自分の実力
馬車に乗ってスイッパ村へ着いた。今日の予定は村で簡単な聞き込み調査をして、それから北に向かって移動する。この村はサンシュテール王国の東の外れだ。この先に国境があるが、険しい山が連なり狂暴な魔物がいる為、行き来する人はほとんどいない。リスデンから船で海路を行った方が安全らしい。自分は調査をする必要がないので2人が聞き込みをしている間ストレッチをしていた。時々村の子供たちがやってきて不思議そうに見たり、まねをしたりしている。
「終わりました。そろそろ出発しましょう。」
マリウスが声をかける。
「はい、いつでも大丈夫です。」
ストレッチを止めて2人の側に行くと、出かけるとわかった子供たちが手を振った。自分も手を振り返す。
「今日はあの山の上まで行きます。」
マリウスが指さしたはるか向こうに山が見える。結構な距離だ。その山へ続く道を慣れた様子で進んでいく2人。遅れまいと必死についていく。時々立ち止まり、辺りの木々や草を観察しながら何かを記録している。
「マサト、あそこにいるアルミラージが見えますか?」
アルミラージ?目を凝らすが見えない。
「気配を感じることはできますか?」
五感を研ぎ澄ます。マリウスとルイーシュの気配は感じるがアルミラージの気配は分からない。
「わかりません。」
「そうですか。では先へ行こう。」
アルミラージはあまり重要ではないらしい。さらに進むと木に傷があるのを見つける。
「ふむ、これは・・・。」
また記録をしている。地球での野生動物の生態調査と同じようだ。
「少しこの辺りの魔物を探ってみよう。」
マリウスに言われてルイーシュが気配を探る。何かを感知したようだ。
「あちらにブラックグリズリーが2体います。」
「ブラックグリズリーが2体か。やはり少し降りてきているな。」
2人は黙々と調査を進めていく。自分は何の役にもたっていない。これでいいのだろうか?
「あの・・・自分が手伝えることは何かありませんか?」
「ああ、まだないね。気にしなくていいよ。そのうち仕事してもらうから。」
出来る仕事があるのなら焦ることはないか。
水筒の水がほとんど無くなったころだ。
「あちらの川で水を汲むか。」
川があるのか?全く分からない。しばらく歩いて、やっと水の流れる音に気が付いた。王国警備隊の人たちはシルバークラスと同じくらいの実力があるというが、耳もいいのか。赤ランクの実力があると言われて自分は少し天狗になっていた。この調査でも率先して仕事ができると思っていたのだ。ところが今のところ何にも役に立ててない。
川にたどり着いた。少し急な流れだが、綺麗な水だとすぐわかる。深さは膝位までだろうか、川底がよく見える。魚も泳いでいるようだ。水筒に水を入れる。
「マサト、その川の中に入れるか?」
「入れますけど、川に入って何をするのですか?」
「魚を捕ってくれ。川の中に立ってじっとしていると魚が集まってくる。そこに君の自慢の拳を振るってくれ。」
要は水面を叩けという事らしい。そんなことで魚が取れるのか?疑問に思ったが言われた通りにした。靴を脱いでズボンをまくり上げ川の中へ入る。水が冷たい。しばらくじっとしていると魚が集まってきた。マリウスが手で合図する。魚のいる付近の水面を思いっきり拳で叩く。水しぶきとともに魚が水上に飛び跳ねる。その魚に向かってルイーシュが風魔法を使う。こんな使い方があるなんて!風に押された魚は向こう岸でぴちぴちと跳ねている。
「その魚を持ってきてくれ。」
これが自分たちの昼ごはんらしい。
男3人で焚火を囲む。メインは先ほどの魚だ。程よく焼けた魚を食べる。外で食べるからか格段に旨い。あっちでキャンプに行ったときに釣ったヤマメを焼いて食べている感じだ。2人は持ってきたパンも食べている。
「マサトもどうですか?」
マリウスがパンを差し出す。
「あ、自分も持ってきているので。」
すっかり忘れていた。木の葉屋でサンドイッチを作ってもらっていたのだ。ポシェットからそれを取り出し食べ始めた。
「それは何だい?」
2人が珍しそうに見ている。
「サンドイッチというものです。パンの間に具材が挟んであるんです。よろしかったらどうぞ。」
丁度3つあったので1つずつ渡した。少し眺めて2人はそれにかぶりついた。パンは固いが薄めに切ってあるので顎に優しい。具材は卵とキュウリだ。
「これは旨いな。」
2人にも好評なようだ。あっという間に食べてしまった。
「交代の時間です。」
テントからルイーシュが出てきた。結界は張ってあるが、念の為交代で火の番をする。
「もうそんな時間ですか。ではお願いします。」
かわりにテントへ入る。明日からの調査場所は川がないので水分補給は植物からするらしい。食事のメインも魚は手に入らないので肉や場合によっては野菜や木の実だけになるそうだ。そんな情報を持っているという事は、マリウスは以前も調査に来たことがあるのだろう。今回の調査の責任者らしいし。横になりうつらうつらし始めた頃、何かが自分に向かって殺気を放っているのを感じる。慌てて飛び起きた。
「ふむ、これは分かるのだな。」
マリウスだ。昼間感知が出来なかったので、少し心配になったらしい。
「起こして悪かったな。これも感知できないと今後の調査は足手まといになるからな。」
気にしていたワードが出てきた。
「すみません。」
「いや、殺気には反応できるのだとわかったから安心したよ。もうしないから安心して寝てくれ。」
そう言ってマリウスはさっさと横になった。
翌朝は早く出発した。今日はずっと山道を歩くのだそうだ。
「身体強化をしたことはあるかな?」
「いえ、ないです。」
この世界の人は魔力がないといっても微量に魔力を持っている。外に向かって使えない=魔力がないと言っているだけだ。自分に対してかけるくらいの魔力はある。
「やり方を教えるからやってみてくれ。ルイーシュ。」
険しい山道を行程内で歩くには、足の身体強化は必須らしい。ルイーシュは丁寧に教えてくれた。
「あ、自分の足じゃないみたいです。」
「飲み込みが早いじゃないか。では出発しよう。」
ぐんぐん進む。これはいい。あっという間に次の目的地に着いた。
身体強化のおかげで今日の調査は早く終わった。予定より早く宿泊地に着いたので、マリウスは少し稽古をつけてくれると言った。
「私は魔法剣士だが、武闘も多少嗜んでいる。遠慮なくきてくれ。」
胸を借りるつもりで挑む。
「ほう、中々いいな。」
軽くあしらわれた。
「次は身体強化をしてやってみてくれ。」
腕と足を強化する。
「はっ!」
打撃、蹴りとマリウスに挑んだ。バシンバシンといい音が響いた。
「いいぞ。もっと腰を落として体重を乗せろ!」
額に汗を滲ませてマリウスが言う。魔法剣士という割には武闘もかなりの腕前だ。こっちは全身汗だくだ。体力が限界にきてしまった。
「全く子供みたいに。こっちへ来て下さい。」
あきれ顔でいうルイーシュの方へマリウスが行く。ルイーシュは何かつぶやきながら掌をマリウスに向ける。掌から風が吹き、額の汗はなくなった。
「ふう、さっぱりした。ありがとう、ルイーシュ。」
クリーン魔法というらしい。風属性が使える人が使えるようになるそうだ。ルイーシュは自分にもクリーン魔法をかけてくれた。汚れや汗のにおいが無くなった。これは便利だ。トモさんも覚られたらいいなぁ。そんな都合のいいことを考えていた。




