お金は大事1
いつも読んでいただきありがとうございます。今回は少し長めです。
硬貨センターで魔石の代金を入金してカードを作った。このカードを使って街で買い物ができるようだ。デビットカードの入金が出来る版みたいなものだ。こちらのカードも個人設定がされていて、本人でないと出金ができない仕組みになっている。他人が使えないってすごい仕組みね。でもこれも落としたら大変。とりあえず財布に仕舞う。次は洋服。何軒かある店から買い取りもしてくれそうな店を選んで入ってみた。
「いらっしゃい。あら、珍しい服を着ているわね。」
店主らしき女性が声をかけてきた。
「この服を買い取ってもらえますか?」
「いいわよ。それで何を買ってくれるの?」
買い取るだけはしないよとしっかりアピール。
「これから冒険者として仕事をしていくのですが、それに相応しい服とかはありますか?」
「冒険者ね。まだ駆け出しか。ならこっちの服はどうだい?」
スパッツ風の黒のズボン。長袖の膝まであるTシャツのような服の上にポケットの多いベストをチョイスしてくれた。試着したが、色は地味だが動きやすそうななかなかいい服だ。
「自分は格闘タイプなので、あまりひらひらしていない服がいいのですが。」
「ああ、それじゃあこっちがいいかしら。」
Tシャツとベストを引っ込め、丈の短い長そでのTシャツを出す。そして少し幅広のベルトを差し出し、
「こいつにタグや依頼書を入れることができるよ。」
ベルトは少し厚みがあった。物を挟めるように2枚の布(皮?)で縫い付けてある。右側には小さなポシェットが付いていて、そこに小物が入れられるようになっていた。
「そこにはポーションやお金を入れておくといいよ。」
両手が空くようにこのベルトを勧めてくれるのか。
「それとこれが上着ね。こっちがあんたの、こっちがお姉さんの。」
真人には茶色の丈の短い毛皮のマント、私には少しくすんだような緑の長めのマントを渡された。
「これにしたいのですが、引き取ってもらう服で足りますか?」
「ああ、珍しい服だから十分足りるよ。差額を渡すね。」
女性はお金を渡してくれた。
「これを引き取ってくれそうなところはありますか?」
教科書だ。確かに鞄に入れておいても今後役に立つことは絶対にないだろう。向こうに帰ったら必要になるかもしれないが。
「おや、見たことない文字だね。うーん、それならシーリン通りの『マルセ』って店を訪ねてごらん。珍しいものをたくさん扱っている店だから、きっと買い取ってくれると思うよ。」
お礼を言って私たちは店を出た。
「大野さん、これからこのカードに入れるお金は、佐藤さんには絶対に話してはいけませんよ。」
「え、どうして?」
「あの人は信用できません。ラウンドウルフに襲われた時も真っ先に逃げました。でも貴女が倒した後、魔石を見たら独り占めしたんですよ。」
「あれは代表で持ってくれただけで・・・。」
「冒険ギルドでのこともそう思いますか?」
確かに代表してって感じじゃなかったわ。
「さっきは外で小銀貨をばらまいて、自分は大銀貨を持っていなくなったんですよ。あんな人信用できません。今後自分たちが稼いだお金も取り上げられるかもしれません。」
「そうかしら?今手元にお金がないからというだけで、そんなことまではしないと思うけど。」
「たとえそうだとしても、カードのことは絶対に話さないで下さい。あてにされても困りますから。」
「わかったわ。」
随分と嫌っているようだ。確かにあまりいい感じの人じゃないけど、せっかく3人でこちらの世界に来たのだから、少しくらい仲良くする努力はした方がいいんじゃないかしら。
「あ、ありましたよ。この店ですね。」
黒い扉にヘビの模様が彫ってある。ドアノブはゴリラの手のような形をしている。珍しいものを扱っているというか、怪しいものを扱っている店のようだ。
「これ・・・握らないといけないのかな?」
恐る恐るゴリラの手をつかもうとする私の上に手を伸ばし、真人は扉を押した。
「開きましたよ。」
薄暗い部屋。そこには怪しい仮面・綺麗な絨毯・動かない鳩時計など、怪しげな珍品が所狭しと並んでいる。埃の被ったランプが一層怪しさを醸し出している。しばらく室内を見渡していると
「いらっしゃい、何の用だい?」
茶色い長い髪を後ろで束ね、無精ひげを生やした、40代位の男性が出てきた。背丈は170cm位でやせ型だ。店の感じから年配のおじいさんが出てくるかと思ったが、意外にも若い店主だ。
「これを買い取ってほしいのですが。」
教科書を1冊。
「こ、これは・・・。あんたたち渡り人か?」
男性は珍品を見るような眼をして私たちを見た。
「それ持ってこっちへ来てくれ!」
奥の部屋へ通された。
「この上に売ってくれるものを出してくれ。」
真人は教科書・ノート・鞄・筆箱を出した。私は教科書・iPad・イヤホン・折り畳み傘・ウエットティッシュを置いた。
「渡り人がこの町に現れたのはもう30年位前かな。私は子供だったからよく知らないのだけれど、突然光の中から現れたとその時の大人が話してるのを聞いてな。」
懐かしそうに髭を触りながら店主は言った。
「その人はまだこの町にいるのですか?」
「いや、もうとっくに亡くなってるよ。爺さんだったらしいから。その時持っていた紙が全く知らない文字でね、今は領主様の屋敷に保存されているらしい。」
「・・・で、あんたたちはこれを誰かに見せたのかい?」
興奮を抑えつつ、店主は聞いてきた。
「いえ、特には。洋服屋の店長に見せたらこの店で買い取ってくれるだろうと言われたので来ました。」
「どこの店だ?」
「イトヤって店だったと思います。」
イトヤか、と店主はぶつぶつと言いながらまた髭を触っていた。
「よし、これは全部買い取ろう。個別に査定するから少し時間をくれないか。」
「どの位かかりますか。今日こちらに来たばかりなので、時間を潰す場所も知らないので。」
「そうか。それじゃあここで待ってもらった方がいいのか。できるだけ早く査定するからな。」
店主は一つ一つ手に取り確認している。
「こちらのお金のことを教えてもらえませんか?査定してもらっても、どのくらいの価値があるのか自分たちには分かりませんから。」
なるほどという顔をして、店主は丁寧に教えてくれた。
待っている時間が長かったので、スマホを取り出し眺めていた。当然圏外だ。時間は12時を過ぎているが、こちらの時間と同じかわからない。本当に違う世界に来たのだと実感した。
「それは何だ?」
店主の目が輝いていた。今にも私からスマホを取り上げそうだ。
「あ。これはスマートフォンと言う携帯電話です。」
「携帯電話?」
「はい、離れている同じ電話を持っている人と話ができるものです。」
「あんたも持っているのか?」
マサトへ聞く。真人もポケットからスマホを取り出した。
「へぇー。で、これは売ってくれないのか?」
期待した目で見ている。高値で買ってくれそうだ。でももし電波が通じたらと思うと、売りますとは言えなかった。
「いいですよ。でもこちらでは電波もないし、ほかのスマホもないから使えないと思いますけど。」
真人はためらいもなく差し出した。簡単な操作方法とバッテリーの事を説明したが、特に気にする風でもなく、
「よし、これだけだそう。」
真人は23,600ペイ、私は19,800ペイ提示された。
「いい金額だと思うが、どうだい?」
「それでお願いします。大野さんはいいですか?」
「はい、私もそれでお願いします。」
「・・・ところで、今それだけの持ち合わせがないのだが・・・。」
「あ、カード持ってます。これにお願いできますか。」
「あるのか。よかった、それじゃあ支払いをしよう。」
シャリン。一気に残高が増えた。




