初めてのソロ
受付に取り残された私は少し不安になっていた。安全な仕事ってどんなものだろう。初めてのソロ。本当に大丈夫なのだろうか。いつも真人がいてくれたから安心していられたけど、知らないところで1人になるとこんなに不安になるものなのか。急に落ち着かなくなった。
「佐藤さんもこんな気持ちなのかな。3人でこっちに来たけど、佐藤さんはギルドが違うからずっとひとりだものね。」
もしかしたら自分が1人だった可能性もあるのだ。やっぱりもっと親切にしてあげなきゃ。
「お待たせしました。」
リズが受付に戻ってきた。
「トモーミさんへの依頼はこれになります。」
薬草の採取依頼だ。
「この薬草はこちらの地域に生息しているものです。数が多いですが、期限は明後日までありますので無理はしないようにして下さい。」
それは野宿しなくていいよという事かな?勝手な解釈をする。私は依頼書を受け取って採取に出発した。
目的の採取地は以前採取した薬草の群生地よりさらに奥にあったが昼前には着いた。移動にも随分と慣れてきた。途中でアルミラージに出会ったので、2匹ほど倒した。
「ふう、やっと着いた。結構高いわね。」
依頼された薬草は小高い丘の上に生えている。
「数が多いと言われたけど、確かにここだと依頼の半分しか採取できないわね。」
成長が早い薬草だから明日も採りにくればいいと言う事か。辺りを見渡す。ここと同じような条件の丘を見つけた。
「あっちにも生えているかもしれない。」
一旦丘を下り、先ほど見つけた丘を目指す。高さは5m位。丘の上に行くには森の中を抜けるかこの崖をよじ登るしかない。
「落ちると怖いから森の方から行くか。」
急ぎ足で森を抜ける。あった、依頼された薬草だ。しかもさっきの場所よりたくさん生えている。
「来てよかった。今日中に終わるわね。」
必要な分の薬草を刈り取り収納する。
「よし、依頼達成。景色もいいしお昼を食べて帰ろう。」
草むらに座りサンドイッチを取り出す。前日に木の葉屋にお願いして作ってもらったものだ。収納魔法の中だと腐らないので便利だ。
「うーん、こんなに外でのんびりするのは初めてだわ。風が気持ちいい。」
このまま横になって眠りたいくらいだ。しばらく風を感じながら過ごした。
「さて、そろそろ帰ろう。」
立ち上がり森へ向かって歩き出す。そして森の入り口で私を待っているものを見つけた。
「え・・・あれって・・・。」
私を出迎えてくれたのは、大きなトカゲだった。大きさは鰐ほどある。緑色の体に長い尻尾。ヘビのようにチロチロと舌を出している。
「うげぇ、こんなのにも会いたくなかったわよ。」
ゆっくりとこっちに近づいてくる。
「こなくていいよ、私はこれから帰るんだから、あんたもあっちに行ってよ。」
そんなこと言っても通じるわけがない。ゆっくりと鞘から短剣を抜き、戦闘態勢に入ったその時、トカゲは何かを吐き飛ばしてきた。慌ててよけるがマントに当たった。ジュワッと音を立ててマントが溶ける。
え、何?状況が理解できなかった。でもここで呑気に考えている場合ではない。もしあれに当たったら皮膚は溶けているだろう。助けてくれる人はいない。自分だけで対処するしかないのだ。
「落ち着け、落ち着け。」
必死に頭を回転させる。森に入る為にはあそこを通らなければならない。でもそこにはあの巨大なトカゲがいる。まずはトカゲに移動してもらわなければならない。
(後ろに下がると距離はあるけど先は崖。トカゲには雷でしびれてもらってそのすきに横を通ればいけるかな?)
ゆっくりゆっくりトカゲが近づいてくる。私は短剣を構えて少しずつ後ろに下がる。トカゲが入口の木から十分に離れたのを見計らって雷撃を放った。
バシッ!トカゲは尻尾で雷撃を弾いた。
「うそ!?」
その声を聴いた直後、すごいスピードでトカゲが走ってきた。
「いやいやいや、近づかないで!!!」
何度も雷撃を放つ。トカゲは上手に避けたり尻尾で弾いたりしながら近づいてくる。ピュ。酸を飛ばしてきた。何とかかわす。崖っぷちまで追い込まれた。
だめだ、だめだ。何とかしなきゃ。短剣を握る手に力が入る。スーッと手から短剣の方に何かが抜けていくのを感じた。ちらっと短剣を見ると刃の方が電気を帯びている。
「魔剣になってる!」
魔剣を両手で握りしめる。トカゲが飛んだ。上から圧し掛かる気だ。トカゲの下をくぐりながらお腹の方を切りつける。皮が固い。かすり傷程度しかつけられなかった。それでもトカゲは腹を傷つけられるとは思っていなかったのか、体をくねらせて痛がっている。トカゲが痛がっているうちに私は急いで森に向かって走った。
森の中を必死に走った。足の速いトカゲだったから追い付かれるかもしれない。森の木々をよけながらひたすら出口を目指す。
「あっ。」
木の根に躓いて転んだ。
「いったー。」
うつ伏せで後ろを振り返る。トカゲは見えない。
「逃げ切ったかな。」
ゆっくりと立ち上がった。全力で走ったので足がガクガクする。もうすぐ出口だ。せめてあそこまで歩こう。足を引きずるように歩いていると、
「熱!」
左腕に何かが当たった。見ると服が溶け始めている。トカゲの酸だ。飛んできた方を見ると先ほどのより小さいトカゲがいた。もう走れない。ここで戦うしかない。チロチロと舌を出しながらトカゲが近づいてくる。短剣を構える。じわりと剣に魔力が流れる。短剣が魔剣になった。
(さっきよりずっと小さいからちゃんとお腹を狙えば深い傷がつけられるはず。)
トカゲが飛びかかってくるタイミングを待った。しばらくにらみ合っていたが、小さなトカゲが何かに気づいてその場からいなくなった。ホッとしたのも束の間、先ほどのトカゲが追いついていた。絶望的だ。魔剣でかすり傷程度しかつけられなかったのに、この魔物を倒せるというのか。足が震えた。冷や汗が出る。余裕の顔をしてトカゲはどんどん近づいてくる。口が開いた。酸を飛ばしたのだ。急いで避けようとしたが足がよけた。酸が私の後ろの木に当たる。ジュワーと音がし、木が溶けていく。
トカゲの動きを止めなくちゃ逃げ切れないわ。変温動物だから寒くなると動きが鈍くなるんだよね。
でも今はそんなものここにはない。ほかに動きを止められるものは・・・この左側にあるこの木を倒したら障害物になって逃げられるかも。
切りやすいように少し気の後ろに下がる。1歩トカゲが前に出る。
今だ!魔剣で木を切る。スッパっと切れたその木は私とトカゲの間に倒れる。急いで震える足を動かして出口に向かった。だが、トカゲの方が早かった。あっという間に追い付かれた。トカゲのしっぽが私の足をとらえる。勢いで前に倒れた。幸い捕まらなかったが、倒れた私の足元には巨大なトカゲの姿がある。トカゲは大きな口を開けてそのまま私の上に乗ってきた。
「イヤーーーーー!」
トカゲに食べられる!死の恐怖が私を襲う。せめて最後の悪あがきに魔法をぶつけてやろうと両手をトカゲに向けて体中から魔力を放った。
かなりの魔力を放出したようだ。しばらく動けなかった私は目の前のトカゲに驚愕した。氷漬けになったトカゲはピクリとも動かない。
「氷が解けたら動き出す・・・ってことはないわよね。」
生きているものは収納されないと聞いている。気持ち悪いけど収納してみた。シュンと音を立ててトカゲが消えた。
「入ったってことは、倒したのよね。」
這いずりながら森から出ようとするが、思ったほど進まない。プルプルと震える足に力を入れて立ち上がる。必死に足を前に出し、やっと森を抜けた。見晴らしのいい草原に出た時、やっと助かったという実感がわいてきてその場に倒れこんだ。
「はあ、はあ、やったよね、助かったんだよね。はあ、はあ。」
しばらく横になった後、収納からトカゲを出した。
「氷が出た・・・水属性が使えるようになったってことよね。」
手のひらを見つめる。
「はは、ははは・・・。」
涙が出てきた。
「これって絶対まずいよね。」




