木の葉屋というお店
宿屋の話を聞いてすぐに妖精の隠れ家へ連泊の予約を入れた。これで依頼に時間がかかっても町に戻れば寝るところはある。安心して外へ出かけた。
「明日は雷の日だから私の魔法の威力が上がる日よ。」
「では明日まで依頼を受けて、明後日はお休みですね。」
「そうしましょう。昼間の時間を過ごす場所もあるし。」
連泊だから宿を追い出される心配もない。
「そういえば佐藤さんは大丈夫なのかしら。」
「大丈夫というと?」
「お仕事週払いって言ってたでしょ。支払日がいつだか聞かなかったけど、貰えるまでは宿代もないのよね。」
「だからと言ってこっちが立て替えてあげる必要はありませんよ。一週間分のチケットもあったわけだし、その間きちんと働いていればちゃんと給金はもらえたはずですから。」
真人は少し意地悪く言った。初日に紹介してもらった仕事をきちんとしていればチケットが切れた日に給与が発生していたはずだ。宿代がないはずがない。もし本当にお金がないならば、理由は他にあるはずなのだ。
「戦闘中にあの人の心配をして、魔物に襲われないようにして下さいね。自分たちの仕事は命がけなんですから。」
「ごめんなさい。ちゃんと仕事に集中するわ。」
依頼の獲物は目の前だ。
夕方依頼を終えて町へ戻った。手ぶらだったのでガルシアさんが
「今日は収穫なしか?」
にやにやしながら聞いてきた。
「収納魔法覚えたからもう手ぶらなんですよ。」
「へー、もう覚えたんだ。うちのやつも収納魔法使えるけど、鍋3つでいっぱいだって言ってたぞ。」
魔力量で違うと聞いてはいたが、そんなに差が出るものなのだ。町へ入る手続きを終えギルドへ向った。
依頼の精算を終え、報酬を受け取る。
「おめでとうございます。」
真人のタグが青になった。こんなに早くいいのかと思ったが、狩ってきた魔物の状態や達成までの期間を見ても問題なしと判断されたそうだ。特にワイルドボアは好評だったらしく、次もお願いしたいと指名されたと聞いた。血抜きしたのが良かったのだろうか?
「今日はお祝いだね!」
トモさんも嬉しそうだ。そんな笑顔で見られるとなんだか照れくさい。
「ワイルドボアで、ですか?」
笑って答えた。
「木の葉屋がおすすめですよ。」
リズが言った。
「家族経営の小さな店ですが、お客の希望に合った料理を提供してくれますよ。食材の持ち込みもできますし。」
そういえばそんなことを聞いた気がする。せっかく勧めてもらったのだから今日はその店へ行くことにした。
ギルドを出ると佐藤が待っていた。
「何の用ですか?」
真人は朋美の前に出た。
「そんな目で見るなよ。その・・・金貸してくれ。」
「昨日トモさんが宿代貸しましたよね?」
「まだ金が入らなくってさ。1,000いや、900ペイでいいから貸してくれ!」
必死の佐藤は真人の腕を掴む。その手を払いのけ
「お断りします。自分たちは命がけで稼いでいるんです。それを簡単に貸してくれと言われて貸せるわけないじゃないですか。」
頭すら下げない佐藤に段々真人は腹が立てきた。
「金が入ったら返すって言ったじゃないか!」
かなり強い口調で言う。とても人に物を頼む態度ではない。
「それはいつ入るんですか?」
佐藤は黙った。答えられないのだ。
「そんな意地悪しないで貸してあげましょうよ。」
今にも喧嘩になりそうな2人を見て、朋美は慌てて仲裁に入る。
「トモさん、甘やかしてはいけません。自分たちも宿泊チケットを貰った時に『無くなるまでに自力で生活できるようになって下さい。』と言われましたよね。」
「確かにそうだけど・・・でも佐藤さんの仕事は週払いらしいから少しくらい貸してあげても・・・。」
「その週払いの賃金がいつ入るのかと自分は聞いているのです。」
「そ・・・それは・・・。」
周りに人が集まってきた。これでは自分が悪人だ。持っていた小銀貨を地面にばらまき、
「あなたにはこれで十分でしょう?そして二度と自分たちの前に現れないで下さい。トモさん行きましょう。」
佐藤を気にする朋美の肩を抱いて、真人は木の葉屋へ向かった。
「あんなことしなくても・・・。」
やりすぎた気はしたが、後悔してない。
「自分はあれを初日にやられたんですよ。」
驚いた顔をしている。佐藤が単なる可哀そうな人だと思っていたのだろう。
「もうあの人の話はしないで下さい。そしてもう絶対に貸さないで下さい。返す約束も出来ない人ですよ。同郷だからって甘えすぎです。」
「そうね・・・。」
「注文はいいかい?」
ふっくらとした女性が声をかけた。家族経営だと言っていたから女将さんだろう。
「あ、エールを・・・いえ、お祝いに飲むお酒はありますか?」
「なんだい、エールは苦手かい?だったらワインはどうだい?」
ワイン・・・あのワインだろうか?
「ではそれをお願いします。彼のランクアップのお祝いなので、お肉をメインで何かお願いできますか?」
「ああ、若いんだから肉がいいね。でもここは港町だからね。魚もかなりいけるよ。」
あのグロテスクな魚を思い出し断ろうとすると
「香草焼きなんてどうだい?うちはちょっと手の込んだ料理を出しているから、試してみないかい?」
ウインクしながら勧めてくる女将さんに負けて注文することにした。店の中はカウンターが5席、2人掛けの席が3つ、4人掛けの席が4つ、4人掛けのテラス席が2つだ。厨房に旦那さんと娘さん、ホールは女将さんと厨房の娘さんより年下の娘さんと更に年下の息子さん。一生懸命食器を運ぶ男の子を目で追っていると、
「あの子がどうかしたの?」
トモさんが聞いてきた。
「あ、いえ、自分の弟と同じくらいかと思って。」
「弟さんがいるの。いくつなの?」
「12歳です。来年から中学生なんですけど、体が小さいからいつも10歳くらいに間違われて。」
「兄弟がいたのね。私は一人っ子だから兄弟がいるって羨ましいわ。」
「お待たせ!白ワインとサーディンの香草焼きだよ。」
サーディンは大きな魚なのだろう。切り身になっていたので元の大きさは分からない。香草のいい香りがする。カナッペとサラダが付いてきた。
「では、青へのランクアップを祝って乾杯。」
ワインを一口飲む。間違いなくワインだと喜ぶトモさん。ワインも飲んだことがないのでこれが本物のワインだと言われてもわからない。でも口当たりがよく飲みやすい。
「もう一杯お願いします。」
飲み干してしまった。クスクスと笑いながら、トモさんももう一杯注文した。メインの香草焼きを口にする。表面だけじゃなく中までしっかり味が付いている。これだ、これなのだ。自分たちが食べたかった味は。涙が出そうになる。トモさんも同じことを思っているらしく、皮まで味わって食べている。
「口にあったようだね。」
女将さんが話しかけてきた。
「この町の人は『素材そのものの味』を大切にしているらしいよ。私らに言わせればそんなのは料理じゃないけどね。」
「そうですね。焼くだけ、煮るだけは料理じゃないですよね。」
嬉しい。自分たちの舌にあった料理が食べられる。追加の料理を注文して、今日は料理を楽しむという事を覚えた。
真人はどうしてあんなに佐藤さんを毛嫌いしているのだろう。不思議だった。私にはあんなに親切なのに、佐藤さんにはかなりキツイこともいっている。今日のお金のこともそうだ。いくら自分がされたからってお金を地面にばらまくなんてことをするとは想像できなかった。確かに調子のいい人だ。でもいきなり知らないところに飛ばされて知り合いもいないのだからもう少し親切にしてあげればいいのに。
シャワーを浴びながら考えていた。
「ふう、どうしたものかしら。」
タオルで体を拭き、ガウンを着る。ベッドに腰かけ水を飲む。
「真人は佐藤さんを信用できないと言ってたわね。そんな人と仲良くしろとは言えないか。」
そのままベッドに横たわった。考えがまとまらずにゴロゴロとしていたが、そのまま眠って朝を迎えた。




