新しい魔法
翌朝早くワイルドボアと野菜と私たちを乗せた牛車は村を出発した。宿代をと言ったが、ワイルドボアを退治してくれたからとマルルは受け取らなかった。親切にワイルドボアまで運んでくれるのに、なんだか申し訳ない。牛車はゆっくりと進みながら街へ着いた。門でチェックを済ませ、冒険ギルドの前でワイルドボアと私たちをおろしてくれた。私たちはお礼を言ってギルドの中へ入った。
職員が出てきてワイルドボアを見るなり
「見事なワイルドボアですね。血抜きまで済ませて。依頼主が喜びますよ。」
そう言って早速依頼の完了手続きをしてくれた。
「トモーミさん、収納魔法を習得してみませんか?」
便利な名前が出てきた。
「魔法属性のあるトモーミさんなら使えると思います。収納バッグというものもありますが、あれはとても高価です。お2人が一緒に行動するならトモーミさんが収納魔法を覚えた方便利だと思いますよ。」
魔力100以上があれば覚えることが出来るらしい。
「有料ですが、魔力量の測定をしてみませんか。」
教会にある魔力計と同じものがあるというので、測ってもらうことにした。その時、以前聞いたことを思い出した。
「あの、魔力量を測定して、どこかに報告したりするんですか?」
そう、ランディの話だ。貴族のお抱えにはなりたくないので、報告されるなら測るのを止めようと思った。
「ギルドで測定する分はタグに記録するだけです。教会で測定すると無料ですが上に報告することになりますけど。」
ホッとした。ギルドと教会では魔力測定する意味が違うので、報告義務はないのだそうだ。ただ、使用できる魔法の種類は報告しなければならないらしい。
「もし私がほかの属性の魔法が使えるようになったら、その・・・上に報告するんですよね。」
「使えるようになったのですか?」
「いえ、例えばです。」
「そうですね。報告する義務になっておりますので。」
別室へ移動する。魔力測定には1,000ペイかかるそうだ。意外と高い。
「測定する方のみ入室してください。」
係の人に呼ばれた。真人は入れないらしい。小さな部屋だ。
「この部屋は情報秘匿の為、魔法障壁がかけられています。」
秘密の部屋ってことね。
「タグをこちらへいただけますか?それからこちらのパネルに両手を置いて下さい。」
A3の用紙ほどのパネルに両手を置く。離れたところで職員が何か操作をしている。
「はい、少し魔力を流して下さい。」
言われたように少量の魔力を流す。
「次は強く流して下さい。もうこれ以上出ないというくらい。」
全力で魔力を流す。係の人が目を見開いた。
「はい、結構です。」
パネルから手を離した。
「素晴らしい魔力量です。十分収納魔法が使えます。」
少し興奮気味にタグに記録をしてくれた。こちらの人の魔力量は平均で250、このギルドでの過去最高は760らしいが、私は測定不能だったらしい。
「渡り人の魔力が高いとは聞いていましたがびっくりです。」
3桁しか表示できない機器なので、1,000を超えているということだ。
「記録上は999と記載しております。」
正確な数字が出ないのだから仕方ないか。
「あの、それで報告はしないのですよね。」
念の為係の人にも聞いてみる。
「はい、いたしません。大丈夫ですよ。その為の障壁魔法ですから。」
にっこりと答えてくれた職員の笑顔に安堵した。
トモさんが測定している間、狩った魔物を受付で見せた。1つは依頼にあったらしく買い取ってもらえた。他は依頼にはなかったが、食べられる魔物なので解体してもらうといいと言われたので解体所へ持ち込んだ。その後受けられそうな依頼を探す。依頼達成のデータが蓄積されているからか、受けられる依頼が増えている。まだ午前中なので近場なら出かけられそうだ。依頼を探している自分のところへ収納魔法をマスターしたトモさんがやってきた。
「お待たせ。ばっちりよ。」
大丈夫だったらしい。
「ちょうどあの村で狩った魔物が解体所でお肉に変身しているところです。早速収納できますね。」
「え、食べられるの。」
丁度呼び出された。解体所へ行くと、綺麗なお肉がトレイの上に乗っていた。
「これは旨いぞ。脂も程よくのってるからな。」
涎が出てきそうだ。覚えたての収納魔法でお肉をしまい込んだ。
「銀の月亭と木の葉屋では持ち込んだ肉を調理してもらえるぞ。」
支払いを済ませ、魔石を売る。調理してもらえるのは魅力的だが、こちらの料理はまだ口に合わない。収納魔法の中にあれば腐ることはないと聞いたので、自分たちで料理ができるようになるまでは収納していてもらおう。
依頼を終わらせギルドへ戻った。この分は現金でもらった。
「今日はどの宿に泊まりますか?もうチケットがないので他の宿でもいいですよ。」
確かに壁の薄い宿は遠慮したい。でもお金を貯めることを考えると高い宿には泊まれない。
「でもたまには熟睡できるような宿に泊まらないと体の疲れは取れませんよ。」
真人も疲れているのだろう。1泊くらいならいいかとうなずいてギルドを出たところで、誰かが声をかけてきた。
「やっといたか。探したぞ。2日も見かけなかったから、どっかで死んじまったかと思ったぞ。」
一番会いたくない相手だ。
「そう思ったのなら探さないで下さい。」
「いやいや、冗談だよ。悪かった。」
酷い冗談だ。でも冒険者は命の危険が伴う職業だから、可能性は0ではない。
「それで何の用ですか?」
「金貸してくれないかな。」
「は?何を言っているのですか。仕事しているのでしょう?」
「いや・・・それがな、中々いい仕事がなくて。今度のところは週払いらしくて今持ち合わせがないんだ。金が入ったら返すから、1,000ペイほど貸してくれないかな。」
胡散臭い。今までの言動からとても信じられない。
「貸すようなお金は持っていませんよ。余分なお金はまだ稼げませんから。」
無視して通り過ぎようとすると
「1,000ペイはないけど、今800ペイならあるのでこれでいいですか?」
「トモさん!」
「だって可哀そうじゃない。持ち合わせがないだけで、週払いのお金が入ったら返すって言ってるのよ。貸してあげましょうよ。」
小銀貨8枚を佐藤に渡す。
「ありがたい。これで宿に泊まれる。いやぁ、2人がいない間は野宿だったから助かるよ。」
佐藤は大きく手を振って宿へ向かった。
「あの人の言ってることが本当だと思いますか?」
「お給料が週払いなんて珍しくないでしょ?私たちみたいに即金じゃないのよ、きっと。」
その可能性は否定できない。冒険ギルドと同じ都は限らないから。
「仕方がないですね。自分たちも宿に行きますか。」
隣室の人に安眠妨害されたくないので、今日はちょっと高めの宿へ向かった。
久しぶりに爽やかな目覚めだ。こんなに熟睡できたのはこっちに来て初めてだった。広い部屋。ふかふかのベッド。隣室の音も聞こえない。昨日までの疲れは吹き飛んだ。出かける準備をしていると扉をノックしながら真人が声をかけてきた。
「おはようございます。」
真人もよく眠れたようだ。顔色がいい。
「今日はどうしますか?昨日の闇の日に働いたので休んでもいいですよ。」
「そうね。でも今日は調子がいいから大丈夫よ。」
「トモさんが収納魔法を覚えてくれたので荷物を持って歩くことも・・・そういえば収納魔法の大きさはどの位ですか?」
「個人の魔力によって違うらしいわ。私はかなりいけるみたい。昨日のワイルドボアも入れられるわ!」
「それはすごい!今後は大きな獲物も狩り放題ですね。」
狩り放題はしないと思うけど、これで今後の依頼が楽になることは間違いないわ。
「では朝食をとってギルドに行きましょう。」




