああ、うちの看板メニューになりそうだよ。」

美味しそうに食べる両親を見て、子供たちが手を出す。初めての食感に驚き、そして喜ぶ。次から次へと口に運び、最初に揚げた分は全て無くなってしまった。お替りを欲しそうにしている子供たちに

「タコは置いていくから、今度はお父さんに作ってもらってね。」

「本当!?ありがとう!」

「いいのかい?この前の魚といい、今度のスイッパといい。」

「ええ、いいんです。喜んでもらえてよかったです。」

「ありがとよ。スイッパを他の料理にも試してみるよ。楽しみにしていてくれ。」

私たちもタコのから揚げを堪能出来て満足した。

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