海へ!
8時前にはギルドに着いた。いつもこの時間には来ていたので特に早いとは感じない。少し遅れて調査員の2人が来た。
「お待たせ。ではすぐに行こうか。」
マリウス達の後からついていった。港への定期便が出ている停留所へ行く。
「4人頼む。」
一番前の馬車に乗り込む。相乗り馬車なのでいろんな人が乗っている。
「2人はあちらでは船に乗ったことはあるのかな?」
こちらの船とあちらの船はきっと同じではないはずだ。まだこちらで船を見たことがない2人はどの程度の船の事を言っているのか分からない。
「一応私はあります。旅行で船中泊もしたことありますよ。」
「自分もありますね。」
修学旅行が船で移動だった。有名な某テーマパークでも乗ったな。
「では船の揺れは大丈夫かな?」
どうやら船酔いの心配をしていたらしい。
港へ着いた。準備されている船へ向かう。
「これが今回の調査の為の船だ。さあ、みんな乗って。」
目の前にある船は私たちが知っているあちらの世界の漁船だ。大きさは遊覧船くらい。魔石をエネルギーに動くらしい。すでに船員達は持ち場について私たちの到着を待っていた。マリウスが船長と話をしている。航海ルートの確認のようだ。出向までまだ時間がある。その間に船員が船の中を案内してくれた。
「思ったより広いわね。」
「そうですね。漁船に乗るのは初めてだから少し楽しいです。」
「楽しいの?」
「ええ。自分たちが口にするものが最初に水から出る場所ですよ、ここは。魚たちはここに来たら後は食卓まっしぐら・・・て。」
発想がおかしく笑ってしまった。
「やっと笑いましたね。ずっと緊張していたみたいですから。」
そうだ、朝から調査の事ばかり考えて余裕がなかった。真人はそれを見抜いてたのだ。
「ありがとう。リラックスできたわ。」
笑顔で答える。
「よかったです。トモさんは笑顔が一番ですから。」
そう言いながら顔をそむける真人は耳まで赤かった。
「それじゃあ出向するから、目的のポイントに来るまでこの部屋で待機していてくれ。」
客間のような部屋へ通された。漁船だからそんな部屋はないと思っていた。
エンジン音が聞こえる。いよいよ出向だ。最後の調査という名目の航海が始まった。
「そろそろ上に出ましょう。」
ポイントが近づいたらしい。部屋から甲板へ出る。目印の岩があれだとマリウスが言う。
「あの岩の付近から調査を開始し、あちらの島へ移動します。」
指をさした先には小さな島が見える。
「あの島は無人島で今までの調査で魔物は発見されていません。今回も上陸して調査します。」
魔物はいないが動物はいるらしい。島固有の動物なので、ついでに個体調査もするそうだ。
船の速度が落ちる。目的の岩が近いからだ。海の上に5mほど突き出た大きな岩の周りには浸食された小さな岩が見えた。なるほど、船がぶつからないように慎重に進んでいるのだ。無人島へと向きを変え、船が止まった。
「準備を!」
マリウスの声で船員達が一斉に動き出す。私たちも魔物が襲ってきた時の為に戦闘準備をする。船長とマリウスがアイコンタクトをとった。船のエンジンがかかる。
「体制を低く、飛ばされないように。」
真人は飛ばされないように足を強化し踏ん張り、朋美を支える。
ギュルンギュルンとスクリューの回る音が聞こえる。
「出発!」
船が動きだした。すごいスピードだ。船は水面をバウンドしながら飛ぶように進む。激しく上がる水しぶきは、さながら某テーマパークのジェットコースターに乗った時のようだ。岩と島との中間付近に来てようやくスピードが落ちた。その時船の後ろの方にいた船員たちは網を巻き上げている。
「いました、〇〇です。」
「こっちには××がいます。」
魔物か魚か分からない名前を呼び合っている。ルイーシュはさらさらと調査書を書いていた。船員たちは素早く網から獲物を取り、魚は船の生け簀へ、魔物は海へと分けていた。
「すごいわ、私には区別がつかない。」
「自分もわかりません。」
「ははは、瞬時に区別がつくようになったら2人とも漁師にな(成)れるよ。」
マリウスが笑いながら言った。
「漁師は見習いのうちに魚と魔物の違いを覚えるのですよ。そしてこれが出来るようにならないと船に乗せてもらえないのですよ。」
「そうなんですか。」
2人でハモってしまった。
「この町もそうですが、海の魔物専門の冒険者もいますよ。」
海の魔物専門とは驚きだ。専用の船を持っているってことかしら?
そんな会話をしているうちに船は島へ着いた。
「それでは行きますよ。まともな道はないのできちんとついてきて来て下さいね。」
島へ上陸するとマリウス・ルイーシュ・私・真人の順に時計回りに進む。ここにはリスやハムスターなどの小動物が住んでいるようだ。時々鳥の鳴き声が聞こえる。
「この島は天然の結界が張ってあるのか、魔物が寄り付かないのですよ。不思議な島です。」
そう言いながら足場の悪い獣道をどんどん進んで行く。島の反対側へ着いた時、ルイーシュが言った。
「特に問題はないようですね。クックールの鳴き声があまり聞こえないようですが。」
この鳥の雄は鳴くが雌は鳴かないので見つけるのが難しいらしい。個体数が減っているのか雄が少ないのかは本格的に調べないと分からないそうだ。
その後も獣道を進み、島を一周した。そして再び船に乗り次のポイントへ向かう。
「次のポイントでの調査が済んだら昼食にしましょう。」
今日の昼食は街で一番の高級店の弁当らしい。随分奮発してくれたようだ。私たちは昼食を楽しみにしつつ、船は次のポイントへと進んでいた。
もうすぐ次のポイントという時、船がガクンと揺れた。何かに当たったようだ。
「おかしいですね。この辺りに障害物はないはずですが。」
マリウスはそう言いながら剣を抜いた。それで何が起こったかみんな理解する。船員たちは船内へ入り、私たちは戦闘態勢に入った。船首を見つめ、魔物が現れるのを待った。
「海の魔物は甲板に上がってもらわないと、断然あちらが有利ですからね。」
船はエンジンを止め、波に揺られている。静かな時間が流れていたが、大きな揺れがきたと同時に魔物が襲ってきた。しかも横からだ。ドン!真人は強い打撃を受けたが、強化した体にはそれほどダメージを受けなかった。
「真人、大丈夫!?」
「はい、大丈夫です。凄いぬめりです」
拳で反撃するも、魔物の体を覆っているゼリー状のものが邪魔で当たらない。再び攻撃がきた。次は2つ同時だ。ルイーシュは風魔法で応戦し、マリウスは剣でそれを攻撃した。魔物のそれは海に潜り、そしてまた船の上に伸びてきた。吸盤のついたそれは甲板にぴったりくっつき、本体が顔を出す。タコだ。凄く大きい。
「気を付けろ!目隠しを吐いてくるぞ。」
ぎょろりとした大きな目でこちらを見ている。私は短剣に魔力を流す。電気を帯びた短剣を見て、マリウスが驚く。
「魔剣ですか!?」
魔剣は高価だ。まさか緑ランクで魔剣を持っているとは思わなかったのだろう。しかし今はそんな話をしている時ではない。私はゆっくりと間合いを詰め、タコに向かって切りかかった。
スパッといい音がしてタコの足に傷がついた。短剣なので切り落とすことはできなかったが、我ながら中々いい攻撃だった。切りつけられて痛かったのだろう。タコは怒って私目掛けて墨を吐いてきた。墨がかかりそうになった直前、真人が私を抱えて甲板を移動する。攻撃が当たらなかったタコは次々に私たち目掛けて振り上げた足を落としてくる。それをよけながらみんなで攻撃する。
ぬめりのせいで自分の攻撃が当たらない。
真人は焦っていた。『武闘タイプはかなり不利』と言われた意味がはっきりと分かる。この魔物相手では、自分は全く役に立たない。このままではトモさんに負担をかけることになってしまう。何とか攻撃を当てないと。
身体強化していても当たらなければ意味がない。ぬめりのない所を探すが、そんなところがあるはずもない。
もっと強化すればぬめりに邪魔されずに当たるのだろうか・・・。
魔法が使える3人は代わる代わる攻撃をする。ルイーシュは風魔法で、朋美は短剣で、マリウスは長剣と火魔法を組み合わせている。甲板に上がったタコはたくさんの足で縦に横にと攻撃を繰り出す。
身体強化をかけている自分はいいが、もしトモさんに当たったら・・・。そうだ、自分も調査員の2人も身体強化をかけている。トモさんは身体強化を知らない。自分が盾にならないと。
真人は朋美の隣に移動した。タコの攻撃を受けるためだ。朋美に向かってくる攻撃をすべて弾き飛ばす。
「真人!」
「自分が守りますから、攻撃に集中して下さい。」
分かったという顔をして、タコに雷魔法を打ち込む。
こんな弱い攻撃をしていたら駄目だわ。雷属性ならもう少し強い魔法を出しても大丈夫よね。
魔力を練り始めたその時、タコは真人を足でとらえた。上へ持ち上げ、少しずつ締め上げる。
「真人!」
体をくねらせ脱出を試みるも、体を吸盤で吸い付けているので足が外れない。タコは少しずつ力を入れ、真人を締め上げる。
「ぐっ・・・!」
「マサト、少し耐えろ。」
マリウスはタコの攻撃をかわしながら二人の元へやってきた。
「トモーミ、後ろへ下がって。」
剣を構えるマリウスの邪魔になるのだろう。朋美は素早く後ろに下がった。距離を確認したマリウスが大きく振りかぶり真人を締め付けている足を切り落とす。
ズドン!大きな足は真人を掴んだまま甲板に落ちた。本体から切り離された足は自由を失い、真人はその中から脱出する。
「ありがとうございます、マリウスさん。」
そして切り落とされた断面に向かって全力で拳をぶつける。かなりの衝撃が走った。吸盤は引き剝がされ、タコは海の中へ消えていった。
呆然と見つめるマリウスに向かって
「何とかお役に立ちましたか?」
その後の調査は順調に進んだ。夕方には船は港に戻っていた。4人はギルドマスターの部屋にいた。
「無事に済んで何よりです。調査お疲れ様でした。今日は食事の席を用意しています。」
ギルドマスターはにこやかに話す。
「それでは自分たちはこれで失礼します。」
そう言って真人が席を立つ。朋美も一緒に席を立とうとすると
「君たちの席も用意してあるから、今日は遠慮なく食べて行きたまえ。」
ギルドマスターから声がかかる。
「いえ、自分たちは・・・。」
「マサト、トモーミ、今日はお疲れ様でした。あなた達には個人的に聞きたいことがあるので、是非ご一緒下さい。」
これは逃げられない。諦めてYESと返事をした。
朋美と真人が部屋を出た後、ギルドマスターとマリウス、ルイーシュは残った部屋で話をしていた。
「他の魔法を覚えたという確証は得られませんでした。しかし魔力はかなり高そうですね。」
「マサトのあの打撃も凄かったです。すぐにでも黒まで上げてもいいのではないですか?」
2人とも随分と高評価だ。
「しかし、赤に上げたらこの町を出て行ってしまうからね。」
ため息をつきながらギルドマスターは自分のデスクの方へ移動する。
「どういうことですか?」
「以前この町を出る方法を聞かれたと報告を受けている。何か目的があるようだと。」
別の世界から来た渡り人だ。元からこちらの世界にいた私たちには分からない何かがあるのだろう。
「そうですか。行先も目的も分からないなら留まってもらう方法も分からないですね。」
「特にトモーミは上への報告を極端に嫌がっていたという。」
「教会での鑑定で犯罪的なものは出なかったのでしょう?」
ルイーシュが尋ねる。
「こちらに来た日に鑑定しているから、そっちは問題ないはずだ。だからこちらは魔力の事だろうと思っている。」
益々分からない。魔力量が多かったり沢山の魔法が使えたりすることは出世できる一つの武器だ。それを嫌がるとはどういうことなのだろう。どれだけ3人で考えてもやっぱり答えは出なかった。




