お金は大事2
「お腹空きませんか?」
そうだ、もう12時過ぎていたのだ。昼食を食べようと辺りを見渡す。この世界も昼時らしい。あちこちから美味しそうな匂いがする。オープンテラスのような店へ足を運んだ。
「いらっしゃい。空いている席へどうぞ。」
店員に勧められるまま、木陰の席へ座った。料理の中身はわからないので、店員お勧めの料ものを注文した。待っている間これからどうするか話し合った。
「思いのほかお金が手に入ったので、防具を買おうと思います。」
防具と言われてハッとした。街の中があまりに平和だったので自分たちの仕事の内容をすっかり忘れていた。これからランクを上げて危険な街の外で仕事をしなければいけないのだ。身を守るための防具は必須だ。
「わかったわ。それからどうするの?」
「もし時間があれば町中の依頼を受けようかと。」
「え、遠藤君は外の依頼を受けられるでしょ。」
「はい、受けることはできますが、この世界のことを何も知らずに町の外に出るのは危険だと思います。街の中でこの世界の事をある程度知ってから出るべきだと思います。」
確かにそうだ。私たちはまだ何にも知らない。
「わかったわ。あと・・・これからは下の名前で呼んでくれる?こちらではそれが当たり前みたいだから。」
私からの突然の申し出に真人は驚いた顔をした。
「あ、わかりました。とも・・・み・・・さん。」
「呼び捨てでいいわ。私も真人って呼ぶから。」
「は、はい、ではと・・・とも・・・さん・・・。」
照れくさいのか慣れてないのか、『さん』付けでないと呼べないらしい。さっと横を向いた真人の顔が赤かったのは気のせいだろうか?その時お勧めの料理が運ばれてきたので、私の顔はそちらに釣られた。
出てきた料理はバケットのようなパンとほとんど具のないコンソメスープみたいなもの。あんぐりと口を開けた深海魚の姿揚げに、少し食欲が無くなった。
「見た目はあれだけど、味は・・・ね。」
「・・・そうですね。兎に角食べましょう。こちらの食べ物にも慣れないといけませんし。」
とりあえず一口。不味くはない。グロテスクな見た目からは想像もできない味だ。しかし薄い。素材そのものの味と言ってしまえばいいのだろうが、もろ魚だ。スープはどうだ?ゴクリ。やはり薄い。かすかに塩味がするが、煮込んだ野菜が溶けてなくなっただけようだ。パンもかろうじて食べられるが、顎の疲労感が半端ない。スープに浸して食べることにした。
「行きますか。」
何とか食べ終わり、席を立つ。支払いは手持ちのお金で済ませた。防具屋の場所を聞き、そちらへ向かった。教えてもらった場所は武器・防具屋が軒を連ねていた。
「すごいね。これ全部専門店なんだ。」
「みたいですね。どこに入りましょうか?」
外から1軒ずつ見て回る。通りの端までたどり着いて、どの店に入るか話し合った。
「3軒目が入りやすそうだった。」
「5軒目は品揃えが豊富そうでしたよ。」
どの店に入るか決めきれずにいると、
「うちの店に来てよ。」
後ろから声が聞こえた。振り返ると、大きな瞳にくせ毛のショートヘアの銀髪の少女が立っていた。
「小さなお店だけど、絶対損はさせないから!」
自信満々に言う少女は私の手を握り店へ向かった。
元来た道を戻っているが、少女が立ち止まった場所は店だとわからないほど狭かった。扉2枚分程しかない間口は、完全に見落としていた。
「ただいま。お客さん連れてきたよ。」
どうやら父親がやっている店らしい。店の奥行きは広く、手前が店舗で奥が作業場になっている。品数は少ないが、皮の鎧から金属の鎧までそろっていた。奥で作業をしている父親がちらりとこっちを見て口を開いた。
「あんたたち、見かけない顔だね。どこから来た?」
「渡り人です。今日この町にきました。」
「え、渡り人!?初めて見たわ!」
少女は興奮気味に言った。父親は作業の手を止めてこっちに来た。
「ふうん、渡り人ね。」
じろじろと上から下まで見られた。
「・・・で、何が欲しいんだい?うちはほとんどオーダーメイドだが、こんな店にあんたたちの欲しいものがあるのかな。」
少し嫌みの混じった言い方だったが、こちらの事情を説明すると急に態度が柔らかくなった。
「ティアナ、ローハンの店に案内してやんな。」
「え、うち物は買ってもらわないの?」
「うちの物を装備するのはまだ無理だな。あそこは程々の物を揃えているから、あんたたちの希望の物が手に入るだろう。」
少女はがっかりした顔で私たちを見た。
「ごめんなさい。」
父親は娘にメモを渡し、
「これをローハンに渡してくれ。悪いな、あんたたち。」
そう言って再び作業に入った。
ローハンという人の店に着いた。店員が出てきた。
「いらっしゃいませ。あら、ティアナじゃないの。」
一緒に来たティアナに気が付いた。
「ローハンさんいらっしゃいますか?」
店員はローハンを連れてきた。この店の店長だ。ティアナはローハンにメモを渡した。
「わかりました。こちらへどうぞ。」
私たちをカウンター横のテーブル席へ通してくれた。それから店員に指示をして、防具をいくつか持って来させた。
薄手のインナー。魔法防御が付いているらしい。次にブーツ。靴底は少し厚めで、足のラインにフィットしている。動きやすそうだ。
「こちらがお二人にお勧めの物です。殆どの冒険者が使っているものです。」
お値段を聞いてみた。大丈夫だ。売ったお金で払える額だった。
「次に、貴方にはこれもお勧めします。」
店主は真人に皮の胸当てを勧めた。そんなに厚くはないが、打撃を吸収してくれるらしい。
「そしてこれが攻撃にも使える防具です。」
そう言って取り出されたのは手袋だった。指先が出ているタイプで、甲の部分に何かの金属が織り込んであるらしい。
「最近武闘タイプの人が少なくなったので倉庫で眠っていたのですが、これならあなたにピッタリでしょう。」
手にはめてみる。握り心地を確かめて、
「いい感じです。お値段が気になりますが。」
ローハンは笑顔で答えた。
「少々お高いですが、きっとご満足いただけると思います。
予算は伝えていたが、思ったより痛い出費だ。あっという間に残金が減っていった。
「身を守るものだから高いのは当り前よね。」
あちらの物が高くで売れたのでしばらくは大丈夫だと安心していた。
「これからしっかり稼ぎましょう。」
私たちは再びギルドへ戻り、今からできる仕事を探した。




