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こっちで元気にやってます  作者: 楠 螢
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お金は大事3

仕事を探すブースは投票所のような感じだ。それぞれの場所にモニターがあり、その横にある四角い箱の上にタグを乗せるとその人が受けられる仕事が画面に現れる。

子守2時間150ペイ、庭掃除(3時間程)180ペイ・・・流石にこの時間からの依頼は少ない。私たちはそれぞれ別の仕事を受け、ギルド前で待ち合わせをした。

夕日が地平線に吸い込まれていく。港街といっても、漁港や魚市場みたいな場所以外は港から少し離れている。潮の香りはするのだが、街から海は見えない。かつて津波で街が壊滅したからと、居住区は少し離れて作ってあるのだ。港から街までは馬車で10分程かかるらしいが、定期便が出ているそうだ。仕事先で聞いた話を真人に伝えた。

「港町と聞いていたけど海が見えないなと思っていました。そんな理由があったのですね。」

ギルドで依頼を完了させた後、今日の宿屋へ向かった。もらったチケットが使える宿屋は2軒。『仔羊の宿』と『小熊のゆりかご』だ。

「佐藤さんはどっちにいるのかしら。」

宿屋は街の中心に近い場所にあった。ひと際目を引く豪華な宿屋は貴族などの御用達らしい。『女神の雫』というそうだ。名前からして高そうだ。こんな宿屋に泊まれるはずもなく、絶対違うともう少し歩くと後ろから声がした。

「おー、学生諸君。ここにいたのか。」

ご機嫌な顔の佐藤がいた。彼も服や所持品を売ったお金で色々買ったようだ。

「部屋は予約しておいたぜ。支払いは自分たちでしてくれよな。」

チケットで支払うのだから当然だけど、どこまでも上から目線だ。『子羊の宿』を予約したらしいが、理由は受付の人が美人だったかららしい。隣同士で3部屋取れたと自慢げに言った。私たちは受付でチケットを渡し、部屋の鍵をもらった。1泊朝食付きのチケットらしい。

「ちなみにこの宿、チケットと同じ条件だといくらになりますか?」

「1泊朝食付きで620ペイになります。」

小銀貨6枚。夕食も入れると毎日最低700ペイは稼がないといけない。いや、昼食も入れると800ペイか。真人は今後の為に聞いたらしいが、昼間受けた仕事の内容と金額だとできるだけ早くランクアップして外に出ないと全然足りない。そんなことを考えていると真人が優しく耳元で囁いた。

「気にしなくていいですよ。自分が外で稼いできますから。」

年下の男の子に養ってあげますよ的なことを言われて、思わず赤面してしまった。余りの恥ずかしさにそのまま部屋へダッシュした。

部屋はかなり狭かった。小さなテーブルと丸椅子、一人用のベッドが縦に並んでいる。壁には小さな鏡が1つ付いている。ベッドの奥はカーテンが付いていて、その向こう側にはトイレとシャワーが隣同士で並んでいた。換気用に小さな窓が付いていて、それ以外の窓はない。荷物を置いて夕食を食べるために下の食堂へ行った。一応3人でテーブルに着いた。

「今日は俺のおごりだ。遠慮なく食え。」

「魔石を売ったお金をほとんど持って行ったのだから当然でしょう。」

「あれは情報を仕入れる為の必要経費だ!」

とても仲が悪い。今後一緒に行動するかは考え物だ。

「ビールでも飲むか。ねーちゃん飲み物くれ。お前たちは水でいいな。」

自分だけアルコールを注文する。この世界ではビールはエールというらしい。

「食べ物はここからここまでね。」

メニュー表を指さす。かなりいい加減だ。

「さてと、俺が得た情報を教えてやる。まずここはサンシュテール王国の東側にあるリスデンという町らしい。」

いや、それ牛車に乗っている時に聞きましたけど。どや顔で話す佐藤に呆れつつ、2人で水を飲んだ。その後も佐藤は饒舌にしゃべり続けたが、どれも聞いた情報ばかりだった。

「いやー苦労したよ。これだけの情報集めるの。あ、ねーちゃんこれもう一杯ね。」

ご機嫌の佐藤は1杯目を飲み干し、お替りを頼んだ。そしてテーブルに並んだ料理のすべてに直箸(この場合はフォーク)で手を付ける。それを見た2人は食欲をなくした。

「どうした?ちゃんと食べろー。俺のおごりだからさ。」

「すみません、色々ありすぎて食欲がなくて。」

3杯目に突入した佐藤を残し、2人は部屋へ戻った。


今日は色々ありすぎた。部屋に戻ってベッドにダイブした。こんなところに来てしまったのは仕方ないが、彼女と一緒だったのはラッキーだった。彼女は中学生になったばかりの自分の前に現れた天使だった。生徒会副会長という役職についている彼女はとても明るく笑顔が素敵だった。一目惚れだ。自分も生徒会に入れば彼女の横に並ぶことができると思っていた。彼女が3年生だと知るまでは。それでも自分のことを知ってもらおうと、生徒会に立候補までした。でも結局一言も口をきくことなく彼女は卒業した。その後は時々通学途中の彼女を見守ることしかできなかった。しかし、5年以上も想い続けた彼女とこんな形で話をする機会が来ようとは思ってもみなかった。話どころか、これからずっと一緒にいられるかもしれないと思うと胸が躍った。何とか平常心を保ちつつ、今日1日を過ごした。

明日からどうしよう。まずはあのいい加減な男から離れないと、優しい彼女は絶対に利用されてしまう。明日からは別行動しよう。どうせ登録ギルドも違うし、問題ないだろう。彼女は反対するかもしれないけど、そこは何とか説得しよう。

ベッドから起きて、すぐに彼女の部屋へ向かった。

「真人です。明日のことで話がしたいので。」

ドキドキしながら扉をノックする。

「はい、今開けます。」

鍵を開けて中へ入れてくれた。部屋の造りは全く同じだ。座ってと言われたので丸椅子に座った。彼女はベッドに腰を下ろした。

「明日は何時に出発しますか?出来れば早めに仕事の依頼を受けたいのですが。」

「私もそう思うわ。今日の仕事の感じだと町中の仕事は午前中にはほとんど無くなってしまうわよね。」

まだ外に出られないから早めに依頼を受けないと明日の収入は0になってしまうかもしれない。真人は外に出れば何とかなるかもしれないけど、私がお荷物になるわけにはいかないわ。

朋美の考えは当たっていた。こちらの世界では子供(10歳くらい)から働いていた。まだ戦闘が出来ない子供たちは街中の依頼を受ける。その為子供たちは優先的に町中の依頼を受けられる。残った依頼が大人たちに回ってくるのだ。

「それで今後の事ですが、あの人とはギルドが違うのでライフスタイルが異なってくるじゃないですか。なので今後は同じ宿じゃなくてもいいと思うのです。」

確かにそうだ。私と真人は同じ冒険者として一緒に行動していくが、佐藤さんは商人だから一緒に行動することがない。

「それに、いつまでもここにとどまっている必要もないと思うのです。もしかしたら帰れる方法を知っている人がいるかもしれないから、いずれはこの町を出ようと思います。」

帰れる方法!そうだ、あるかもしれないのだ。

「でももし帰れる方法がわかったら、佐藤さんも一緒の方がいいと思うの。」

確かにそうだ。でも今はそんなことを言いたいのではない。

「それはまだ先の話です。とりあえず今は生活できるだけの収入を得なければいけないので、そちらを優先する為には一緒にいても意味がないと思います。」

「そうね、それも一理あるわ。でも宿は同じでもいいでしょ?」

確かに宿を別にする必要はなかった。宿を別にしたいのは佐藤から離れたいからだ。朋美の言い分に反論できるだけの材料がなく、真人はそれ以上のことが言えなかった。

しかし朋美のその考えは一晩であっさり覆された。


真人が部屋に戻ってすぐにシャワーを浴びる準備をした。そして大変なことに気がついた。

「下着の替えがない・・・。」

ショックだ。湯船には浸かないけどシャワーはあるからいいと思っていたけが、下着の替えがないのは大問題だ。こちらの世界に向こうと同じ下着があるかわからない。たとえなくても代用品くらいはあるだろうが、こんな時間から買いに行っても店が開いているかもわからない。

「仕方ないか。」

私は諦めてシャワー室で下着の洗濯をした。

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