ツルナン村
チケットでの最後の宿泊を終えた私たちは、いつものようにギルドへ来ていた。
「え、ランクが赤にならないと町を出られないんですか?」
「そうです。道中出てくる魔物を倒せるレベルにならないと移動の許可が出せないのです。」
「それじゃあ冒険者ではない人たちはどうしてるんですか?」
「冒険者に『護衛依頼』をして出かけます。」
緑の私たちは2ランクレベルアップしなければならない。かなり厳しい。
「自主的にランクアップの試験を受けることも可能ですが、お2人はまだ無理でしょう。もうしばらくはここで依頼を受けて下さい。」
「それじゃあ私たちが赤の冒険者を護衛に雇ってなら出ていけますか?」
「それは可能ですが、受ける人はいないと思いますよ。ここから隣の都市まで馬車で3日、徒歩だと6日かかります。その間冒険者を拘束することになるのですからそれなりの金額が必要です。そして行くだけの依頼だと、その冒険者は自腹で帰ってくることになりますよね。ここの冒険者は拠点を動くことがほとんどありませんから。」
確かにその通りだ。雇い入れのお金、移動にかかるお金はすべて依頼主負担だ。しかし依頼が終わってただ戻ってくるだけとなると、それだけの出費がかさむ。もしそんな依頼があったとしても、確かに自分でも絶対に受けないだろう。帰りの賃金を報酬に上乗せしてもらえれば考えるかもしれないが。その方法は諦めて出来るだけ依頼をこなしてランクアップしよう。そう思い依頼を受けるためにブースへ移動した。
この町から護衛なしで移動できるのは東にあるスイッパ村とその北にあるツルナン村。西にあるシェルツ村の3か所だ。ツルナン村とシェルツ村は農業、スイッパ村は酪農が盛んらしい。どの村も馬車で30分程の距離にあるそうだ。今日受けた依頼のワイルドボアは、ツルナン村に近い森の中にいるらしい。馬車で移動した方が早い。1日2便馬車が出ていると聞き、急いで停留所へ向かう。間に合った。馬車の利用は現金のみ。小銭入れから大銅貨を3枚ずつ取り出した。
「あ、お金補充しておかないと。」
カードが楽なのでついついこっちでやり取りしているが、こんなこともあるので現金も必要だ。
「村にはカードリーダーみたいなものがないらしいですからね。自分はもう少し持ち合わせがあるので大丈夫ですよ。」
佐藤対策だと笑いながら真人は言った。
馬車に揺られながら、私は魔力を練る訓練をする。真人は他の乗客と話をしていた。
「トモさん、今日の依頼は期限が3日あるので、村で1泊しませんか。」
確かに期限もあるし報酬もいい。しかし村に泊まるとはどういうことか?
「今回の依頼はワイルドボア2体ですが、最近村の周辺にワイルドボアが増えてきたそうです。それで村人で討伐依頼を出そうと話し合っていたらしいのですが、ギルドを通さずに私たちについでに討伐して欲しいそうです。」
確かにギルドを通さず依頼を受けてもいいことにはなっている。しかしまだ緑の私たちでそんな依頼を受けられるのかと不安になった。
「しかもワイルドボアを運ぶ牛車を無料で出してくれるそうです。」
なんて素晴らしい提案だ。やる気満々の真人に嫌と言えるわけがなく、その依頼を受けることになった。
「よく来てくれました。」
村長の家へ案内された。日に焼けた浅黒い肌。白髪交じりの黒髪にたくましい腕。50代位だろうか。村長というには若い気がする。
たまたま依頼できた私たちにたまたま増えてきたワイルドボアの討伐依頼をしたという筋書きらしい。
「こちらからの希望は3体。もしダメでも1体にこの金額を出す。」
少し額は少ないがと村長は言ったが、ギルドを通さない分手取りは多い。しかも牛車付となると出費が減る分ありがたい。ただ、ワイルドボアの大きさを知らない私たちでも牛車を出してくれるという言葉でそれなりの大きさだと想像はつく。それを5体とは少しきつい。期限はギルドの期限と同じ日まで。移動を考えると2日後の午前中までだ。
「宿がないのでマルル、お前の家に泊めてやってくれ。」
分かったとうなずいたマルルは、自分の家の前へ私たちを連れてきた。
「ここが私の家です。ワイルドボアが出るのはこちらです。」
家の裏に畑がある。その畑がボアに荒らされて困っているということだ。
「被害は私の畑だけではありません。どうかよろしくお願いします。」
私たちは意を決して森に入った。
背の高い木々が多いので、この森は薄暗い。湿度もそれなりに高く不快だ。長居はしたくない。しかしボア5体を狩るには長居は確定だ。
「いませんね。」
森の奥へと進んでいく。水飲み場らしき池がある。
「そういえば、ワイルドボアは夜によく見かけるとマルルさんが言ってました。」
「夜行性ってこと?」
「夜行性ではなく、夜の方がよく見かけるだけだと。」
畑を荒らしに来るのは夜なのだそうだ。昼間は森の中で過ごしているらしい。
「夕方の方が遭遇率は上がるかもしれませんね。」
このままこの湿度の高い森で夕方まで過ごすのは勘弁してほしい。
「もう少し先まで進みましょうか。ボア以外の魔物もいるかもしれませんし。」
だが、どれだけ進んでも魔物には合わない。
「これ以上進むと帰りが遅くなってしまいますね。引き返しましょう。」
諦めて帰路につく。成果が0とは情けないが、いないことにはどうしようもない。
「もし明日もいなかったら、夜通し探すしかないわよね。」
あまりやりたくはないが、夜よく見かけるならその方が効率いい。池まで戻ったところで足を止めた。いたのだ、子どもを2匹連れたボアが。
「子供がいるってことは、あのワイルドボアは母親よね。」
「そうですね。でもあれを狩らないと、ワイルドボアは益々増えますよ。」
言いたいことが分かったのか、真人は冷静に答えた。
「そうね。私たちの為にも狩らないとね。」
子持ちの雌は子供を守るために雄よりも攻撃的だ。見つかったら大変だ。私たちは少しずつ移動し、ワイルドボアの後ろをとった。




